表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/131

八話 決戦! 主人公チーム!

 そこは、高い穂の植物に囲まれた場所だった。

 多分、畑のど真ん中だ。

 私はそこに連行された。


 連行したのは、三人の少女。

 私を三人がかりで抱え上げ、ここまで連れてきたのである。


 三人の真ん中、一歩前に出ている少女は目立つ赤い髪が特徴的である。

 彼女の名はリュー。

『リシュコール戦記』の主人公である。


 リューの右側にいる白髪を後ろでお団子にまとめた長身の少女はジーナ。

 左側の短い金髪の少女はケイ。

 この二人も、ゲームの初期メンバーである。


「ババァはいつも怒ってばかりで、何かあればすぐに拳骨落としてくるんだ。それが痛ぇのなんのってなぁ」


 リューは私にそんな事を言ってくる。

 確か三人は孤児で、村長の家で育てられてるんだっけ。


「なのに、お前にはへこへこ頭下げんのは気に入らねぇな。俺らと同じくらいの歳なのになぁ!」


 だから、拉致したと?


「で、どうするんスか? 姉さん」


 ケイがリューに問いかける。


「どうするってそんなの決まってらぁ! ……どうしようか?」


 決めてから来い。


「よし! 剥いてやろうぜ! 剥いて、ちん○でも見てやろうか」


 ないよ、そんなの。


 どうやら、リューは私を男だと思っているようだ。

 しかし、口を塞がれた私にはそれを口に出す事はできない。


「ち、ち、……って、あたい見た事ないっス!」


 顔を真っ赤にしてケイが答える。


「へ、お前見た事ねぇのかよ」


 と笑い飛ばすリューの顔も真っ赤だ。

 こいつも見た事なさそうだ。


「まぁ、気にはなるな」


 そう努めて冷静に話すジーナの表情もどことなくにやけているし赤い。


「……で、誰がやる?」


 リューが口にするが、誰も名乗り出ない。


「ケイ、お前やれよ」

「え! あ、あたいそんな恥ずかしい事できないっス! それもこんな王子様みたいな子のなんて……」

「恥ずかしいだぁ? 恥ずかしくねぇよ! ちん○見るなんてなぁ!」

「だったら姉さんがやってほしいっス! あたいにはまだ早いっス!」

「じゃあ、ジーナ!」

「フッ……」

「笑って誤魔化すんじゃねぇよ! お前、いつもそれだよな!」


 私そっちのけでぎゃいぎゃいとモメ始める三人。


 その時になって、私は思い出した。

 この村に来た時も、村長の話し合いの時も、帰り道も……。

 ずっと、彼女が一緒にいた事を……。


 三人の背後。

 作物の合間から飛び出したクローディアが、三人をまとめて蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされて、地面に転がる三人。


「な、なんだ?」


 混乱している三人をクローディアは追撃する。

 倒れたままのケイの腹を蹴り上げ、いち早く立ち上がって反撃しようとしたジーナの顔を殴り、続いて殴りかかってきたリューを投げ飛ばした。


 それからも殴る蹴るの暴行を加え、三人をボコボコにした。

 打撃を加える度に、高い金属音が当たりに響き渡る。


 よ、容赦がない……。


 クローディアはずっと一緒に居てくれたのだが、ずっと黙っていたので私自身もその存在を忘れてしまっていた。


 三人がぐったり動かなくなると、私に近づいて拘束を解きながら話しかける。


「危険だったからすぐに攻撃できなかった。だから、安全になるまで様子を見ていた」


 一応、私がさらわれた時にすぐ気付いてくれたようだ。

 けれど、犯人の手に私の身柄があったから機会を見計らってくれていたという事だろう。


「ありがとうございます。助かりました」


 礼を言うと、クローディアは私から視線を外して三人を見た。


「手加減はしたから生きてる。どうする?」


 あれで手加減してたの?

 でも、武器は使ってないのか。


 ……いっそ、ここで始末してしまおうか。

 とりあえず私の死因の第一候補が消える。


 などと、浮かんだ悪い考えを振り払う。


「一応、村長に報告しておきましょう」




「本当に申し訳ございません」


 三人を連れて行き、村長に事情を話した。

 村長は土下座し、床に頭を擦り付けるようにして謝った。


「罰は私が受けます」

「幸い無傷なので、特に何かしようという気はありません」


 本当は肘のあたりを擦りむいて出血しているが、立場的にそんな事を言えば人死にが出かねないので黙っておく。


「恩情、痛み入ります」

「けっ、偉ぶりやがって」


 隣で憮然としていたリューが悪態を吐く。

 すかさず、頭頂に拳骨を落とす村長。

 そして頭を掴んで強制的に頭を下げさせた。


「しっかりと躾けておきますので! どうか、この子達をお許しください!」


 必死な声色で村長は言う。


 それを見て、一緒に並ばされていたジーナとケイも頭を下げた。

 リューだけは頭を押さえつける手に抵抗しようとしている。

 余程力を込めているのか、村長の手には青筋が浮き上がっていた。


 その様子を見ると、村長がこの子達を大事に思っているのがよくわかる。


「今日は帰ります。話はその時にしましょう」

「は、はい」

「もちろん、仕事の話ですよ? 子供達への罰則はありません」

「お前もガキじゃねぇか!」


 リューが叫ぶと、床がめり込むほどに頭が押さえつけられた。


「では」


 これ以上ここにいると、次に会った時リューの頭蓋骨が変形していそうなので早々に立ち去る事にした。




 それから、他二つの村も周って聞き取り調査をした。

 三つの村の中でも、ターセム村の収穫量は少ないらしい。


 とはいえ、誤差の範囲とも言えた。

 二つの村にもターセムと同じ対策を取って様子を見る事にした。


 本格的に牧畜に関する話を進め、手紙でパパにお願いして他の領地の畜産に従事している農民にも講習のために出張してもらえる事になった。


 この対応について、ターセム村長との話し合いの帰りに思いついた事だったので、他二つの村には前もって伝えられたが、ターセム村長には伝えていなかった。

 なので、今日は改めてそれを伝えるために出向く事になった。


 村長宅へ入ろうとした時だった。


「何の用だよ、ああん?」


 チンピラ……もとい主人公チームに絡まれた。

 ゲームでの関係もあり、あんまり関わりたくない。


 スッと前に出るクローディア。

 三人が若干ビビる。


「仕事だよ」

「仕事だぁ? お前みたいな子供に何ができるってんだよ」


 答えると、リューは問い返す。


「まずいっスよ、姉さん」

「何がまずいってんだ! こんな奴怖くねぇぞ!」


 クローディアに目を向けながらリューは怒鳴る。

 怖がってるじゃん。


「そうじゃなくて、婆ちゃんが言ってたじゃないっスか。こいつ、本当に王子様だって」


 王様の子供に違いはないけど、プリンスじゃないよ。


「そういやそんな事言ってたな」


 このままここにいても時間の無駄だと思ったので、私は家の中へ入ろうとする。


「おい!」


 私は溜息を一つ吐いて、そのまま家の中へ入った。

 呼び止める声はあったが、完全に無視した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ