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「くっ」
いくらか反撃を試みた。隙を作ってここから逃げる……その為の行動だ。少しでもうろたえたり、ひるんだり……そんな風にできたら十分。けど向こうもうまくやってくる。いや、デカい方の月人はただ暴走してるかのような行動しかしてない。
だいたいあのデカい月人は避ける……という行動をしない。ただただ攻撃を押し付けてくる……そんな感じの行動だ。
普通はそれこそ相手の動きをみて、こっちの動きを決めたりするだろう。だからこそ読み合いがあるっていうか? 戦いとはそういうものだ。でも、あのデカい月人の場合は違う。ただただあれは攻撃だけをしてくる。こっちが攻撃をしたとしても、止まることもよけようとするそぶりもない。
こっちの攻撃の威力が足りないってのもあるんだろう。なにせ俺たちはそんなに大きな武器を持つ……とかやってない。でも……
「毒も、麻痺も、催眠も効かないか……」
俺たちの持ってる武器はそれぞれ特殊な形をしたナイフだ。刃がぐにゃぐにゃと波打ってたり、先端がいろんな方向にわかれてたり、根元から二つに分かれてたり、ただただ突くだけしかできないような、螺旋だったり……そんな禍々しい形をしてる。
俺たちは影に潜む者たちだ。だからこそ、そういう戦い方を貫いてる。卑怯とか言われるが、それこそ俺たちの誉だ。卑怯上等。
俺たちが使う武器はすべてに副次的効果として、毒や麻痺とか精神作用したりする効果がある。だからわずかな傷でも致命傷……にはなりえないが、確実に少しずつ敵のHPを奪うことができるし、動きだって制限することができる。
それに俺たちの武器はたくさん攻撃を与えると、それだけ毒は蓄積されるし、麻痺だって起こりやすくなる。催眠だってそうだ。
でも……
「どれも発動しないな!」
「ちょっとあいつどうなってんのよ!?」
「完全耐性でも持ってるってのか!?」
倒せる……なんて思ってないが、麻痺とかになってくれたら逃げることだってできるだろう。もう一体月人はいるが、そっちはまだ常識的な月人だ。ちょっと毛が長いくらい。
でもデカい月人が毒や麻痺になる気は全くない。元気溌剌というか……元気すぎる程度に動き回ってる。こっちの攻撃を受けても……
「こんの!」
そんな風にいって深くナイフを刺す仲間の一人。けどそれに合わせて拳を上げた月人。まずいと思った。
「離れろ!!」
そう叫んだ瞬間だ。「え?」 ――という声とグシャっという音は同時に響いた。




