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十八話 襲撃の突撃少女

 ぶつかった相手は青白い髪の女性だった。

 全身をマントでくるりと覆う姿はクローディアを彷彿とさせる。

 下がった眉と垂れた目が、ただでさえ自信の無さそうな表情に情けなさを加味していた。


 その姿を見て、私は血の気が引く思いだった。


 シ、シロじゃねぇか!

 内心で驚きつつ、私はそれを顔に出さないよう努める。


 シロはバルドザードに所属する武将。

 つまり敵!


 それも邪神の呪具の使い手だ。

 邪神の呪具はバルドザードにおける伝説の聖具みたいなもので、使い手達はそれぞれの主要人物にとってライバルになる存在だ。


 そんな人間がリシュコールにいるのは、何か目的があっての事だ。

 それが何かわからないが、接触は絶対に避けたい相手である。

 接触しちゃったけど……。


「え、え、えと、どうしたの? お嬢ちゃん?」


 私が誰なのか知らないはずはないだろう。

 バルドザードにおける諜報の長が。

 しらばっくれてんな?


 彼女がここにいるという事はどういう事だ?

 何が目的だ?


「おい、向こうを探せ!」


 兵士の声が耳の端に聞こえた。


 シロの事は気になる。

 けれど、今はそれどころじゃない。

 間違いなく敵であるが、正体を隠したがっているならそれを利用させてもらおう。


「追われてるんです! 助けてください!」


 気付いている素振りさえ見せなければ、味方につけられるかもしれない。

 そう思って、半ば賭けのつもりで助けを求めた。


「ええーっ!」


 思った以上に驚かれる。

 丁度その時、兵士が姿を現した。


「見つけたぞ! ん、誰だ貴様は! 仲間か!」


 兵士はシロの存在を見咎めて詰問する。


「ひぃぃ、違います!」


 弁明するシロに、兵士は掴みかかった。

 手がシロにふれそうになった瞬間……。


「シロに触るんじゃねぇですよ!」


 シロは兵士を殴りつけ、すかさず背後に回った。

 首に腕を回して締め上げる。

 流れるような手際で、兵士を絞め落とした。


 それがあまりに速く、兵士は呻き声一つ上げる前に昏倒した。


「ああーっ! あれよあれよと非常事態ぃーっ!」


 シロは頭を抱えて声をあげる。


 どうしよう、この隙にやっぱり逃げた方がいいんだろうか?

 なんて事を思っていると、近くから兵士と思しき声が聞こえてきた。


「とりあえず、どこかに逃げましょう」


 混乱から抜け出せないでいるシロに声をかける。


「わ、わかりました」


 シロはすんなりと了承し、走り出した私についてきた。




 私達はその後、兵士の目をかいくぐりながら移動した。

 やがて兵士達の気配がない所まで来て一息つく。


「とりあえず、ここはまだ大丈夫そうですね」

「こ、これからどうするんですか?」


 シロは不安そうに問いかけてくる。

 本当にどうしようか?

 ここは初めて来た町だし、どこへ行けばいいのか当てもない。


 宿屋へ戻りたいけど、兵士と遭遇したのはその宿屋の方面だ。


「家に帰れば、大丈夫だと思う……。お母さんが守ってくれる」


 今も手を繋いだままの少女が、そう提案する。


「えーと、あなた……。私はロッティです」


 名前を知らないのは不便なので、私は自己紹介した。


「ククリ」


 少女は名乗る。


 ククリ……。

 なんか、聞いた事があるような……。

 でもゲームでは見覚えがない。


 結局思い出せなかった。

 気のせいかな?


 魔法陣とか、キタキタとか、メケメケとか、余計な単語が頭の中をグルグル巡って邪魔してくるし。

 私は考えるのをやめた。


 次に、私はシロを見る。

 こちらからしたのだからそちらも名乗れ、という意図を言外に含んだ行動だ。


「シロです」


 シロもそれを察して名乗る。


「それで、君の家は?」

「向こうの方」


 と、ククリは指を差した。


 言葉ではまだ説明できないんだろうな。

 彼女の言う事が本当かはともかく、この申し出にすがるしかなさそうだ。


「案内してくれる?」

「うん」


 ククリの案内に従って、兵士と出くわす事を警戒しながら移動する。


「ククリちゃんはどうして捕まりそうになってたの?」


 移動しながら訊ねる。


「わからない」


 それもそうか。


 今も握られる手は、少し痛いくらいだった。

 放すまいとしているのか彼女の手も白くなっている。


 理由もわからずに大人達から追われる事はこの時分の子供でなくても恐ろしい事だ。

 そんな中、今縋れるのは見ず知らずの私達だけ。

 彼女の心は不安でいっぱいに違いない。


「大丈夫」


 ククリは私を見上げた。

 不安なら、安心させてあげるべきだろう。

 そう思って私は言った。


「私達が絶対に家まで送り届けるから」

「うん」


 こくんと頷くと、ククリの握る手から少し力が抜けた。


「ええっ! シロを勝手に巻き込まないでください!」


 内心はともかく、できればこの子を安心させてあげてほしかったんだけどな。

 今度からシロの様子も見ながら言う事を決めよう。


「お願いしますよ。謝礼もさせてもらいますから」

「金なんかいらねぇですよ!」


 謝礼はいらない、か。

 じゃあ、何を欲しがっているんだろうか?


 やっぱり任務できているのかな?

 できるだけ警戒しておこう。


「おい! お前ら!」


 声がかけられたのはそんな時だった。

 兵士か、と驚いてそちらを見る。

 しかし、その先に立っていたのは兵士ではなかった。


 一人の子供である。

 私と歳の近い、中性的な顔立ちをした黒髪の子供。

 その手には、一本の棒が握られていた。


「俺の妹をどこへ連れて行く気だ?」


 棒の先をこちらへ向け、低い声で問いかけてくる。


 妹。

 ククリ。

 そして、男の子と見まがうような顔立ち。


 私の中で全て繋がった。


 この子供は、ゲームの主要人物。

 マコトだ。


 ククリはそんな彼女の妹。

 ゲーム中に登場せず、設定だけがある存在だ。

 だから、うろ覚えなのも仕方ない。


 マコトは棒を構えた。

 ぐっと腰を落とし、そして……。


「キエエエェェェイ!」


 裂帛の気合を込めた叫びを上げ、棒を振りかぶりながらこちらに突撃してきた。

リジィ「ただいま」

ヘルガ「おかえりなさい。シロと一緒じゃないんですか?」

リジィ「? ……そういえば任務だったな。忘れてた」

ヘルガ「あなた、何しに行ったんです?」


今回の更新分はここまでです。

本当はきりの良い所まで書きたかったのですが、間に合いませんでした。

では、また月末に。

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