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六十九話 事後処理

今回は今日と明日に分けて更新させていただきます。

 領主を排除し、しばらくするとリュー達の部隊が城へ到着した。

 そのタイミングで表門から出る。


 門の前に人の姿はなかった。

 あれだけ群がっていた人も、守っていた兵士の姿もない。

 ただ、大量の血痕だけが城門前の橋に(のこ)っていた。


「そこら中、血まみれじゃねぇか。何があったんだ?」


 合流したリューが訊ねてくる。


「さぁね。見てなかったから。それより、町の様子は?」

「どうするのがいいかわからないから、暴れてる連中は片っ端からとっ捕まえた」


 上等な対応だ。

 ちゃんと言いつけを守ってくれたらしい。


 リューの頬に手を伸ばして軽く触れる。


「いい子だ」

「な、なんだよ!」


 赤面しつつ、リューは問い返す。


「はは、何を照れているんだい。僕達の仲だろう?」

「……っ! そっちはどうなんだ。領主はどうなったんだよ?」

「さて、どうなったんだろうね」


 二人が民衆にリンチされて連れ去られたのか、逃げ延びたのかわからない。

 兵士もいないから、指揮を執ってどうにかした可能性はある。

 もしくは、領主が死んで意義を無くしたから逃げ散っただけかもしれない。


 どちらであれ、私の前から消えた。

 その事実だけで十分だ。


「少なくとも、もうここに戻ってくる事はないさ」

「それで大丈夫なのかよ?」

「思ったより君は心配性なんだな。信じろよ。僕がウソを吐いた事があるか?」

「……わかんねぇ。お前、口上手いからウソかどうかすら確かめられねぇんだもん」

「気になるなら、探せばいいさ」


 答えると、スノウが駆けてきてリューの隣に立った。


「西地区の見回りは終わった」

「ありがとう」


 スノウとリューが気安く言葉を交わす。


「ずいぶんと仲良さげだが……。僕の記憶が確かなら、彼女は敵だったはずなんだがね」

「戦って勝ったから、降伏してくれた。だから、手伝ってもらってた」


 捕縛しろよ。




 それから数日。

 領主の町で待機していると、徐々に他の反乱軍の面々が集まり始めた。

 真っ先に着いたのはケイの率いる部隊だった。


 ケイの部隊で行動していたのか、ジーナも一緒にいた。


「ジーナ、怪我は?」

「痛みは無い。身体が鈍っている方が良くないな。心配をかけたか?」

「それはもちろん」


 私の返しに、ジーナは皮肉っぽく笑った。


「はー……ここがこれからあたい達の家になるんスか」


 領城の入り口、建物を見上げながらケイは感嘆の声を上げる。


「おう、外もスゲェけど中もスゲェぞ」


 リューがケイに答える。


「リュー、なんか大人しいッスね」

「いつもこんなもんだろ」

「いつもならもっとはしゃぎそうなもんッスけど」


 どうやら、リューは領主の家族に何かしら思う所があったらしい。

 領主とリサの安否も気にしていたし、何より子供達がどうしているのか心配していた。


 リューの隣に立っていたスノウがその頭をくしゃっと撫でる。

 少し煩わしそうにしているが、抵抗するでもなくリューはそれを受け入れる。

 彼女はよほどリューが気に入ったのか、しれっとリューの部隊に加わっていた。

 そのまま反乱軍に参加するらしい。


 特に問題ないと判断したので、私はそれを許可した。

 彼女の実力は十分に思い知っているので、心強いばかりだ。


「なんだよ?」

「あんま気にすんなよ」

「あんたがそれ言うのか?」

「言ったろ。子供達は王都に送ったから安全だって」

「でも、あのおっさんもリサもスノウにとっては大事な人だろ? 愛してるんだろ?」


 スノウは絶妙な苦笑いを見せる。


「あたしも含めてうちの連中はみんな、いつどこでどんな死に方をしても文句言えない生き方してんだ。覚悟の上だよ」


 彼女の言葉が本心だとは思えない。

 しかし、彼女が反乱軍に敵意を持っているようにも思えなかった。

 一応、警戒はしておいた方がいいかもしれないが。


 多分私もまた、彼女の言う生き方をしている人間なんだろうな。

 そんな事をなんとなく思った。




 次に領主町へ着いたのは、ミラとマコトの部隊だ。

 二人は途中で合流したらしい。


「順調か?」


 ミラに問いかける。


「概ね。完了後、順次ここへ集まるよう通達はしています」


 既に反乱軍の面子はその大半がここへ集まっている。

 各地の鎮圧は上手くいっているのだろう。


 それはそうと……。


 私は並んで立つマコトとヨシカに目を向けた。


 何で一緒にいるんです?


 ヨシカは兜と仮面で顔を隠していた。

 戦国武者が着るようなものだ。

 私の雑な変装にも気付かないのだから、正体は隠し通せているのかもしれない。


 確認のために声をかける。


「マコト。お疲れ様」

「ああ。シャル。お疲れ様」


 誰何するように、私はヨシカの方を見る。

 その意図を汲み取ったように、ヨシカが口を開く。


「ホウコウだ。この度、反乱軍に加入させてもらう事になった」


 ヨシカはそう名乗る。


 ホウコウ……。

 なるほど、漢字では芳香(よしか)と書くのか。

 この世界に漢字がある事は不思議な話だ。


「ウィンを撃退したらしいな。たいしたもんだ。あれがなければ、今の状況はなかった」


 あれが攻勢のきっかけになった。

 本当は襲撃される前にどうにかしたかったが、間に合わなかった。

 それを知った時にはヒヤリとしたが、倒してくれて結果的によかった。


「あー、それなんだが……」


 マコトは言いにくそうに目を逸らした。

 逸らした視線の先にはヨシカがいる。


「ホウコウが助けてくれたんだ」


 ああ、そういう事か。


 自由行動していた彼女は、その実マコトが気になって観察していたのだろう。

 その危機に際し、助けに入る事ができたのだ。

 言いたい事はあるが、それが有利に働いたので何も言えない。


 それはそうと……本当に気付いてないんだね、マコト。

 私が言えた義理じゃないけれど。

 顔を隠しても所作や声でバレバレなのに……。


「そうでしたか、ありがとうございます」

「構わんさ。それより、領主の安否はどうなっている?」


 そんな事をヨシカが気にするとは思わなかったので少し意外に思う。


「行方不明だよ」

「生きているのか?」


 問われて、その時の事を話す。


 ヨシカは黙り込んでしまった。


「捕縛しているウィンを逃がすが、いいな?」


 有無を言わせぬ口調でヨシカは問うてくる。

 問うてはいるが、異論は挟ませないという強い意思が感じられる声だ。


「仲間に引き込めないか?」

「口が裂けても言えんな」


 答えて、ぷいっとそっぽを向く。

 ちょっと怒ってる?


「引き込めないなら仕方がない。個人的には構わないと思うが、一応ミラに聞いてくれるか」

「わかった」


 短く答え、ヨシカは城内へ入っていった。


 事情はわからないけれど、みんな敵の事を気にしすぎじゃないかな。




 ボラーの部隊が合流し、表面的な反乱軍の人員はほとんどが揃った。


「あんたとはあんまり話した事ないな」

「そうですね」

「これから仲良くやっていこうぜ」


 リューが声をかけ、ボラーもやわらかく対応している。

 彼女は物腰が柔らかいので、ここでもそつなくやっていけそうだ。


 揃っていないのはあと一人。

 リアだ。


 空間転移ができる彼女は、部隊を持たずに単独を行動していた。

 ミラに報告した後、見回りのために一度村々を確認してくると言って消えたそうだ。


 そんな彼女が城に現れたのは、城の一室で手紙を読んでいた時の事だ。

 それはグリアスのルートからもたらされたものである。


「その手紙は?」


 ドアの開く音はしなかった。

 気配のない部屋の影から、声だけがかけられた。


「定期的に届けてもらっている報告だ。出所は調べたんだろう?」

「弁明などはなさらないのですか?」


 言いながら、リアが影から姿を現す。


「やましい事はないからな」

「その手紙の元は王都に繋がります。あなたはスパイなのですか?」

「だとしたら?」


 リアは剣に手をかける。


「怖い怖い」


 苦笑を返す。


「裏切りは悪です。それ以上に人の心を傷つける行いはないのですから」

「あなたにとって、理不尽は悪になるかな? 事情も知らずに処断する事は果たしてどういう位置づけになる?」


 問いかけるとリアは剣から手を離した。


「納得のいく答えを用意している、という事ですか?」

「あなたには話しておくべきだろうとは思っていた。納得もしてくれるだろう、と僕も確信している」


 言いながら、自分の顔を隠す仮面を取り払う。

 その素顔に、リアはかすかな動揺を見せた。


「ロッティ・リシュコール」


 彼女は私の名前を呼ぶ。


「ゼリア・リシュコールがこのままの統治を続けたとして、バルドザードに勝てると思うか? 物資の乏しさを補うための圧政、王一人を前提とした戦略の構築……何より――」


 私はリアの目を見据えた。


「何よりも彼女の下に聖具は集うか?」

「!」

「聖具が揃わなければ、邪神を殺す事などできない」


 その言葉でリアが警戒を解いた事がわかる。

 表情から険しさが消え、童女のように純真な目で私を見ていた。


「そのために僕はここにいる。納得してくれたかな? ()

「……! あなたは、私を……。……ええ。納得しました。あなたは本気なのですね。あの時の言葉もその場しのぎなどではなく、本気で邪神を滅ぼそうとなさっている」


 リアは心底嬉しそうに笑う。


「そのためにあなたは、あらゆる手段を講じるつもりなのですね。すばらしい……」

「納得してくれたかな?」

「はい! 納得いたしました!」


 よかった。

 少なくともここで殺される事はなさそうだ。


「この目的を理解し、目指しているのは僕とあなただけだろう。その目的のために、今後はさらに協力をお願いするかもしれない」

「ええ! ええ! 是非、我が身をお使いください!」

「必要とあれば、存分に」




 ミラと今後の事について話し合い、それが終わると休息を取る。

 この城には個室が多く、どこも内装が女性好みのものになっていた。


 領主の妻が使っていた部屋かとも思ったが、それにしては部屋の数が多い。

 愛人の住まいだったのかもしれない。

 ベッドメイクが完璧で、新品のようにシーツが綺麗だ。


 頻繁に整えているんだろう。

 ……使わせてもらおうと思ったが、いろいろと考えていたら使う事に抵抗がでてきた。


 だけれど、その抵抗を些細に感じるほど、私は疲労感を覚えていた。


 ベッドに横たわる。

 肌触りの良いシーツの感触と洗い立ての匂い。

 柔らかい布団の虜になる。


 身を包む優しい感覚に、私は昔の事を思い出す。


 思い出はやっかいだ。

 受けた愛情、優しさ。

 それらを返したかった事。

 してあげたかった事。

 全てがもう叶わぬ事。

 後悔……。

 復讐はその代替にならない。

 失ったものをそれで補う事はできない。

 けれど……気持ちがそちらに向いてしまう。

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