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「それで一体なんだ?」
部屋の一室を借りて会長と共にそこにはいる。スーハ―……ばれない様に呼吸をする。会長は別に悪いやつじゃない。それはわかってる。けど、こいつと相対すると心臓がどきどきとしてしまう。別にそれは興奮して……というわけじゃない。油断がならない相手だから……だ。別に会長を警戒することなんてないとはわかってる。これは俺の矮小な部分だろう。
こいつに見られると、全てが見透かされてるような……そんな風に感じてしまう。二人きりではなかったらそんなことはないんだけどな。ふつうに会話出来る。いや、俺はそもそもが口数が多い方じゃないが……
「実は作ってほしいものがあるんです」
「お前もあのモブリみたいにアーティファクト並みの装備を求めるなんてないだろうな? そんなのは勘弁してくれ。アホはあいつだけで十分だ」
俺が肩を竦めてそういう。内心の動揺を悟られたくないから、不慣れな冗談だって織り交ぜてみる。最近読んでる啓発本にやっぱり小気味よい冗談が会話を円滑に回す効果的な手段だって書いてあった。まあ多様すぎると話が進まない、余計なことしか言わない奴になるから、乱発は禁止らしい。それに大体会話は相手の話を聞くだけでも成立するってあった。
大切なのはどういう感じの聞き方なのか……とか。
「ふふ、あの人もきっと必死なんです。モブリの事を守りたいのでしょう」
「あれはモブリっていうか……守りたいのは自分の立場だろう」
「そうですね」
ちょっとくすっとしてくれる会長。俺も彼女ももう肩の荷は下りてるだろう。いや、実際会長の双肩には世界樹の奪還とそして月を打倒するという責務が載ってる。もちろんそれをなすには会長だけでは不可能だ。この戦いに加わるすべての人の頑張りが必要だろう。それは間違いない。間違いないが、全ての作戦立案実行を担ってるのは会長でもある。
だからもしもこれでうまくいかなかったらきっと『責任』を追及されるのは会長だろう。俺はそんなので責められるとか絶対に嫌だが、見た感じ会長は普段と変わらない様にみえる。俺なら常におなかの調子を確かめる感じになるだろう。プレッシャーがおなかに来るのだ。だからついつい緊張をするとおなかに手を持っていく。俺はそこまで会長を知ってるわけじゃない。だからそういう癖はわからない。
もしかしたら会長もいつもと違うところがあるのかもしれない。けど、おれが会長を見極めようなんて、そもそもが無理な話だ。
「それで作ってほしいモノってのは? ここでいうんだ。月との戦いに必要なんだろう?」
「はい。月で得た材料が実はあるんです。それでいくつか武器と装備を。それに世界樹の材料も手配しました。月と世界樹の材料……なにか面白いものが作れそうとは思いませんか?」
会長は何を求めてるのか……俺たちのような物を作ることに喜びを感じる奴の操り方もちゃんとわかってるようで……未知の材料……それは確かに心響くワードだ。




