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二十七話 旅の終わり

 領主は賊の襲撃を退ける事ができた。

 部隊の被害は軽微である。

 どうやら数こそ多かったが、質はそんなに良くなかったらしい。


 事情聴取した所、食い詰めた人間が金で雇われただけで戦いに慣れた人間は少なかったそうだ。


 あれから一週間。

 二日前にパパが領城に訪れ、視察が終わって今日出発する事になっていた。

 長い滞在も今日で終わりだ。




 領城の中庭。

 温室のテーブル席。


 ミラと正面から向かい合う席に、私は腰掛けた。


「……何故、報告しなかったんです?」


 あの日から、彼女が私に向けて口を開いたのはこれが初めてだった。

 私はミラが夫人を殺そうとした事を黙っていた。


「夫人が悲しむから」


 本当は邪神を倒すのに必要だから、という打算的な部分はある。

 自分の身を守る手段は極力残しておきたいのだ。

 けれど、夫人を思う気持ちも嘘ではなかった。


「君こそ、少しは冷静に見る事ができるようになった?」

「長い積み重ねがあります。見方をすぐに変える事はできません」


 不安の残る返答だった。


「……ですが、次の機会は遠いでしょう。それまでに、ゆっくりと出方を見るつもりですよ」

「そう。……君がどう思おうとも、私は夫人が好きだよ」


 そう答えて、私は席を立った。


 ミラがなんの偏見もなく夫人を見られるようになったなら、きっと正しい見方をするようになってくれるだろう。


 領城を発つ時間になる。


 私の出立は、もう十分に夫人とマルクから惜しまれた。

 それでもなお、見送りの際に名残惜しさを見せてくれた事が嬉しかった。

 私もまた、二人と離れる事に寂しさを覚える。


 そうして、私達は領城を離れた。


「ラース領の領主はどうなったんですか?」


 馬上にて、私はパパに訊ねた。


「盗賊団は捕まえたけど、誰も雇い主を知らなかった」

「じゃあ、真相はわからないままなんですか?」

「領主が手を引いていた事は間違いないと思うから、釘だけは刺しておいたよ。それくらいしかできなかったけど」

「本当にどうしてその人は、ヴィブランシュ卿を目の敵にしているんですか? 悪い人には見えないのに……」

「……僕がまだこの国に帰ってくる前の話だから詳しく知らないんだけど。どうやら、リシャールくんに横恋慕していたらしいんだ」


 え、色恋沙汰だったの?


「どちらかというと、リシャールくんよりも夫人の事を嫌っているらしいね」


 他領の領主に夫人を狙う理由は無い。

 そう思っていたけれど、がっつり理由はあったようだ。


「リシャールくんは昔からモテたようだからね」

「格好良い人でしたからね」

「それでも彼の場合、アリア夫人以外は眼中にないのだけどね」

「……それはわかります。どうして浮気したのかわからないくらいですよ」

「あー……。まぁ、そうだね。そういう事になってたね」


 パパは何か煮え切らない調子で言った。

 何か別の事情でもあるのだろうか?


「まぁ、リシャールくんはロッティが思う通りの人だよ」

「そうですか」

「さ、視察する領地はあと二つ。それほど時間はかからない」


 それが終われば、私も自分の領地へ帰る事になる。

 視察の旅も、終わりを見せようとしていた。

 今回の更新はこれで終わりです。

 もう一つ書いておきたかった事がありますが、間に合わなかったので次回になります。


 では、また月末に。

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