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「あと五分」
「作戦開始のギリギリまで準備を怠ってないか確認しましょう。特にメカブ」
「ええー、何回も確認したよー」
面倒そうにそんな風に文句をいうメカブ。確かに僕達は既に何回も確認してる。一応必要と思われるものは過剰な程にインベントリに入れてるし、作戦だって何回も頭に叩き込んできた。あまり時間はなかったけど、連携だって幾度となく練習をしてきた。
けど人間誰でもケアレスミスというのは存在する。それが原因になって失敗……なんてことになったら目も当てられないのは確か。だって普通のゲームではイベントの戦闘とか? だめだったらセーブデータをロードして直前からやり直す……なんて事ができる。それが普通のゲームだろう。
何度だってやり直しと挑戦ができる。トライ・アンド・エラーがゲームの常識だろう。でも……人生ってそうじゃない。一回一回、失敗できない事はあって、でも失敗してしまうのが人間だ。
その時に残るのは後悔しかない。やり直す? 死んで? ムリムリ。そんなことはありえない。それはLROだってそうだ。この戦いをやり直すなんてことはできない。これはいっかいこっきりの戦いだ。
だからこそ過剰な程に何回も何回も僕達は見直してる。てか……メカブの奴は不安になったりしないのか? いくら自分が「大丈夫! よし」――と思っても、ちょっとすると「本当に?」――と思うのが人間だろう。
(こいつ、もしかしてある意味大物なのか?)
と思えてくる。負けられない戦いなんだぞ。なんでそんなに気楽に構えてられるのか。
「皆緊張し過ぎなんだよ。これだけ沢山いるんだし、誰かがなんとかやってくれるって。私はそれよりも早く沢山暴れたいな~」
こいつは……でもリラックスしてるという意味ではきっとこの中ではメカブのやつが一番だろう。肩の力を抜くことで最初から良いパフォーマンスを出すことができる。それでいうとメカブは上手くそれをやってるってことになる。
確かに今回の戦いでは沢山の人々が参加する。僕は自分を主人公とでも思ってるのだろうか? 少なくともその奢りはあったのかもしれない。妖精王や月の女王であるセツリ……それらを止めるのは自分たちでないと! と、でも……それは確定してることじゃない。
僕が勝手に思ってることで、それによって重圧とかが増えてるのも確か。勝手に責任を感じてる。
「もうゲートは向こうにも開いてるんだよね? もしかしていきなり月人が出てきたりして?」
「そういうのやめろよ。見ろ、周囲から睨まれてるぞ」
メカブのやつが不謹慎なことをいうから周囲の人たちから厳しい視線をさらされてる。流石に安全な場所に最初のゲートは開いてるはずだ。だからそんな心配はないと思う。もちろんゲートの側の人達は警戒してるが……
「あれ……なに?」
それはアーシアの言葉。夕暮れの空をじっと見つめる彼女の視線を追って僕達も空をみた。黄昏に染まる空は眩しくて確認が難しいが……それでも何かが見える。そう……何かか空から落ちてきてる?
それを確認した直後。地面が大きく揺れて立ってられなくなり、崩れる建物もあった。それは後の言葉――
【始まりは月からの攻撃だった】




