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そこそこの人数で静かに移動してた僕たち。声を最小限に抑えて、それこそこの大所帯にしては静かだったと思う。きっとみんな緊張してたんだろう。でもそんな静かな移動に待ったがかかる。それは前方の方からの停止の命令……それで発覚した。
僕たちが目指すのは月の町……その手前くらいのちょっとしたくぼみというか? クレーターというか? そういうのが月には無数にある。だから比較的月の町の近くのクレーターにまずは一つ、ゲートクリスタル(仮)を設置する予定だった。さすがにいきなり月の町の中にゲートクリスタルを設置できる……とはおもってない。
だからまずは比較的月の町の近くにってことだと思う。でもそこに……その予定の場所にどうやら誰かいるようだ。クレーターだからすり鉢状の形をしてるわけで、僕たちの方が高い所にいるわけで……だからちょっと背を伸ばせば、前の人たちの隙間からそれがみえた。
そう……妖精王だ。いやいや、おかしいだろ。貴方はここにいていい存在じゃない。あいつほどの存在はようやく僕たちが月の城にはいってその奥で待ちかまえてるようなさ……そんな存在のはずだ。間違ってもこんな序盤に出てきていい存在じゃない。
「妖精王……」
誰かがそういった。きっと一番前の誰かだろう。
静かにその場に立ってた妖精王。目を閉じて、静かにたたずむその姿だけでまるで絵画にでもできそうな……そんなイケメン具合だ。そんな奴が言葉に反応して目を開ける。そしてこちらを見てこういった。
「ようこそ、来賓たちよ。さあ、始めようか」
妖精王の八つの透明な羽が徐々にはっきりと見えていく。それと同時に、彼は少しずつその場からふわりと浮きだす。さらにいうと、このすり鉢状のクレーター全体に広がる魔法陣。それは何やら、クレーターを飛び出して、まるでどっかの宮殿の天井のように、光で編み込まれて一種の建物……のようになった。とても神々しい感じに光ってる。
「全員! 戦闘開始!! 目の前の相手を追い払うんだ!」
そんなテア・レス・テレスの誰かの言葉で戦闘が始まった。なるべくこじんまりとなるために集まってた僕たちだけど、戦闘開始の合図とともに、このクレーターの中で広がっていく。だからって一番槍になる奴はいない。
まあそうだよね。だって相手は妖精王だ。下手に飛び出していったら、どんな反撃を食らうかわかんない。尻込みするのもわかる。まずは様子見……それも間違っちゃいないだろう。でも……僕とラオウさんは視線を交わした。
そして二人でうなづき合うと、同時に地面を勢いよくけって、僕は風をまとい、ラオウさんはその脚力をもってして、妖精王へと切りかかった。




