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三十二話 実家の安心感

明日も更新分があります。

 シロとリジィから襲撃を受け、安全のために王城へ戻る事になった。

 帰り着いて早々に、パパの書斎で事情聴取を受ける。


「襲撃者の正体は何だと思う?」


 何者に襲われたのかに触れず答えると、パパはそう問いかけた。


 何故、私がそれについての心当たりを持っていると思われたのだろう?


「ここにママはいない。正直な感想をくれないか?」


 そういう訊き方をするという事は、なんとなく相手に気付いているのかもしれない。

 ママを同席させなかったのはそれが理由だ。


「ただの勘になりますけど……」


 そう前置きして、私はパパの質問に答える。


「バルドザードだと思います」

「どうして?」

「……邪神の呪具らしき物を相手が持っていたからです」


 前世の記憶を持っている私としては確定事項だが……。

 この国においておとぎ話と変わらない邪神伝承を根拠にした答えに、パパがどう反応するか少し気になった。


「何故、呪具だと?」

「不思議な力を持った武具だったので」


 値は張るが、そういう武具の類が一般に出回っている事もある。

 その証言は弱かったかもしれない。


「それに、雰囲気が聖具に似ていました」

「ロッティは、聖具と呪具が同質のものだと思っているんだね」


 不可解そうな表情で呟く。


 実際は同質だったはずだ。

 でもこれは、ゲームの知識がある私だから言える事。

 本来は同列に語るものではない。


 言い方を間違ったかな?


「参考として受け取っておくよ」


 少し思案し、パパはそう答えた。


「相手がバルドザードだと証明される物が残っていなくてよかった。もし残っていれば、今回ばかりはママを止められなかったかもしれない」


 ママは家族を大事にしている。

 もし今回の事がバルドザードの仕業だと知れば、攻め込んでいた可能性はある。


「それよりも……」


 パパは生真面目な表情を綻ばせる。


「ロッティが無事でよかった」




「お姉様!」


 事情聴取が終わって、部屋の外に出るとグレイスが待っていた。

 彼女だけじゃない。

 姉妹全員が私を待っていたようだ。


「久しぶりだな」

「「おかえりなさい。お姉様」」

「ただいま」


 ゼルダと双子達もそれぞれ私と再会の挨拶を交わす。


「襲撃されたと聞いたが、大丈夫なのか?」


 ゼルダが心配そうに訊ねてくる。


「私は無傷だよ」


 みんなが助けてくれたから、私に被害はない。

 不幸中の幸いである。


「それはよかった」


 それからしばらく、姉妹でいちゃいちゃする。


「ああ、そうだ。ママも早く会いたいと言っていた」

「自室で待ってるから呼んできてほしいって言われたんだ」


 すると、ゼルダとグレイスがそんな事を言った。


「ママが?」


 あまり良い予感がしない。

 ただ、久しぶりに娘と触れ合いたいという話ならいいんだけど。


「ママは今、訓練場にいるぞ」

「ありがとう」


 私は姉妹達と別れ、ママの所へ向かった。


「ダイク! 右手に力が入りすぎてる。剣閃が途中でぶれてるぞ! アート! 手を抜くな。見ていればわかるぞ!」


 訓練場では、兵士達が剣で試合形式の訓練を行っていた。

 ママはそれを監督している。


 そんなママに私は近づいた。

 声をかけるまでもなくママは気付き、私の方を向く。

 訓練生を見る厳しい目から、子供に向ける優しい眼差しに変わる。


「ロッティ」


 ママは私の体を抱きしめる。

 訓練生の目があるので少し恥ずかしいが、こういう事は子供の頃からよくあるので慣れている。


「ただいま。ママ」

「ああ、おかえり。寂しかったぞ」


 しばらく私を抱きしめていたママだったが、私を解放する。

 それでも両肩に手をやったまま、視線を合わせた。


「襲撃されたと聞いた。怪我は?」

「ないよ」

「そうか」


 見るからにホッと安心した様子を見せる。

 けれど、すぐに厳しい眼差しを作った。


「襲った犯人は?」

「それは、わからないよ」


 私は嘘を吐く。

 戦争は回避したい。


「本当か? 本当になのか?」


 妙に疑ってくる。

 何か根拠があるのだろうか?

 それとも直感か?


 どちらにしろ本当の事は言えない。

 どうにか誤魔化そう。


「友達に守ってもらったから無傷だし。心配しないで」

「友達?」

「領地の村で知り合ったんだ。彼女達は、自分が傷つくのも省みずに体を張って守ってくれたよ」

「そうなのか……。それは礼をしないとな」


 誤魔化せたかな?


「お礼は何がいいと思う?」


 誤魔化せた。


「美味しい食べ物とか贈ったら喜ぶと思う」




 私が王城に帰った事で、宴を開く事になったらしい。

 人脈との顔つなぎが目的らしい。


 他の姉妹は王城にいるので、有力な貴族と顔を繋ぐ機会が多い。

 この時に築いた人脈が後の派閥となる。


 しかし、私の年齢で王城を出る皇女というのは異例であり、将来的に人間関係で支障が出るかもしれないというのでそういう機会を急遽作る事にしたそうだ。


 日程の調整や準備などがあり、私が帰還して二ヶ月後に宴が行われる事になった。


「グレイスは友達できた?」


 リビングでくつろいでいる時、私はグレイスに問いかけた。


「何人か……」

「それはよかった。また紹介してね」

「はい。お姉様」


 引っ込み思案なので少し心配していたが、余計な事だったようだ。


「ゼルダは……聞くまでもないね」

「何で?」


 コミュ強の化身が不思議そうな顔で問い返す。


「そもそも友達が多いからね」

「まぁな。継承者から外されて、何人か離れたが……」


 ああ、そういうのもあるのか。


「関係ない、と残ってくれた友達が大半だったのは嬉しかったな」


 ゼルダはいい友達を持ったなぁ。


「離れていった奴らがグレイスの方に流れたはずだが……」


 言いながら、ゼルダはグレイスを見る。


「グレイスは、そういう人あんまり好きじゃないから……」


 遮断しているようだ。

 そもそも、ゼルダと気の合う人間とグレイスはあまり気が合わない気がする。


「そして」

「そういう人間が私達の所に来たわ」


 と、双子が言葉を繋ぐ。


「じゃあ、二人にも友達ができたんだね」


 いつも二人でいる所しか見た事がないからなぁ。

 お互い以外の人間とも関わっているなら、お姉ちゃんとしては嬉しい。


「「全員、いつの間にか近づかなくなったわ!」」


 何したの?


「そういうわけで、次期皇帝候補に取り入りたいが失敗した連中が、皇族との繋がりを求めてロッティを狙っているわけだ。次の宴は大変だぞ」


 ああ、そういう話になるのか。


「その人達、元々はゼルダの友達なんでしょ? 元鞘に戻ろうとしないの?」

「下心があるとわかった人間を受け入れられるほど、私は懐の広い人間じゃない」

「そんなの、私だってそうだよ」


 とはいえ、人脈ができるのは良い事だ。

 感情を無視して、利用してやるくらいの気持ちで付き合うのが正解なのだろう。

 でも、そういう友好関係は不健全に思えて、私にはできそうにない。


「それにロッティは女性として魅力的だからな。宴ではモテモテだぞ」


 嬉しくねぇ。


「お、お姉様はグレイスが守るよ」


 頼もしい事だ。

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