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年賀状配送事故

作者: こますけ

 銀河配達人組合D級独立配達員、クターマ・トットは焦っていた。

 このままでは、どのルートをとり、どれほどウラシマ効果を利用しても、期日――銀河統一暦における一月一日までに年賀状配送は不可能だ、という計算結果が出てしまったのである。

(参ったな。気安く請け負ってしまったけど、誤算だった。まさか、この時期この宙域の跳航路がこんなに混み合うなんて……。)

 このままでは、組合から遅配の責任を問われることになる。ペナルティによるマイナスポイントがつけば、長い間苦労に苦労を重ね、つい先日手にしたばかりの独立配達員の立場だって危うくなる。

(ああ、もうこうなれば、奥の手を使うよりほかない!)

 クターマは腹を決めた。採算度外視で最高速配達手段を使うことにしたのだ。

(速達配送料をもらっても足が出てしまうけど、背に腹は代えられないものな。)

 彼は大急ぎで配送船を操作し、高硬度中性子殻に頼まれた数十枚の年賀状を収め、超電磁砲に装填した。そして、目的地の銀河座標をばたばたと入力すると、超高速自動跳航弾を、目的地へ向けて発射したのである。

(これで大丈夫。費用は痛いけど、計算では絶対に間に合うはず!)

 クターマはほっと安心し、肩の力を抜いたのだった。


 その日、地球は、突如地獄と化した。

 宇宙の彼方から予告もなく飛来した物体が超高速で海面に突き刺さったのだ。

 千度を超える熱風と衝撃波が周囲数千キロにわたる海と陸とを焼き、破壊し尽くす。さらにそこへ、高度三百メートルを越える津波が襲いかかり、沿岸部に生息していた生物は潰滅した。

 その後、衝突により巻き上がった粉塵が日光を遮ったことにより、急速に地球の気温は下降。いわゆる「核の冬」が訪れる。

 氷河期にも匹敵する寒さが数十年間も続き、そのせいで、実に全生物の7割が死滅した。

 こうして恐竜の時代である中生代は終焉を迎え、やがて人類へと至る哺乳類の時代――新生代が幕を開けたのである。

 すべては、年賀状の配送をぎりぎりで依頼したものぐさ異星人と、遅配を怖れて銀河座標をよく確かめもせずに跳航弾を射出し、地球にとんでもない速度で誤配送した、おっちょこちょいの新米配達員が原因であった。


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