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六十二話 防衛準備

 農村での一件があり、リューを村へ残して私一人だけが野営地へ戻ってきた。


「ハァ?」


 農村での出来事を話すと、ミラはそんな声を発した。


 アマテラスの上からでもわかる。

 すごく不機嫌そうな顔になった。


「そこを拠点にして今後は戦っていくですって? あなたがついていながら、どうしてそのような事になるのですか?」


 すぐに取り繕って問いかけてくるが、不機嫌さは隠しきれていなかった。

 内心でビキビキしている事が手に取るようにわかる。


「申し訳ない。僕ではどうしようもなかった。見捨てるわけにもいかないだろう?」

「それはそうです。民に悪感情を抱かれると計画が破綻します。別の方向で破綻しましたが」


 ミラは溜息を吐く。


「根本から戦い方を変えます。今後は拠点の防衛を主眼にし、他拠点の攻略も視野に入れます」

「悪いね」


 戦いは防衛側の方が有利だという。

 そして私達は守るための拠点を手に入れた。


 しかしそれは、居場所を定め示すという事でもある。

 決まった居場所を持たないから、攻められる必要がないという利点を手放している。


 その上、反乱軍はあまりにも戦力に乏しい。

 いくら防衛の有利があっても、数の差を前には限度がある。

 正直に言って、私達にとって拠点を得る事は不利の方が大きかった。


 だから本当に、ミラには申し訳ない。


「……個人的にはこういう戦い方が好みです。人手不足なので厳しい戦いになるでしょうが」

「頼むよ」




 各地で村人の勧誘に出向いていた人員に農村を拠点とする旨を伝え、野営地に残った全員で農村に移動した。


 幸い、離れていた間に襲撃はなかったらしい。


 それから数日、まばらに反乱軍の面々は村へ到着した。


「えらい事になったッスね」

「そうだねぇ。ミラがご立腹だよ」


 拠点として利用するため、村の周囲に丸太を並べた壁を造る事になった。

 その作業中に、ケイと話をする。


「でも、悪い事ばかりでもなさそうッス」


 彼女がそういうのは、一度協力を断られた村から改めて協力したいというコンタクトがあったからだ。

 今回の件が、何かしら心情に刺さったのだろう。


「ここの周囲の村は特に積極的だ。多分、ここに来た監督官が担当していた区域だろう」


 領の各地には管理する監督官が配置されているわけだが、ここの監督官は特別に酷かったらしく農民の鬱憤がかなり高かったようだ。

 若者を中心に、反乱軍への加入まで決める人間が出てきている。


 生きる事を保証されるという利点よりも、現状の苦痛が勝ったという事なのだろう。

 他の村々からも協力的な態度が引き出せるようになったのは、やはり生きているだけでは満足できないという考えがあるからか。


 今の所、オスカル様の理屈が的を射ているな。

 流石だよ、オスカル様。




 それから二日。

 始める前は重機を導入せねばならぬような工事に思えたけれど、その期間で村の防備は仕上がった。

 この世界のマンパワーはあまりにも強大だ。


「何か動きは?」

「あまりありませんよ」

「あまり、ねぇ」


 ミラの答えは曖昧だ。


「斥候が放たれている事は確かです。こちらの見張りもそれらしい人影を確認していますからね。ですが、襲撃そのものはありません。何を考えているのか……」

「観察されているんだろう。よかったな。相手はこちらを手ごわい相手だと思ってくれているようだ」

「善し悪しですね。戦力の乏しい現状では、攻めあぐねてくれた方が嬉しいですが」


 言って、ミラは小さく息を吐いた。

 それと同時に、反乱軍の人員がミラの元へやってくる。


「ルージュさん」

「どうしました?」

「領主が、監督官の処分を発表しました」


 彼女はそう報告する。


「監督官というのは、この地域にいた?」

「はい。各地に人をやってその話を広めています」


 人権派には見えなかったがな。

 不当な利益を得ていた部下に怒った?

 いや、純粋に秩序を維持する目的か。


 元々、統治に関しては繊細な手腕を発揮しているように思える。

 民に対する締め付け方もバランスが良い。

 今回、反乱軍が拠点を得る事になったのも、領主の意向を無視する悪徳監督官がいたからだ。


 シャパド領主は戦いよりも、統治を優先して考えているようだ。

 反乱軍をあまり意識していないのかもしれない。


 とはいえ、影響は間違いなく大きい。


「ミラ、この動きをどう見る?」

「こちらについた農民を混乱させる目的があるかと思います」


 だろうな。


 監督官の横暴によって周囲の村々は反乱軍の味方についた。

 監督官の管理していた地域の村々ほとんどが反乱軍の傘下となり、拠点として反乱軍が駐屯している。

 反乱軍の実績よりも、今までの横暴によって村人達は領主に不満を持っていたからという状況が大きく働いている。


 しかし、監督官の処分によって人心に揺らぎが生じるだろう。

 監督官が変われば生活が楽になるかもしれないという人間とこのまま反乱軍と共に領主を倒してしまいたいという人間に分かれる事が予想される。


「日和始めた人間は早々に放逐した方がいいな」

「そうですね。感化される人間も出てくるかもしれません」


 その判断を下し、そういう考えの人間を村から出す事になった。




 反乱軍の拠点に対して、それぞれに戦力が分けられる事となった。

 全てを防衛するだけの戦力がないため、戦力は外周にある三つの村に絞られる事となる。


 リュー、ケイ、マコトを中心として、補佐に私とミラとリアを補佐に据える形だ。


 ジーナはまだ怪我が治りきっていないので本拠地としている中央の村でお留守番である。


「二対一で当たれば、三将に概ね勝てる事は把握済みです。まぁ、リアが戦ってくれるかは知りませんが。戦ってくれるならもう少し余裕を持って人員の配置ができるんですけれどね」


 ちらっとこっちを見ながらミラが言う。


 嫌味か貴様。

 こっちにも都合があるんだ。


「今回に関しては村人の安全を優先したいから戦ってもらう。そういう約束をしているからな」

「ならリアには遊撃を担当してもらってもいいですね」


 リアの聖具は空間転移が可能。

 つまりワープ。もっと解りやすく言えばルー〇だ。

 一度行った事がある場所ならば一瞬で移動できるらしい。


 ……キャラクター設定的に、この大陸で行った事がない場所なんてなさそう。


 そういう理由があるため、各地を定期的に周ってもらって警備してもらう事になった。


「それでも戦力的には問題が残ります。恐らく次は単独の奇襲ではなく、部隊を用いての攻勢をしかけてくるでしょう。なので、戦術でその不安を埋めようかと」

「具体的には?」

「陣地の形成である程度有利に戦えますが、ここにさらなる戦術、兵器や罠を加えようと思います」


 ミラが語った戦術は以下のものだ。


 さすまた状の槍を用いて、相手を転倒に追い込んで追撃するという戦い方。

 これは私の戦い方を参考にしたらしい。

 この戦い方を主流にすれば、圧倒的な格上を相手にしても応用は効くという話だ。


 同じ理由から、弓を扱う遠距離攻撃部隊を育成する構想もあるそうだ。

 今回は時間がないので見送るそうだが。

 弓専門の部隊だけは作るつもりのようだ。


 次に拠点に兵器や罠を据え置くという戦術。

 高い位置に大型の据え置き弓を設置する。

 落とし穴、熱した油をかけられる装置。


 それらを配置するというものだ。


「熱した油は効くのか?」


 ちょっとした疑問である。

 それくらいの熱量を個人で発揮できる可能性もあり、それを受けて防ぎ切る人間がいる可能性も十分にある。


 というか、城の調理場で揚げ物油を指でかき回して温度を計っているシェフを見た事がある。


「昔の文献に同じ戦術を用いたものがありました。相手の将は熱した油を受けても平然としており、その後に将同士の一騎打ちにおいては油が互いの武器を滑らせ、最終的には油まみれのまま取っ組み合いの殴り合いになったそうです」

「面白い状況になるだけじゃねぇか」

「ロッティ様。お言葉が乱れておりますよ」


 武将同士の一騎打ちがローションプロレスのキャットファイトになったという話を聞けばそうもなろう。


「一応、将と雑兵の分断はできるのでそういう使い方はできます」

「……いっそ、煮詰めた糞尿をぶっかけた方が効果はあるんじゃないか?」

「その後、動く汚物と化した敵と戦う事になるのはリュー達ですよ? ロッティ様はそんな相手に掴みかかれますか?」

「やめておこう」


 正直、戦術の話を聞いても不安は払拭されなかった。


「援軍の要請が必要かもしれないな」

「できればそうしていただけると助かります」


 できれば、現状の戦力でどうにかしたいが仕方がない。

 民の安全が優先だ。

 そこに持てる全戦力を投入する。

今日の更新はここまでです。

続きは明日更新させていただきます。

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