表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/131

七十一話 絶体絶命

 前回までのあらすじ。

 私はリューに壁ドンされ、その乳圧で危機に陥っていた。




「……これからどうすればいいんだ?」

「わかんないなら放してくれない?」

「やだ! 離れたくない!」


 リューの脛を蹴る。


「あたっ」


 痛みに怯んだ所で腕を取って投げ飛ばした。


「うわぁ! 何するんだ!」

「いや、こっちも何するんだだよ?」


 そう答えつつ、私はリューから逃げる。

 全力疾走である。


 きっとリューは酔ってる。

 彼女の本心がどうあれ、ここまでダイレクトに気持ちを伝えるような事……。

 いや、リューならあるかな?


 今はどうでもいい。

 それよりもこれからどうしよう。

 どこに逃げる?


 室内で詰め寄られたら逃げ場がなくなる。

 外だ。


 外へ通じる通路を抜けて外へ出る。

 城の中庭だ。

 城の間取りなどは把握していないので、適当に走る。


 そうして東屋を見つけ、そこの影に隠れた。

 しばらく隠れ続け、追ってくる気配がない事を確認する。


 自然と溜息が出た。


 どこからか、木桶をひっくり返した程度の水音がする。

 そちらに行くと、井戸で水を浴びるジーナの姿があった。


 安心する。

 とりあえず、彼女と一緒にいればリューが何かしてきてもどうにかなりそうだ。


「ジーナ」

「……ロッティか」


 周囲を見てからジーナは名前を呼ぶ。

 他の人間がいないかの配慮をしてくれたのだろう。

 その後、ジーナは井戸から汲んだ水を頭からかけた。


 いつもはまとめている髪がほどけていて、カーテンのように顔を隠している。

 そこから水滴がパタパタと落ちておく。


「酔い覚ましか?」

「呑みやすいのに強い酒だな、あれは」

「そういう風に作ったからな」

「一向に醒めそうにない」

「病みあがりでもある。このまま休む事だな。お大事に」


 そう言って離れようとする私の手をジーナが掴んだ。


「何だ?」


 問いかけると、空いた手で髪のカーテンを除けた。

 隠されていた目が私を捉えていた。


「あんた、いい女だな」

「それはありがとう」


 急に手を引かれる。

 体勢を崩し、井戸の壁面を背に尻餅をつく形で座らされた。


「どういうつもりかな?」

「いい女と触れ合いたいというのは自然な気持ちだろう。そして私も、いい女だ」


 ジーナが私に顔を近づけてくる。


 これは……まずいな。

 あなた、今までそんな素振りなかったよね?


「こんな気持ちを伝えられる覚えが無いんだけど」

「長年、あんたを近くで見てきた。どんな人間なのか、よく知っている。特別なきっかけなんて必要ないだろう?」


 褒め言葉だけど今は嬉しくない。


 捕まれた手を逆に掴み返す。

 手に注意を向けたジーナの意識を逆手に取り、右足を抱え込むように取って足首の関節を外す。


「ぐあっ!」


 駆けっこで勝てる気がしないので足を潰させてもらった。

 そしてまた全力疾走でその場を後にする。


 ああ、おかしな事になった。

 多分、酒のせい。

 酒のせいなんだろうけど、元々そういう気があったのかもしれない。


 これから二人と接する時どうすればいいんだろう?


 そんな事を思いながら城の中へ逃げ込み、通路を曲がる。

 どんっと進行方向から来る人にぶつかった。


「あっ、と」


 その人物はケイだった。

 リューでない事に安心し、しかしすぐに警戒心を覚えた。

 いつもより気持ち離れた間合いを取る。


「丁度よかったッス。ちょっと話したい事があるんスけど」

「何かな?」

「あの、今は丁度一段落ついたと思うんスけど、だから言っておきたい事があって……。ずっと、思ってた事なんスけど……」


 ケイはもじもじと言い難そうにする。

 その顔には照れから来る赤らみがあった。


「……ロッティさん! スキッス! 付き合ってください!」


 思い切って告白してくるケイに対し、私は踵を返して逃げ出した。


 真摯な告白に対して申し訳ないが、今はすごく……危機感を覚える。


「ああ、どこ行くッスか!?」


 ケイをどうにか撒いて、適当な部屋に隠れた。


 まさか、自分がこんなに周囲から矢印を向けられているとは思わなかった。

 好感を持ってもらえるように振舞っていた部分はあるが……。

 それはあくまでも友人としてだ。


 私、そんなに好かれる要素あったかな?

 思えば前世からそうだ。

 友人として自然に接していたら、いつの間にか相手から告白される事が何度もあった。


 しかし、この危機をどうやって脱しよう。

 逃げ続けても、三人が気持ちを露呈した以上今まで通りには戻れない気がする。

 それも頭が痛い事柄だ。


 ……とにかく今は、逃げる事だけを考えよう。


 慎重に、部屋の扉を開ける。

 隙間ほど開けた時……。


「おーい! シャルー!」


 リューの声が聞こえ、身を硬直させる。

 物音を立てないよう、聞き耳を立てて様子を伺う。


「リュー」

「あれ、二人共どうしたんスか?」


 ジーナとケイの声も聞こえる。


「いや、シャル探してるんだけど」

「奇遇だな、俺もだ」

「あたいもッス」

「何で二人も探してんだよ」


 少しの沈黙があり、口を開いたのはケイだった。


「あたい、シャルが好きッス。子供の頃から、王子様みたいなシャルに憧れてたんス。さっき告白したッス!」

「何っ! お前もか!」

「はぁ……お前達と同じ理由で探していたとはな」


 場がピリついてくる。


「俺だってシャルが……いや、ロッティが好きだよ! お前らが大事な姉妹だからって、譲れねぇ!」

「それはこっちも同じだ」


 敵意を含んだリューとジーナの言葉が交わされる。

 今にも喧嘩が始まりそうだ。


 仲違いはしてほしくないが、今だけはその方がいいかもしれない。

 喧嘩のドサクサに紛れてこの場から逃げよう。


「待ってほしいッス!」


 険悪な二人に、ケイが割り込んだ。


「何だよ?」

「二人共、独り占めにするって考えがよくないんスよ」

「何が言いたいんだ?」

「美味しいピザがあれば、みんなで分けあってきたじゃないッスか。だったら、好きな人も三等分ッスよ」


 私はピザじゃないんだよ?


「なるほど、お前天才か」


 なるほどじゃないんだよ。


「はっ、仕方ないな」


 ジーナもやれやれという雰囲気で返す。

 一番常識的な彼女がこれではもうどうしようもない。


「俺達が間違ってた。ケイの言う通りだ」

「へへ、わかってくれればいいんス」


 三人はがっちりと握手を交わした。


 状・況・悪・化!

 やっべ、このままじゃ三等分にされる。


「とりあえず、このあたりには居なさそうだし手分けして探そうぜ」

「ああ」

「そうッスね」


 三人の気配が消え、私はそろそろと部屋を抜け出した。


 どうしよう……。


 寝泊りしている部屋に……いやすぐに捜索されそうだ。

 ……執務室。そうだ、書類仕事等に使っているあの部屋なら来ないかもしれない。

 今までも結界が張ってあるかのように、彼女達は書類のある部屋には近づかなかった。


 よし、とりあえずそこに逃げよう。

 待っていればミラも仕事しに来るだろうから、助けを求められる。

 執務室への移動を開始する。


 ああ、でもこれから三人とどう関わっていけばいいんだろう?

 この場を凌いでも告白された事実は変わらんし……。


 いっその事、三人の内の誰かと付き合う?


 いや、一人を選んだらそれはそれで不和になる気がする。

 何とか誤魔化したいが、どうすればいいんだろうか。


 そんな事を思いながら執務室へ辿り着く。


 扉を開け、中に入ろうとすると部屋の中から伸びた手に手首をつかまれた。


「!?」


 そのまま部屋の中へ引き込まれる。


 引き込んだのはリューだった。


「やったぜ! お前の言う通りだな、ジーナ」

「ああ。逃げるとすれば、俺達が普段から近寄らない場所だろうからな」


 あ、完全に裏かかれてる。


「まぁ、待って、話し合おう」


 そう言う間に、私の身体がケイから羽交い絞めにされる。

 一対一ならどうにか凌ぐ自信はあるが、三人同時では勝てるわけがない。


「待てないッス。あたいらの気持ち、受け取ってほしいッス!」

「落ち着いて」


 宥めようとするが、明らかに三人は興奮している。


「これからどうすればいいんだ? 俺、わかんねぇんだけど」

「キスッス!」

「マジか! お前らした事ある?」

「ないッス」

「ある」

「マジか!」

「そんな事よりとりあえず脱がせ」


 三人で盛り上がり始めた。

 このままでは前世から守り通した貞操が奪われてしまう。

 どうにか隙を見つけられないか……。


 そう思っていると、入り口のドアが開いてミラが入室した。

 私達が部屋にいる事に気付いて一瞬ギョッとしていたが、すぐに落ち着いて私達を眺める。


 きっと彼女はそれで今の状況を把握したはずだ。

 きっと私のピンチを察してくれたに違いない。

 その冷徹な眼差しの裏で、神算鬼謀をはじき出す正確無比な脳髄は今、私を助け出すための冠絶たる方策を巡らせているに違いない。

 さぁ、見せてくれ。

 私の及びもつかないこの場で最善の策を……!


「ロッティ様。あなたも酔ってしまえば、多少は心も慰められるかもしれません」


 そう言いながら、執務室に置かれていた梅酒の大壷をミラは差した。


 このポンコツ軍師!

 お前、実は頭良くないだろ!




 目を覚ますと、割り当てられた私室のベッドだった。

 部屋に戻ってきた記憶がない。

 最後の記憶は宴会の席だ。


 頭が痛い。

 私もあの場で酒を呑んで泥酔してしまったのだろうか?

 その勢いでおかしな事をしていなければいいが……。


 まぁそれはそれとして、どうして私は素っ裸なんだろう?

 ロッティ様が三人に迫られている。

 血色の良い肌と酒の臭気。三人は酔っているのだろう。

 対してロッティ様は素面に見える。私へ向けた視線に縋るような期待が混じっている所を見れば、他人に頼らざるを得ない程の危機に直面しているという事。

 酷く興奮しているのは確かだが、暴力的な気配はない。

 恐らく、三人はロッティ様への想いを打ち明けたのだろう。ロッティ様当人はまったく気付いていなかったが、三人はずっとロッティ様にそれらしき感情を向けていた。

 しかし成り行きにまかせてしまえば結果がどうあれ、今後この四人の間柄にしこりが残る可能性は高い。

 何事もなかったという事にしてしまいたいが、そんな上手い策は……そうだロッティ様に酒を呑ませよう。

 酔って記憶がなかった事にして、告白をなかった事にする。

 素面に戻ったリューとケイは奥手なので日和ってその提案に乗るだろう。

 ジーナはそうでもないが二人がそうすれば同じようにする。

 ついでに言えば、四人の絡みを特等席で見れる。

 よし、完璧だ。

(脳内 0・02秒)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ