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八十五話 計画通り?

 ディナール領主、ロッティ・リシュコールは死んだ。

 反乱軍との戦いによる戦死である。

 そして、反乱軍には素性を隠すロッティ・リシュコールが参加していた。


 ……まぁ、死んでるわけないわな。


 簡単に言えば、虚報であり。

 その目的はリシュコールの目を反乱軍に向けさせるための策だ。


 今まで、反乱軍がリシュコールから無視されていたのは、結局私が原因なのかもしれないと仮説は立てていた。


 物語の基点はロッティの死であり、あれがあったゲーム世界ではすぐさま反乱軍への討伐部隊が派遣されたのだ。

 これはほぼ間違いないと見ていい。


 だからこれからは、リシュコールが反乱軍に目を向ける。

 討伐部隊との本格的な戦力を差し向けてくる事となるだろう。


 そしてゲームと同じ状況に沿う事ができるため、私は有利に立ちまわれる。

 というわけだ。


 リシュコールの主力、ゼリアを始めとした四天王は既にバルドザードへ向かった。

 ゲーム通りならば、バルドザードへ向かっていた戦力が手の空いた順に反乱軍を攻撃してくる。


 つまり、戦力の順次投入になる。

 しかも、バルドザードへ向かわせる戦力が必要なため、反乱軍の平定を行うのに極力戦力を出し惜しむ必要があった。


 それは反乱軍からすれば、本来なら数の暴力で負ける所、弱い敵と順当に各個撃破の形で戦えるという事だ。


 そういう経緯があったからこそ、ゲームでは一ステージにおいて一部隊と当たる構成が多かったのだろう。

 四天王がボスとして現れるのも、中盤の後期くらい。


 クラドにおいては、イクスを撃破している。

 なら、反乱軍は確実に実力をつけているという事だ。

 しかも、この時点で本来ならば揃っていないはずの聖具使いも全員揃っている。


 これはイージーゲームかもしれないなぁ。

 などと、私は余裕をぶっこいていた。




 私達は、王都へ向けて進路を取っていた。

 途中に通過する領では、通過を静観するか、迎撃に出るかの二択だった。

 戦いになってもさして苦戦する事もなく、占領しながら順調に反乱軍は進み続けた。


 今や、領に残っている戦力など相手にならなかった。


 途中、迎撃されたので占領した領主街で一時的な休息を取る。


 ケイに誘われて、一緒に訓練する事になった。


「オス! お願いしまッス!」

「よし、来い!」


 彼女も素手に近い戦い方をするので、私との組み手は勉強になるとの事だった。


 私がよわよわ耐久力なので、基本的に投げを主体とした組み手になる。

 ケイもそれに影響されたのか、最近では打撃よりも投げを試みる事が多くなっていた。


 体力的に自信があるからか、ケイは力みやすいというクセがあった。

 実際に強引な攻めを許容できるだけの実力を彼女はもっているが、私からすると重心を崩して投げやすい相手である。


「う? あ!」


 浮遊などの魔力変換がないため、どれだけ彼女が頑強でも重力から逃げられない。

 物理法則に従う以上、質量が近しいのだから体勢を崩させる事は比較的簡単だ。


「ああっ!」


 私はケイを投げ飛ばし、彼女は背を地面に打ち付けられた。


「もう一丁?」

「……ここまでにするッス。負け続けだと、心が折れるッス」


 そう言うが、少しずつ私の技にも対応してきて少し怖いんだけどね。


「じゃあ、ここまでだなぁ」


 そんな折、ミラが私の元へ訪れる。


「シャル様」

「何か?」

「リアから報告です。シロがシャパド領から姿を消したとの事です」


 隠れているだけではないか? とも思うが、リアなら探しだせそうだ。

 彼女が言うなら、本当にいないのかもしれない。


「害がなければ構わないさ。何より、知られて困る事もないからなぁ」


 知れて、リアが後方の守りを担っているという事がわかるくらい……。

 ……ふむ。


「承りました」




「なぁ、乳板が足りなくなってきてんだけど」


 野営中、リューがそう申し出てきた。


 乳板……?

 ああ、あれか。


 激しい運動などをすると、乳首が擦れてしまって痛いのが世の常である。

 そのために絆創膏などを張って対処するものなのだが……。


 まぁ、この世界の女性は少しだけ違った悩みを持っている。

 擦れてダメージを負うのは布の方だ。


 金属並みの頑丈さを持つ乳首は、場合によって走っている最中に下着を破ってしまう事がある。

 状況次第ではぶるんばるんと大惨事だ。


 それを防ぐためにあるのが、下着と乳首の間に挟む鉄の板。

 通称、乳板だ。

 つまりニップレスだね。


 ……正直、私にとって驚くほど関係ない話だ。


「もういくつも穴開いてさ。鉄くずばっかりなんだよ」


 金属にも穴が開くんだね。


「再利用できないのかぁ?」

「修理する奴が少なくってさ。そのくせ、結構すぐ穴開くから追いつかないんだよ」

「……修理って、どうするの?」

「穴開いた鉄を叩き延ばして、折り曲げて板にすんだよ。で、形を整えるんだってよ。いい感じに整えないと、きっちりフィットしねぇからよ」

「フィット感が大事なわけだ」

「お前だって使って……なさそうだな」


 こんな事で私は怒らないぞ。


「……一工程省いて、熱した鉄板を直接乳首に当てて型取ったら? 完璧にフィットするよ」

「熱いじゃねぇか」

「でも、リューならそれでもなんとかなりそうだし……」


 流石に無理なのか。


「まぁ、でもできなくなさそうだな。やってみるわ」


 やるんかい。


 礼を言って去っていくリューを見送り……。

 ……と思ったが、ちょっと気になったので彼女を追った。


 すると、早速鍛冶ができる仲間と話をしていた。


 そしてすぐに鉄くずに火が入れられ、熱せられて適度に形を整えられた鉄板が用意された。


「よし来い!」


 盛大に脱いだトップレスのリューが仰向けに寝転がり、その乳首を覆うように赤熱化した鉄板が置かれる。


「あああああああああああっ!」


 大きな声を上げるリュー。

 しかし、慌てた様子もなく寝そべっている所を見ると余裕があるのだろう。


 その鉄を鍛冶が金槌で細かく叩き、整えていく。


 もはや拷問にしか見えない光景だ。


 そして最後には水で冷やされ、蒸気が辺りに充満した。


「もういいぞ」


 しばらく時間をおいて熱を冷まし、鍛冶に言われてリューが立ち上がると、胸の鉄板は完璧にフィットして張り付いていた。


 リューはその上から下着をし、何度か飛び跳ねた。


「すげぇ! 何か付け心地が今までと違う!」


 リューは絶賛し、嬉しそうに動き回る。


「これいい! 今度からこれにする!」

「そんなにいいのか! じゃあ私のもお願い!」

「あたしも!」


 はしゃぐリューを見ていたギャラリーが、次々に申し出た。


 そして、この乳板の再利用法は反乱軍内で流行る事となった。


「こら! 乳首を立てるな!」

「だって! だって! 変な気分になるんだもん!」


 変な方向にも流行った。




「よく見ると……アルファだな」


 行軍中、近くに寄ってきたマコトが声をかけてくる。


「黒い馬なんて珍しくないからなぁ」


 判別できなくても仕方がない。


「じゃなくて、拠点にいる時のこいつまるまるしてたじゃないか」


 ああ、そういう事か。


「太りやすい体質なんだよ。休める所に着くと、もりもり食って寝てすぐ太る」

「そんなんで大丈夫なのか?」


 むしろ良い馬ですよ。とボラーが話に加わった。


「休める時に休むという事は、軍では大事ですからね。戦いの最中でも落ち着いた様子ですし、軍馬としてはかなり優秀です」


 気にした事はなかったが、そう言われるとそうなのかもしれないと思えてくる。


 敵の姿もなく、行軍をしていると先見に向かわせていた部隊が帰ってきた。

 報告に着た仲間はとても慌てた様子である。


「報告します! この先、敵部隊の布陣を発見しました」


 それだけならこれまでにもあった事だ。

 なのにこの慌てようはなんだ?


 ついに、来たか?

 リシュコールの本隊が。


「敵部隊、規模大。何より、掲げる旗はゼルダ・リシュコールのものです」


 ……あれ?


 本来このタイミングで戦うのは、名前すら覚えていない敵将の部隊だった気がするんだけど?

 ゼルダ?


「距離を置き、グレイス・リシュコールの部隊の布陣も確認」


 ???


「加えて、多数の部隊が点在しております」


 ええ?


「落ち着け。部隊の配置を詳しく報告しろ」


 ミラが一言告げ、詳細な報告を促す。

 言われて仲間が伝えてきた敵の位置は、広く薄い壁のようだった。


「こちらを逃がさず、包囲しようという意図が見られますね」


 山狩りみたいだな。


 ……殺意が高い。

 必ず見つけて殺すという意思を感じる。

 どうして?


 ゲームではこんな事なかったはずなのに……。


 ぼ、僕のデータにはないぞ?


 なんでこんな事になってしまったんだろうか?

今回の更新はここまでです。

次の更新は月末にさせていただきます。

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