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「どうしたんだ?」
鍛冶屋の専用の工房まで来たらそんな事を言われてしまった。ここはスレイプル達の移動要塞の中でも最上階にある特別な工房らしい。まあ鍛冶屋は不便だとかいってた。実際見晴らしとかいいが……鍛冶職人としてはそんなのよりもいい窯とか、道具があった方がいいんだろう。
でも実際この場所に用意されてる道具や素材といったのはどれも一級品なはずだ。それは間違いない。けどそれでも鍛冶屋がここをそんなに気にいってないのはやっぱりここの窯が原因らしい。
スレイプル最高の職人である鍛冶屋に与えられた部屋と地位なんだから、そこは全てが最高の筈……ではないのか? と思うじゃん。一応高級な窯がもちろんある。火入れをしたり、鉱石を溶かしたりと出来るような奴だ。
けどどうやらこの移動要塞の一番良い窯……ではないらしい。それは前に聞いた感じではどうやらこの移動要塞を動かす動力の近く……にあるという事だった。それにこの移動要塞のエネルギーは全てその中央の炉で賄ってるらしい。
ならばそれはそれはとても凄い物なのは間違いない。火力だって半端ないだろう。だって一つの種を丸ごと内包して、さらには移動までする家なんだよ? それにこの中ではそんなに振動を感じないし……おかしな技術を使ってるとしか思えない。
そんなものすごいエネルギーを生み出す炉の近くにある窯がやっぱり一番特別らしい。けど鍛冶屋のこの部屋はどうか? というと、勿論だけど、最上階にあるから、エンジン部分とは離れてる。なのでその恩恵を受けることは叶わないという事だ。
確かに最高級の物ではある……でも一番良いわけじゃないってことだ。まあけど鍛冶屋がいえばその最高の窯だって使えるだろうけどね。ただ距離が遠くて利便性に欠けてる……というだけだ。
鍛冶屋はそれこそ前は鍛冶の事ばかりだったけど、偉くなったせいで、いやおかげ? で人間関係というのに強制的に触れる機会が多くなった。そのせいか、どうやら前は気にも留めてなっかた人の間にある空気感って奴を感じ取れるようになってるらしい。
僕がメカブのスカートの中をみたせいでなんか男女でピリピリとしてしまった。この短期間ではその空気が霧散する事はなかったみたいだ。流石に「知的好奇心」といったのは他の女性陣からもひかれてしまったよ。
でもそんなのをわざわさ鍛冶屋に説明? それは必要ないでしょ。恥を公開するようなものだ。ラオウさんが口を開きかけた時、僕は食い気味にここに来た目的を鍛冶屋に伝えた。
「そんなことより! 会長から聞いたよ。月への対抗手段があるんだろう? それに協力しに来たんだ」




