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九十二話 決戦! グレイス 対 反乱軍

 皆様、こんばんは。

 今回の更新は二話分になります。


 ほぼ戦闘描写のみです。

 妙に長くなりました。

 次話であらすじと結果を書くので、興味のない方は飛ばしてしまっても大丈夫です。

 どうしてマコトが来たのだろうか?

 野営地の戦況はどうなっている?


「ミラに行けと言われて助けに来た」


 私の疑問へ答えるように、マコトはそう告げた。

 グレイスの不在に気付いて、こちらに人をやってくれたという事だろうか。

 ありがたい。


「あ……あ……う」


 マコトに向けて声を出そうとしても出ない。


「どうしたんだ?」

「雷の力を受けたら、身体が言う事を聞かなくなるんです」


 不思議そうなマコトに、グレイスが説明する。


「そういうもんなのか……」


 マコトはグレイスに向き直る。


「こいつのやった事は非道だ。慕う人間であればあるほど、許しがたい行いだ」


 耳が痛い。


「だが、こいつは無駄にわけのわからない事をする人間じゃない」

「何なんですか? 訳知り顔で……。グレイスの方がお姉様の事はわかってる」


 張り合うようにグレイスは答える。


「だとしても、渡すわけにはいかない。俺には、こいつが必要だからな」

「ううん、返してもらう! お姉様はグレイスのなんだから!」


 グレイスのものではないよ?


「こいつの所有権についてはここで語ると後で文句が出る。だからここまでだ」


 言いながら、マコトは右手に握る大剣(スルト)の柄に左手を添えた。

 開戦の兆候に、グレイスの表情にも緊張が走る。

 腰に佩いた剣に手をやり、抜き放つ。


 それから握る刃が交差し、火花を散らすのに間はなかった。

 間合いを計るなどという上等な戦術はそこになく、マコトはただ歩み近づき、無造作に剣を振った。


 とはいえ粗雑な一撃ではない。

 基本に則った綺麗な一閃である。

 それがグレイスの構える剣を両断した。


 手に持ち、魔力を流した武器は使い手の質によって更なる硬度を得る。

 グレイスの資質は高く、魔力の扱いも一級品であろう。

 聖具を扱うマコトの一撃は、それを凌駕するだけの鋭さを有していた。


 要を成さなくなった得物は速やかに手放し、グレイスは次へ備え防御の構えへ移行する。

 それが成るか成らぬかという一瞬をマコトは剣で撫でた。

 刃を返し、みねをぶつけたのは見えた。


 派手に火花が散り、グレイスのどこを打ちつけたのかしっかりと見えなかった。

 身体に一撃を受けたのか、両腕による防御が間に合ったのかもわからない。


 その成否も、間もなく始まった至近距離での激しい打ち合いによって意識の外へ押しやられる。

 振るい合う剣と拳が、時折攻守を入れ替えながら錯綜する。


 見る限り、マコトの方が多くグレイスの防御を抜ける割合が多いように見える。

 技量の差か……いや、グレイスはあえて打たせているのか。


「ロッティ」


 不意にマコトから名を呼ばれる。


「悪いけど、手加減できない」


 マコトは大剣(スルト)の刃がグレイスへ向くように握りなおした。


「加減されるほど、グレイスは弱くない!」


 怒りの声と共に渾身の右拳がグレイスから放たれ、マコトはそれを見越していたように容易くかわした。

 そして伸ばされた手を斬りつける。


 大剣(スルト)の刃が腕を撫で、火花が散った。

 しかし、その後には傷一つ付いていない。


 如何に強くとも、聖具の一撃を受けて無傷という事はありえない。

 (インドラ)の守りは、覆われた胴体だけでなく身体全てに及ぶのだろう。


 攻撃が効かない事に気付いても、マコトに焦りはないようだった。

 すぐさま次の行動へ移る。

 間髪いれず、二撃を加えた。


「うっ……」


 相変わらず傷はない。

 しかし、グレイスはうめき声を上げた。

 流石に痛みは感じるようだ。


 三撃目に合わせ、グレイスはマコトのわき腹を殴りつけた。


「ぐっ……」


 両者黙り込み、硬質なものがぶつかりあう激しい攻防の音にかすかな悲鳴だけが漏れ、夜に響き消えていく。


 拮抗し、無限に続くかのように思われる戦いは、唐突に終わりを迎えた。


 マコトの上段斬りがグレイスの首へ食い込んだ。

 しかし、同時にグレイスの右拳もマコトの腹へ深く突き刺さっている。

 互いに防御を捨て、攻撃を優先させた形だ。


 その一撃を以って、マコトはその場で崩れるように膝を折った。


「一合目で実力の差はわかっていたはず」

「……それは合理の話だ。心で動くからこそ、あんたもここにいるんだろう?」

「そうだね……」


 グレイスはマコトを見下ろし、肯定の言葉を返す。


「だが、今回に限ればそれだけじゃない」

「!」


 一閃が瞬いた。

 それは私の視線を横切り、グレイスの頭を蹴りつけて通り過ぎる。

 ジーナだった。


「遅かったな」

「ああ、悪い」


 ジーナはマコトに謝った。


「どれくらいで動ける?」

「三分くれ」

「休んでる間に終わってしまうかもしれないな」


 皮肉っぽく答えると、ジーナの姿が消えた。

 かすかに見えた行動の残滓を辿り、そちらを見るとグレイスを蹴りつける所だった。


 しかし、綺麗には当たっていない。

 グレイスは腕で防いでいた。

 すかさずの反撃をジーナは避ける。


「お前達姉妹はみんな目がいいな」


 言いながら、ジーナは連続でグレイスを蹴りつけていく。

 凄まじい速度による脚甲(ヴィシュヌ)(インドラ)のぶつかり合いは、未だかつてないほどの火花と轟音を撒き散らした。


「この程度……!」


 猛攻にさらされながら声を出すグレイス。

 しかしそれと同時に、ジーナの踵がグレイスの向こう脛を蹴りつけた。


「えっ」


 グレイスは呆気に取られた声を出し、一歩後退した。


「でも、痛いだろ?」


 今のは……多分フェイントか。

 一度、ハイキックの軌道を見せながら、途中で下段蹴りに移行したんだ。


 ただでさえ上段ばかりの攻撃の中、高速で展開される攻防の中でフェイントを織り交ぜた下段を出されれば捌ききれなくなるのも当然。


 意識していない場所は防御も薄い、とても効率的な戦略だ。

 これは私の多用する手段でもある。


 体捌きを加えながら、ジーナは距離を取る。

 グレイスはそれを追わず、指先をジーナへ向けた。


 まずい!


「あ……! い、え……!」


 警告を発しようとしても、声が言葉にならない。

 無情にも、その間にグレイスの攻撃動作が完了する。

 彼女の指先から、大気を裂く轟音と雷光が迸った。


 雷光は直線的に、しかしかくかくと曲がりくねりながらまっすぐに、一秒と経たずにジーナへ到達した。

 が、ジーナはその直撃の瞬間、あえて前に出た。


 ……ああ、そうだった。

 基本的に彼女は使わないから忘れていた。


 グレイスの雷撃はジーナの体表を滑るように逸れた。


「ん!」


 ジーナは一瞬で距離を詰め、至近距離の蹴り上げを放つ。

 蹴り上げられた踵は、誤る事無く正確にグレイスの顎を打った。


 ジーナも、雷撃の属性変換を使えるんだった。

 電撃の性質からか、雷撃の属性変換を持つ人間は電撃を逸らす事ができるそうだ。


 蹴り上げられたグレイスの身体が高く浮かぶ。

 それだけ、ジーナの蹴りが強力だった、というわけではないだろう。

 蹴られた直後、グレイスの視線がしっかりとジーナを捉えているのを確認した。


 浮遊を使って威力を逃がしたのだろう。

 それを証拠に、グレイスの身体は地面へ叩きつけられる前にふわりと不自然な機動で浮き上がった。


 何事もなかったように着地する。

 ダメージは、当然ない。


「たいしたもんだな」


 呟くジーナの声には、呆れが混じっていた。


 グレイスはかざした手から炎を発する。

 殆ど爆発と言っても差し支えないそれをジーナは前に出つつ避けた。


 グレイスとしては距離を開けたかったのだろうが、ジーナはまんまと自分の得意な距離へ持ち込んだ。


 二人の接戦が始まる。

 かと思えば、ジーナは縮めた距離をあっさりと離す。


 直後、グレイスの胸から熱線が発せられるも、ジーナは何事もなく射線から外れていた。


 立ち回りだけならばジーナはグレイスを圧倒している。

 だが、グレイスの堅牢な守りを突破できないでいた。

 これでは勝てない。


 逆転の目があるとすれば……。

 視線をマコトへ向ける。


 どっかりと地面に座り、二人の戦いを見守っていた。

 回復のために呼吸を整えているようだ。


 二人で攻めれば、勝てるか……?


「ふぅ……そろそろ行くか」


 マコトが立ち上がる。


「倒しきれなかったな」

「情けない話だ」


 マコトの軽口にジーナが応じる。

 その短いやりとりを経て、マコトも参戦した。


 それを契機として、ジーナの戦い方ががらりと変わる。

 マコトの攻撃に対して、それをフォローするように動き出した。

 距離を取り、グレイスの視線から外れ、反撃の隙を消すように攻撃を加える。

 攻め手の間断を埋め、絶え間ない攻勢を実現していた。


 グレイスも明らかに先ほどより戦いにくそうにしている。


「お前の動きは無駄がないな。合わせやすい」

「素直に嬉しい言葉だ」

「リューは雑だからな」


 二人には軽口を叩き合う余裕があるようだった。


 攻める事ができず、防戦一方に見える。

 しかし、グレイスからはそれほど焦りが見えない。

 ダメージは多くないのだろう。


「無駄、だよ!」


 声を上げるのと同時に、グレイスの拳がマコトに放たれた。

 大剣(スルト)のみねでそれが受け止められる。

 しかし、それでも衝撃を殺せなかったのか、マコトは一歩退く事になった。


 ジーナの攻撃を受け、それを無視しての攻勢だった。

 そのために、マコトも反応が遅れたのだろう。


「あなた達じゃ、グレイスには勝てない」

「かもな。だが、問題ない」


 ジーナの言葉に、グレイスは表情を険しくした。


「余計な事を言うな」


 マコトが嗜める。


「いや、頃合だ。算段がついたから、追加が来てるんだろ」


 ジーナが視線を向けた先をグレイスも見やる。

 遠間から人間大の影が飛来し、空中で静止する。

 緩やかに地面に降り立ったのは、ボラーだった。


「お待たせしました」

「向こうはどうなってる?」

「半数は制圧できています」


 戦場に場違いなほど落ち着いた態度で、丁寧にボラーは答えた。


「グレイスの部隊が?」


 それを聞いたグレイスは表情を険しくする。


「ロッティの妹」


 マコトがグレイスに声をかけた。


「グレイス」

「そう呼んでいいならそうする。あんたは戦士としてなら一流だ。だが、私情を殺せなかった時点で指揮官としては三流だ」


 マコトの基準だと、同じ事をしたゼルダも三流だな。


 グレイスも自覚があるのだろう。

 反論はなく、大きな瞳のまなじりを引き上げ、睨み付けるだけに留めた。


「まぁ、同情はする。あの卑劣な情報操作を受ければ、気が気じゃなくなるのはわかる。姉としてどうかと思うが、ロッティには何かしら考えがあるのだろう。本当に妹にする仕打ちとしてどうかと思うが……」


 マコトは小さく息を吐き、居たたまれない様子でわずかに顔を(そむ)けた。


 めっちゃ非難してくる。

 似たような事さっきも言ってたじゃん。

 そんなに気になる?


 彼女も姉という立場にあるからなのかもしれないな。


「だが、敵同士だ。容赦はしない。戦況に余裕ができ次第、過剰戦力はこちらに回す。それがうちの軍師の考えだ。増援がきたならば、向こうは順調なんだろう。これから、時間を追うごとにこちらの戦力は増えていく。抑え切れるか?」

「グレイスは降伏しません。負けるつもりもない! たとえ、反乱軍の全員を敵に回しても、勝ってみせる! お姉様を連れて帰る!」

「流石はリシュコールの四天王だ」


 交戦が再開される。


 正面にマコトが陣取り、ジーナが地上から、ボラーが空から、持ち前の機動性を活かして援護に回る。

 元から隙の少なくなったマコトの攻め手に、二人分の手数が加わり、グレイスはもはや防戦一方になっていた。

 反撃に回る事ができなくなっている。


「マコト! ジーナ! わかるな!」


 交戦の最中、不意にボラーが声を上げる。

 普段の丁寧さがウソのように、荒い声音だった。


「おう!」

「もちろん!」


 返答があるか否かという絶妙なタイミングで、三人はほぼ同時に予備動作を取った。


 ボラーは着地と同時に剣を引いて切っ先を向け、一歩退いて先頭をボラーに譲ったマコトは上段に構え、ジーナはその後背でクラウチングスタートに似た構えを取った。


「奥義を見せよう」


 ボラーの口から言葉が発せられ、それを合図として三人が一斉に動く。


 地を蹴り上げながら浮遊状態に入ったボラーが勢いに任せてグレイスに突撃する。

 手にした剣は、ほのかな光を帯びていた。

 濃度によって、魔力は可視できるだけの輝きを放つと聞いた事がある。

 それだけ強い魔力があの剣には込められているのかもしれない。

 滅多に見られる光景ではない。

 それだけの魔力を剣に集約しているならば、今のボラーは防御に魔力を回していないのかもしれなかった。


 対してグレイスは電撃と火炎による迎撃を選択する。

 ボラーはそれらをすり抜けるように避けると、急接近した。

 近距離においてグレイスは迎撃を諦めて両手をクロスさせての防御に移行する。


「はぁ!」


 気合の声と共にボラーはグレイスのクロスガードの中心へ正確に剣を突き入れる。


「ううっ!」


 剣の切っ先はグレイスの腕を貫通する事はできないまでも、上を撫でるように滑った。

 刃によって腕へ血の筋が刻まれる。


 (インドラ)の防御に守られた身体に傷をつけた事に驚くのも束の間、事態は流動的に進み続ける。


 痛みに怯んだグレイスの両腕を切り払うと、一息に(インドラ)の胸を斬りつけた。

 火花が散り、ボラーはそのまま斬り抜ける。

 次いで間髪入れず、マコトが大剣(スルト)の権能を利用した突撃を行い、本気の上段斬りを見舞う。

 寸分たがわず、ボラーが斬り抜けたのと同じ場所に小さいながらも傷ができた。

 同じく斬り抜けたマコトに続いて、最後にジーナが助走をつけて強烈な蹴りを突き入れる。

 これもまたマコトがつけた傷を狙ったものであり、ダメージを受けた箇所には亀裂が入った。


「グレイスは……負けない!」


 亀裂が広がり……しかしそこまでだった。

 鎧は砕けなかった。


 一手足りないか……。


 そう思った次の瞬間、風鳴りが耳に届く。

 大気を切り裂いて矢が飛来し、(インドラ)の亀裂を射抜いた。

 矢じりは亀裂を完全に砕き、グレイスの身体へ突き立った。


 火花が散り、その威力に押されるようにしてグレイスは仰向けに倒れた。


 矢の射線を確認するように視線を動かす。

 その時になって、自分の身体に自由が戻っている事に気付いた。


 まだ萎えているような感覚が手足に残っているが、転ばないよう気をつけながら慎重に立ち上がる。


 矢を使う人間。

 それもグレイスへダメージを与えられるほどの使い手となれば、二人しか思いつかない。

 クローディアか、スノウだ。


 だが、スノウはこういう時に光線の方を使うだろう。

 なら、クローディアだ。


 矢の軌道から見て、木の上か。

 待機して、隙を伺っていたのだ。


 目を凝らしても姿は見えないが、どこかに隠れていると見ていい。


「ううっ」


 苦痛に表情を歪めながらグレイスがうめく。

 立ち上がろうとするその胸をジーナが踏みつけた。

 (インドラ)に開いた穴が徐々に修復されつつあったが、それを阻むように脚甲(ヴィシュヌ)をねじ込む。


「これ以上はできない。殺し合いになるからな。お前もロッティも、お互い望んでいない事だ。ここで終わりにしよう」


 ジーナは柔らかい口調でグレイスに語りかけた。

 その後、私の方へ視線を移す。


 そうだね。

 彼女を説得するなら、私が適任かもしれない。


 私はグレイスに近づき、見下ろす。

 彼女の目には、まだ闘志が宿っているように見えた。

 けれど、私と視線を合わせると、その表情は今にも泣き出しそうなほど弱弱しいものに変わる。


「グレイスはまだ戦えるのだろうけどね。そうなれば、ジーナ(彼女)の言う通りになってしまうだろう。そして、どうであれグレイスに勝ち目はない。だから、降伏してほしい」

「どうして? お姉様」

「ごめんね、グレイス。これは僕のわがままなんだ。やりたい事なんだよ。納得はできないと思うけれど、今は僕の言う事を聞いてほしい」


 グレイスは目を伏せた。


「……わかった」


 間を置いて、小さく了承の言葉を向ける。


 ジーナがグレイスの胸から足をどけると、私は手を差し出した。

 グレイスはそれを掴み、立ち上がる。

 手を引き、軽く抱きしめる。


「大丈夫。大丈夫さ。全部終わった時にはもう、グレイスを悲しませる事もないだろうから。だから、今は()を信じてほしい」


 安心させるように、私は告げる。


「うん。お姉様。信じるよ」


 グレイスは抱きしめ返し、弱弱しくもしっかりと答えた。

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