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五十六話 襲撃の結末

 対峙するリューとスノウ。

 不機嫌そうなスノウの表情がリューを見て別の色を見せた。

 あれは、驚きだろうか?


「……お前、誰だ?」

「リュー!」


 名乗るんだ……。


「反乱軍だ!」

「反乱軍だと? 何に反乱してやがる?」

「え? なんか悪い奴ら!」

「はっ、世相が見えてない馬鹿かよ! 正義感で動いてるだけか馬鹿!」

「うるせぇ! 現に苦しんでる奴はいるだろうがよ! 助けたいと思って何が悪い!」


 お互いに罵声を浴びせあう二人。


「リュー! 戦いなさい! 話をしに来たわけじゃない」


 ミラが一喝し、リューは改めて構えた。

 一呼吸の後、戦斧を振り上げる。

 その軌跡を追うように、炎が走りスノウへ迫った。


 しかし、スノウが無造作に手を振るとリューの炎が容易く散らされる。

 構わずに突撃するリュー。

 石突での刺突、腕で凌がれ散る火花、互いに放った肩の体当たりがぶつかり合う。


 一瞬の交差によってにらみ合い、しかしすぐに押し負けたリューが後退を余儀なくされる。

 崩れる体勢に殴打、顎と頬を張られよろめく体に蹴り、蹴り飛ばされて離れた距離を跳躍しての跳び蹴りが側頭部を強打。


「あ……」


 蹴り飛ばされたリューが倒れ伏した。

 その首に、スノウは腕を絡めた。

 締め上げながら立ち上がる。


「口だけだな。たいした事が無ぇ。本気を出す必要も無ぇ」

「な、ん……だとぉ……」


 締め上げられたまま、リューはなんとか口を開く、

 が、首を絞められて徐々にその意識は遠のいていく様子だった。

 最後には、スノウの腕へかけられていた手の力がなくなり、だらりと垂らした。


「リュー!」


 珍しく、ジーナが声を上げる。


「……撤退!」


 そんな中、ミラが号令をかける。


「リューを見捨てるんスか!?」

「私達の戦力ではあれを抜けません。今は被害を最小限に抑えます」

「でも!」

「救出のためにも、消耗は抑えてください」


 そう言われて、ケイは悔しげに呻きながらもそれに従った。


「おい! 本気か!」


 マコトも叫び返すが、他の反乱軍が撤退を始めると悪態を吐いて従った。

 私兵の追撃から反乱軍を守りながら、後退する。

 不思議と、スノウは追ってこなかった。


 そうして、襲撃作戦は失敗という結果を残して終わった。




 追撃を無事に切り抜け、襲撃部隊は野営地へ帰り着いた。

 しかし最大戦力であり、首魁でもあったリューの喪失はあまりにも大きな打撃となっていた。

 全体的に、反乱軍の面々は意気消沈している。


「なんで撤退させたんだよ!」


 天幕の中、マコトはミラに詰め寄って襟首を掴み上げた。


「勝ち目がないと言ったはずですが?」


 ミラもまた、静かな口調の中に怒りを押し隠しながら答える。


「あのままリューの回収にこだわれば、今以上の消耗を強いられたでしょう」

「回収? 消耗だと? 物を扱うみたいに言うんじゃない!」

「言い方を変えても事実は変わらない」


 マコトは拳を振り上げた。


「そこまでにしておくッス」


 その拳をケイが掴んで止める。


「だって!」

「ここで怒っても仕方ないッス。ルージュの事だから、これからどうするかちゃんと考えているはずッス。そうッスよね?」


 冷静に見えて、ケイも怒っているのかもしれない。

 ミラへ向ける圧が強い。

 これは返答次第でケイもマコトと一緒に出て行きそうだ。


「計画に変更はありません。今後は戦力を分散させ、かく乱しつつ相手の守りを崩します」


 淡々と告げるミラにマコトは怒りを露わにした。


「この期に及んでまだ、計画だなんだと言ってるのか! 悠長が過ぎるんだよ!」

「それが最良です」

「もういい! 俺一人でもリューを助ける!」


 そう叫び、マコトが天幕を出ようとする。


 私は一つ手を叩いた。

 パンッと音が響き、天幕にいたみんながこちらに注目する。

 マコトも例外ではない。足を留め、振り返ってこちらを見ていた。


「現状を確認しておきましょう。今更現場に戻ってもリューがいると思いますか?」

「いない。でも、どこかに行こうとしていたんだろう? そこに行けばいいじゃないか!」

「襲撃で計画を変更して、帰っていったかもしれません。もしくは、近くの町に一時避難した事も考えられる。今は居所を特定する事が難しい」

「そうだけど……」

「ならリューの安否はどうでしょう?」


 反論させないよう、食い気味に問いかける。


「え?」

「あの場で殺されていないのだから捕虜とする意図があった。無事です。捕虜となるならばどこへ運ばれるか? ルージュ、心当たりは?」

「軍事拠点はいくつかありますが、捕虜の収容であれば領城でしょう。そこまで重要な捕虜として捉えられているかは微妙な所ですが」


 重要な捕虜であれば、領城に移送される可能性が高いわけだ。

 ……確かに微妙なラインだな。

 とはいえ、そのように仮定した方が説得はしやすい。


「領城は領主の居住地。そして領主は暗殺が現実的ではないほどの守りを敷いているのでしたね。つまり、その場所への潜入も襲撃も現実的ではない」

「なら、どうしろって言うんだ?」


 マコトが問いかける。


「それをどうにかするための襲撃計画であり、その後の方針も決めていました。だから、今確実で最速にリューを救出できる方法がルージュの提示する計画だという事です」

「でも、時間がかかる。その間、リューが無事だと限らないじゃないか!」

「いいですか、マコト。大事なのは確実にリューを助ける事です。

 襲撃を受けて圧倒的不利な状況、それでもスノウは襲撃を凌ぎ切った強者。

 その強者と同等の相手がまだ二人控えている。

 リューを失った状態で、今攻め入っても勝つ事はできないでしょう。

 むしろ、さらに犠牲が増えるだけです。

 そうなってはリューの救出に必要な戦力すら失われる。

 助けられる機会を得たとしても、力不足になるんです」

「でも……!」

「焦る気持ちはわかります。落ち着いてください。……ルージュが提示した計画は、一番確実性の高いものなのです。それ以外に、私達がリューを助けられる方法はない。ルージュもリューを助けるための方法として、計画の遂行を提案したんです。それを理解してください」


 そこまで言うと、マコトは黙り込んだ。

 私の話に合理性を見たのだろう。


 マコトも直情的な部分はあるが、リューほど自信に満ちているわけではない。

 リューならば、話も聞かずに突っ込んでいる所だ。


「ルージュもリューを見捨てたわけじゃない。彼女を助けるための方法をしっかりと考えてくれているんです。仲間として、もう少し信じていただけませんか?」

「……わかった」


 少しして、マコトはそう言葉を搾り出した。


「ケイ。食事を用意してください。今は休息が必要でしょう」

「わかったッス」


 頼むと、ケイは天幕を出て行く。


「……あんた、やっぱりいつものは裏声だったんだな」

「エ゜ッ!」


 忘れていた。

 私も頭に血が上っていたのかもしれない。


「サッキマデノホウガウラゴエダヨ」

「あんた、何がしたいんだよ」


 言いながら、マコトは小さく笑った。

 一応、バレていないようで私は安心した。




 マコトは納得したようだった。

 野営地を飛び出すでもなく、大人しくしている。

 しかし焦りが消えたわけではない。


 ミラとの衝突という形でその焦りは度々姿を見せる事となる。

 それでも、ミラを殴り飛ばすような事はしなかった。


 きっと同じ心情を抱えている人間は少なくない。

 特に、リューと幼馴染であるケイとジーナの方が、その焦燥は強いだろう。


 反乱軍の面々は状況を理解し、納得し、焦りつつ、情報収集に努めながら次の行動に備えていた。


 そんなある日。

 半月程度経過した頃。


「よう、今戻ったぜ。なんか、心配させたみたいだな。あはは」


 あっさりとリューが帰ってきた。


「「あっ?」」


 喜びよりも先に、のんきな様子で帰ってきたリューにマコトとケイは怒りのこもった声を漏らした。


 気持ちはわかる。

 あのギスギスしていた時間はなんだったのか。


 などと思っているとマコトとケイとジーナのトリプルパンチが、それぞれ正中線に沿ってリューの急所を狙い打った。


「てめぇ! あっさりさらわれやがって!」

「あたい達の気持ちも知らねぇで!」

「無事ならもっと早く帰って来い!」


 三人は思い思いに文句を言いながらリューをボコボコにした。

 三人がかりに勝てるはずもなく、リューは抵抗もむなしく成すがままだった。


 心に抱えていた心配と怒りがその行き場を失い、その原因であるリューに向かったのだろう。


「ルージュは参加しなくていいのですか?」

「心配するほど親しくはないので。シャル様こそ」

「逆に手を傷めそうなので」


 私とミラは黙ってその様子を見守った。


「え、怒りすぎじゃね? 前が見えねぇほど殴るほどの事か? 俺、敵に捕まって脱出してきただけなんだけど?」


 あらかたボコボコにされたリューが動揺しつつ問い返す。


「みんな、そんなに俺の事嫌ってたの?」


 問われた三人は思案の沈黙を挟み、リューを抱きしめた。


「大好きッスよ。その分心配してたから、ついやっちゃったッス」

「ああ、あんたが無事でよかったよ。嬉しすぎて殴ってしまったんだ」

「お、おう、ありがとう」


 急に態度が変わって、戸惑いながらもリューも三人を抱きしめ返した。


「ああ、よかった。本当によかったッス。ぐしゅっ、ひっぐ……」

「おいおい、泣くなよ」


 ついには泣き出したケイをリューは宥めた。


「で……」


 私はリューの背後で仁王立ちしている人物に目を向けた。

 曇りなき白銀の鎧を纏ったその人物は、自信に満ちた不敵な笑みをその顔に湛えていた。


「あなたが、彼女を助けてくださったと見てよろしいのですか?」

「結果としてそうなるだろう。しかし、これは私が成したと誇るべき事ではない。これは正義……ならばこそ、正義の使者が救うは自然な事なのだから!」


 テンション(たっか)


「我が名はリア! 正義に従う、正義の使者!」


 こう来たかぁ……。

今回の更新分はここまでです。

次はまた月末に更新させていただきます。

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