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九十三話 フリーダムな姉妹

 最近、著者の記憶力はぼろぼろです。

 戦闘が始まってすぐ、ミラはグレイスの不在に気付いたという。

 この時、グレイスは私の存在に気付いて別行動をとっていたのだが、今にして思えばこれは意図せず指揮官と部隊を分断した形と言えた。


 ミラはグレイスが私を追った可能性に行き当たり、マコトを私の護衛として向かわせる事にした。

 彼女を選んだのは、近くにいる中で一番機動力に優れていたからである。


 グレイスの行動は私情を挟んだ独断ではあったが、引継ぎそのものは済ませていたらしい。

 残す副官に指揮を託していたため、指揮官の不在は兵士達を動揺させるに至っていなかった。


 しかし、動揺こそなかったとはいえ、その行動には徐々にひずみが見え始めていた。

 ミラにとってそのわずかなひずみは致命的な隙であり、勝利を掴むための十分な糸口であった。


 的確な指示で相手を封じ込め、戦力的な余裕を見出したミラは次の一手としてジーナを私の所へ向かわせた。

 マコトが戻ってこない時点で、グレイスが私を襲撃している事をほぼ確定事項として認識していたのだ。


 それから戦況が有利に傾くにつれ、ボラーを送りこんだ。


 その判断があり、私達はグレイスを撃破する事に成功。

 グレイスの部隊もまた敗走させ、反乱軍の勝利となった。


「クローディアは?」


 ミラの説明を聞いた後、名前が挙がらなかったので問いかけた。


「気付いたらいませんでしたよ。現場にいたのなら、自己判断で行動したのではないですか? まったく……」


 クローディアは今でも、何よりこちらを優先してくれているんだろう。

 彼女は雇われているからという理由だけでなく、自分の意思で私を守ろうとしてくれている。


 それはそれとして、状況からしてしばらく様子見していた事が伺える。

 たとえ私情で動いたとしても、クレバーさは忘れないようだ。




 敗れたグレイスは、捕虜として反乱軍に捕らえられている。


 私のウソに傷つき、敵に捕らえられ、彼女は泣いているかもしれないな。

 私に慰められるかはわからないが、一度顔を見に……。


「で、突入する時も先陣切ってなぁ。かっこよかったぞ」

「へぇー、そうなんですか。えーと、その時の事、もっと詳しく教えてもらっていいですか?」


 見に行くまでもなく居る。

 グレイスはジーナと椅子に座って話しこんでいた。


 まぁ……知ってた。


「元気そうだね。グレイス」

「あ、お姉様」


 ちょっと躊躇いがちではあったが、グレイスは私を見て表情を綻ばせた。


「はい。グレイスは元気です」

「収容所からは誰に出してもらったの?」

「えーと、リューさんから好きに出ていいって言われました」

自由(フリーダム)だね」


 そんな時に、「グレイス」と彼女を呼ぶ声がかかった。

 視線を向けると、そこにはゼルダがいた。

 野営地設置中にできた切り株へ腰掛け、くつろいだ様子である。


「確かにリューからそう言われたが、そもそも私達は虜囚なのだ。あまり自由に行動するべきじゃない」


 この野営地で一番自由な奴がなんか言ってら。


 ゼルダは下着姿である。


 最近のゼルダは野営地をこの姿で闊歩している。

 日ごとに纏う布地が減っていたが、ついにこんな事になってしまった。

 この先があったらどうしよう?


「……気をつけるよ」


 何か言いたげではあったが、グレイスは素直に答えた。


「外そうか?」

「別に構わないよ」


 気を使って申し出るジーナにそう答える。


「お姉様……」


 そんな折、神妙な面持ちでグレイスが声をかけた。


「何?」

「パパの仇って誰なんですか?」


 グレイスには、すでに私の大まかな目的を語っていた。

 ゼルダに伝えたのとほぼ同じ内容である。


「今はまだ、語るべき時じゃない」

「もったいぶるなぁ」


 呆れた様子で答えたのはゼルダである。


「敵は周知しておいた方がいいんじゃないか? ここぞという時にみんなでタコ殴りにできる」

「その通りだ。知っていれば協力できるからな」


 ジーナもそれに同調する。


 タコ殴りにしてやりたいという気持ちはあるけどねぇ……。


「というより、直接殴りつけてやりたい」


 表情を険しくし、ゼルダは拳を握る。

 気持ちは一緒だ。


「いずれ話すよ。……それより、聞いておきたい事がある」

「何?」

「双子は一緒に来ていないのかぁ?」


 二人が来た事は想定外だったが、二人が来るなら全員来ていてもおかしくないと思ったのだ。


「一応報せは行っているはずだ」

「それで駆けつけないなら、二人にはそれほど好かれていなかったのかもしれないな」


 それはそれでお姉ちゃんさみしいです。


「それはない。あいつらが好意を示す相手は、お前ぐらいのものだからな」

「そぉ?」


 懐疑的に答えはしたが、内心ではまんざらでもない。


「行動はおかしいが、馬鹿ではないからな。むしろ頭は良い方だ。私達がバルドザードから離れる事を見越して、あえて残ったのかもしれない」

「面白い事大好きな二人がそんな理性的な事するかなぁ?」

「……しない気がする」


 じゃあ、この先どこかで遭遇するかもしれないな。

 それもいいだろう。

 彼女らと戦うのも、反乱軍にとっていい経験だ。


「それから。ずっと気になっていた事があるんだが」


 改まり、ゼルダが問いかける。


「どうして、パパの真似をしているんだ?」


 どうして、か……。

 確かに、そういう意図はある。

 髪形と一人称も寄せている。


「……僕に勇気が足りなかったからさ。僕ではきっと、僕のやりたい事はできない。でも、パパなら簡単にやり遂げるはずさ」

「本当か?」

「ウソではないよ」


 私がファザコンなだけかもしれない。

 これは弔いでもあり、まだお別れしたくないという気持ちもあった。

 男装姿で鏡を見る時、そこにはパパの姿がある。


 親離れできてないんだな、私は。


 私がこの格好をしなくなるのはきっと、全部終わった時だ。

 ……いや、全てが終わったあとでも今の格好をしている気もする。


 あれこれと理由が思い浮かんだけれど。

 それも自分に対する言い訳に思えてきた。

 総じて、私がそうしたいから、という理由に行き着く。


「お前を見ていると、パパを思い出せる。楽しかった記憶を。だから、私としてもお前がそうしてくれているのは、少し嬉しい」

「グレイスも……」


 場が少ししんみりとしている。


「ふっ……やっぱり外す事にする」


 何か居心地が悪くなったのか、ジーナはそう言って離れていった。


 その後、私達はパパについての思い出を語り合った。

 今回の更新はここまでです。

 次はまた月末に更新予定です。

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