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百二話 決戦の後始末

 リシュコールと反乱軍の一時的な停戦は、和睦という形で恒常のものとなった。


 そしてこの最後の戦いでどのような決着がついたのか、理解している将兵もいないだろう。

 何せ、私すらまだ理解していない。

 どう転ぶのか、決まるのはこれからだ。


「僕が死んだと聞いてすぐにでも帰ってくるんじゃないかと思ってたけれど。そうじゃなかったんだね」


 ゼリアの私室。

 子供の頃に見た時と内装が変わっておらず、パパの私物が所々に散見できる。


 その中にある、二人掛けの狭いテーブル。

 窓際に置かれたそれは、近い距離で談話を楽しめる代物だ。

 そこに二人で向かい合って着き、私とゼリアは話をしていた。


「そりゃあ、穏やかではいられなかったさ。そんな冷静ではない私をゼルダが止めた。だから踏み止まったのもあるが……。時間が経つ内に疑いが出てきたんだ。本当に、お前は死んだのだろうか? リューがお前を殺すだろうか? と」


 リューを知っているからこそ、その考えに至った、か。

 ゲームにおいて、二人に接点はなかった。

 出会った時にはすでに敵だった二人だ。


 以前に引き合わされた事で、リューの印象が変わってしまった。

 それが今回起こった状況変化の原因のようである。

 知識を利用して有利に動こうとしても、思わぬ所で変化が現れるものだ。


 ゼリアは思っていたよりも冷静だった。

 ゲームでの彼女だけを知っていれば、思いがけない対応である。


 今回は、そのおかげでリュー達が敗北しても命が助かったのでそれはよかったのだが。

 今後もこういう事態を想定して動かないといけないな。

 美味しいとこ取りは難しい。


「半信半疑でリュー達と戦ったが、そこで悟った。やっぱり殺してないな、と。お前も、行方不明になっていた他の姉妹達も生きているな、と理解できた。リューはウソが吐けない。たとえ黙っていても、なんとなく表情でわかる」


 それは仕方がない。


「姉妹達はシャパド領にいるよ」

「ずいぶんと遠くに移送したんだな」

「ママがボコにした聖具使い達の中に、一瞬で場所を行き来できる聖具使いがいるんだよ」


 現在、全員が気を失っているらしいので目覚めたら連れてきてもらおう。


「それで、お前はこれから反乱軍をどうする?」

「どうする、とは?」

「お前の思惑はともかく、反乱軍にも反乱を起こすだけの理由があるだろう」

「反乱軍の発足理由は、圧政を打ち破るためだよ。それをどうするか?」


 ゼリアは首肯する。

 何かしら、行動を起こした結果がでなければ反乱軍に参加した人間が納得しないだろう。


「この戦い、ママはどっちが勝ったと思ってる?」

「当然、私だ」

「でも僕は、この国の食糧生産を半分以上掌握しているよ?」

「ん?」


 ゼリアは黙り込む。

 考えを巡らせているのだろう。


「ありえない話ではないだろうな。お前の派閥にある領主の土地は全て収穫量が多かった。何故、それを伝えなかったのかはわからんが」

「ママと聖具使い達を戦わせたかったから、かな」

「……回りくどい」


 ゼリアは呆れた声で言った。


「ついでに言えば、収穫量も少なく申請させてた」

「なんだと?」

「それでも十分、戦争はできたでしょ?」


 生前の知識を元に自領で研究した農耕法。

 圧政を強いていた領地から領民を脱走させて派閥の領地へ移送。

 書類だけでなく、隠し畑、隠し田を作らせ、徴税の算定も誤魔化した。


 人がいて、それを働かせるための土地も十分、新しい農耕で収穫量も一般より多い。

 そうして生産量が上がった結果、おかげで私の派閥にある領地にはもりもりと食料が備蓄されている。


「で、何が言いたいかと言うと――」

「お前の勝ちだと?」

「そう思うよ」

「今からでも、一人ひとりお前の派閥の人間を説得する事もできるがな」


 流石にそれをされると盤面がひっくり返るだろうな。

 直接会ってゼリアから脅されたら、屈してしまう。

 バルドザードとの戦時中にそんな暇があるとは思えないが。


「実際、やるつもりはないでしょう?」

「ああ」

「それで、反乱軍の目的についての話に戻るのだけれど。権力者の打倒というよりも、大事なのは待遇の改善だ。ある程度の権力を僕が握ればそれは果たせるだろう」

「そんな回りくどいやり方ではなく、もう王様になってしまえばいい。お前になら譲ってもいいぞ」

「そこまではいらない。王様になんてなりたくないし」


 なったらゆっくりする暇がなさそう。


「お前がそんなわがままを言うとはなぁ」

「わがままかな?」

「私も王様になりたくなかったんだぞ」


 天職だと思ってたくらい似合ってるのに。


「何より、僕は聖具使いじゃないし」

「何のための決まりかわからん。そこは変えてもいいと思うが」


 実際、権威付けくらいにしか意味のない(決まり事)ではある。


「そもそも、向いていないんだ。王様なんて。シアリーズがいたから、どうにか務まっていただけで。戦争になった事も理由ではあるが、遅かれ早かれ私の治世ではどこかに歪みができていたはずだ。なら、向いている人間に任せた方がいいだろう」

「うーん、それについてはまたの機会にゆっくり話し合おう」


 個人的には、今が人生における修羅場のピークであってほしい。

 これが終わったら、何の刺激も無い平穏の中でゆっくりと生きていきたいのだ。


「で、勝ち負けの話に戻るけれど。もし反乱軍が負けたという事になれば、何かしらの罪で罰せられなければならないし、和解という名目も立たなくなる。当然、首謀者の僕も罰せられなければならないわけだ」


 ゼリアは難しい顔で唸った。


 ゼリアが許そうとも、他の人間が許すとは限らない。

 共同体である以上、王様といえど自分の意思だけで何もかもを押し通せるわけではないのだ。

 他を納得させるためにも、ここは負けたという体裁を取っていた方が自然だし、納得させやすいわけだ。


 まぁそれ以上に、ゼリアとしては私に害が及ぶ事は避けたいだろう。

 ……うぬぼれ過ぎかな?

 自分が愛されているという事実を笠に着るのは少し恥ずかしいな。


「いいだろう。お前の言い分を採用しよう」

「だったら、和解は成立だ。その条件として、圧政を敷く領主の解任、農民の待遇改善を約束する。という発表をしてほしい」

「わかった。そうしよう」




 細々とした決め事を終え、私は医局へ向かった。


 部屋にはベッドが並んでいるが、半数は現在使用中である。

 使っているのはリュー達だ。


「負けちまったな」

「そうだな」


 ベッドに横たわったまま、リューが言葉を漏らす。

 すると、隣のベッドに同じく横たわっていたマコトが答えた。


「しかもこうして手当てまでされて……。シャルは怒るかな?」

「どうだろうな。でも、あいつの事だからこういう場合も考えて、別の手段を取ってるかもしれない」

「おや、ずいぶんと期待してくれているんだねぇ」


 私が声をかけると、リューとマコトが頭を上げてこちらを見た。

 意識を取り戻しているらしき、他の面々も私に気付いて注目してくる。


「みんなお疲れ様」


 ねぎらいの言葉をかける。


「すまん。負けたわ」

「まぁ、結果オーライだよ。いい感じの方向に転がったから」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。だから、今は休んで」


 答えると、リューは少し安心した様子を見せた。


 ここまでボッコンボッコンにされたのは想定外だけれどね。

 ゲームでは勝っていたのに。


 その展開をなぞれていないのは、歴史が変わったせいでリュー達の実力が低い不足しているのだろうか?

 それとも、私を殺されてやけっぱちになっていたゼリアが実力を出し切れていなかったからだろうか?


 どちらにしろ、計画に修正は必要だ。


 今後、私はバルドザードの攻略に移行する。

 リシュコールの戦力も含めるため、ただ攻略するだけならば不安は感じていない。

 何せ、ゼリアが始めから仲間にいるのだ。


 正直、負ける気がしない。


 ただ、それだけではダメだ。

 最後の要は、リューなのだから。


 だから、これから頑張ってよね。

 リュー。

 今回の更新分はここまでです。

 次回は月末に更新させていただきます。

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