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八十四話 ゲーム通りの展開

こんばんは。

今回は今日一話分、明日二話分の更新の予定です。

「前にもあったな。こういう事」


 頭の痛みに知らず手を当てた額。

 遮られた視界から見えるのは部屋の天井。

 背中へ感じるのは布団の柔らかさ。

 当然のように全裸。


 多分二日酔い。

 呑んだ憶えはないんだけれど。


 風呂に入りたい……。

 この館に風呂はあるんだろうか?


 起き上がってベッドに座り込む。


「起きましたか」


 声をかけられて見ると、椅子に座ったミラが林檎を齧っていた。


「前もそうしてたな。僕の寝顔を見ながら食べる林檎は美味いのかぁ?」

「不思議と」

「くれよ」


 投げ寄越された林檎を受け取って齧る。

 林檎の甘みに、二日酔いの鈍痛が和らぐようだ。


「他の連中は?」

「朝方まで騒いでだいたいが寝てますよ。素っ裸で」

「一日くらいいいだろう。手ごたえが薄いとはいえ、領を一つ落とした事に違いが無い」


 時間の猶予はまだあるだろうし。


「グリアスから接触はないか?」

「まだありませんね。そろそろ来ると思いますが」

「それまでは時間があるな。何か報告は?」

「今朝方、リアが会いに来ましたよ」


 リアが?

 彼女の聖具なら一瞬でここまで来れるだろうが。


「用件は?」

「シャパド領、というより反乱軍を嗅ぎまわっている者がいるとか」

「ふむ。その人物は呪具使いなんじゃないか?」

「よくわかりましたね」


 シロだろうな。

 派手に活躍していたからな。

 戦力の想定が上方修正され、注目されたという所か。


 ゲームではどうだったんだろうか?

 過小評価されていたからこそ、援助されていた気もするな。

 なら、ここで警戒されるのはあまりよくないのかもしれない。

 ゲームとは違う展開になる可能性がある。


 とはいえ、あまり気にしなくてもいいかもしれない。

 これからはリシュコールと本格的に事を構える事になる。

 快進撃などできようはずもない。


 その様を見て評価が下方修正される事を祈ろう。


「何度か撃退したそうです」

「つまり、毎度逃げられているわけだ」

「そうとも言えますね」

「リアは比較的温厚な性格だが、呪具使いに対しては厳しいからな。見つけ次第殺そうとする」

「そうなのですか?」


 思いがけない話だったのだろう。

 ミラは問い返した。


「今までの戦いで相対した事はないが、相手取れば殺意は高いぞ」


 まぁ、当人の聖具が呪具使いに対して能力を十全に発揮できないのだから相性は悪い。

 彼女単体で、呪具使いを倒し切る事はまずできないだろう。


 何より、シロは強い方だからな。

 避ける、当てる、攻撃痛い、の三拍子だ。

 飛行特攻も持っているので、油断しているといつの間にかボラーが落ちていたりするのだ。


「報告だけで指示を仰がなかったという事は、特に問題はないのだろう。この件は放って置こう」

「わかりました」




 早朝。

 静寂の中、木刀を打ち合う音が響いている。

 その中に混じる二つの息遣い。


 その主は私とマコトである。


 朝に走りこみをしていた最中、ばったりと出くわしてマコトから鍛錬を申し出をされた。

 断る理由もないので、私はそれに付きあう事にした。


 かれこれ、木刀を打ち合って三十分は経っている。

 勝敗ではなく、剣の理を突き詰めるための打ち合いだ。

 互いに致命打となるだろう一撃を寸止めし、仕切り直す。


 動き続ける体には熱がこもり、肺腑を満たす朝の冷気でもそれを奪うには足りなかった。

 むしろ、呼吸の度に清々しさを覚える。


 いつの間にか、マコトの背後でヨシカが腕組みをして立っていた。

 満足げにマコトの様子を眺めている。


 少しして、マコトの一撃を受け止め損なって寸止めされた。


「ここまでにしよう。そろそろ握る力が入らなくなってきた」


 それを見計らってそう告げた。

 極力いなしたとはいえ、マコトの力を受け続けるのはきつい。


「ああ」


 互いに礼をして鍛錬を終える。

 ヨシカの姿は消えていた。


 見に来ただけか。


「ほとんど取れなかったな」


 座り込んで休憩していると、マコトが言った。


「本気でやりあえばこうはいかないさ」

「案外本気だったんだ。木刀を砕くつもりで打った一撃も、あんたはしのいだ。それどころか、反撃で一本取られたからな。それは、完全に技で負けてるって事だ」


 素直に嬉しい賞賛だ。

 技だけは磨いてきたから。

 けれど、技だけなんだよ。


「どうして、俺と戦う時に剣を使わないんだ? その腕なら、素手で戦うよりも楽に勝てただろう」

「聖具を相手にできるのは聖具だけだよ。ただの剣を使ってもすぐダメになる。それに、斬りつけた所で君にダメージは与えられない。真剣勝負ではあれ以外に勝機はなかったんだよ」


 正確に言えば、手段はある。

 けれど、私の手段は関節技以外、全てが殺しの技だ。

 マコトを殺すつもりは無い。


 ……形見の短剣がダメになるのも嫌だし。


「そうなのか」


 しばらく間が合って、マコトが問いかけてくる。


「次は何をするんだ?」

「前にも言ったが、これからはリシュコールの軍が相手だ」

「今までもそうだったろう?」

「あれは領主が自衛のために残した兵だけだった。けれど、これからはそう行かない。主力が相手だ」


 ゲームと同じく、戦地に出ていたリシュコールの猛将達と戦う事になるだろう。


「……今までとこれから、どうしてそんな変化が起きるんだ?」

「今までは敵として見られなかったからさ。だから、敵として見られるように策を講じる」


 何、方法は簡単だ。

 ゲームと同じ状況にするだけさ。


「そして、リシュコール軍と真剣に戦うため、今は機会を待っている」

「機会?」

「具体的に言えば、バルドザードへ出征する時期だ。その頃なら、リシュコールの戦力も乏しくなるからな。最終的には主力のほとんどが反乱軍(こちら)へ差し向けられるだろうが、それが揃うまでにも時差ができる」


 ゲームでも四天王を含む多くの戦力は、一斉投入ではなく随時投入の形で反乱軍の行く手を阻んだ。

 そのおかげで、反乱軍は順当に経験を積んで戦力を増強していったのだ。


 あれはバルドザードへの出征中に反乱軍の決起があったため、まばらに戦力が投入されたのだと思われる。

 まぁ、侮りもあったのだろうけどな。


 なら、これからの反乱軍もその展開を狙って行動するべきだろう。


「そういうわけだ。だから、今しばらくのんびりしよう」

「あんまりピンと来ないけど、あんたが言うならそうなんだろうな」


 それから数日が経ち、グリアスからバルドザードへのリシュコール侵攻が伝えられた。

 情報を受けた反乱軍はベックの隣領であるディナールへ進軍。


 二日の時を要し、領主街を制圧。

 そして、その戦いにおいて領主の戦死を発表した。


 大々的に喧伝された王族殺しの報に反乱の機運は高まり、同時にリシュコールの反乱軍へ対する敵意は強まる事となった。

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