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「少しいいですか?」
「ああ、けどこれかなり重いですよ」
ラオウさんがそういってきて僕から+αの武器をうけとった。重いと注意をしたけど、ラオウさんはなんの問題なく受け取ってくれた。
(あれー?)
――である。だってラオウさんはなんの重みも感じてないようにあの剣を持ってる。そして……
「すこし、激しくしますよ」
そういっていきなり一歩を踏み込んだら、素早く十字に剣を振るった。それだけじゃない。さらにそこから床を蹴ってラオウさんは飛び上がった。そして横に体を傾けてクルッと回転、さらに一段強力なたたきつけみたいな剣劇を繰り出した。
バン! パン! バアッガアアアアン!!
そんな風に剣の振りに合わせるように、銃撃のような音が追随していた。でも最後はやたらなんか派手だったし、威力もどうやら強かったみたいだ。
「ふうー」
ラオウさんはそういって剣を振った体勢のまま息を吐いて、静かに立ち上がった。実はさっきの最後の一撃。彼女は床に剣を当ててなかった。派手な音は彼女の振るった剣からじゃなく、全てが後から発生した銃撃……のような攻撃の音だった。
実際は剣を振るった時のブォン! ――という風切り音はしてた。でもあれだけ重い剣を派手に振り下ろしたのなら、本当なら床に多大なダメージをもたらすはずである。だってさっきの僕がやったほぼ自然落下的なふりでも、ちょっと床がへこんでる。
誰も指摘しないからきっと大丈夫なんだと思うけど、ここは一応スレイプルのトップの工房だからね。床も高級な材質な可能性はある。だから弁償とか言われないか実際ちょっと不安だったんだ。
ラオウさんも同じだったのかもしれない。だから止めた。
(いや、あの勢いの重い剣を止められるのはおかしいけど……)
僕は絶対に無理だ。風でクッションを作ればどうにかなるかもしれないけど、体も思いっきり回転してたんだよ? その勢いをすべて剣に伝えてのあの動き……それを止める? 動きには流れって奴がある。走る時だって、まずは軽く走って徐々にスピードをあげていくものだ。
100メートル走とかなら、最初からある程度全力なのかもしれないがでもそれでも全力の中でも最高速に到達するのはそれこそ50メートル付近とか? わかんないが、けどそれが流れってやつだ。
止まる時だってそうだ。いきなりピタッと止まったりしない。少しずつスピードを落としていって止まるだろう。でも今のラオウさんの動きはそれらの流れをぶった切ってた。剣は何も切らずに流れを切ってたのだ。
「ねえねえ、ちょっとスオウ、あんた大げさだったんじゃない? ちょっとそれ貸してよ」
「いいですよ」
なんかメカブの奴に馬鹿にされてしまった。いやいや、ラオウさんが人間を超越してるだけだからな。こいつだってラオウさんのおかしさは知ってる筈なのに、僕をあおれるからって、都合よく忘れてるのか?
相変わらずラオウさんはなんでもないように剣を持ってる。だからメカブの奴も普通に剣を受け取ろうとした。その瞬間だ。+αの剣を受け取った方のメカブの腕は一気に下がり、その動作に体が引っ張れていってなんか肩からボギッ――って変な音がして、剣にもたれかかる様にメカブが動かなくてなってしまった。
でもそこはメカブ。すぐに「いったー! なによこれ!!」 ――とか言い出して床に転がった剣をゲジゲジと蹴ってた。
「やーいアーホアーホ」
――と言ってやりたかった。まあ、いわないけど。




