九十七話 私たち、ズッ友だよ!
皆様、こんばんは。
今回分の更新をさせていただきます。
アステ領主との戦いを制し、ルディオ領を占領した反乱軍は束の間の休息に入った。
その間、私は別行動を取らせてもらう事にした。
私のお使いから帰ってきたクローディアと共に、ルディオ領から近い山の麓へ訪れる。
分け入って目指した場所には、小屋があった。
ここは、シロがリシュコールの潜伏に使う隠れ処の一つであり、私も彼女と接触を図るために幾度か訪れた事のある場所だった。
「……大人しく待っていてくれてるかな?」
「待つようには伝えた」
開けて見なければわからない。
シュレディンガーのシロだ。
扉を開け、一間の室内を視線で撫でる。
一瞬、誰もいないように見えた。
しかしよく見ると室内の隅、角の方、身体を外套でくるみ、影の中に隠れるようにシロが座っていた。
申し訳なさそうな、怯えているような、そんな様子で縮こまりながら、シロはこちらの表情をうかがっている。
私が室内に足を踏み入れ、躊躇なくシロへ近づいていくと、彼女はびくりと一度身体を震わせた。
無力な子供のような仕草だ。
あれだけの殺戮を起こした人物と同じだとはとても思えない。
そんな彼女の目前でしゃがみ込む。
シロの視線が私からそらされたので、その両頬を両手でやんわりと掴む。
震えていた。
「どうしたんだい、シロ。そんなに怯えて?」
「だ、だって」
顔を背けられないため、シロの視線が私から逃れようときょろきょろ泳ぐ。
「目を見て話そうよ」
「あっ、あっ、あっ」
促し、無言の圧を与え続けると、長い時間をかけて視線をこちらに向けた。
「僕が怒っているように見えるかぁ?」
笑顔で問いかけると、シロは小さく息を吐いた。
少なくとも、少しは緊張が解けたようだ。
「わ、わかりません」
「大丈夫だ。仕方なかっただろう。僕だって、隠れて反乱軍にいる事を君に伝えられなかったんだからさ」
「い、言えないのは当然です。シロは、バルドザードの人間なんですから……」
「そうだなぁ。通達の不備があったんだ。だから、仕方がないんだ。わかるだろう?」
私の考えを伝えると、シロは少し落ち着いた様子だった。
それでもまだ彼女の表情は暗い。
「シロは、ロッティちゃんの仲間を殺したのに」
「そうだねぇ。それは許されない事だ」
答えると、シロはいたたまれない様子で再び視線を外そうとする。
「でも、別にそれは構わない。気にしなくていい。僕だって気にしちゃいない」
えっ、とシロは小さく驚きを見せ、私を凝視した。
「パパが死んだ時から、こういう事には鈍感なんだ。よっぽど、僕は人の死ぬ事が苦手だったのかなぁ。心が動かなくなった。心が動かなければ、どんな事があってもノーダメージだからなぁ」
そう答えるが、シロの表情は変わらなかった。
「……あなたのお父さんを殺したのは、きっとバルドザードの人間ですよ」
言わなくても良い事なのにね、そんな事。
でも、それを言わない事は公平じゃないと思ったのか。
それが彼女なりの私に対する誠意なのだろう。
シロにはどこか、求道的な部分があるのかもしれない。
それか単純に被虐体質なのかな?
前者なら、生き辛そうだな。
「でも、君自身じゃないだろう」
「はい。誓って」
間違いのない事には堂々と答える。
彼女との交流で、あまり見られる姿ではない。
だからこそ、貴重なこの姿は信用できる。
「ともかく、君は僕を思い遣って行動してくれた。その結果がこれなんだ。僕に怒る資格はないさ」
「え、と、それは嬉しいんですが……」
「何か問題が?」
「シロ達は、敵同士、なんです、よ、ね?」
上目遣いに、チラチラとこちらを見やりながらシロは私に訊ねた。
「ああ、そうだねぇ」
「仲良くしない方がいい、ん、じゃ……」
「どうして?」
「えと、えと……」
返答に対して、シロは戸惑う。
何を言えばいいのか、混乱しているのだろう。
「君の言いたい事はわかる。僕達は敵同士だからな。仲良くしていたとしても、今後は戦う事になる。もしかしたら、殺し合う事になるかもしれない」
「は……い。そうです……」
「それでもいいじゃないか」
「えぇ……?」
「僕は君と友達でいたいよ。君はどうだい?」
「え……と、友達でいたいです」
遠慮がちに、しかし強い意思でシロは答えた。
「ほら、気持ちは一致しているんだ。なら問題はない。僕達は友達だ」
「は、はい!」
シロの顔がパッと笑顔で綻んだ。
「友達のまま敵対し、友達のまま殺し合ったって別に構わないじゃないか」
「はい! お友達のまま、殺し合いましょう! えへへ……」
二人、笑いあいながら友情を確かめ合った。
「……変な関係」
クローディアがぼそりと呟いた。
まぁ、そう言わないでよ。




