表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/131

閑話 領主一家の人々

今回は三話分更新させていただきます。

 シャパド領、居城。

 その地下にある牢獄にて。


 スノウに敗れた後、リューは独房に収容されていた。


「……なんだここ?」


 気を失っていたリューが目を覚まし、周囲の光景に疑問を漏らす。


「うちの地下牢だよ」


 返答がある事に驚いて見ると、独房の外、鉄格子の扉を経てスノウの姿を見つけた。

 彼女は逆向きに椅子へ座り、背もたれに頬杖を付いてリューを眺めていた。


「お前……」


 警戒するリューに対して、スノウは笑みを作って応じる。


「聞きたい事があったんだ。えーと、ルー?」

「リューだ」

「あたしとしてはそんな名前どうでもいいんだがな。お前、生まれはどこだ?」

「どこだっていいだろ」

「飯を食わせてやるから答えろ」


 どれだけ気を失っていたかわからないが、腹は減っていた。

 その提案はリューにとって魅力的なものに聞こえた。


「……ターセム村」

「聞いた事ないな。……ディナール領か?」

「そうだよ」


 リューの答えにスノウは溜息を吐いた。


「状況証拠が固まっちまったか」


 頭を掻きながらスノウは立ち上がる。


「どこ行くんだよ」

「飯用意してきてやるよ」

「……ありがとう」

「いい教育されてんだな」


 その言葉を言い置いてスノウは牢獄の闇の中へ消えていく。

 それから一時間。

 あれ、嘘だったのかな? とリューが訝しみ始めた頃になって、銀の皿を持ったスノウが意気揚々と戻ってきた。


 スノウは独房の鍵を開けて中に入ると、皿をリューの前に置いた。

 椅子を引き摺ってきて、リューの前に座る。


 リューは出された料理に手をつけ始めた。


 一見してそれはブラウンのペーストである。多分それは穀物で、液状と固形の中間にあるようなもちゃもちゃした質感をしていた。

 ペーストと一体化しているかのように錯覚するが、よく見ると質感と色合いの違う集合体が横に添えられている。

 ブラウンというよりもブラックに近いそれからは、辛うじて香ばしいと言えなくもない臭いがする。

 さらによく見るとブラックの中にダークグリーンが見える。その形状を吟味するとなんとなくこれの原型が何かの野菜なのだと思い至れた。

 形状から青ねぎにも思えるが、ニラともとれる。

 口にしても野菜特有の風味はなく、ただただ香ばしい。いや、香ばしいなんて上等な言葉を使っていいのだろうか? そう評する事は恐れ多く冒涜的な気もした。

 となれば、このブラックはこげではない。もはや炭である。

 野菜の存在に気付くと、さらにその中に紛れる固形が気になった。

 やはり黒く、そして硬質である。フォークが通らない。

 石かとも思ったが、多分これはかつて肉と呼ばれていたものだろう。

 油や水分が蒸発し、繊維だけが残ったたんぱく質の塊はあまりにも強固である。


「どうだ? 美味いか?」

「え、信じられないくらい不味いけど。いくら捕虜の飯だって言ってもこれは酷ぇよ」

「ぶっ飛ばすぞこのガキ!」

「何で?」


 黙々と食べ進め、驚くほど楽しくない食事を終える。


「口の端ついてんぞ」


 そう言って、スノウはリューの口元を拭う。


「お前、なんで反乱軍なんてやってんだ?」

「やらなきゃならねぇ事だから」

「おまえがやんなくてもいいだろ」

「だったらなんで、誰もやらねぇんだよ」

「やりたくてもできねぇからだろ」

「俺はできる奴だからやってる」

「できてねぇじゃねぇか、あたしに負けてるんだから」


 リューは言葉に詰まる。


「悪い事は言わねぇから故郷に帰れ。今回は見逃してやるからさ」

「なんでそんな事言うんだ? 俺は敵なのに」

「お前程度じゃ敵にすらならねぇよ」


 苦笑して答えたスノウに対して、リューは悔しげに呻く。


「……お前は炎熱の出力が高いが、扱いがまだまだだ」

「扱い?」

「ただ出してるだけだろ? 散らしてるだけじゃけん制にしかならない。本当の炎熱というものは、水にすら克つんだぜ」


 スノウは言って、壁へ人差し指を向けた。そこから、赤い光線が放たれる。

 熱量を持ったそれは壁の表面を焼いた。


「これは……」

「炎熱ってのは、ある程度習熟すると光になるんだ。ここから先は、威力を高めていく事になる。これで驚く奴はあたしの敵じゃねぇって事だ」

「……できる!」

「ああ?」


 声を上げるリューにスノウは怪訝な表情を見せる。


「できるようになってやらぁ!」

「はっ、無駄だ無駄だ。強さだけじゃなくて、お前頭も悪そうだもん」

「あ、頭は関係ねぇ! 頭悪い分だけ、強くなりゃいいだけだ!」

「はっはっは!」


 リューの発言にスノウは楽しげに笑った。


「馬鹿にすんな!」


 抗議するリューの声とスノウの笑い声が牢獄に響き渡った。




 不思議な事に、スノウは頻繁にリューの独房へ足を運んだ。

 いや、殆ど彼女のそばで過ごしていたと言った方がいいだろう。


 ふと、思い出したリューが聖具を召喚して脱出を図ったが、その時もすぐに殴り倒されてしまった。


「おまえ、そんな大層な武器使ってそれか!」


 むしろそう言ってからかい、笑うだけの余裕がスノウにはあった。


 それから何度か挑んだが、その都度簡単にあしらわれてしまった。


「やめとけやめとけ、お前じゃあたしに勝てないから。諦めるんだな」


 実際、リューはスノウの言う通りだと思った。

 ただ、諦めるという事は考えなかった。

 彼女に負けっぱなしで出た所で、また戦えば負けてしまう。それは確かな事だ。


 力の差は嫌というほど味わっている。

 簡単に埋まることのない差だ。

 戦いを挑み、敗れるたび、永遠にそれは埋まらないようにも感じる。


 だとしても、このまま負け続けたまま終わらせたくなかった。

 遠い道程だとしてもいずれ、そう思い諦められなかった。


 聖具の召喚が可能だと判明してから、スノウが席を外す時は別の人物が代わりに監視するようになった。


 それは黒髪をポニーテールにした女性だった。仏頂面で、リューを見る目も冷ややかに思える。


「……本当に似てるな。髪色も……こんなだった気がする」

「?」

「ウィンだ。お前の名前は?」

「リュー」

「素直だな」


 見た目の印象とは違って、ウィンは存外に気さくだった。


「悪かったな。面倒みさせて」


 そこに、食事を持ったスノウが現れる。


「お前……本当にそれを食わせてたのか」


 ウィンの仏頂面が困惑に歪んだ。

 ドン引きである。


「見た目が悪いだけだ。作るたびに美味くなってる」


 反論しつつ、スノウは食事をリューに渡した。

 リューは渡された食料に迷わず口をつける。


「……美味いか?」

「え、びっくりするぐらい不味いけど。今回のは焦げてないけど、かなり生だ」

「だろうな。(むご)い拷問だ」

「これくらいで俺の心は折れねぇよ」

「てめぇら……」




「なぁ、親から大事にしてもらってるか?」

「親の顔なんて覚えてねぇよ」

「捨てられたのか?」

「わからねぇ。物心ついた頃にはばあちゃんに育てられてたから」

「そうなのか……」


 スノウは牢の鍵を開けた。


「どういうつもりだよ?」

「逃がすつもりはないぞ。たまには美味いもの食いたいだろ?」


 素直に頷きかけたが、すぐに黙り込むリュー。


「ほら」


 けれど、手招きされて結局それに従った。


「暴れんなよ? あたしの家族は、あたしほど優しくないからな」

「ウィンも家族か?」

「そうだな」

「結構優しそうだったけど」

「……あたしの方が優しいぞ」


 リューが連れられて行った先は食堂だった。

 大きな丸テーブルには、それを囲むように人が座っていた。


 その中にウィンの姿を見つける。

 隣に一人、ウィンとよく似た子供が座っていた。

 他の面々は太った男一人と、女一人。

 幼児が三人だ。


 男はシャパド領主だろう。

 女はわからない。


「遅かったな。腹が減ってたまらないぞ」

「たまらないぞー」


 シャパド領主の言葉に、幼児三人が無邪気に追従する。


「悪かったよ」


 スノウが謝りながら席に着く。

 彼女に促されて、リューもその隣に座った。

 着いたテーブルには、所狭しと料理が並べられていた。


「こんにちは」


 名前のわからない女が挨拶してくる。


「私の名前はリサだよ。この子らは私の子供達。名前は――」


 多分、三つ子だろう。

 顔が三人とも同じだ。


「よろしく。リューだ」

「よろしくー」


 普段いない人物がいる事が珍しいのか、幼児達がリューの方をきゃいきゃいしながら見ている。


「ほら、ご飯だよ」

「わーい」


 リサに言われて、幼児達の注意が食事へ逸れた。

 どうやら食いしん坊らしい。


「堅い事を言うつもりはないが、まさか囚人と卓を囲む事になるとはな」


 シャパド領主は皮肉っぽく言う。


「話したろうが」

「お前の直感が事実かどうかわからんだろうが」

「招待したんだからお前も気にはなってんだろうが」

「まぁな。さ、食うぞ」


 それぞれが料理に手をつけ始める。

 大皿に盛られた各種の料理を各々が小皿に取り分ける形式だ。


「ほら」


 スノウがローストビーフをリューに切り分けてくれる。


「ありがとう」


 一口齧ったローストビーフは、涙が出るほど美味かった。


 シャパド領主達は雑談を交わしながら食事を進めた。

 ナイフとフォークを扱いつつ、時には手づかみで食事を行っていた。

 骨に手をかけ、肉を切り分け、そのまま骨を持ち手に肉へかぶり付くのは行儀こそ悪いがとても美味そうだ。

 交わされる雑談も脈絡がなく、領の運営に関係する話が出たかと思えば、驚くほど下世話な話も飛び出す。


「貴族の食事ってのは、こんな感じなのか?」


 正直、イメージしていた貴族の食事とかけ離れており、リューは思わず問いかけた。

 それにシャパド領主が答える。


「品がないと言いたいのか? 間違いじゃないな。だが、肩肘張ってるより、こっちの方が美味く飯を食えると思わないか?」

「そりゃそうだ。堅苦しいのはゴメンだ」

「飯は美味く食えなきゃ意味がない。他の貴族がどういう感覚で食ってるか知らんが、そもそも俺達は平民出身だからな」


 その事実にリューは驚きを見せる。


「平民だったのか……。なのに、他の平民を虐げて平気なのか?」


 リューの問いかけに、シャパド領主は諭すように答える。


「おい、メスガキ。一つ教えておいてやる。人に貴族だ平民だ、なんて種類はない。あんのは、強いか弱いかだけだ。生まれだけで仲間意識を持たれても迷惑だ」

「でも、強い奴は弱い奴を守ってやるべきなんじゃないのか?」

「甘えた事ぬかすなよ、メスガキ。弱い立場の中にも、さらに弱い立場ってのがあるんだ。そういう連中は食い物にされるしかない。それが嫌なら、強くなって力ずくで変えるしかない。俺はそうやって今の立場に登ってきて、今は俺を食い物にしてきた連中を食い物にしてる」


 スノウが小さく笑う。


「本当に下も下。最底辺だったからな、お前は」

「お前らは頂点だった。組み敷いてやった時は、これ以上ないほど気分がよかった」

「死ねよこのハゲ」


 ケタケタ笑いながらシャパド領主とスノウは会話する。


「力ずくで変えるしかない、か……」


 リューはその言葉を反芻する。


「俺もそのつもりで動いてる」

「なんだ?」


 リューの発言にシャパド領主は問い返す。


「何をどうすれば、俺の求めてる結果になるのか。俺にはわからねぇ。力ずくでどうにかする方法しか、俺には思いつかない。だから俺は、この領を力ずくで変えてやる」

「あっさり捕まっておいて、口だけはでかいな」


 シャパド領主は笑う。


「気が合うね、二人共。でも今はご飯時だから、喧嘩はしないでね」


 そう言って、リサはやんわりと二人を嗜めた。


「……悪かったよ」


 リューは素直に謝った。

 シャパド領主はふんと鼻を鳴らすだけだった。


「思ったより育ちがいいんだね」

「そうなのか?」

「子育ての手本にしたいくらいだよ」


 答えてリサは笑った。

 その笑顔のまま、シャパド領主に向く。


「それからあなた、新しく入ったメイドに手を出したよね」

「当たり前だ」


 何が当たり前なのだろうか? リューは不思議に思った。


「千切りとられてぇか?」

「……今度から気をつける」




 食事を終え、牢屋に戻されたリューはすぐに寝転がった。


 普通の家族だったな。

 俺の家とあんまり変わらねぇ。

 ……領主を倒すって事は、あの家族を壊すって事なんだよな。


 それはやらなくちゃならない事だけれど……。

 もっと自分が賢ければ、もっといい方法が思いつけるのかな?


 ぼんやりと、リューはそんな事を考える。


「便所行ってくる」


 リューを見ていたスノウが言う。


「少し飲みすぎた。いい酒だったのかなぁ。美味かったんだよな」

「好きに行きゃいいだろ」

「大人しくしてろよ。お前を傷つけるやつは、ここにいないんだからよ。大人しくしてろ」


 怪しい口調と歩調で、スノウは牢屋の前から離れていく。


 暗く冷たい牢屋の中。

 一人になったリューは、少しだけ寂しさを感じた。

 足音も消えて、本当の一人きり。


 思えば、一人きりになったのは久しぶりだ。


 久しぶりだと感じられるほどに、今までリューは人に囲まれていた。

 スノウもずっと、一緒にいてくれた。


 そんな時だった。

 声が、かけられる。


「リュー殿」


 名前を呼ばれ、驚いて声のする方を見るとそこには見知らぬ女性の姿があった。

 物音もなくそこにいた事も驚きだが、何より驚いたのは彼女が牢屋の内側に立っていた事だ。

 闇の中でも輝いて見える、一切の曇りも汚れもない純白の鎧姿。


 そして白い外套マント。内側は暗く、しかし星のような輝きが散りばめられた夜のようなそれに、不思議と目を奪われる。


 そんな相手を他に色のないこの牢獄で見逃すわけがない。

 彼女はリューの視界に入る事もなく、音も立てずに鉄格子を破ったというのだろうか?


「おま……っ!」


 叫びそうになったリューの口を塞ぎ、女性は人差し指を自らの口へやった。


「静かに、味方です。助ける機会をうかがっていました」


 その言葉で落ち着いたのを見計らい、女性はリューの口から手を離した。


「私の名はリア。あなたを助けに来ました」

「反乱軍のやつか? 見た事がない。もしかして、あいつの……?」


 思い浮かんだのはロッティの顔だ。

 最近の彼女は秘密主義で、自分の知らない戦力も隠し持っている節がある。

 立場も目的も違う多くの人間が、ロッティを中心に集まっている。

 それらの全容はロッティしか知らず、リューは知りたいとも思っていなかった。

 だから、彼女もロッティの知り合いなのだろうと漠然と思った。


「いいえ、私は誰かに命じられて動いていたわけではない。強いて言うなら、命じたのは我が心の内の正義でしょう」


 この人、結構濃いな……。


「街道での戦い、拝見させていただきました。人を救い、世の邪悪を討たんとする姿勢。それは紛れもない正義! 悪に囚われてもなお欠けぬその精彩もまた正義でしょう! 私は良い正義を見た!」

「声が大きい」

「これは失礼。少し興奮致しました。滅多に見られるものではございませんから。では、行きましょうか」


 リアは剣を抜いた。とても薄く、綺麗な刀身の剣だった。

 それを鉄格子の扉、錠のかかる部分の少し上に差し込む。

 そしてそのまま、下に切り下ろした。


 キッ、というわずかな音がする。

 錠の(かんぬき)となる部分を断ち切ったのだ。

 そうして押すと、扉はあっけなく開いた。


「すごいな」

「業物なのです」


 リアは自慢げに笑う。


「ちょっと目を離したらこれか」


 二人が牢屋から出ようとした時、スノウの声が地下牢全体に響いた。

 声のする方に目を向け、リアが剣に手をかける。


「この城に入り込む腕はたいしたもんだ。だが、最後にヘマしたもんだな」

「これくらいなら、許容内ですよ」

「吠えやがる……!」


 スノウが人差し指を向け、そこから光線を放つ。

 リアの額に命中し、光がはじけ散る。

 あまり効果がない事を見て取ると、スノウは距離を詰めた。

 リアは剣の柄から手を放して応じる。


 左右のワンツーを軽く凌ぐリア。後ろへ距離を取る彼女を突き込む形の蹴りが追撃する。

 それを見越して放たれた踵落としがスノウの蹴りを迎撃、地面に縫い付けた。

 スノウは右フックを放とうとするが、それより先に伸びたリアの両手が頭を掴む。

 掴まれたスノウの頭が、強かに鉄格子の扉へとぶつけられた。鉄格子が派手な火花と音を散らして大きく歪む。


「あ……っ」


 ほんの一瞬だけ遠のく意識。そこを衝いて、リアは打撃で畳み掛ける。

 金属同士がすれるような軽いものでなく、互いがぶつかり合って潰しあうような音が一撃一撃を加える度、地下牢内にしばらく響き続けた。


 強い。

 自分達が手も足も出なかったスノウが、リア一人に圧倒されている。

 それも素手と素手の同条件で。


 劣勢とみたスノウは、苦し紛れに手から炎を発っする。

 しかし、それを物ともしないリアの接近を許し、強烈なボディブローを受けた。


「か、は……」


 スノウは倒れるまではいかないまでも、膝を着いて動けなくなった。

 明らかな決着。もはやスノウに、成す術はない。


 リアはそこでようやく剣を抜き放ち、突き込むための予備動作を取る。


「勝敗は決した。後は生殺与奪を決するのみ」


 刃を突き込もうとした時……。


「待て! 殺すな!」


 リューが二人の間に割って入った。

 両手を広げ、スノウを庇う。


「その方は悪ですよ」

「ここに居る間、世話になってんだ。気遣ってくれたし、飯も貰った。その礼をまだしてないんだ!」

「そうですか」


 静かに言い、リアはスッと目を細めた。

 かと思えば強く目を見開き、声を発っする。


「悪を相手にしても恩義を忘れぬ姿勢! そして慈悲! イイッ! 凄くイイッ! 下着が濡れそうです! どうしましょう?」

「知らねぇよ! 何でそんな事になってんの?」

「イイィ……尊いィ……。正義とは尊いもの。誰もが持ち合わせられる素養ではない。だから尊い。本当に尊いものを見た時、人は絶頂へ達するものなのですぅ!」


 気色悪い……!

 この歳になって、思った事をすぐ口に出さないだけの分別をリューは獲得していた。


「ともかく、見逃すというのなら早く脱出しましょう。露見してしまいましたから」

「そうだな」


 少し不安を覚えつつも、リューはリアの言葉に従った。


「行くんじゃねぇ。その変態と一緒に行かせるのは心配が過ぎる」


 そんなリューに、スノウが声をかける。


「俺もちょっと不安だが、やんなくちゃならない事があるからな」

「そうかよ……。多分また、会うだろうな」

「そうだな」

「……次に会う時は遠慮なんかいらねぇからな」

「わかった」


 言葉を交わし、今度こそ離れようとする。


「悪を相手に育まれる友情! イイッ!」

「助けてもらって悪いんだけど、ちょっと黙っててくんねぇ?」


 リアに手引きされ、リューが自分から離れていく。

 その後姿を眺め、スノウは手を伸ばした。


「生きてるならいいさ」


 そう呟くと、スノウは仰向けに倒れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ