表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/131

七話 初めてのおでかけ

 ゴトゴトと馬車に揺られて数日。

 初めてのお外。

 初めての馬車。


 私は揺れに耐えられず乗り物酔いに苛まれていた。

 車内が広く、椅子に横たわれたのが不幸中の幸いである。


 何度かゲロゲロとやって、馬車も止めてもらったので少し時間がかかりながらも私は領地へ辿り着いた。


 住まいとなる領城は、実家と比べてかなり小さいものではあったが、それでも同行した家臣団が住むには過剰に思えるほど大きかった。


 久しぶりの揺れない地面とふかふかのベッドに感謝しつつ一日療養し、次の日には領地の詳細資料へ目を通す。


 ここを管理していた代官はとても真面目な人だったようだ。

 模範的な統治を行ってきた事が、その資料からは見て取れた。

 その手法を学ばせる目的もあって、パパはここを選んだのかもしれない。


 注釈も多い細やかで丁寧な資料には感嘆する。

 が、今私が興味を持っているのは収穫量だ。


 数年分の収穫量を確認して、各村における平均的な収穫量を算出。

 税収を引かれて手元に残る収穫量を計算し、戦争税をかけられた場合に残る収穫量を算出。


 ……まぁ、生きていけないよね。

 そりゃ、反乱も起こすよ。


 徴兵で人を取られる事を考え、その分の食糧を差し引いたとしても労働力の欠如で収穫量も落ちる。


 戦争にならない事が一番いいのだが、そうなってしまった時の事を考えるとこれはどうにか改善しておきたい案件だ。


 できれば、収穫量を増やしたい所……。

 ただ、具体的にどうすればいいのかというと何も思い浮かばない。

 これまで農業とは無縁の人生を歩んできたのだから仕方がない。


 人口……は資料に載っていないか。

 詳細な方だけど、知りたい情報が全てあるわけではないようだ。


 情報の不足を補うために、一度現場に出た方が良さそうだ。




 使者に村へ訪問を伝えてもらい、翌日に村へ向かう事になった。


「はぁ……」


 馬車での移動を思うと、溜息が出た。

 すると、私の隣でカポカポという足音が止まった。


 そちらを見ると、馬に騎乗したクローディアがいる。

 と同時に、首元を掴まれて引き上げられた。


「クローディア殿! 何をなさるのです!」


 一緒に村へ向かう予定の文官達が慌てた声を上げる。


「だ、大丈夫! 私は大丈夫だから!」


 私は声を上げるが、当のクローディアは何も答えずに私を馬の背へ座らせた。

 馬を歩ませる。


「私が酔うから?」

「そうだ」


 問いかけると、クローディアは短く答えた。


 無愛想なのはゲームでも知っていたけれど。

 こういう優しさがある事は知らなかったな。


 しかし……。

 もたれかかっているわけでもないのに、後頭部にクッション性の高い物体が当たる。

 こんなに柔らかいのに、攻撃されると金属みたいになるのは何故なのか?


 ダイラタンド流体かな?


 クローディアと私の乗る馬が前を行き、それを文官達の乗る馬車が追う形で移動した。


 一番に訪れたのはターセム村だった。

 距離的に一番近いというのもあったが、何よりも私が目的としていた事の一つなので気が逸ったのもある。


 自分を殺すかもしれない人間がいる場所。

 手の届く距離にあれば、気になってしまうのも仕方がない。


 村に着くと、体格のいいおばあさんが村の前で出迎えてくれた。

 私が子供だったからか、少し驚いているように見えた。


「ようこそ、おいでくださいました領主様」


 そう、深々と頭を下げてくれるおばあさん。

 どうやらおばあさんはこの村の代表、村長らしい。


「この度は調査のためという話でしたが……」

「はい。前もって通達してあった通り、人口については調べてくれていますか?」

「それはもちろん」

「聞き取りさせていただきます」

「では、私の家に案内します。そちらで」


 村長に案内されて歩く。


 その道すがら、村の様子を見る。


 あの連中がいないか? という意図があるからだ。

 けれど、あの連中どころか人の姿がなかった。

 やっぱり、貴族相手に何かあってはならないという考えから外へ出ないのだろうか?


 次第に人への興味が薄れ、建物に目を向ける。

 レンガの家が多いようだ。

 という事は、セメントもあるんだろうか?


 村長の家に着く。

 役人を招く必要もあるからか、他の家よりも少し大きく間取りも多そうな家だった。

 実際、中へ入ると広めの応接室に通された。


「それで、人口についてなのですが……」


 その言葉で口火を切り、話し合いを進める。


 総人口、世帯数、割り振られた農地面積、栽培している物の種類、活用されていない農地があるか? 各世帯における収穫量の差異。

 など、資料になかった事を訊いていった。


 そのやり取りを文官に書き取りして言ってもらう。


 数時間かけて聞き取りは終わった。


「お時間いただき、ありがとうございます」

「お役に立てたでしょうか?」

「はい」


 軽く挨拶を交わし、村長の邸宅を後にする。


 さて、どうすればいいのか……。


 聞き取りでわかった事の要点を大まかに纏めると。

 人よりも農地が余っている状態である。

 農地の収穫量も通常より少ない状態である。


 という事だ。


 収穫している作物の種類も各家で一種類を分担しているようだ。

 多分、連作障害が起こっているのだろうと思われる。


 植物によって必要な栄養素が違うので、同じ植物ばかりを育てると必要な栄養素が土壌から枯渇する。

 結果として、収穫量が落ちる状態だ。


 自然な状態なら、育った植物がその場で枯れて土に返るので栄養が土壌に戻る。

 しかし、栽培するという事は実った物を収穫してしまうので栄養が土壌に戻らないという事だ。

 だから、栄養が足りなくなって植物が育たなくなる。


 対応策としては、不足した栄養素を補うための肥料を用いる。

 必要な栄養素の異なる植物を栽培する。

 などである。


 問題は、どの植物がどの栄養素を必要としているか私にはわからないという事。

 肥料が不足しているという事。


 手探りでそれを探さなくちゃいけないが、結果が出るのは年単位だろう。

 手っ取り早く解決する手段は私にない。


 農地が余っている問題に関してもそうだ。

 人が足りないなら人口が増えればいいわけだが、農地を管理できるようになるまでは時間がかかる。


 他から集めてみようとは思うが、どこの農地も手一杯な気がする。


 農業関係で私にできる策はあんまりない。


 とりあえず、各家で担当している作物を変更する。

 消石灰を使って肥料の足しにする。

 といった所だ。


 セメントがあるのだから、石灰を手に入れる手段があるのだろう。

 あまりにも高価だと活用できないが。


 あとは、収穫物の種類を増やす方法をとろうと思う。


 この村には牧畜の類がいない。

 だから、牛や豚などの畜産に挑戦してもらおうと思う。


 乳製品と食肉を収穫の一つとしてもらい、チーズやバターなどの日持ちする物に加工する事ができれば収穫物としての納品する事や村人の食糧として活用する事もできる。


 人手を取られる事が難点だが……。

 放牧ではなく畜舎での生育が可能ならば人手は削減できる。

 なおかつ、糞を集めやすいので不足している堆肥を補う事もできる。


 何もかも計算通りにいくとは考えにくいが、できそうな事はできるだけ挑戦していきたい。


 牧畜は私のポケットマネーで寄付する。

 先行投資だ。


 村長とは改めてその事について話し合うとしよう。


 などと考え事をしていると、視界の中に不思議な物が映った。


 家屋と家屋の間から、にゅっと手が伸びていた。

 誘うように動く指に、私は何の疑問も抱かずに興味を示した。

 考え事をしていたせいだろう。


 そして次の瞬間……。


「わ――!」


 私は口を塞がれ、体ごと誰かに抱え上げられた。


 抱え上げられ、そのまま運ばれていく。

 しばらくそのまま運ばれ、乱雑に地面へ投げ出される。

 口を布で塞がれ、ついでに手も後ろで縛られた。


 顔を上げ、私を抱えていた人物を見る。


 そこには三人の少女がいた。


「気に入らないんだよな、お前」


 そう告げた少女は、幼い顔立ちをしていた。

 けれど、それが誰なのか私にはすぐわかった。


 リュー。

 この世界の主人公である。

ロッティと同じく農業の知識が著者にはないので、ネットで調べながら手探りです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ