百三話 戦後もろもろ 1
皆様こんばんは
今回の更新をさせていただきます。
「お勤め、ご苦労さんです」
シャパドの領城に収容されていた姉妹達をリアに送ってもらい、到着した彼女達にそう言って出迎えた。
「何だ、畏まって」
怪訝な表情でゼルダが返す。
私に頭を下げられて、一緒にいたイクスが居心地悪そうにしていた。
彼女も姉妹達と同じ牢屋で収容されていたらしい。
「特に意味はないよ。まぁでも、貴重な経験だったでしょ?」
答えて笑顔を向ける。
「リア。ありがとう。休んで」
ここまで送ってきてくれた人物に声をかける。
「いえいえ、何のこれしき。元気一杯ですとも」
胸を張るリアだが、私はそれを疑わしく思っていた。
というのも、ゼリアとの戦いで一番ダメージが大きかったのはリアだったらしいからだ。
リアはゼリアに致命的な一撃を与えるには至らなかったが、聖具の能力を生かして仲間を最大限にサポートしていた。
ゼリアの攻撃を防ぐために割り込んだり、はたまた仲間を引き寄せたり、重要な場面で活躍していたそうだ。
その結果、それを疎ましく思ったらしきゼリアからヘイトを買い、真っ先に潰された。
「いやぁ、転移した先で拳が待っていたのは初めてですよ」
と、後に意識を取り戻したリアは語っていた。
その意識を取り戻すまでが他の面々よりも長かったのは、身体に無理が重なっていたからかもしれない。
本人は死なない身体を頼りに、いくらでも全力を出せると思っていたようだが。
体力が無尽という事は無い。
身も心も疲労していたのだろう。
……まぁ、それはいいか。
「お姉様」
グレイスに呼ばれる。
「お姉様の思惑通りに事は進んだのですか?」
人聞きの悪い。
そう言われると私が何もかも絵図を引いていたようじゃないか。
そうなるよう、尽力したのは確かであるが。
「まぁ、これ以上ない結果かもしれないね」
「そうですか」
淡白な返し方だが、よかったです、とも言い難いだろう。
その結果、リシュコールは負けてしまったのだから。
「ママとは話したか?」
「仲直りしたよ」
ゼルダの質問に答える。
訊きたい事の意図はこれだろう。
それを聞いてゼルダは安心したように表情を綻ばせた。
「そんな事より」
「お風呂行きましょうよ」
双子が私の両手に抱きつき、そう提案する。
「濡れたタオルで身体を綺麗にするのは飽きちゃったの」
「あったかいお湯に入りたいわ」
「僕は一人でゆっくり入るからいいよ」
私はお断りを入れる。
あの結界をもう一度味わうのはゴメンだ。
「あら、いっぱいサービスするのに」
「おっぱいで周囲を囲んであげるわ」
それは本当にサービスか?
風俗法とかに抵触しないか?
「ね、いいでしょう? ゼルダお姉様」
「やりたいでしょう? グレイス」
いっぱいのおっぱいで囲んで相手を怖がらせましょう、と双子がよからぬ提案をする。
「そうだな。久しぶりに、姉妹揃って風呂に入るのもいいだろう」
「うん、グレイスも一緒に入りたい」
「いや、待ってよ。落ち着いて」
あ、前後を固められた。
しまった。
すでに結界は始まっているんだ。
「そう言うな。ほら、見せ付ける相手は多い方がいいだろう?」
何が「ほら」なの?
抵抗もむなしく、私は姉妹達に風呂へ連行され、結界に封じられてしまった。
「これから調練を行う」
ゼリアは練兵場に集まる反乱軍の人員達に対して告げた。
これは私がお願いした事だ。
ゼリアとの戦いに勝利できなかった事を危惧した私は、その埋め合わせとして聖具使い達を鍛えてもらおうと思ったのである。
「とりあえず、全員かかってこい!」
「おお! 行くぜオラァ!」
そして、調練とは名ばかりの大乱闘が始まった。
内容を任せたらこうなった。
聖具使い全員と反乱軍の志願者が参加していたのだが、聖具使い達以外は真っ先に昏倒させられた者と怯えて戦意喪失した者のどちらかに分かたれてしまった。
リューとマコトが訓練用の武器でゼリアに打ち込む。
しかし、両手でそれぞれ防がれると、リューの斧だけが力に耐え切れず曲がってしまった。
「あっ」
「魔力の込め方が甘いからそうなるんだ!」
リューを嗜めながら、両者を殴り飛ばして距離を空けさせる。
「新しいのとって来い!」
私にはわからないが、魔力を込める事で使う武器の強度や威力が上がるものらしい。
訓練での怪我を防ぐために聖具を使わせなかったのかと思ったが、もしかしたら魔力の扱いを見極めるためだったのかもしれない。
思えば、鉄の武器を使わせているのはリューとマコトだけだ。
ケイとジーナも聖具は直接的にぶつけるタイプの武器であるが、そのまま使わせている。
手足を武器とするものよりも長物の方が魔力の込め方が難しいのかもしれない。
「だからリュー! 武器を手足の延長にしたつもりで魔力を込めるんだ!」
「わっかんねぇよ!」
「んもう!」
いくつかリューが武器をおしゃかにしてしまい、ゼリアがちょっと怒り始めた。
「あとで個人レッスンだ! それから、全員休憩。さっきからずっと見てるお前だけこっちに来い」
ゼリアはヨシカを指し示して告げた。
壁に寄りかかって調練を見ていたヨシカが、得物を手にして歩み出た。
「休憩の間、少し見ていろ」
ヨシカがゼリアの対面で立ち止まる。
一拍置き、唐突にゼリアがヨシカを殴りつけた。
ヨシカは驚くでもなく、刀を鞘から抜き、峰でそれを受ける。
強い一撃に身体は浮いたが、それでも刀が曲がっている様子はない。
「わかるか? これだ。十分に魔力を込めれば、この程度の攻撃くらいなら耐えられるんだ」
説得力のある光景だ。
確かに実感は得られた。
が、見ただけでやり方がわかるものなのだろうか?
「流石は陛下。もう少し、付き合ってもらってよろしいだろうか?」
ヨシカは完全に刀を抜いて、そう問いかけた。
「余興の礼だ。少し付き合ってやる。ずっと、やりたがってたろう?」
ゼリアもそれに応じる。
「素直に申し出てくれれば良いのに」
「これでも親ですゆえ。楽しみを子供より取り上げるわけにもいきません」
「いい考え方だ」
互いに笑むと、火花の散る戦いが始まった。
二人の攻防に、観衆からは息を呑む気配が伝わってくる。
大多数で望んだ今までの戦いとくらべ、それ以上の苛烈なものに見えた。
互いに決定打もなく、攻撃を凌ぎ合う戦いが続き、十分程度が経った頃にヨシカは刀を納めた。
「ありがとうございました」
「もういいのか? じゃあ休憩は終わりだ」
そうして、見稽古が終わり、乱闘という名の調練が再開される。
その調練の中で、リューは何度も武器を壊して注意を受ける事になった。
過密な内容でありながら休憩を挟み、半日以上を経て調練は終わった。
「終わったぁ! 疲れたぁ!」
「リュー、お前は補習だ」
「えぇ! あーもう、やってやらぁ!」
リューがゼリアに連れて行かれる中、他の面々は調練が終わって緊張の糸を解く。
談笑を始める者もいたが、疲労でへたり込む者も少なくない。
「あの王様と一人で戦えるなんて、流石は母さんだ」
マコトがヨシカに歩み寄り、嬉しそうに語りかける。
「そのように見えたか?」
しかし、ヨシカはそう問いかける。
「違うのか?」
「得物を使わせられぬ時点で、勝ち目はない」
確かに、ゼリアはずっと素手で戦っていた。
「何より、仕合が終わった時点でもすぐさま調練に入れるほどに余裕が残っていた。俺に、それだけの余力は無い」
「そうだったのか……」
マコトは少し声を落として答えた。
「戦いの形になるだけでヨシカさんは強いよ」
私はそこに口を挟んだ。
「勝ちたいものだがな」
小さく笑い、ヨシカは答えた。




