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七十五話 粛清と強化

 リシュコールの各地へ、複数の国から襲撃があった。

 この襲撃には、リシュコールの同盟国全てが関わっていた。


 被害の規模は攻め入られた領地によって違い、被害も様々だった。

 相手の思惑を完全に挫いた地もあれば、被害を出しつつ迎撃だけは成した地、完全に壊滅し、他の領地へ被害が拡大した地もあった。


 事態の収拾にはゼリアと四天王が駆り出され、今は鎮圧されている。


 それらの事柄について、リシュコールは臨時の領主会議を開いた。


 一人二人は来ないのではないか、と思っていたが領主会議に集った面々に空席は無い。

 そして事が交流のあった同盟国による攻撃であったため、普段ならば出席していない、各国との外交担当がアドバイザーとして出席している。


 それぞれが被害の報告を終え、今後の対応についての話し合いへ移行していく。


「これ以上ないほどに明確な反逆行為です! そのような者どもは速やか攻め入り、全てを叩き潰す事こそが道理! 速やかにこれらを行うべきです!」


 被害の大きかった地の領主が激情を抑えきれぬ様子でゼリアに進言した。

 それに続いて、次々と賛同の声が上がる。


「お待ちください」


 そんな中、私は挙手して発言する。


「我が国はバルドザードとの戦いで手一杯のはず。今、そちらに戦力を回すだけの余裕はありません」

「しかし、放置すれば我が国の威信に関わる事です!」


 反論が上がる。


「バルドザードとの戦いに手を抜けば、国が滅ぶ可能性もあります。威信などそれ以上の大事ではありませんよ」

「しかし……」


 私の言葉に反論した領主が、それだけ言葉を発して口を噤む。


「では、何を以って罰とする? 信賞必罰はあるべきだろう」


 ゼリアが質問し、私は首肯で応える。


(しか)るべき所に(しか)るべき責を求め、罰則に軽重を与えるのがよろしいかと思います」

「お前の言う然るべき所とは?」

「此度の謀主はリーディア。彼の国が主体になって起こした反乱です。ならば、リーディアに相応の罰を下すのがよろしい」

「軽重というが、具体的に何を基準とするのか? 具体的に申せ」

「与えられた損害でよろしいでしょう。罰金を求めるなり、期間を設けて要求する物資の量を増やす程度でよいかと。これならばこちらは定めた罰を伝えるだけの労力で事足ります」

「では、肝心のリーディアにはどのような罰を与える?」

「国を取り潰し、領として吸収するのがよいでしょう」

「素直に従うまいよ。戦いになるな」

「一国とはいえ、我が国の一領程度の国力しかありません。有力な将、たとえば……四天王の一人でも派遣すれば被害も少なく占領できましょう。それに、戦いとなった方が他国への見せしめともなりましょう」


 ゼリアは小さく唸る。

 思案に足ると判断したのだろう。


「なりません! 我々に歯向かった代償は二倍三倍にして返すべき!」

「そうです!」


 不満を口々に述べる領主達。

 ゼリアは玉座の肘掛を強く叩き砕いた。


「余裕がないという指摘があったと思うんだがな?」


 そう言って睨み付けると、発言した領主達は顔を俯けた。


「それらを踏まえた上で、他に案はあるか?」


 視線で領主達を撫で付けたが、それに対しての返答はなかった。


「ならば、この件は終わりだ。ディナール卿の案を採用する。次の議題へ移れ」


 ゼリアはこの議題を締めくくろうとする。

 私は再び挙手をして発言した。


「お待ちください。まだ、責を受けるべき者は残っております」

「ほう」


 ゼリアは私の発言を促した。


「今回の事件は、この国に対しての反発から起こった事。しからば、各国との窓口となっていた者にも責はあるでしょう」

「何を申される!」


 気色ばみ声を上げたのは、外交担当の一人だ。


「我々は国益のため、最大限の能力を以って国の窓口を担ってきたのです。誓って不利益を被る事などしておりません」


 続いて、外交担当達が次々に同調の声を上げた。

 その全てに多彩な言葉を用いているが、要は自分に責任がない事を主張する内容だ。


「此度の事、全てはリシュコールに対する不信感から来ているのです。最も交流をもっていたあなた方が不信の(みなもと)であると考えるのは自然な事です」

「言いがかりだ!」

「あなた方は同盟国に対し、不当とも言える要求をしておりますね?」


 私が問うと、数人がまずいという顔をした。

 その顔を取り繕いつつ、外交担当の一人が反論する。


「今は戦時中なのです。より多くの物資を供出する事は国の大事! 我々は権能を以ってその役を担っただけである!」

「そのわりに、国庫に納められるはずの物資の数が合わないのですが?」

「そ、それは……私が私腹を肥やしているとでも(おっしゃ)りたいのですか?」


 私は彼に笑いかけて答える。


「そう言ったつもりですがねぇ?」

「証拠は? そんなものはないだろう!」


 声を荒らげる。

 ずいぶんと余裕がないな。


「もう同盟国の大使達から聴取は済み、ここ数年の支援物資の数を記録した書類もいただきました。それを見るに要求した支援物資の数量とリシュコールの国庫に収められた数量には差があり、しかしあなた方の報告した数量と国庫に収められた物資の数量は等しい」


 書類の改ざんをした者でなければ、この数値を等しくする事はできないだろう。

 そして差分となった数量は恐らく、改ざんした者の懐に向かったのだ。


 圧を強めて告げる言葉に、外交担当は顔を青くした。

 視線を彷徨わせ、陛下へと向き直る。


「ち、違います! 私は……」

「その件はじっくりと精査させてもらう」


 冷たく言い放ち、ゼリアは次いでこちらへ視線を投げた。


「先ほどの同盟国に対する処遇は、同情を含めていたからか?」


 その問いに、私は首を左右に振って否定する。


「陛下。リシュコールは、今や同盟国からの支援物資がなければ成り立たなくなっております。他の同盟国の罰を軽くするようにと言ったのは、その事情もあるからです」

「なるほど」

「そして、今後もこの関係を維持するならば、このまま今の外交担当ではままなりません。全員の罷免を要求します」


 しばしの思案を挟み……。


「いいだろう」


 ゼリアはそう答えた。




 王都の中央にある食堂街。

 外にテーブルの並ぶ、オープンテラスの店。

 その一席に目的の人物を見つけ、私は近寄った。


 相手は私が見える位置に来た時から、その存在に気付いていただろう。


「やぁ、シロ。久しぶり」


 シロは私を見つけると、不安そうな様子を和らげる。


「お、お久しぶりです」


 彼女の対面席に着く。


「お、落ち着きませんね。ひ、人がいっぱいいるところは」

「何が怖い?」

「……人が、怖いです」

「僕が一緒にいるじゃないか」

「そうなんですが……」


 答えると、シロは俯いてしまった。

 怖いものは怖いらしい。


「それから、情報提供ありがとう。おかげで助かったよ」

「情報提供って……リーディアの大使がバルドザード(うち)を頼ってくるかもしれないから、その時は教えてほしいってだけじゃないですか」

「労力を費やして得た情報だけが高価というわけじゃない。たとえ、勝手に手元へ転がってくる情報だったとしても、他人にとっては重要な事もある。今回の件を見ればわかるだろう?」

「そうですね。……でも、そもそもその情報がこちらに転がってくる事を始めから知っていましたよね? だから、シロに頼んだんでしょう? どこでその情報を掴んだんですか? シロですら、同盟国が反乱を起こすなんて知らなかったのに」


 その部分が気になっているのか。

 諜報に携わる彼女は情報の獲得がどれほど困難な事を知っている。

 だからこそ知りたいのだろう。


 まぁ、本来なら知りえない事だ。

 シロにとっては不可解な事か。


 私がそれを事前に知りえたのは、ゲームの知識があったからだ。


 ゲームにおいて、リーディアはリシュコールの同盟国をまとめて襲撃計画を実行する。

 計画は成功し、リシュコールに大きな打撃を与え、反乱軍の一助となるのだ。

 私はそれを知っていたから、事前に糸を張り巡らせる事ができた。


「シロ。君は、僕とのやりとりをヘルガ王に伝えているだろう」


 シロの目がまぁ泳ぐ事泳ぐ事。

 混乱と怯えに表情がころころ変わる。


「そ、そ、そ、それは……」


 その態度だけで私の言葉を肯定しているようなものだ。


「大丈夫さ、シロ。責めているわけじゃない。君は僕との関係を大切に思っているように、ヘルガ王との関係も大切に思っているんだろう?」

「……はい」


 叱られた子供のように、上目遣いでこちらをうかがいながら小さく言葉を発する。


「僕とのやりとりを伝えるのは構わないよ。だから、こちらにも伝えていい情報とそうでない情報をより分けて話させてほしい。いいかな?」

「……そ、そうですよね。当然です」

「それで、他に訊きたい事はあるかな? 伝えてもいい事なら、質問に答えるよ」


 笑顔で続けると、シロは緊張を和らげて遠慮がちに笑った。


「気になっているんですけど、ロッティちゃんの目的は何なんです? 事前に襲撃を察知していたなら、計画そのものを潰す事もできましたよね? それをしなかったのは、止めるつもりがなかったからではないですか?」

「その方が僕にとって都合がよかったからね」


 店員が私に気付いてテーブルまで来る。

 注文を終え、シロへ言葉を続ける。


「簡単に言えば、外交担当の粛清、そして派閥の強化が目的だ」


 今回の件で外交担当の汚職を表へ出す事ができた。

 それを理由に、人員の頭を挿げ替え、その新たな人員に私の息がかかった人間を配置する。


 同じく、襲撃された領地も私の派閥にいる領主にだけ襲撃される事を伝えていた。

 迎撃準備は整っており、結果として被害は最小限に抑えられた。

 逆に私の派閥に属さず、襲撃計画を知りえなかった領地は大きな被害を与えられた。


 領地を治める能力がない事を理由に、領主の首も私の派閥の人間に換えてしまう予定だ。


 この大幅な改革の実行に、今回の襲撃計画は都合がよかったのである。


「大胆すぎますよ……」


 語り終えるとシロは呆れた様子で声を漏らす。


「何が起こるかを知っていれば難しくもないさ」

「知るのが難しいんですけど……」


 その難しい部分を知れる事が私の唯一優れた所だ。


「……ロッティちゃんは、自分の権力を高めようとしているんですね」

「そうだね」

「もしかして、このまま王様にでもなるつもりですか?」


 私は苦笑する。


「どう答えてほしい?」

「え……」


 さて、この一件は片付いた。

 次は、どれから手をつけていこうかな。

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