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二十話 籠城準備

 孤児院に戻るとシロと子供達がいた。


 子供達がボール遊びをしていて、暴投されたボールがシロの方へ飛んでいった。

 ボールが当たりそうになると、シロはすかさず振り返ってボールを掴み取る。


「何するんです! 危ないじゃないですか!」

「すごい! 後ろに目があるみたい!」


 抗議するシロだったが、今見た光景に子供達は歓喜の声を上げた。


「それにこのお姉ちゃん強いんだよ! 町の兵隊さんを簡単にやっつけちゃったんだから!」


 と、ククリが得意げに語る。


「そうやってよいしょして、シロに何かさせようとしてるんじゃないですか? わかってますよ! シロを騙そうとしてますね!」

「え、そんなことしてないよ? 変なおねえちゃん」

「おもしろーい」

「シロは面白かねぇですよ!」


 楽しげな子供達とは対照的に、シロはそう叫んだ。


「今後の事で話があるので、話し合いに参加してください」


 そんな彼女に私は声をかける。


「今後の話し合いですか……。えーと、もしかしてシロも戦力に組み込まれてる感じですか?」


 どうやらシロはこの期に及んで離脱したいようだ。


「お願いしますよ。報酬は払いますから」

「シロはお金に困ってないので……」

「友達じゃないですか」


 昨今の世の中は、目が合っただけで縁ができるとも言われている。

 助けてくれて、話もしたならもう友達という事でいいだろう。

 ……そういう事にしておく。


「と、友達ですか? は、はぁ、勝手にそんな、迷惑ですよぉ」


 そう言うわりに嬉しそう。

 すっごい笑顔になってますよ?


「さ、話し合うんでしょう。行きましょう」


 参加してくれるようでよかった。


 応接室で私達は話し合う。

 私は自分の考えをみんなに伝えた。


 次の相手の手が、数に任せた総力戦ではないかというものだ。


「そうなるだろうな」


 ヨシカがそれを肯定する。


「こちらの取れる手段としては二つ。子供を連れて別の場所へ身を隠すか、孤児院に籠城して防衛する、か」

「ここ、監視されてますよ」


 ヨシカが対策案を語ると、シロがそんな事を言った。


「何でわかるんです?」

「見られてる気配がするんですよ」


 マコトの質問にシロは当然のように答えた。

 その答えを受けて、マコトは確認するようにヨシカを見た。


「俺にはわからん」

「母さんがわからないなら、勘違いじゃないんですか?」


 そう指摘するが、シロは退かなかった。


「シロを嘘吐き呼ばわりするんですか!? いいですよ! だったら、そいつらをつれてきてやりますよ!」

「信じてますからやめてください」


 騒ぐシロを宥めて話し合いを再開する。


「見られているとなれば、他へ移動するのは危険だと思います」

「そうだな。なら籠城しかない。問題はいつまで籠城すればいいのかという事と、人手不足か」


 ヨシカは難しい顔で唸る。


「孤児院には三つの出入り口がある。俺とシロが固めればその内二つは守れる。だが、残りの一つに不安が残る」

「母さん、俺がいるじゃないか」

「お前は未熟だ。一人二人を相手にするなら何とかなるかもしれないが、それ以上となれば心許ない。子供だから消耗も早いだろう」


 ヨシカに指摘されてマコトはムッとしたが、反論する事はなかった。

 マコトもまた人質にされる可能性があるのだから、守るべき対象の一人である。

 そのリスクがある以上、戦力とするには少し躊躇いがあるわけだ。


 こうなると、なおの事クローディアを行かせてしまった事が悔やまれる。


「番人をつけられない出入り口にはバリケードを作り、マコトにはそこの守りを頼む。バリケードにどこまで効果があるかわからないが、戦いやすくはなるだろう」


 役割を振られて、俯いていたマコトが嬉しそうに顔を上げた。


「わかった」

「襲撃は早くとも今夜。もしくは夜が明けてからになるだろう。時間は無い。急いでバリケードを作るぞ」


 話し合いを終え、私達は襲撃に備えて準備を始めた。




 シロに外の見張りを頼み、孤児院にいる他の人員でバリケードを作った。


 ドアが開かないように固定し、ドアごとを壊されても相手を阻めるように机や椅子などの家具を積み上げて縄で括った。


 バリケードを作った入り口からは細い廊下に繋がっていて、ここならば例え相手が入ってきても対処しやすいからである。


 この通路ならば囲まれる心配がないとの事で、それならばマコトでも十分に対処できるという事だった。


 もしかしたら、戦力外にされて不満に思ったマコトヘのヨシカなりの配慮かもしれないが、実際の所はわからなかった。


 私も一応バリケードに詰める事となったが、殆ど戦力外である。

 そのバリケードの先にある小部屋へ子供達を集める予定だ。


 できる事は全部終わった。

 あとはなんとかなれ、である。


「襲撃があるまでは休む事にしよう。見張りは俺がやる」


 ヨシカがそう言って、私達は休憩に入った。


 その頃にはもう夜になっていた。

 私は子供達と一緒の部屋で眠ろうとしたが、いつもと違う状況に子供達が興奮しているらしく騒いでいた。


 そんな子供達を寝かしつける事に私は苦戦し、どうにか全員を眠らせた。


 すると逆に私の目が冴えてしまい、部屋を出た。


 孤児院の中を散策していると、かすかに風鳴りが聞こえた。

 そちらへ行くと、マコトが木刀で素振りしていた。

 彼女は私に気付いて素振りを止める。


「休んだ方がいいんじゃない?」

「わかってる。でも、動いていないと不安なんだ」


 マコトは私に背を向けて、再び素振りを始める。


「お前は役に立たないと言われて、俺は不満に思った。でも、守りを任される事になって不安になった。俺は母さんの言う通り、未熟だから……」


 素振りを続けながらマコトは語る。


「でも、一晩で強くなれるものじゃないでしょう?」


 私が言うと、マコトは素振りを止めて私を見る。


「未熟だと言っても、ヨシカさんはあなたの戦力を正しく把握した上で守りを任せたはずだ。なら、その能力を最大限に発揮できるように休んだ方がいいよ」

「そうなのかもしれないな」

「君は十分に強いよ。素振りをするたびいい音がする。私では出せない音だ」


 私が言うと、少し強張っていたマコトの顔が綻んだ。


「この流派は、音を重視している。創始者は晩年に目が見えなくなって、弟子の稽古を見る時は音を聞いて判断したんだと……。だから、俺にとってそれは最高の褒め言葉だ」


 そうなんだ。

 知らなかった。


「汗が引くまで、少し話をしないか?」


 誘われて、その申し出を受ける事にする。

 壁を背に座り込み、私達は雑談した。


「そういえば、マコトとククリはヨシカさんの本当の子供だったりする?」

「どうしてそう思うんだ?」

「名前の感じがみんな似てるから」

「そう言われたのは初めてだ。でも、本当の親子じゃない。ククリとは血が繋がってるけど」

「そうなんだ」

「俺の両親はククリが生まれてすぐに死んだんだ。その時に実母の友達だった母さんが引き取ってくれた。名前の感じが似ているのは、故郷が同じだからだと思う」


 そんな事情があったのか。

 ゲームでは語られていない事だ。

 そもそもヨシカさんが登場しない。


「初めて会った相手からは、よくおかしな名前だって言われるよ」

「私はいい名前だと思うけどね」


 真、誠、信、良、実。

 思いつく限りにマコトと読める漢字を思い浮かべる。


 どれもまっすぐで良い印象の字だ。


「名前の意味を考えれば、両親が君をとても大事に思っていた事がよくわかるよ」

「名前だけで?」

「そうだよ。ククリちゃんもそう。ククリっていうのは、縁を結ぶという意味があるんだ。良い縁に恵まれますようにという願いが込められているんだと思う」

「そうなのか」


 くくりという字からきているんだったかな。

 確か、縁結びの神様の名前でもある。


「まぁ彼女のおかげで君に出会えたから、良い縁を繋いでもらったのは私の方だけどね」


 そう言って、マコトに微笑みかける。


 本来なら、私がマコトと出会う事はなかった。

 ゲームでの私は開始早々に死んでしまっているので、接点ゼロである。

 この状況は奇跡と言ってよかった。


 すると、マコトの顔が徐々に赤くなっていった。


「あ、あ、あ、もうちょっと素振りしてくる」

「また汗かくよ?」

「大丈夫だ! おやすみ!」


 そう言い残して、マコトは去っていった。


 何か気に障る事言ったかな?

続きは明日更新致します。

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