閑話 シャパド家戦略会議
今回の更新は三話分になります。
今日は一話分だけの更新します。
少し修正致しました。
シャパド領。
領主の城。
「そろそろいい報せがもらえると思ったんだがな」
スノウとウィンを前に、シャパド領主は呆れたように告げた。
「うるせぇハゲ」
ばつが悪そうにスノウは悪態を返す。
「思っていた以上に人材の層が厚い。純粋な戦闘力に加え、乏しい戦力を補う知力と統率力を持った人材もいる」
ウィンが反乱軍をそう評する。
「余剰戦力があった事を知れただけでも収穫だったかもな」
相手の将は思った以上に粒ぞろいだ。
雑兵を送るだけでは相手にもならないだろう。
将同士のぶつかり合いになる以上、将の数が多い向こうが有利だ。
幸いなのは、未熟な者が多い事だろう
「だから私も連れて行けばよかったのに」
領主の護衛として居残っていたリサが溜息混じりに言う。
「お前は行かない方がいい」
「どうして?」
領主の言葉に対して、リサは問い返す。
「一番冷静なようで、一番キレやすいからだ。弁も立つから、何かしら自分にとって都合のよい理屈を展開して、二人を巻き込みかねない」
「敵を倒せるならいいでしょう」
「よくねぇ」
領主は間髪入れずに否定する。
「今回の戦いでお前は手傷負って帰ってきたんだろうが。場合によっちゃ死にかねない。そういう相手だ。俺は一度でも手にした物を手放すつもりはない。何があろうが失わせない」
領主の言葉に、リサは黙り込んだ。
「歯の浮く台詞言う前に痩せろ」
スノウが沈黙を破る。
「ついでに髪の毛も生やせ」
「無茶言うな」
「お前もそう思うよな?」
ウィンに対してスノウは話を振った。
「……いや、私は「こんなの」に良い様にされているのか、と思うとちょっと興奮するから今のままでいい」
「うわマジか。変態」
「この話は止そう」
領主は咳払いし、「そろそろ話を戻していいか?」と問い返した。
三人は沈黙で肯定する。
「状況としてはよくないな。一つでも拠点を潰せれば、夢を見た農民の幻想を潰せるはずだったんだが。厄介な方に転がった。余計な希望を持たせてしまったようだ」
その状況を打破できないか、領主は考えを巡らせる。
軍事行動を取るには大量の物資を消費する。
国の徴収を考えれば、あまり余裕はないから極力軍事行動は避けるべきだ。
その点、民に迎え入れられて規模を拡大する反乱軍は、戦闘という手順を経ない分コストを抑える事が出来る。
交渉だけで領土を拡大できるというのは理想的な侵略行動である。
今回、私兵を動かしても打倒できなかったという事実は、さらに規模の拡大を促すだろう。
スノウ達でも対処できない事を考えれば、もはや手詰まりに思えた。
相手は本当に反乱軍なのだろうか?
農民の反乱にしては、あまりにも人材が粒ぞろいである。
反乱軍を装った他国の介入ではないのか……。
リシュコールにとって最大の生産地であるシャパド領をわざわざ狙ったのもそれで説明がつく。
だとすればもはや、自分の手に余る事態かもしれない。
国軍に援助を要請するべきか……。
リシュコールへ忠誠を誓う人間として、それは最適解ではある。
しかし、シャパド領主はそのような考えで仕えているわけではなかった。
領主は平民の生まれである。
幼くして娼館に売られ、気付けば当然のように客へ身を売っていた。
そんな彼が今の地位へ至る道筋は、決して成り行きとは言えない。
彼は自分の持てる全てを使い、まさしく全身全霊で当たって現在を築いていた。
彼の三人の妻も、かつては行く手を阻む壁だった。
それらを全て組み敷き、自らの力にした。
彼に身体的な力はない。
しかし、それでも自分の実力でここまで来たという自負がある。
領主には、自らの力で今の地位を得たという自負がある。
リシュコールの領主という立場は、彼にとって試しの場でもあった。
自分の力で、どこまでいけるのか。それを知るための挑戦の場である。
そして示したかった。
彼の信奉するものは力である。
だからこそ、憧れた。
ゼリアに。
あらゆる事柄をねじ伏せ、あらゆる人材を屈服させ、心酔させるだけの純然たる力。
領主にとってそれは、願っても得られないものだった。
それを持つ彼女は、領主にとって力の象徴である。
力への信仰を領主は持っていた。
だからこそ、手に入れたい。
彼女を。
愛情などではない。
ただただ、自分の手の中へ収めたいと思った。
ある意味、純真とも思える彼の望みだ。
そのために彼は、自分の力を示し続けていたのだ。
ここで頼るようでは、自分の力はそこまでだと言っているようなものである。
国に頼るなどという事はできなかった。
「リサ。近年で一番収穫量の少ない村を選出しろ」
「どうするつもり?」
「見せしめにする」
「反発があるよ?」
「デメリットの方が大きいが、他に手が無いんでな。これでこちらに着く村は二、三割程度。他に日和見を決め込む村もあるだろうし、反乱軍にわたっても地理的に意味のない村だってある。兵を駐屯させれば、狙って寝返りを阻止できる村もあるだろう。お前が思っているよりは反発も小さいかもな」
「それで、得られるメリットは?」
「相手の守備範囲を増やし、戦力を散らす。総力戦では恐らくこちらが不利となるからな」
領主の発言には、誰も異を唱えなかった。
実力は伯仲していると言い難い。
それは三人とも理解していた。
もはや、追い詰められている。
それでも、領主は諦めようと思わなかった。
「一度勝っておきたいな。恐らく、もう一度負ければ後がない。農民共の畏敬も畏怖も消え去るだろう。暴動が起こり、反乱軍の刃は喉元に迫る」
そう言って、領主はウィンへ目を向ける。
「お前、一度勝っているな。同じ相手ならもう一度勝てるか?」
「強さの積み重ねは、ちりの様に遅々としているものだ。若さを加味しても、私のいる場所には登れまい。必ず勝てる」
「頼もしい言葉だ。なら、そいつが護っている場所を特定して攻めろ。総合的な勝利はいらん。暗殺だ。反乱軍の輝かしい戦歴に瑕疵を作れ」
「殺しか……」
「不満があるか?」
「いや、憧れと家族ならば家族を優先するさ」
あとは何をしておくか。
「それから、今のうちにガキ共を王都へ送っておけ」




