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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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生贄に捧げる棺

 新たなる力――イクシード・アウラがその力を見せつける。体が軽く、本当に風邪の様に自由に進める。今まで地面からなかなか離れられなかった体が、簡単に離れるんだ。

 世界の見方が変わる。平面しか移動できなかったこれまでとは違って、今の僕は三次元を最大限に利用できる!!


 イクシード・アウラ――その宣言と共に、頭の中で確定された力の名称。吹きすさぶ風が祝福の様に流れ出す。


「イクシード・アウラ……風帝武装の名称を取ったわけね。エアリーロの力を奪ったから?」

「別に奪ったなんて思っちゃ無いけどな。貸してくれたんだろ? だからこそ……あいつの力の名をちょっと拝借したんだよ。

 僕達は友達だからな」

「友達ね……自分で倒しておいて良く言うわ」


 ローレの奴はチラリと後ろを振り返る。何かを見てる。いや、何かを気にしてる。それはきっとこの邪神復活の儀式だろう。

 あいつが少しでも余裕を無くすのは珍しい。それほどにこの力を警戒してるって事だろう。自分でもなんて言ったらいいか難しいけど……そうだな、ワクワクしてる感じだ。

 胸の奥から高まってくる高揚。新しい玩具やゲーム機を手にした時と同じ感じかな? そんな感じが全身を包んでる。


「確かに僕はエアリーロを倒した。だけど戦ったからって、喧嘩したからって、少しでも心が通じた時の事が無くなる訳じゃない。

 過去は変えられないって言ったのはお前だろローレ。それは良い意味でも悪い意味でもその通りなんだよ」

「エアリーロの事は許せるんだね」

「ああ、そうだな。ってかアイツの意志じゃないだろ。僕達がぶつかったのはお前の意思だ。僕はお前の事……まだ許しちゃいない。だから止める」


 僕が強い眼差しでそう告げると、ローレは自身の杖を頬に当てて、なんか嫌らしいポーズを取ってるよ。


「許されたいなんて思ってないわよ。私は誰にも負けるつもりなんか無いから。だから私はいつだって正しい。私を止めるって事は、私の全ての否定する事よ。

 だからもし、私が負ける事があるのなら、私は私のやり方を改めるかもしれないわね」

「上等だ。反省出来る頭が残ってる様でなによりだよ!!」


 ローレはようは自分を止めてほしい? ――ってのは僕の勝手な思いこみかな。そもそもこの状態にしたのはローレ自身だし、迷いなんてアイツ自身にはないんだろうさ。これっぽっちも。

 だからこそ、正しくないとわからせてみなさいよって事だろう。出来るものなら。それでしか自分は止まらないと、そう言ってる。

 ならもう、やり合うしかないよな。何が正しくて正しくないかなんてローレが言ったとおり、今の段階じゃわかんないのかも知れない。だけど僕達は納得は出来ないよ。

 お前のやり方に納得できない。だからここで止めるんだ。

 僕は踏みつけてたイフリートからローレに向かって跳ぶ。靴に生えた羽が羽ばたき、自身を風の様に進ませる。一瞬にして縮むローレとの距離。だけど僕の狙いは実はローレじゃない。僕はローレが反応するよりも早く、空中を蹴って直角に移動して、更にもう一度空中を蹴って、ローレの後方へ抜ける。

 そしてザッザザアアアアアと床を鳴らして勢いを殺しながら止まる。


「え? いつの間に!?」


 僕の止まる音でようやくこちらを見るローレ。僕が飛んだのに気づかなかった訳無いだろうけど、途中で見失ってた感じなのかな。空中移動は音らしい音がしないのは大きいかも知れない。

 どうやらこの羽か、この足や腕の細いウネリが空気を集めて足場を作ってくれてるみたいだ。自分が移動したいと思えば、その思いを汲んでくれる。


「想像以上に速いわね」

「自分でもそう思う。体が本当に軽い。そしてこれで邪神の復活は叶わない」


 なんでわざわざローレに攻撃しなかったと思ってるんだ。さっき確実に僕の攻撃はローレに直撃してておかしくなかった。

 まあローレの影に潜んでるメノウがどう出たかわかんないけど、届かせれた自信はあった。けどさ、最初の油断で僕が選んだのは邪神の復活の阻止なんだよ。

 僕の言葉の後に、三つの盾が音を立てて無惨に真っ二つに割れる。その瞬間、儀式の魔法陣に軋みが生じるよ。魔法陣が展開してる範囲に広がる振動。それと同時に、溢れだしてる黒い光の柱が不安定に揺れだした。


「初めから盾を狙ってたのね」

【あぷぷ~ローレ様~世界樹の力が押し返そうとしてます。このままじゃ儀式事態を壊されますよ~。てか、儀式を維持出来ません】


 変な声が聞こえた。なんだこの幼女みたいな声は。そう思って見てると、黒い光の柱の側の小さな光がローレの周りを飛んでる。

 アレが喋ってるのか? 僕は目を懲らすよ。すると光の中にシルエットだけがみえた。虫の様な羽が生えた小さな人間みたいな姿? 妖精か何かに見えなくもない。


「大丈夫よフィア。残りを一気に奴らに流しましょう。術式を組み替えなさい。それとノーム!」

【なんですかな?】

「聖獣共の時を解放するわ。あんたは奴らが絶対に出れない棺を用意しなさい」

【了解じゃ】


 どうやらローレはまだ諦めてない様だ。召還獣達に指示を出して何かをやろうとしてる。てか、聖獣はさっきから魔法陣の一部に組み込まれてる感じだったけど、使われては無かったのか?

 三つの盾と同じ感覚で周りにおかれてた。なんだか無くなった二つの盾の代わりみたいな感じの位置に置かれてるなと思ってたけどさ……まさか本当に盾の代わりにする気じゃないだろうな?

 発言からしてそんな感じだったぞ。盾は元から吸収出来る構造だったけど、聖獣は違うだろう。無理矢理……流し込む気か?

 別に同情なんかしないけど……やらせる訳にはいかないな。


「させるか!!」


 僕は再び飛び出そうとする。だけどその時、床から腕が飛び出して来た腕が、僕の足を捕まえやがった。


「なっ!?」

【行かせるか!! アレで倒せたと思うなよ小僧!】


 床から出てきたのはイフリートの野郎だ。こいつ、いつの間にか下から回り込んで来てたみたいだ。イフリートは僕の脚を掴みブンブンと振り回し始める。

 周りがぐるぐる回ってる。そしてそのままの勢いで僕を投げ飛ばす。激しく床に体が打ち付けられて体が跳ねる。だけどそこで僕は、態勢を変えて空気を蹴り、イフリートに逆に迫る。投げ捨てたことで安心してるここも狙い目だろ!!


「どけええええイフリート!!」


 セラ・シルフィングの後に風の軌跡が残る。薄い緑色の風の軌跡。振りかぶったセラ・シルフィング。そして床に落ちるのは、イフリートの片腕だ。


【ぬぅが!!】


 ってな声が頭に響く。だけど普通に口からも叫びがあがってる。声じゃなくて、野生の叫びみたいな物。てか、自分もこの切れ味にビックリだよ。勢いがついたのもあるんだろうけど、セラ・シルフィングは確実に強化されてるっぽい。

 見た目はほとんど変わらないんだけどな。ただ緑色に光る星が、紋章を刀身に輝かせてる程度。でもこの紋章こそが、イクシード・アウラの発動中を示してるんだろう。

 イフリートの片腕は地面につくと光を放ち消えていく。そして片腕を無くしたイフリートは怒りに満ちて、その体毛が炎と化す。元から炎っぽい感じの毛だったけど、今やそれは完全に燃えたぎる炎となってる。

 だけどいつまでもこいつの相手だけやってられない。スピードは僕の方が上だろう……なら! こちらに迫ろうとするイフリートを無視して僕はローレ達を目指す事に。

 僕は地面を蹴ろうとする。だけどその時、不安定になった黒い光の柱がうねりながら落ちてきた。


「っつ!!」


 まるで僕を阻むように……もしかしてこの黒い光も邪神の復活を――ってそれは疑い過ぎか。黒い光がローレ達を完全に隠しやがった。これじゃあ黙視で正確な位置を掴むことが難しいぞ。

 そう思ってると、後ろからイフリートが攻撃してくる。くっそ、こいつウザったいな。そう思いつつ、攻撃を受け止め返してると、感覚が次第におかしくなってきてた。イフリートの体事態が、炎化してるのか、奴の腕が刀身をすり抜ける様になってくる。

 しかも炎を操るのが何よりも得意なイフリートだ。奴は僕がかわしても、炎をのばして、そのかわした間合いの分だけ詰めて来やがる。

 だけどそんな時は新たに加わった風の衣が守ってくれる。透ける程に透明な衣だけど、エアリーロの煌めく風が宿ってるからか、その力は結構スゴい。直撃する前に風の防壁を張ってくれる。

 だけどキレてるイフリートは立て続けざまに攻撃を繰り返す。言葉も通じない程になってるな……


「こんの野郎が!!」


 僕は攻撃をかわして、刀の柄でイフリートの顎を打ち上げる。そして回転を加えて腹を蹴りあげる。するとここでも足のウネリが発動したのか、イフリートが勢い良く飛ぶ。

 なるほど、この力は攻撃にも使える様だ。いつもは収束させて足場にしてる空気を、インパクトの瞬間に弾けさせたって感じだな。

 でもこれで余裕が出来た。イフリートはこの場所の建物に突っ込んで行った。今や土煙の向こうだ。僕はイフリートの方から、黒い光に覆われた方を見据える。波打つ様にボコボコと震えてる不気味な光。

 するとそんな中、二カ所から土の棺が生えてきた。黄金色に輝くそれは、きっとノームの魔法だろう。ローレの奴、この状態のまま、無理矢理儀式を続ける気か?

 僕は黒い光の外に立ち、自分の周りを回る白い恒星にセラ・シルフィングの切っ先をあわせる。すると白い恒星の動きは切っ先に同調するように止まった。


「取りあえず邪魔なこの黒い物を退かす!!」


 恒星から吹きあがるは風のうねり。それが黒い光の中に突っ込んでいく。光が風で吹き飛ばせるのか……それはわかんないけど、なんか質量がありそうな光だし、どうにかなると信じる!!

 黒い光の中に突っ込ませたウネリを大きく上へ振るう。すると光自体がウネリに巻き込まれた様にして延びてる。巻き込めてる……これならどうにか出来そうだ。僕は更はもう一方からもウネリを放ち、二つのウネリの出力をあげる。


「うおおおおおおおおおおおおおお!! 吹き飛べえええええええええ!!」


 増幅された風のウネリ。それに光を無理矢理巻き込んで引き裂く。風のウネリでズタズタに。すると見えてきたローレの姿。奴はこちらを見てこう言った。


「やっぱりアンタの仕業か。色々と便利そうじゃない。だけど後少しだけ邪魔しないでね」

「それを、はいそうですかって、受け入れられるか!!」


 大きくしたウネリをそのままローレ達に向ける。だけどそれをローレの影から出てきたメノウが防ぐ。てか、ローレ達に当たる部分だけが、消え去った? 


「ふん!」


 今度は片側のウネリをまっすぐに向けてみる。これなら一部分が消えるなんて事はない筈だ。


【答え 無駄 求める 理解】


 頭に響くそんな声。そしてその声の通り、ウネリは直撃してるように見えて、どうやらローレまで届いてないみたいだ。僕は一端ウネリを沈める。再び回り出す僕の周りの二つの恒星。

 ローレの周りには濃く青い球体が張られてる。あれは本殿を守ってた物と同じかな? でも範囲が極端に小さい。ローレを守る為だけに張られた感じだ。

 そして僕がウネリを引っ込めたからか、その魔法も説かれる。


「――おっと、もう終わり? 何秒経った?」

【十三秒】

「諦めるの速かったわね。分かったでしょう? 幾らパワーアップしても時を操れる私達には効かないわ。だって攻撃も時に支配されてるもの。

 時が止まった空間では何も、光も風も進めない。いわゆる絶対防御って奴よ」


 確かに絶対防御……その表現はかなり的を得てると思う。時が止まった場所を進める攻撃なんかない。百万分の一秒でも、腕を動かすことも、体の血が流れることも、頭からの電気信号だって、必ず時を消費する。

 それを強制的に止められるのなら……どうしようもないじゃないか。


「絶対防御、確かに時を止められたらどうしようもないな。なら!」


 僕はローレから狙いを変える。この魔法陣の中で聳え立ってる二本の黄金の棺。そっちに狙いを変えるんだ。そこに入ってるのは聖獣。ローレが聖獣を何に使う気なのか……に確証はないけど、だいたいの予想はつく。

 無くした盾の代わり……だとしたら、このまま放っておく事は出来ない事確定だ。


「ノーム、そっちに行ったわよ。壊されないでしょうね?」

【その心配は無用じゃ。幾らパワーアップしたとしても、これは儂の最高硬度の魔法。易々と破られたりはせん!!】


 随分な自信だな。僕は止まらずに空気を蹴って一気に、棺と交差する。その交差の瞬間にキンッと甲高い音が辺りに響く。手応えはあった。

 僕は後ろを振り返る。だけどそこには変わらず大きな棺があった。しかも傷一つ付いてない? おいおい、マジかよ。

 実際今の自分は何でも出来る……そんな気が本気でしてたんだけどな。僕はもう一度棺に向かう。そして今度は連続でセラ・シルフィングを振るった。

 だけど……


「ちっ、堅いな」


 幾ら斬っても感触だけだ。流石ノームが最高硬度を詠うだけはあるって事なんだろう。


「大丈夫そうね。メノウ、聖獣の時を解放しなさい」

【了承】


 僕が無理っぽいのに安心したのか、ローレのそんな声が聞こえたよ。すると棺の中に入ってる聖獣に掛けられてた魔法が解かれる。

 そして聖獣が動き出す。


「なんだ? どうなった……確か俺は奴らと戦ってた筈……」


 目の前の魚聖獣が状況を理解できずにいる。まあ無理もないな。するともう一方の棺からおおきな音が……


「出しやがれ!! どうなってんだこれは!!」


 ドカンドカンと内側から攻撃を繰り返してるスレイプル聖獣。だけど奴らの攻撃でもビクともしてない。やっぱり準備万端で発動した魔法は、ちょっとやそっとじゃ壊れないな。

 するとローレがそんな聖獣に声をかける。


「大人しくしなさいよ。これから私がアンタ達の望みを叶えてあげるんだから」

「貴様! そうだ、貴様が怪しげな魔法を使って俺達を!!」


 魚聖獣は棺の中で大きな水弾を作り出す。そしてそれを棺の上部へ撃ち放つ。大きく揺れる棺。内部は今のでびしょ濡れだ。


「無理よ。幾ら聖獣でも簡単に出られないって思いなさい。それにダメじゃない。邪神を復活させたいのでしょう? それなら、大人しくそこに居なきゃダメ」

「何を!! 貴様に何が出来る。俺達をどうする気だ!? 邪神を復活させるなんて……アイツはどうした!!」


 魚聖獣は辺りをキョロキョロしながらそういった。


「アイツってモブリ聖獣の事かしら? それならほら、そこのスオウが殺したわよ」

「また……貴様か!」


 仮面の奥が光る。まるで僕を睨んでるみたい。いやいや、確かに僕がモブリ聖獣を倒したけど、全ての恨みを向けるようなその視線はおかしいだろ。

 おまえ達の今のその状況はローレの仕業だっての。


「いいからさっさと出しやがれよチビ! 食らうぞ!!」


 スレイプル聖獣がその凶暴そうな牙を突き立てながら叫ぶ。その周りには沢山の武器が落ちてる。どうやらどれもこれも役に立たなかったみたいだな。

 くっそ、どうにかしてこの棺をブッ壊して聖獣をこの手で倒したい。それが唯一の望みだ。だけどこの棺はかなり堅い。少し様子を見守るしかないか……まだやりようはあると思うけど……隙を探すしかない。

 僕は少し離れたノームを見る。魔法自体が壊せないなら術者自身を――って、こういう魔法は確立した時点で自立してるのか? 補助魔法と同じ感じでさ。それなら術者自身を倒す事に意味はない……か。


「頭が高いわね。言っとくけど、これがもう唯一の邪神復活の方法よ。モブリ聖獣がいない今、アンタ達の望みを叶える事が出来るのは私だけ……だから、大人しく使われてなさい」

「「何を!!」」


 ニ体の聖獣は同時にそう言って、再び棺内で攻撃を開始する。だけどやっぱりなかなか壊れそうじゃない。


「ふふ、無駄よ。アンタ達が最後の生け贄となって邪神を復活させる。本望じゃない。良かったわね。フィア、始めなさい」

【ハイです、ローレ様】


 可愛らしい声が響くと、棺の底に現れる魔法陣。やっぱり悠長に待っては居られないな。生け贄とローレは言った。つまりは盾代わりをこいつらにさせるって事だろう。それを許せば邪神は復活だ。

 聖獣は倒す。だけどローレのやり方では倒させない。そして狙いはあの小さな光。フィアとか呼ばれてるあの生物がこの術式を発動してるのは明らかだ。

 魔法陣から溢れ出す光の水。それが逃げられない聖獣が居る、棺の中へと貯まってく。するとその水――浄心水でダメージを受ける聖獣は断末魔の叫びをあげる。更に魔法陣が今度は聖獣自身を拘束するよ。そして現れるのは、更に複雑な術式。


「何を……する気だ!!」


 魚聖獣はそんな言葉をローレへと向ける。


「言ったでしょ、生け贄にするの。だってスオウが盾を壊しちゃったから、他で代用するしかないでしょ? だからアンタ達を使う。その浄心水は世界樹の最後の絞りカスみたいなもの。

 それをアンタ達に吸収させて、世界樹の力を無くす。それでようやく、この世界と暗黒大陸の境はなくなる。後は邪神の像を使って、こちらに呼び込んであげる。それで晴れて邪神は復活。

 だから大人しくしてろと言ってるのよ」

「「ぬう……ぐああああ!!?」」


 ローレの言葉を聞いて一瞬大人しくなった聖獣共。すると複雑になった魔法陣が奴らの胸の辺りに、黒い穴を開ける。そこに向かって溢れ出てくる浄心水が向かって流れてく。すると更に激しい苦しみに襲われてるのか、聖獣共は激しい叫びを上げるんだ。

 何度も言うけど、同情なんてしない。けど、この方法で倒すのはダメだ! 邪神復活だけは許せないからな。確かにそれほどテトラは悪い奴じゃないかもしれないけど、言っちゃ悪いけど、誰も望んでない。

 普通に日が昇る事を誰もが望んでるのに、ローレだけはそれを許せないってだけじゃないか。それに邪神の復活は賭け過ぎだろ。

 どっちに転ぶか、ローレだってわかんない筈だ。それとも、本当に確信でもあるのか……取りあえず僕は、周りのうるさいを声を無視して、フィアへと狙いを定めて跳ぶ。周りの景色が一気に流れる。

 今の僕の速さならここに居る誰も付いてこれないのは分かってる! 一撃で決める。そう決めてセラ・シルフィングを握り絞める。

 ダン! ――と聞こえる音。すると何故か僕の動きが遅くなった!? いや、なんか違う。スローモーションのようになってる。


「な……ん……だ?」


 どうなってる? なんでいきなりこんな事に? 魔法を掛けられたって感じはしなかったぞ。そもそも詠唱よりも速く動けてる筈だ。

 時間操作? でもこれは体感時間なんて物じゃないぞ!?


「スオウは速すぎるから。だから少し遅くしてみたの。幾ら強くなっても、一人じゃ私には勝てないわよって事」


 ようやく強気を取り戻してきたローレ。だけどそれは僕にとっては大ピンチだ。これはヤバい。全然次の行動に移れない。体が最初目指してた場所を目指しちゃって、どうしよう出来ないぞ。しかもとってもゆっくりなのに、地面に落ちる事もない。

 まさにスローモーションだ。


「さて、どうしてあげよっか?」


 にこやかに笑うローレ。くっそ、やっぱりバランス崩しはチートだな。ここまで進化したイクシードでもこの有様かよ。僕は何ができるか必死に考える。何か……何か有るはずだろ。

 でもこれは意識の遅延とかそんなレベルじゃないよな。意識はハッキリしてるのに、体がこの有様って事は、僕の体の時間を遅くしてるって事だ。

 対応策も何もわかんねぇ!! するとその時、目の前にイフリートが降ってきた。その瞳は怒りに満ちてるように見える。


【主、我にお任せを】

「殺さないでね」


 イフリートの腕が伸ばされる。それを避ける事も僕は出来ない。するとその時、その腕を取る誰かが割って入ってきた。靡く白銀の毛……これは……

 第三百九十七話です。

 新たなる力を得たのに早速ピンチ!! どうなってんだよって声が聞こえて来そうですね。少年漫画なら、まず登場時までは無双出来る筈なんですけど……そんな甘くないのがLROです。

 てか相手が悪いですね。バランス崩しはチートなんで、そう簡単には勝てません。文字通りのバランス崩しなのです。

 てな訳で次回は金曜日に上げます。ではでは!

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