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八十八話 再演! リュー対ゼルダ

 金属音が響き、火花が散る戦い。


 聖具使い三人を相手にして、ゼルダは互角に渡り合っていた。

 いや、互角以上かもしれない。


 目の配り方、立ち回り、体捌き。

 受けるダメージを取捨選択し、下手に避けず受けて致命的な反撃を加える。

 そんな戦い方に見えた。


 だから、攻撃そのものは受けているが、返す攻撃が確実にリュー達へダメージを与えてもいた。


 戦場で培ったものなのだろう。

 乱戦に慣れている。

 冷静さを欠いている今でもそれができるなら、完全に身体へ染み付いた戦い方なのだ。


 使う得物はトンファー。

 私とママが修理したものだ。


 ゼルダはそれを上手く使いこなしていた。

 攻撃する時は拳を突き出して棍と同時にぶつける。どうやら、拳と棍棒が同時に当たる長さで調整されているようだ。

 それだけでなく、状況によっては柄を回し棍を前に出しリーチを伸ばす。

 手の延長のように扱っていた。

 攻撃を受ける際には、正面からではなく横合いから叩くようにしてリューの一撃を捌いていた。


 炎熱の属性変換も惜しげなく使う。

 それもあって私は手を出す事ができなかった。


 しかしながら、ゼルダは常に私を意識している。

 時折走る視線が、私をなぞるのが感じられた。

 下手に動けば、思わぬ奇襲が来るだろう。


 それがわかるからこそ、私は下手に動けなかった。


「炎龍豪覇!」

「何!? この技は!」

「どうだ!」

「強くなったな、リュー! だが、なめるなよ! 覇激鉄拳!」

「ぐわぁ!」


 ……と思っていたが、ちょっとずつ意識が私から逸れていった。


 戦いが楽しくなって、私の事どうでもよくなってない?


 しかし、聖具が振り回され、炎が飛び散る戦場に飛び込む勇気は私になかった。


 冷静に観察すると、三人とゼルダの実力は拮抗しているように見える。

 なら、無理に介入する事もないか。


「だりゃああああっ!」


 縦一文字に戦斧(オーディン)を振り下ろすリュー。

 ゼルダは柄の部分を狙って叩き、その軌道を逸らした。

 振り下ろされた刃が地面に深くめり込み、その隙を衝いてリューの顔面を正面から殴り飛ばした。


 横合いから高速で接近し、蹴りを放つジーナ。

 それはまともに腹部へ命中するが……。


「!」


 攻撃を当てたはずのジーナの表情は焦りに彩られる。

 蹴り足がゼルダに掴まれていた。


「お前は速いが軽いんだよ!」


 強烈なフックがジーナを殴り倒した。


「うおおおおっ」


 ケイが突進する。

 完璧なタイミングで奇襲が決まり、ゼルダの身体が突き飛ばされる。


 二人の距離が開く。

 伸ばした手が届く距離だ。

 示し合わせたように、二人は拳を突き出し合う。


 拳と拳がぶつかり……。

 高い金属音と共に、ゼルダの拳に裂傷が走った。

 血しぶきが上がる。


 好機を見て取ったケイは反対の手で殴ろうとした。

 が、腹を蹴られて距離を取らされる。

 互いに手の届かない距離で、ゼルダは柄を回し、リーチを伸ばしたトンファーの棍でケイの頭を殴りつけた。

 そこからさらに手をかざし、炎を発する。


「うわああああっ!」


 少し離れた私のところまで熱を感じさせる業火。

 それをまともに受けたケイが悲鳴を上げる。


 少しずつ、形勢がゼルダに傾きつつあるだろうか……。

 私も参戦するべき?


 ゼルダは私に対して炎を使わないかもしれない。

 それは希望的な考え過ぎるが、ここで負けてしまっては元も子もない。


 ここで捕まった際のリカバリー案も考えているが、目的への道のりは今までより困難になるだろう。


 幽閉、はないにしろ。

 私は王都に軟禁され、反乱軍は壊滅。

 ゲーム知識に頼れない状態で、新しい道筋を考えなければならない。


 無理にでも、ここはゼルダを倒すべきだ。

 私は、ゼルダに向けて歩み始める。


「止まれ!」


 そんな私を制止したのは、リューの声だった。


「お前が出てくる必要はねぇぜ。こいつ一人ぐらい、俺だけでどうにでもできるんだからな!」


 傷だらけになりながら、そう大言を吐くリューの目は真剣そのものである。

 本気でそう思い、紡ぎだした言葉なのだと見ればわかる。


「よく言えるな! その(ざま)で!」


 ゼルダがリューに向き直り、大音声をぶつける。


「いくらでも言ってやらぁよ! お前の相手は、私一人で十分だ!」


 叫ぶリューの額に、緑の光が宿った。


「これは!」


 驚きを見せるゼルダに、リューの額から放たれた光線が命中する。

 胸元へ当たり、光が弾け、鎧の一部が破損する。


「ぐああああっ!」


 悲鳴を上げるゼルダ。

 高温のエネルギーを一身に受け、それでも彼女は膝をつかなかった。

 光線が止まり、煙が彼女の胸元から立ち昇っていた。


「どうだ!」


 勝ち誇るリューをゼルダは睨み付ける。


「この程度で……なめるなぁ!」


 ゼルダは胸に当てていた鎧を脱ぎ、投げ捨てた。

 惜しげもなく晒された胸が、赤い光を帯びる。

 これは……!


「リュー! 光線が来るぞ!」


 私は警告を発する。

 それに気付いたリューもまた、光線の発射体勢に入った。


 ゼルダの胸から発せられた光線とリューの額から放たれた光線がぶつかり合う。

 夜の闇を引き裂き、ぶつかりあった光線が弾けた。

 光が周囲を照らし、熱波が冷ややかな空気を散らす。


「「うおおおおおおっ!」」


 ぶつかり合う光線は二人の丁度中間の位置で拮抗する。


 どちらの放つ炎熱が強いか。

 これは強い方が押し切るというシンプルな力比べだ。


 懸念があるとすれば、ゼルダの光線が胸から出ている事だ。

 この世界において、胸は魔力の源である。

 その部位から直通で発せられる分、威力が高いと聞いた事がある。


 実際、ゼリアもまた同じ場所から光線を出せる。

 普段は目から出す事が多いのだが、本気を出すと胸から発するはずだ。


 ……派手だなぁ。

 でも、これがこの世界における本来の戦いだ。


 力と力をぶつけ合う、原始的でいて直接的な戦い。

 ちまちまと肉弾戦で関節技極めるのがばかばかしくなる。

 そんな豪快な戦いだ。


「……俺の勝ちだな!」


 不意に、リューが告げる。


「何だと?」


 ゼルダは怪訝な声色で聞き返す。


「お前、ちょっと迷ってんだろ?」

「はぁ?」

「わかるさ。大事な家族が死んで、でもそれはウソで、どういう気持ちでいればわかってねぇんだ」


 ゼルダは黙り込む。

 本当にそういう部分があるのかもしれない。


「だが、俺の熱は、愛の炎だ!」


 何言ってんだろう? と思いつつ見ていると、リューの放つ光線はその言葉を肯定するように、強く光を増した。


「まっすぐで迷いなく、何よりも熱い気持ちの炎だ! 迷ってる奴に、負けるわけがねぇ!」


 その言葉を証明するように、リューの放つ光線がその口径を太くした。

 見るからに増した出力に、ゼルダの光線が押し返されていく。


「何!?」

「だあああああっ!」


 そしてついには胸元まで押し切り、ついにはリューの光線はゼルダの体へ到達した。

 ゼルダの胸に当たる光線の奔流が弾け散り、そしてついにはゼルダの全身を包み込む。


「ぐああああああああっ!」


 リューが光線を止めると、ゼルダは全身から煙を燻らせ、天を仰いでいた。

 やがて膝を折り、そのままうつ伏せに倒れる。


「俺の、勝ちだろ?」


 倒れるゼルダに向かって、リューは火のついた前髪を掻きあげながら勝利宣言した。

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