六十五話 反乱軍強化訓練
反乱軍の人材が増えていた。
元々、この領に不満を持つ村人が増えていたのもあったが、そこに来て領主が見せしめを行ったのが原因で爆発的に増えたのである。
しかしながら皆、今まで農具しか持った事の無い農民達。
数は揃っていても、戦いに関しては素人の集団である。
そのまま実戦投入しても、いたずらに犠牲者を増やす結果が容易に想像できた。
戦力の底上げを行う事は、目下優先すべき事柄であった。
そして、強化訓練が行われる事になった。
戦闘経験のない新人達は全員参加、元々の反乱軍の人員に対しても自由参加を募っての強化訓練である。
午前中は走り込みで基礎体力をつけ、食事の後休憩がてらに講習。
その講習内容を実践習得するための実地訓練を行うというのが一日の流れだ。
それを三日続ける、短期集中型の訓練である。
ほぼ付け焼刃と言っていいもので、もっと時間を取りたい所だが状況が状況だけにそれは難しかった。
走りこみと食事を終え、講習の時間。
今回の講師役は私だ。
生徒達を前に、講義する。
「まず、戦いにおいて一番大事な事を教えよう。相手の力量をはかる事だ。自分の実力と照らし合わす事でその後の行動の指針とする。比べた結果として、打倒できるか、足止めができるか、敵わないから逃げるか、等の判断を下す基準とする」
私の講義に、生徒達は真剣な面持ちで耳を傾けている。
「具体的にどうすれば力量をはかれるか……。おっぱいを見る事だ」
困惑の空気が流れた。
「これは真剣な話だ。おっぱいの大きさが魔力の総量と言っていい。そして魔力の総量はそのまま個人の強さに繋がる。おっぱいの目利きによって自分の進退は左右されると言って良い。さながら左右のおっぱいのように」
さらに困惑の空気が強くなる。
スベったか……。
「質問いいですか?」
そんな中、一人の生徒が挙手した。
「どうぞ」
「じゃあ、戦いの時は相手のおっぱいをガン見しても叱られないんですか? 模擬戦とかの時でも?」
なんだその質問?
「ずっとそこばかり見てたらむしろ危ない。一瞬で力量を判断できる方が望ましいので、ガン見というよりもチラ見でサイズを測るんだ」
「そうなんですか……。ありがとうございました」
少し残念そうにその生徒は手を下げた。
「だいたい自分と比較して判断するのがいいだろう」
比較すると私にとっては強敵しかいない。
「が、自分を過大評価する者もいるだろうから、大体の基準を用意した」
私がそう言うと、ミラとリューとケイが生徒達の前に現れた。
「おっぱい三銃士を連れてきたよ」
「おっぱい三銃士?」
丁度ケイ・リュー・ミラのサイズ……まぁみんなでかいんだけどな。
三人が私の隣に並ぶ。
やめろ。
私の隣にみんな並ぶんじゃない。
私が無の例題として見られる。
私は生徒達に、サイズの違いについて説明する。
まずミラだが、生徒達よりは大きいがこれくらいの差ならば技術で十分に巻き返せる範囲だろう。
正面から当たっていいのはこのクラスまでだ。
リューのサイズになるとかなり厳しくなる。
技術で差をつけるにも、生半なものでは敵わないだろう。
それをクリアできたとして、こちらにもある程度のサイズがないとダメージは通らない。
地形や人数を武器にして、有利な状況に持ち込めばわからないというレベルだ。
まぁ、聖具さえなければ。
ケイに関しては、出会ったら逃げていい。
反乱軍の一般的なサイズでは勝ち目が無い。
一発殴られれば致命傷だし、ダメージも一切通らない。
リサがこれより一回りほど大きく、恐らく聖具がなければケイでも対抗できないだろう。
生徒達には出会った時は逃げて、ケイを探すように伝えた。
「さぁ、これを目に焼き付けて判断の目安にするんだ」
「「はい」」
生徒達が返事をして、三人の胸をじっと見詰める。
「……恥ずかしいんだけど」
リューがそう零す。
「仲間のためだ」
そう言って意見を封殺した。
「質問があるんですけど」
「何かな?」
「胸の大きさが魔力の総量なんですよね?」
「そうだ」
「揉んで大きくしても魔力が増えるんですか?」
私はすぐに答えられなかった。
正直に言えば知らない。
「恐らく魔力の蓄積量に個人差があり、その蓄積量に伴って胸が大きくなるのだと思います」
私の代わりにミラが答える。
「つまりどういう事ですか?」
「胸の大きさに合わせて魔力が溜まっているのではなく、溜まった魔力に合わせて胸が大きくなるんです」
「なるほど。じゃあ、大きな胸にあわせて魔力が増えるという事はないんですね」
「それは……試してみないとわかりませんね。やってみましょうか」
何を?
「シャル様、試してみてもよろしいでしょうか?」
だから何を?
「肉体的な方面から胸を大きくする事で、魔力量を底上げできるかどうかです」
「具体的にどうする?」
「さっき彼女が言っていたように、とりあえず揉んでみましょう」
えぇ……(困惑)。
「各自、任意で自分の胸を揉むようにしてください」
「ルージュさん、暇な時間を見つけて自分で揉めって事ですか?」
「はい」
「あの、揉んでいる所を他の人に見られるのは恥ずかしいんですが……」
それはそうだ。
「そうですか。……なら、二人一組になって互いの胸を揉むようにしましょう」
何が「なら」なんですかね?
「え、どういう意図があるんですか?」
「始めから他人を巻き込めば恥ずかしくないでしょう」
なるほど……。
……いや、おかしくない?
少し考えたけどやっぱりおかしい。
二人で揉み合ってるの見られたら別種の恥ずかしさがあるよ?
「じゃあ、各自相手を見つけて胸を揉み合ってください」
本当におっぱじめるの?
特に反対意見もなく、生徒達は自然な流れで二人一組となった。
みんな従順すぎない?
「あ……うん……ちょっと、あんた手つきやらしいわよ」
「真面目にやってるだけだ……。ん……お前だって、やらしい手つきしてんだろ。痛いくらいだ」
「……ごめん」
「あ……はぁはぁ。もっと優しく……」
「こっちの方は弱いんですね。可愛い」
「こうですか? はぁ……はぁ……」
「はぁ……いいぞ。上手いな。もう少し、強くてもいいぞ」
「ありがとうございます。あっ……んん……」
い……っかがわしい。
「なぁ、お前は誰と組むんだ?」
リューが訊ねてくる。
「私はやらない」
「そうなのか」
「そうなんスか」
リューが残念そうにしゅんとした。
どういうわけかケイも残念そうである。
だって、これでもし本当に効果があったら複雑だから。
適度に運動して脂肪蓄えて胸揉むのが一番強くなる近道だったとする。
それが事実なら、ぶっ倒れるまで訓練して極限まで無駄な肉を削いだ私が馬鹿みたいじゃないですか。
絵面の酷い訓練が終わり、夕刻になった頃。
アルファのブラッシングをしている時に、村の外へ出て行くリューの姿が見えた。
気になったので彼女を追いかける。
村を出た彼女は、人気のない広場で手に持っていた空き缶サイズの丸太を置いた。
少し離れ、指先を向ける。
そのまま静止し、しばらく経った。
なにやら力んでいる様子で、肌が少し赤くなっている。
「むむむ」
しまいには声まで漏らした。
その様子を一通り眺めてから声をかける。
「何をしている?」
びくっとリューが身を震わせた。
「何だ! ……シャ……ロッティか」
久しぶりにその名前で呼ばれる。
「練習してるんだよ。光線を出せるように」
そんな答えが返ってきて納得する。
「スノウに言われたんだ。炎熱は極めると光線になるって」
それは多分、正しい情報だろう。
炎熱の進化系という話は初耳だが、ゲームでは確かにみんなビームを出していた。
もしかしたら、他の属性変換にも二段階目があるのかもしれない。
「成果は芳しくなさそうだが」
「うん。どうやっても出ない」
そう答え、リューは自分の指先を見る。
「恐らくだが、光線は人によって出しやすい場所が異なると思うぞ」
「そうなのか?」
こちらを見ながら問い返す。
「スノウが光線を放つ際は人差し指から出していたな。リューが見た時はどうだった?」
「初めて見た時……それにリアに使った時も人差し指から出していた」
「なら、そういう事だろう」
確か、ゼリアも特定の場所から出す事が多い。
基本的に目から出す事が多いが、本気の時は胸から出すはずだ。
ゲームではそうだった。
魔力の源たる胸から直接発射するのだから、その分威力も高いのかもしれない。
それができる事もゼリアの強さの秘訣だろう。
「リューの場所は人差し指じゃないんだろうな」
「じゃあどこだろう?」
「おでことか」
「真面目な話してるのに」
真面目に言ったよ。
リューのビームを出す場所はおでこだよ。
ゲームではそうだったんだから間違いないよ。
「おでこから出すの格好悪くない?」
「そうでもないと思うが。まぁ、いろんな場所で試してみればいい」
「わかった。いろいろ試してみる」
それから数日。
互いに胸を揉み合うのが反乱軍内で流行った。
挨拶のようにそういう光景がそこかしこで見受けられるようになり、困惑している。
結果として見られても恥ずかしくないという状況が作られた所を見るに、ミラはこうなる事を予測していたんだろうか?
先見の明がある軍師様がいて頼もしい限りだ……。




