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三十八話 大変! ママが来た!

誤字報告ありがとうございます。

修正させていただきました。

 最近、本当によくゼルダがターセムへ遊びに来る。

 それも私の領城を素通りして、直接行って村長宅に宿泊しているようなので私と会うついでなどではなくリュー達と遊ぶ事が主目的だ。


 それに加え、前に負けた事が悔しかったのか、双子も時折同道しているようだった。

 そして一人だけ残されるのを寂しく思ったグレイスもたまについてくる。

 グレイスだけは私を主目的にしてくれているのか、訪れる時は領城へ泊まりに来るが。


 という事態となり、姉妹全員がターセム村に揃う事がよくあるようになった。

 そんなある日の事だった。




「そういえば、お姉様。パパが今どこにいるか知らない?」


 私は村長宅でグレイスに仕事を手伝ってもらっていた。

 その休憩時、グレイスにそんな事を訊ねられる。


「パパ、城にいないの?」


 私は領に戻ってから王城に戻っていない。

 だからゼルダのその言葉に少し驚き、思わず聞き返す。


「たまに見かけるんだけど、頻繁に城を出ているみたい」


 その言い方からすると、城にいる方が稀なようだ。


「そうなんだ。私には心当たりがないよ」


 いったい、どこで何をしているんだろうか?


 そんな時だった。

 リューが部屋の中へ駆け込んできた。


「おい、なんか家の外にスゲー姉ちゃんがいる」


 スゲー姉ちゃん?

 疑問に思うのも束の間、ゼルダも部屋に駆け込んでくる。


「おい! ママが来たぞ!」


 何だと?


 一度、グレイスと顔を見合わせる。

 仕事を中断し、みんなで外へ向かった。


「お前、母親の事ママって呼んでんの?」

「事情があるんだ!」


 廊下を行く途中、リューとゼルダがそんなやり取りを交わした。

 外へ出る。


 すると、本当にママがいた。


 ただ、いつもと違ってかなりラフな格好をしていた。

 男物……というよりパパの服を借りているようだ。

 シャツのボタンが留められず、下着(ブラ)が丸見えである。


 変装のつもりなのか帽子を目深に被っている。

 そして、何のつもりなのか傍らには野牛の死体が転がっていた。


 背後の地面にはゼウスが突き刺さっており、何らかの荷物が括りつけられている。


 そんなママが、ケイとジーナに絡んでいた。


「なぁ君達、ここにロッティがいると思うんだが知らないか?」

「だ、だ、だ、誰ッスか? あんた」


 変装していようが威圧感は隠せていない。

 傍らに野牛の死体があるのもなんか怖い。

 それに気圧された様子で、ケイは応対する。


「どこにでもいる旅人のお姉さんだ。何もおかしくないし怖くないだろ?」

「怖いッス……」

「ロッティがここにいるのは知っているんだ。それと、襲撃された彼女を助けたという子供達も捜しているんだが」


 ずいっと迫るように問いかけるママ。

 ケイが怯えた様子を見せる。

 そんなケイを庇うように、ジーナが割り込んだ。


「お前さん、もしかして前に襲ってきた奴らの仲間なんじゃないか?」


 警戒した様子でジーナが問いかける。


「違うぞ。だから教えてほしい」


 ママ、弁明がシンプル過ぎて交渉下手だな。

 余計、ケイに警戒されてる。


「大丈夫だ。その人は身内だから」


 ゼルダが二人に声をかける。

 それがあって、二人は如実に緊張を解いた。


「そうなんスか。もしかして、お姉さんッスか?」

「ママだ」

「へっ?」


 ケイの反応を無視して、ゼルダはゼリアに声をかけた。


「何をしにここへ?」

「ここの子供達にロッティが助けられたそうだからな。お礼を持ってきた」


 言いながら、野牛を目で示す。

 これがお礼?

 そういえば、食べ物を贈れば喜ばれると言ったな。


「あと、王城で一人きりなのが寂しかった」


 そっちの比重の方が大きそう。


 明らかに飼育されていない牛。

 抜かれた血がまだ半乾きだから、恐らく来る途中で狩ってきたものに違いない。

 もうそれだけでついでだったんだろうな、という事がわかる。


「で、ロッティを助けてくれた子供達は?」


 問いかけられ、丁度三人が揃っていたので私は彼女達を紹介した。


「こんちは」

「どもッス」

「初めまして。えへへ」


 思い思いに挨拶するが、ジーナだけいつもと感じが違う気がする。

 作る笑顔がニチャっとしているように思えた。

 気のせいかな?


「これ、ロッティの母ちゃんが獲ってきたのか?」

「そうだぞ」

「すげぇな!」


 リューからキラキラした目で賛美され、ゼリアはまんざらでもない様子である。


「ロッティを助けてくれたらしいな。ありがとう。これはその礼だ。肉は好きか?」

「大好きだぜ」

「それはよかった。早速食うぞ! バーベキューの始まりだ!」


 それから場所を村長宅の庭に移すと、ママはゼウスに括りつけた荷物から木炭と網を取り出しててきぱきと準備を整えた。


 野牛もゼウスによってサッと手際よく解体される。

 石を長方形に積み上げると、炭を敷き詰め目から放った光線で発火させた。

 網を置き、肉を焼き始める。


「本当は熟成させた方が美味いが、今回は仕方がない」

「肉ならなんでも美味いよ!」

「いやいや、かなり変わるぞ。仕方ないな。また別の機会に食わせてやろう」

「本当か? 楽しみにしてるぜ」


 肉を焼くゼリアの隣で、リューは楽しそうに笑う。

 ゼリア自身もリューを相手にするのが楽しそうである。


 この二人、というよりリューはうちの家族と相性がいいのかもしれない。


 ……ゲーム内では主要人物全員を口説き落とす主人公様だったから、それも当然か。


「底の深い鍋をもってこい」

「何で?」

「余計な脂身は揚げ油に使う。これで揚げた芋がこれまた美味いんだ」

「うまそう!」


 ゼリアに言われて、リューは屋敷の中へ走っていった。


「いい匂いね」

「お肉の匂いだわ」


 肉を焼いていると、どこからともなくふらふらと双子が姿を現した。


「ママだわ」

「ママね」


 双子がママに気付く。


 次いで、鍋を持ったリューと共に村長も屋敷から出てくる。


 庭で勝手にバーベキューが始まっている事に驚いていたが、すぐゼリアに気付く。


「私の母親です」


 そう説明すると大層驚いていた。

 そばへ行き、跪こうとした村長をゼリアは止めた。


「やめろ。今日はお忍びだ」

「陛下。どうしてこのような場所へ?」

「娘を助けられた礼だ。肉を贈れば喜ばれると言われたから持ってきた」


 私は食べ物と言っただけだ。

 肉だとは言っていない。

 どうやらゼリアの中で記憶が改ざんされてしまったらしい。


「とはいえ、それだけで済ますつもりはない。何か願いがあるなら言え。叶えてやる」

「きょ、恐悦至極にございます」

「お前の子供達がそれだけの事をしてくれたというだけだ。いい子達じゃないか」


 そう言われて村長は嬉しそうに微笑んだ。


「よし、もう食えるぞ。この秘伝のタレにつけて食べるんだ」


 取り出されたタレはゼリアが作り出した肉用のタレだ。

 ゼリアは基本的に料理などしないが、肉を美味く食べるための努力だけは怠らない。

 その欲求が結実した成果がこのタレである。


「うわ、うっま!」


 その味は、思わずそう言ってしまうほどである。


「よし、私も……」


 と、ゼリアが肉を食べようとした時だった。


「何でいるの?」


 そうゼリアに声をかける人物がいた。

 その声にそちらを見ると、パパだった。


「何でいるんだ?」


 ゼリアも相当驚いたのか、パパと同じ問いを返す。


「ロッティを見守っていたんだけど? 意外?」

「でも城に帰ってきていたじゃないか」

「どうしても城じゃなきゃできない仕事もあるからね」


 さっさと帰ってしまったのだと思っていたけれど、帰るフリをして近くにいてくれたようだ。

 もしかしたらパパは私が思っていた以上に私を気にかけてくれていたのかもしれない。


 城での仕事もあるから城を長く空けられない。

 そんな中で、私の方をしっかりと見ていてくれたんだろう。

 それは大変な労力だ。


 本当に、万全を期していてくれていた事を知れて、私は少しだけ嬉しくなった。


「で、どうしてここにいるの? 城での仕事は君にもあるよね?」


 パパが問いかけるその声には若干の怒りが含まれていた。


「……娘を助けてもらった礼は、しなきゃいけないだろ?」

「そうだね。それはもう済んだよね?」

「うん」

「じゃあ、一緒に帰ろうか?」

「お肉食べたい」

「お城でも食べられるよ」

「みんなと一緒に食べたい」


 ゼリアはごねにごねて、結局パパが折れる形になり。

 食べたらすぐに帰るという事で落ち着いた。


「相手に動いてもらえた方が、今後の対応も決めやすかったんだけどね。ここまで露骨な動きを見せられると相手も動かないだろうな」


 パパは溜息を吐きながら愚痴った。


 相手の手段が正しくわかっているわけではないが、ゼリアに戦争へ踏み切らせるのが目的だというのはわかる。

 そうするには家族を狙うのが一番なのだから、子供達なら誰でも標的になりえるわけだ。


 その標的が一同に介しているという状況は、美味しい状況を通り越してむしろ怪しい。

 これは罠だと思わせるには十分だ。


「来ない方が安心ですけど。私だけが領に居た時は、何か動きがあったんですか? クローディアは何もなかったって言っていたんですけど」

「なかったよ。監視の形跡もなく、国境を越えられた形跡すらなかった」


 よっぽど相手が上手(うわて)なのか、本当に監視していないのか。

 後者であってほしい。


「標的を完全に変えたのかもしれないな」

「諦めた、とかは?」

「だとしても、相手が何か企んでいる事を前提として動いた方が対応しやすい」


 パパとしては、あくまでもまだ狙っているという前提で動いているようだった。


 それから、リシュコール家と村長の家族達全員でバーベキューを楽しんだ。


 肉をひたすら食べ、いつの間にか用意されていた野菜をパパがゼリアに無理やり食べさせ、双子がケイにピザを要求し、村長は終始恐縮していた。


 そうして楽しい一時は過ぎていった。


「あれ? ロッティの母ちゃんって王様じゃなかったっけ?」


 と、リューは思い出したように訊ねてきた。

 どうやら、ゼリアが王様であるという事にそれまで思い至らなかったらしい。




 ある日のターセム村。

 視察に訪れると、ゼルダが遊びに来ていた。

 リュー達と何やら話し込んでいる。


「ロッティの関節技か」

「痛ぇんだよなぁ、あれ」


 私の話らしい。


「かかんないようにしてんのに、いつの間にか極まってるんだよ」

「それで極まっちまったらもう逃げられないッス」

「あれ食らうと、しばらく片方の腕だけちょっと長くなってるんだよな」


 被害者二人の話を聞いて、ゼルダは考え込む。


「ロッティは魔力が少ないからな。その分、技量を磨いている。相手に力で負けるから、相手の力を利用する形で相手にダメージを与えるんだ。だから、無駄に力を入れなければそれほど痛い思いはしなくて済む」

「どういう事だ?」

「お前達、技が極まった後に力ずくで逃げようとしているだろう? それでは余計にダメージを受けるだけだ」

「じゃあ、どうすればいいッスか?」

「力を抜けばいい。そうすると一瞬だけ拘束が緩む。そこを狙って脱出するんだ」


 ゼルダのアドバイスを訊いて、リューとケイは表情を明るくさせた。


「ただ、失敗すると力みを解いた分だけさらに深く極められる事になる。そうなると、体の反射を利用した技に移行するから成す術がなくなる」

「ダメじゃないッス?」

「ダメだな。確実なのは、組み付かれる前にどうにかする事だ。あの技は接近できさえすれば、ママすら打倒する可能性があるからな」

「それ、すごいのか?」

「すごいぞ」


 そこまで言って、ゼルダは小さく溜息を吐いた。


「どうしたんだよ?」


 そんなゼルダに、心配そうな様子でリューは問いかけた。


「ロッティはすごいんだ。魔力量を技量で補い、自分より魔力量の多い闘士と渡り合えるようになっている。なのに、私はまったくすごくない。ロッティの姉なのに……」

「でも、お前強いじゃねぇか」

「ありがとう。でも、私は他の姉妹と比べて劣っているんだ。ロッティはこの歳で領を任されるほど頭が良いし、グレイスは武力に優れている。双子も、ああ見えて満遍なく何でもできるからな」


 ゼルダは、そんな事を思っていたのか。


「私には戦う事しかできないのに、グレイスはその上を行く。素手での戦いなら互角なんだけどな。剣を用いての戦いでは勝てる気がしない」

「素手同士でどうにかなるならいいんじゃねぇかな?」

「私達皇族が力を養っているのは、戦場で誰よりも前へ立つためだ。戦場となれば、素手の攻撃など無力……。ママは剣の扱いが得意なのに、私には受け継がれなかった。……もしかしたら、私はママの本当の娘じゃないのかもしれない」


 思いつめすぎだよ。


 私はみんなの前に姿を現した。


「ゼルダ。気にしすぎだよ」

「ロッティ……でも……」

「ゼルダの顔は姉妹の中でも一番ママに似ている。性格だってそうだよ。誰が見たってゼルダはママの子供だよ」


 まぁ、ママより真面目な気がするけど。


「私らより付き合いの長いロッティが言ってんだ。だったら、そうなんじゃねぇの?」

「あたいもそう思うッス」

「それに、本当の親じゃなくたって別に構わねぇだろ。私ら全員血は繋がってねぇけど、間違いなく大事な家族だぜ」


 リューとケイのフォローにゼルダは目を丸くした。


「そういうものなのか……?」

「昔、実の子供虐めてた親が村に住んでたけど、婆ちゃんからボコボコにされて追い出されたんだ。子供の方は村に住んでる親戚に預けられたけど、今はめちゃくちゃ仲良く暮らしてるぜ。楽しく暮らせるなら、それは幸せってモンだぜ」

「そうか……。そういうものか」


 ゼルダは一定の納得を得たのか、すっきりとした表情になった。


「変な方向に話が流れてるけど、間違いなくゼルダはママの子供だからね?」

「いや、本物でも偽物でも幸せなら良いだろって話だよ」


 リューのその考えには賛同できるけどね。


「ああ、それから。ゼルダは武器さえ選べば、グレイスとも渡り合えると思うよ」

「何故そう思う?」

「……なんとなく。素手が得意ならトンファーとかどうかな?」

「とんふぁあ?」

「こういうやつ。ここを取っ手にして――」


 私は地面に絵を描きつつ、解説する。


「で、ここに刃をつけてみるとか」

「何か面白そうだな。城の職人に頼んでみる」

「うん。試してみて」


 ちなみに、私がトンファーを勧めたのは、ゲーム知識によるものだ。

 無印のゼルダは剣を使っていたが、続編ではトンファー使いになってパワーアップしていた。

 だからそうアドバイスしたのである。


 途中から切り替えて強くなったのだから、今のうちに慣れておけばもっと強くなるかもしれない。


 実際、王城へ帰ったゼルダはトンファーを扱うようになり、剣を使うグレイスと互角で渡り合えるようになったそうだ。


 次に村へ来た時、彼女は嬉しそうにそう報告してくれた。

 たまに描写を忘れますが、ロッティのいる場面ではそばにクローディアがいます。

 リューとケイがいる所ではジーナもいます。

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