五十三話 シャパド領主との会談
シャパド領。
領城の応接室。
メイドさんに案内されて入室すると、広いソファーに座るシャパド領主が待っていた。
テーブルを挟んだ手前側には同じソファーがあり、座るよう促される。
実際に座るとふんわりと質が良く、下手をすれば王城にあるものより良い物かもしれない。
案内してくれたメイドさんは領主の隣へ移動する。
「それで、今日は何の御用でしょうか?」
慇懃な態度で接するシャパド領主だが、その表情からは私に対する侮りが透けて見える。
「良い物だ」
シャパド領主の質問に答えず、私はテーブルを撫でながらそう告げる。
「城に入ってここまで、壷や絵画など美術品の類は見なかったけれど。このテーブルの拵えは見事だ。よく見ると足には細やかな彫刻が施されていて、モチーフは花や魚、はたまた竜と雑多で混沌としている。だがどれも精巧で不思議と調和がある。見ていて飽きない」
テーブルを褒めるとシャパド領主の顔に喜悦が混じる。
「わかりますか。良い目をお持ちですね。これは私が特別に作らせた物ですよ」
「じゃあ、デザインはあなたが?」
「いや、腕の良い職人に「使っていて飽きないもの」と注文したらこれを作ってきた」
「なるほど。いい家具職人だ。このソファーも雲の上に座っている心地だ」
「それはまた別の椅子専門の職人です」
シャパド領主は実用性に重きを置く人物のようだ。
使っていて飽きないものを所望するのだから、当然長く使い続ける事を前提としている。
観賞用の美術品が見られないのも、そこに価値を見出していないからかもしれない。
無駄を省いて合理を突き詰めている印象だ。
「良い目を持っているのはあなたのようだ。人を見る目がある」
「お褒めに預かり光栄です、殿下」
「そんなあなただ。僕の提案にももちろん利を見出しているんだろう?」
私が言うと、シャパド領主は苦笑した。
「殿下自らのお誘い、確かに喜ばしい事ですが……。到底受け入れられるものではありませんな。あなたの傘下へ入るなど」
「何故だろう?」
「殿下の言う利が見出せないからです。指示に従わされ、上納金を巻き上げられるなど今と比べてもマイナス以外はないでしょう? それらに目を瞑れるほどの見返りもない」
「陛下からの覚えも良くなるかもしれない」
「陛下の怒りを買い、王城より放逐された方の言葉とは思えませんなぁ」
まぁ当然だ。
始めから利など提示していない。
提示できる利がなかったとも言える。
経営に困っている領主ならともかく、この国で一番の経営手腕を誇る事さえできる相手には何もメリットを与えられない。
唯一あるとすれば権威のみだったが、彼は今の私の立場もしっかり把握している。
「わからないか?」
シャパド領主は隣のメイドへ手をやり、その尻を撫で回した。
メイドさんは抗う様子もなく、されるがままに尻を撫でられ続けた。
表情は変わらないが、ほんのりと朱が差しているように見られる。
他の領主を前にそのような事は無礼以外の何物でもないが、私に対してはそうしても構わないと彼は思っているのだろう。
「女としても、王族としても、利用価値の一切ないメスガキの提案など一考する価値すらないと言っているんだ」
慇懃な態度を捨てて、シャパド領主は告げる。
しっかりと現状を理解しているからこそ、王族に対してこのような口も叩く、か。
不敬を働いても自分には何の咎めはない、とそう理解している。
そして私に従うつもりなどない、とこれ以上ない程に理解させるための態度だ。
私はそんな彼に笑みを返した。
「提案が受け入れられなくて残念だ」
一言、そう答えて席を立つ。
彼を仲間に引き入れる事は不可能だ。
残念だ。
本当に、残念だ。
「殿下の案内を」
「かしこまりました」
領主に命じられたメイドさんに連れられ、私は領城を出た。
「と、いうわけで! シャパド領を潰そうと思う!」
自室において、私はミラに行動の指針を告げた。
「そのための計画を用意してくれ」
「かしこまりました」
ミラは疑問も挟まずに了承する。
「計画を立案次第、リュー達と合流致します」
「今回は僕も行く」
「ロッティ様自らが?」
「今回はいつものように民の移送ではなく、戦いが主眼になる」
「断定なさるのですね」
「戦いにするんだよ。これは規模こそ小さいが戦争になるぞ。そういう場面には、僕も慣れておかないとなぁ」
「かしこまりました。ロッティ様が必要と判断なされたなら、それは間違いないのでしょう」
「そこまで持ち上げられても恥ずかしいだけだね。勘違いしないでほしい。僕自身に才能があるわけじゃなくて、戦えもしないし頭も良くはない。必要な場所に必要な才能を配置しているだけさ。そして、その立場を持っているというだけ」
ミラは少し間を置いてから私の言葉に所見を述べ始めた。
「私はバルドザード開戦の際、一年を待たずして勝利を得られると思っていました」
「そうはならなかったなぁ」
「はい。それは単純にゼリア様の力量を信じたわけでなく、戦力比を始めとした様々な要素を照らし合わせた結果導き出した推論でした。これ以外はありえない、そう思える結論でもありました」
けれど、あなたは違う結論を示した。
そう、ミラは続けた。
「あなたはその後から今に至る膠着状態を読みきった。あなたは、私にない慧眼をお持ちです。私には見えていない何かが見えている。そう思えたのです」
確かに、本来なら見えないものが見えている。
「僕には未来が見える。そう言ったら、信じるか?」
「未来?」
ミラは怪訝な顔をする。
「そういう知識を僕は、生まれた時からもっていた。でもそんなもの本当はただの夢だったのかもしれない、そう思う時もある。そんな物を信じて行動している僕は狂っているのかもしれない、とも……」
「……でも、その未来の通りになっているのでしょう?」
「少しずつ、変わってはいる。でも、今の所は想定から外れていない。いつか、僕の知る未来から完全に外れるかもしれない。その時こそ、僕はただの役立たずになるだろうなぁ」
私は小さく笑って、ミラの肩に手をやった。
「その時は君が頼りだ。よろしく頼むよ」
「……わかりました。誠心誠意、お仕えさせていただきます」
「ありがとう」
今回の更新はここまでになります。
次はまた月末です。
良いお年を。




