七十九話 ルマルリ攻略 前編
皆様、こんばんは。
今回の更新は二話分になります。
今回の戦いで、少し確認しておきたい事があった。
その最初の一手として、私は領境における戦いで領兵を一人見逃した。
逃げた領兵は領主に報告し、反乱軍への対応を進めるだろう。
つまり、ゲームと同じ状況だ。
「逃がして大丈夫なんスか?」
ケイは不安そうに問いかけてきた。
「さぁ?」
私は冗談めかして肩をすくめる。
「えぇ……」
まぁ、失敗したらその時だ。
早々に撤退してミラに謝ろう。
そこからの行軍は戦闘もなく、平和なものだった。
正直に言えば、想定通りである。
「ちょっと北へ遊びに行こうか」
「何で?」
ジーナが不思議そうに訊ね返した。
「みんなでキャンプがしたくなってね」
「本当に何でなんスか?」
とケイも不思議を通り越して怪訝な表情で返したが、それでもみんな付き合ってくれた。
山の中で野営の準備を始める。
その時を見計らって、ジーナに声をかける。
「ちょっとウサギでも獲ってきてくれないか?」
「足りないのか?」
「僕が食べたいだけ」
「……」
そんなやり取りをしていると、私の背後にいたクローディアが口を出す。
「私が行ってこようか?」
「いやいや、ジーナに獲ってきてほしいんだ」
「そうか」
で、どうする? と視線でジーナに問いかける。
「行ってこよう」
「ありがとう」
人望がある的な話を前にされたが、こうしてよくわからないお願いも聞いてくれる所を思うとそれもあながち間違っていないのかもしれないな。
まぁ、限度はあるだろうが。
それから三十分後。
「なんかすごいのが獲れたぞ」
と、全身銀色のウサギをジーナが獲って来てくれた。
「ありがとう」
思った通りだ。
ジーナなら獲ってきてくれるんじゃないかと思ってた。
それからさらに行軍して数日。
その間、領主軍と遭遇する事はなかった。
偵察によれば、領主街の近辺に戦力が集中しているらしい。
「目的地を変更しようと思う」
「どこッスか?」
私は地図のある地点を指す。
「領主街通り過ぎてんスけど?」
「このまま突っ込んでも現戦力じゃ勝てないでしょ」
「かもしれないッスけど」
「じゃあ、散歩がてら回り道しよう。その間に良い考えが浮かぶかもしれない」
そうして辿り着いたのはある川である。
「ここでバーベキューでもしようか」
「何でッス?」
「綺麗な川だろう?」
「そりゃそうッスけど」
「こういう綺麗な光景を見ながらの食事は気分がいいじゃないか」
「そうッスね!」
ケイは私に言いくるめられて笑顔で了承した。
「バーベキューの準備はしておくから、ちょっと川でお魚を獲って来てくれないかな?」
「え? はい、わかったッス」
ケイに魚の調達をお願いして、私はバーベキューの準備を始めた。
「すごいのが獲れたッス!」
そう言って、ケイが虹色の光を放つ鮭を持って帰ってきた。
すごい。確かにすごい。
……食べたら体に悪そう。
なんで光ってるの?
「これ、こんな見た目だったんだね」
「これが何か知ってるんスか?」
「知識としては」
「食べるんスか?」
「贈答用だ。持ち運びたいから、塩漬けにしておいて」
「わかったッス」
バーベキューを存分に楽しみ、反乱軍はある町へ向かった。
そこも私が指定した場所である。
町に着くと、私はクローディアと二人で鍛冶屋へと向かった。
応対した店主は、老齢の男性である。
「客か」
「反乱軍の者です」
あっさりと素性を話した私達に、店主は呆気に取られた様子だった。
「よくもまぁ、怖じもせず答えられるもんじゃ」
「あなたになら、話しても大丈夫だと思いました」
「へぇ、何の用じゃ?」
「鍵を、譲り受けたいのですよ」
たいしたもんだな、と店主は呟いた。
「まぁ、皆が待ち望んでいる事だ。協力もやぶさかではないが」
値踏みするように、店主は私を眺める。
「条件がある。東の川に住むという虹の鮭を獲って来い」
「丁度良かった。それなら手元にあります」
私は荷物から虹色に光る鮭を取り出した。
ケイが川で獲って来たあれである。
「何であるんじゃい!」
「たまたまですよ」
怒鳴る店主に、私は笑いながら答える。
「いや、いいや、まだじゃ。もう一つ条件がある。西の山で獲れるという鉄ウサギを持って来い」
「なんですって? 実はそれもたまたま持ってます」
私は荷物の中からウサギを取り出す。
ジーナが獲って来たやつである。
「何である!? 領城の反対方向じゃろうが! お前らどこから来たか知らんが、ふらふら寄り道しすぎじゃろ!」
「まぁまぁ。それで、満足いただけましたか?」
店主はしかめっ面をしていたが、「いいじゃろう」と返した。
店の奥に一度引っ込んでから、鍵を持って現れた。
「場所をお聞きしても?」
「鍵の事は知っておるのに、場所は知らんのじゃな」
「あいにくと知識が偏っておりまして」
具体的にゲームで表記がない事はわからない。
店主に教わった場所は、ここから北西に行った場所にある橋だった。
石橋の下。
橋の一部に偽装された扉があり、石と石の隙間に巧妙な偽装で鍵穴があるという事だった。
「この町には、滞在するのか?」
「領主に積極的な討伐の意思が見られませんから、のんびりはできますよ」
「領主は臆病じゃからな」
店主は心底おかしそうに笑う。
「明日の昼頃にもう一度来い」
そう言われ、指定された時間にもう一度鍛冶屋へ訪れる。
「ほれ、持っていけ」
そうして渡されたのは、一本の短剣だった。
「魔鋼の短剣だ」
「御代は?」
「いらねぇよ。どうしてもというなら、領主をどうにかしてくれ」
「わかりました。ところで、魔鋼とはこれと同じ物ですか?」
腰に佩いていた短剣を鞘から抜いて見せる。
「ほう。いい仕事だな」
短剣を見て店主は感心する。
「魔力保存性の高い金属が正式名称じゃないんですね」
「なんじゃ、その回りくどい名称は」
同じものかな? とは思っていたが確証が持てないでいた。
それが今解決した。
「高価な物のはずですが、そんなにポンと貰っていいんですか?」
城さえ買えるという代物だ。
タダ働きになるかもしれない代価で貰っていいのだろうか。
「等価じゃよ。素材はお前が獲って来た。鉄ウサギというのは、金属を食べるウサギでな。その内臓が短剣の素材よ。そもそもべらぼうに高いのも、滅多に手に入らんからじゃ」
まぁ、今まで生きてきた中で一度も見た事は無いかな。
「それに、もう既にこれ以上ない報酬は受け取っておるよ」
「それは?」
「虹の鮭は万病に効く。妻は長く患っていたが、鮭を食わせたらみるみる回復してな。あいつの命は、それをくれてやっても惜しくないだけの価値があるという事じゃ」
ロマンチックな話だ。
「まぁ、せいぜい役立ててくれ。男のお前さんには、特に有用なものだろうからな」
「私は女です」
にっこりと笑って答えた。




