法の侵食
雲を突き抜けて青空を切る様にバトルシップは進む。一心不乱に進み続けて来たけど、流石に限界だ。僕達の体がね。花の城から脱出した時に、テトラの力で楽したけどそれも限界。幾ら力を入れずに貼付けるって言ったって、流石に超スピードで進んでるバトルシップの外に居続けるって辛い物がある。
Gがね……Gがキツい。かなり離れた筈だし、流石のシクラ達もバトルシップには追いつけない筈だ。ここらで中に入れる事を求めるよ。そう思ってると、僧兵もそこの所を分かっててくれたのか、地面に向かい出した。そして下りたのは白い砂浜が美しい場所だ。
砂を巻き上げて静かにバトルシップは地面に着陸する。
「はぁ~疲れた」
ずっと体に負荷が掛かり続けてたからな、体の節々が伸びをする度にポキポキとなる。
「なんとかなったな」
「クーのおかげでな」
僕のそんな言葉にテトラはムッとしてこう言うよ。
「俺のおかげでもあるだろ。貴様等の事を思って俺の力で繋いでやったんだ」
「アレは助かったよ。だけどMVPはクーだろ? アイツが居なかったら、法の書だって見つけられなかったし、シクラ達から逃げる事だって出来たか分からない」
「いざとなれば、俺がまとめて相手してやったさ」
良く言うよ。自分でもまとめてはキツいって言ってただろ。すると僕の目を見て、テトラは内心を読み取ったのか、言って来る。
「何だその目は。数十秒位は一人でも足止め出来るさ。まあその時はこの命が消えるのも覚悟しないと行けないがな」
「そうだな……」
邪神であるテトラですら、その覚悟が必要。クーの奴は、自分を犠牲にして僕達を逃がしてくれたんだ。
「あいつは、無事かな……」
「あの鳥の事か? どうだろうな。本当にサクヤという奴が大切にしてるのなら、殺されずに済みそうでもあるが……分からんな」
だろうな。誰にも分かる筈が無い。そもそもサクヤは今は心を封じられた状態……もしもクーをシクラの奴が消滅させるとか言い出したって、反対なんかしないんじゃないか? でもまだセツリの奴が居るか。
絶対的な主のセツリが反対すれば、クーの生存率は飛躍的に高まると思う。でもセツリは色々と影響を受けやすい奴だからな……シクラの奴に上手く言いくるめられるって事も考えられる。
最初は勿論クーの処分には反対しても、シクラの巧みな話術にはまって行く様は結構簡単に想像付く。まあ、実際あいつ等がこの事態をどれだけの事と捉えてるか分からないから、幾ら考えてもクーがどうなったかなんか分からないんだ。
「スオウ!」
「どうしたクリエ?」
いきなり大きな声を出したクリエが泣き顔で僕を見上げてる。なんだなんだ?
「あの子の事も心配だけど、ピクも大変なんだよ!」
そう言ってピクに絡めてる腕に更に力を込めるクリエ。ポタポタと透明な雫が白い砂浜に落ちて染みを作っては直ぐに吸収されて消えて行く。そうか、ピクの事わす……あれ?
「おい、クリエ」
「何? 早くピクを元気にしないと!」
「そうだな……その為にもまずは力を緩めた方が良いぞ」
「え?」
ピクの奴、クリエに締め付けられてピクピクしてた。そんなに力が強い訳じゃないだろうけど、丁度上手く首を絞める形に成ってたのかも知れないな。クリエは「うぁ!」って言ってピクを解放する。
ヨロヨロとなんとか浮かぶピク。だけどゆっくりと地面に倒れ込んだ。やっぱりダメージは抜けきってない様だな。自分で回復する事は出来ないんだろうか? 回復とサポートがピクの得意分野だろうに。
自分で回復魔法を使う体力もないのかもしれない。するとそこにリルフィンとミセス・アンダーソンも来てくれる。
「苦しそうだな」
「私が回復魔法を使いましょう」
そう言って詠唱を始めるミセス・アンダーソン。やっぱり回復魔法とかも使えるんだな。さすがは魔法の国の住人。ミセス・アンダーソンが唱えた魔法がピクを包んでく。表面の傷が消えて、HPも完全じゃないけど、ある程度回復する。
「ピク!」
クリエは顔を上げたピクに再び抱きつこうとする。だけどピクはそんなクリエをかわして僕の肩に止まった。振られたクリエはその勢いのままに砂浜にダイブしてたよ。
「むむ~ピクのいけず!!」
そう言って不満を僕にぶつける様にぽかぽか足を叩いて来る。まったくなんで僕に当たるんだよ。お前が首を絞めるからだろ。
「さて、ピクもこれで安心ね。これからどうする? 私としては一度、サン・ジェルクに戻って欲しい所だけど。報告したいしね」
「そうだな……」
僕もそれは必要だろうと思う。僕達が安心出来る地は今やあそこだけ……だけどリルフィンの奴が、ミセス・アンダーソンの提案を否定する。
「ちょっと待て、このままサン・ジェルクに戻って大丈夫か?」
「大丈夫かってどういう事よ?」
「考えてもみろ、俺達がこの世界で頼れる奴は少ない。バトルシップを見たのなら、それがサン・ジェルクだと簡単に分かる事だ。奴等の戦闘力なら、平気で乗り込んで来るぞ」
「確かにそれはあるな……」
僕はリルフィンの言葉に頷くよ。バトルシップは現状サン・ジェルクしか保有してない。バトルシップだけで僕達がどこから来たのかバレバレだ。そしてどこに帰るかもよく考えたらバレバレだ。
幾らバトルシップが最速でも、待ち伏せされたんじゃ敵わない。バトルシップは最速だけど、あいつ等の場合は速度とか無視した移動手段があるからな。それを考えたら追っては来てないけど、サン・ジェルクに先回ってるって事はあり得るかも知れない。
「だけどそれならどうするのよ。他に行く宛なんかないわよ。そもそも法の書を手に入れてからのプラントかどうなってるのよ?」
「それはもち……ろんないな」
取り返すってことで頭一杯だったんだ。あのシクラの奴が直々に出向いて色々と画策までして奪って行った法の書だ。奴等から取りあげるだけでも効果はあると思ってたからな。でも実際手に入れてここまで来てみると、確かにコレからどうしようって感はある。
シクラ達に次は決着付けるとか言っといてなんだけど、マジでプランはないな。どうやって扱う物かも分からないもん。法の書とともに残り二つのアイテムもあるけど、具体的な使用方法とか書いてないもんな。
説明は可も無く不可も無いものだけだ。あれだけ苦労して手に入れたアイテムの説明が一行で済ませられてるってどうなんだよ。もうちょっと力入れとけよって思うな。僕はアイテム欄から法の書を取り出してパラパラめくってみる。
「あれ? 何も書いてないぞ」
速攻でシクラの奴に取られたから確認してなかったけど、こう言うものなのか? まさかダミーを掴まされた? シクラの奴ならやりかねない。
「少し貸してみろ」
「私にも見せなさい」
テトラの奴が僕から法の書を奪い、それを小さなミセス・アンダーソンと共に見る。変な光景だな。てか、ミセス・アンダーソンもすっかりテトラに馴染んでる。お前達の宗教の天敵というか宿敵の筈なんだがなそいつ。
まあ分かり合うのは良い事だよな。結局直接会って知ってしまえば、後は自分の心次第という事だ。心からシスカ教に浸透してる信者とかは無理なのかも知れないけど、ミセス・アンダーソンの奴は偉い割には破天荒だからな。
心のキャパシティがデカいんだろう。ノエインの奴も教皇なのにテトラを毛嫌いする訳でもなかったし、あれだよな……偉い奴程広い心を持ってなきゃ行けないってことなのかもな。
リアルではなかなかそうは行きそうに無いけど……偉い奴程保身に走るのは良くある事。元老院だってそうだし、政治家やら企業のトップやらはやっぱり得た物を失う事は怖いんだろう。
テトラを受け入れるなんて、下手したら「裏切り者」とか言われてもおかしく無いからな。そう成ったら今まで築いて来た信用とか全てを崩してしまうかも……宗教程、のめり込んで怖いものもないと思うもん。
なまじ頼ったり縋ったりで求める物だから、依存度が半端ない事に成るんだろうな。僕達日本人には感覚として薄いけど、今なお戦争してる国は宗教関連ばかりだしな。怖い怖い。お偉いさんがノエインとかミセス・アンダーソン位に心を広く持っててくれれば、いろんな違いだって受け入れて行こうとしてくれそうだけど、リアルは皆殺しだから。
まあLROの五種族とモンスターの関係は同じなのかもしれないけど。僕達はモンスターを絶対悪だと決めつけて、倒すべき敵だけとしてみてた。それが当たり前だった。宗教の違いってのは一歩間違えばそう成ってしまう物なのかも知れない。
「これって……」
「特殊な術式が組まれてる様だな」
二人でぶつぶつ言ってるけど、何か分かったのか?
「おい、本物なのかそれ?」
「本物は本物でしょう。わざわざ偽物に余計な仕掛けをするとも思えないからね」
「そっか……それは良かった」
僕はホッと胸を撫で下ろす。だって散らかった部屋に無造作に放置されてたからな。ホントあの時は切羽詰まってたから、これだ! と思ったしシクラならこんな適当もあり得ると思ったけど、考え出すと逆なんじゃね? と思えて不安だったんだ。
あの普段からふざけてる様な奴は、案外ちゃっかりしてるからな。でも本物らしいし、安心だ。けど何も書かれてなかったけど、どこでそれを判断したんだ?
「見てろ」
そう言ってテトラの奴が白紙のページを開いてこちらに向ける。その状態でテトラは自身から靄を放ち出した。するとそれに呼応する様にページに文字が浮かび出す。
「これって……」
「どうやら力に反応してその内容を表す仕様の様だな。憎い仕掛けだ。かなりコレはキツいぞ。だから奴等はまだ使ってなかったのかも知れないな」
「どういう事だ?」
「やってみれば分かる」
そう言ってテトラは法の書をポイってな感じでこっちに投げて来た。なんて無造作な扱い! もっと最重要アイテムな感じで扱えよ。僕達の最後の希望だぞこの本は! 僕は慌ててキャッチしたけど、ムッとしてテトラを見据える。。
だけど奴に反省の色はない。すかした顔をしてるだけだ。しょうがないからどんな物かやってみるか。え〜と力を……力を……僕は取りあえず法の書を持って、踏ん張ってみる。
「んぎぎぎぎぎ!−−−−−おい、何にも成らないぞ!」
メッチャ力込めたんだけど、どういう事だコレは!?
「アンタね……筋肉に力込めてどうするのよ。パワーを外に放出しなさい!」
「そう言う事だ」
「そう言われてもな……」
そんな事言われたって、お前達みたいに出来ないっての。僕が外に出せるのは風位な物なんだよ。そう思って困惑してると、クリエの奴が手を差し出して来た。
「貸して貸して! クリエがやる!」
「はは、何言ってんだクリエ。お前に出来る訳−−」
まあそう言いつつも渡してやる僕。何だって頭ごなしは良く無い。実際に体験させる事も大事だよな。そうおもってました。
「んん〜〜〜〜! 出来たぁ!」
「なんだと!?」
マジでそこには白紙のページに文字が浮かんでる。一体どういう事だ? 僕に出来ない事をクリエがやれるなんてショックなんだけど! 僕とクリエ何が違うんだ? そう思ってみて見ると、クリエの足下には魔方陣が現れてる。
白と黒が混在した魔方陣。もしかしたら外に力を出すってこう言う事か? 確かに魔法は内なる力を外に放出してるってイメージだ。って事は僕も魔法を使う様に力を込めればいいと言う事か。
「ようし、もう一回やってみるから返してくれるかクリエ。クリエ?」
「んっ……んん……はっは……」
なんだ様子がおかしいぞ? クリエの奴は汗をダラダラ流して、フラフラしてる。一体何が? するとリルフィンの奴がテトラとミセス・アンダーソンに問いかける。
「どういう事だこれは?」
「こう言う事という事だ。キツいと言ったろ。それはそのままの意味なんだよ」
「そう言う事よ。この法の書は常に力を供給し続けないと、内容を浮かばせる事も出来ないの。しかもその供給量が半端ない……と言うか、強制的に吸い上げられてく感じね。力の要領が少ない人が無理に内容を知ろうとすれば、命に関わるかも知れない程」
サラッと言ったけど、それはかなり不味いだろ。早くクリエの手から法の書を取り上げないと!
「クリエ、その手を離せ!」
「はっ……離れないよぉ……」
「なに!?」
掠れた声でそう訴えて来るクリエ。あの本、実は呪いの本の類いじゃないのか? だってこのままじゃクリエの力を吸い尽くすんだろ? 完全に呪われてるじゃねーか。テトラの奴は平気そうだったのにクリエだけなんで……
「俺とそいつとでは力の制御が全然違う。完璧に力を自分の意志でコントロール出来ないから、そんな本などに遅れをとるんだ」
「説教は良いから手伝え! このままじゃクリエの力が根こそぎ持ってかれるぞ」
HPは減ってないけど、クリエはどんどん弱って行ってる様に見える。絶対にこのままじゃ衰弱死しそうな雰囲気だぞ。クリエの手から離れない法の書は、ページを次々と捲れさせて、その内容を大盤振る舞いするかの如く埋まらせて行ってる。
それはきっと貴重な情報なんだろう……だけど、今はその反動でクリエが死にそうで本の内容を把握なんて出来ない! そもそもチラッと見たら、文字が全くの理解不能な形してたから、読み解くのは僕には無理っぽい。
何が書いてあるか分からない本よりも、どうにかクリエを死の危機から救うかの方が大事。するとテトラの奴がこんな提案をしてくる。
「頭を使えスオウ。クリエ自身の力で法の書は貼り付いてるんだ。外から無理矢理剝がそうとしても無理なんだよ。法の書が絡み付いてるのはクリエの外側じゃなく内側……肉に抉って来た刃にカエシが付いてる物だと思え」
「様は物理的な方法で無理矢理引きはがすのはクリエの体的にも良く無いってことか?」
「そう言う事だ。法の書を引きはがすのなら、お前が示すしかない」
「示す?」
「貴様がクリエよりも上質な餌を供給出来るという事をだよ。それが分かれば、法の書も供給先を変えるかも知れない」
なるほどね。それは確かにあるかも知れない。でも問題なのは、僕にはコイツ等みたいにばんばん力だけを出す事が出来無いってことだ。そもそも自分の中の力とか感じた事あんまりない。
力自体は感じるけど、それが本当に自分の中に備わってる物なのかって言うと疑問だろ。その場で生み出してるのかも知れない。心に左右される力ってのはそういう感じの気がするんだよな。
勿論自分の中から湧き出る様な何かを感じる瞬間ってのは確かにある。だけどそれは長く続かないだろ。その状態を長く続かせるには、周りを巻き込む事が大事。力ってのはやっぱり単純な基準で計れやしない物だ。
でも今はそんな複雑な事はどうでも良いんだ。様はどうやったら僕が法の書の関心を引けるかって事だろ。
「風を生み出すのも立派な力だろ。お前は戦闘で使う全ての風を自分の風で補ってる訳じゃない。だが、数パーセントは自身の風だろ? それを使えば良いだけだ」
やっぱり僕に取っての力とは風って事か。まあ否定はしないよ。一番使ってるしな。僕は法の書に触れて意識を集中する。
「イクシードは発動させないのか?」
「別に戦闘する訳でもないし、今はこの状態でも少しなら風を操れる」
「少しか……」
あからさまに今この邪神鼻で笑ったぞ。何がダメだって言うんだ。イクシードは派手だから、追われる身としてはなるべく使いたく無いんだよ。シクラ達にそんな配慮がどれだけ意味あるかは謎だけどな。だけどテトラの奴はそれ以上は何も言わない。何か言いたい事はある様だけどな。でも言わずに「やってみればいいさ」的な雰囲気だ。
あんまりグズグズしてると本当にクリエが衰弱死するかも知れないし、ここはテトラを視界に入れない様にして、僕は風を放ち出す。そよ風みたいな風が、何の演出も無くそよぎ出す。
いや、演出ならあった。瞳を閉じて息を整えて、集中して無音の状態の中から不意に沸き立つ涼やかな風の波。それが僕の髪を僅かに浮かせたんだ。だけどそれは見てる方からすると、自然風じゃね? ってなレベルの風だったかも知れない。
(だけどこれも立派な力だろ。さあこい法の書!!)
……
………
…………
(来ない?)
なんだか全く吸われてる気がしないんだけど。確かに風を−−そよ風を当ててるんだけどな。
「貴様の力など法の書にとっては屁みたいな物の様だな」
面白がる様にそう言うテトラ。この野郎。こうなるって分かってたな。するとミセス・アンダーソンがポツリと呟く。
「クリエは神の力の集合体みたいな存在なのでしょう? それなら、アンタが出し惜しみして法の書を振り向かせるなんて無理よ。私達は誰もが自身の力は切っ掛けくらいにしか出来ないのだから。
だけどどうやら、神の力って奴は違うようね。そこの邪神が力を送ってる時、実は私もやったけど、こっちには反応しなかったもの。より大きな力にしか興味ないのかもね」
「くっそ、テトラ分かってたなら言えよ!」
僕はミセス・アンダーソンの言葉を受けて、テトラを責める。だってコイツのせいで貴重な時間が……そのせいでますますクリエが衰弱してるだろ。
「ちゃんと忠告はしたぞ。イクシードは使わないのかってな」
「反応しない事がわかってたのなら、そこまで言えば良いだろ!」
「だから頭を使えと言った。クリエは俺とシスカの力の結集体だぞ、そこらの存在よりもその秘めたる力の総量はとてつもなく多い。
貴様等が対抗するには、最大奥義位ぶちかまさないと無理なんだよ。その位っ分かった筈だがな」
くそう……言い返せない。確かに注意深く考察して行けばその位は気付けたのかも知れないけど、分かってるなら言ってくれたって言いように思うけどな。贅沢なのかこれは? それにクリエが苦しんでるんだぞ。テトラの奴はクリエにだけは過保護なくせに、今回はなんでそんな冷静なんだよ。
なんだか和解前の状態に戻ったみたいな感じだぞ。
「クリエの奴はこの程度じゃ死なない。心配などしてないからな。それよりも心配なのは貴様なんだ。お前にはやる事がある。俺との契約は守って貰うからな。その前に死んでもらっても、世界が改変されても困るんだ。
だから貴様はもっと色々な事に注意を向けてなければ行けない。奴等に勝つ為に、情報がどれだけ重要かもっとちゃんと受け止めろ。俺達は確かに不利だ。だからって誰も、このまま世界を奴等に明け渡す気はないんだからな。
だが正面からのやりあいでは勝てない。だからこそ、勝ちを引き寄せる為にもどんな些細な事も見落とす事は許されないんだ」
わざわざクリエを犠牲にしてまで伝えたかったのはそれか……僕の意識はまだまだ低いと、そう言う事か。僕はテトラの奴からクリエに視線を移す。脂汗をかいて苦しそうにしてるクリエ。
ここまで苦しめてるのも僕が提示された情報を見落としてしまったから。どこかで「コレくらいでいいや」って感じの希望的観測に縋った……甘えた……楽をしたんだ。いつも気を張り続けるなんて実際は無理だろうけど、でも……出来うる限り、妥協はしちゃいけなかった。
「ゴメンなクリエ。僕のせいで……苦しめた。でも、もう大丈夫だから……」
次の瞬間、僕を中心に風がうねりを上げる。背中から伸びる四本の風の翼。砂が巻き上げられて、海面がキラキラする様に、日差しを受けて砂粒の一つ一つが煌めいてた。僕はゆっくりと法の書をこちらに引き寄せる。すると今度は簡単に、あっけなく、クリエの手を離れた。それと同時に、僕の風という力を通して法の書が僕の内側に杭を打ち始める。カーンカーンと鳴り響く甲高い音。その音が頭でグルグルと回って回って回って……何か別の物が見えて来る。
第五百三十話です。
おそくなりました。今回はもう眠くて眠くて……取りあえず次回へ続きます。
てな訳で次回は火曜日に上げます。ではでは。




