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52. Vtuber vs Utuber ①


 スタジオにて、僕は気を張ってモニターをみつめていた。

 

「こんカグヤ〜、星月かぐやだよ」


 モニターの右側で、星月かぐやちゃんが小さく手を振った。

 お馴染みのちちゃきゃわの人形を抱えているその様は月より降り立ったお姫様だ。


 

「おにーちゃんたち、八茅留なのです〜」


 

 モニターの左側で、八茅留ちゃんが両頬に人差し指をあてて元気よく挨拶する。

 『おにーちゃん』というのは僕のことじゃない。

 八茅留は視聴者さんを『おにーちゃん』というリスナーネームをつけて呼んでいる。

 

 

 うん、リハーサル通り問題なく配信されているね。

 僕はほっと胸をなでおろす。


 

 先日、喫茶店に突撃してきた八茅留ちゃん。

 そこに偶然居合わせた姫路さんがVtuberの星月かぐやちゃんであるということが、なぜか八茅留ちゃんにバレてしまい、そこから僕を巡って星月かぐやちゃんと八茅留ちゃんが勝負をすることになった。



 どうしてこうなった!?

 姫路さんが僕のために立ち向かってくれたのは嬉しいけど、ほんとどうして……。

 



 そしてここ、グリーンバックステージが用意されてあるVtuberさんが配信に使用するモーションキャプチャスタジオには僕と姫路さん、八茅留ちゃんの三人がいた。


 

 僕の目の前には、テーブルに座ってモニター越しに向かい合う姫路さんと八茅留ちゃんが居るけど、僕の確認用モニターには星月かぐやちゃんと八茅留ちゃんが並んでいる。

 スタジオの設備のおかげで姫路さんの動きがリアルタイムでAR合成されて配信されているというわけだ。


 

「八茅留ちゃん、コラボのお誘いありがとうね」

 

「ふん、この前は負けたけど今日こそ白黒つけてやるのですー!」



 これまでコラボせずに一人で配信を続けていた個人勢のVtuberである星月かぐやちゃん。

 同じく、これまで天ヶ咲家の姉妹たちとでさえコラボをせずに一人で活動を続けていた八茅留ちゃん。

 お互いが初のコラボ、しかもそれがVtuberとUtuberという異色のコラボなので、世間から大注目されている。


 

・この前って?

・八茅留がかぐやちゃんのスマシス配信中に対戦したことじゃね

・負けて悔しくてコラボ申し込んだのかw

・それ受け入れるかぐやちゃん優しいな

・ちっちゃい子同士がじゃれてるのてぇてぇ

・二人ともがんばえー

 


 今回、競技の内容もあって直接集まることになった。

 このスタジオには星月かぐやちゃんの正体を知っているのは僕と八茅留ちゃんだけなので、他にスタッフさんはいない。


 

「勝負内容はわかってるのです?」


「うん、大丈夫だよ。3本勝負だよね」


 

 あの日以降に星月かぐやちゃん、つまり姫路さんのもとに八茅留ちゃんからきたDMで勝負の内容が書かれていた。

 勝負はジャンル別々の3本勝負で2本とった人の勝ちだ。


 

  

「そうなのです。まず1本目の勝負は『ゲーム』なのです!」


 

 八茅留が元気良くコールしたあととあるゲームのスタート画面に切り替わる。

 

 そのゲームは『マッシュカート5』

 ゲーム会社「廻天堂」の人気ゲームシリーズ「ハイパーマッシュシスターズ」のレーシングゲームの第5弾だ。

 

 ただのレーシングゲームではなく、コース内のボックスからランダムに出るアイテムを駆使したり、他にも様々なユニークな要素がある。


 

「ふふん、スマシスでは負けたなのですがマシュカーなら負けないなのです!」 

 

「いっぱい練習してきたもん、頑張るよ!」


 

 ・これいつも八茅留ちゃんがやってるやつじゃん

 ・八茅留って結構、高レートだったよな

 ・かぐやちゃんが配信してるのみたことないけど大丈夫か?

 ・ずるい


 

 モニターの左隅には余裕そうな笑みを浮かべる八茅留ちゃんが、右隅には眉根を寄せて意気込むかぐやちゃんが映し出されていた。

 スタジオにいる姫路さんのコントローラーを持つ手に力が入るのが分かる。


 

(大丈夫、あれから沢山練習してきたもんね) 


 

 姫路さんと目が合い、僕らは頷き合う。

 勝負内容が決まってから僕らは勝つために努力してきた、だからきっと大丈夫。

 

「3レースともコースはかぐやが決めていいんだよね」


「それぐらいは全然いいなのです」


 1レースだけで決着がつくのは運の要素が大きくなるということで3レースある。

 ゲームタイトルは八茅留が決めたから、こちらはコースを決めさせてもらった。


 

「じゃあ1レース目、マッシュカートスタジアムでお願いします」


「くすくす、そこは八茅留の得意コースなのです!」


 

 コースの全容が映し出された後、ゲーム機本体に内蔵されているMineというキャラ作成アプリで作られたそれぞれに似たキャラがカートに乗っている場面に切り替わる。


 3.2.1というカウントダウンの後、カートが勢いよく発進する。


「ふーん、スタートダッシュは出来るくらい練習したなのですね。褒めてやるなのです」


「ありがとう、八茅留ちゃん」


「でも、それまでなのです」

 

 八茅留ちゃんのカートがドリフトをしながらインコースを攻める。

 壁にぶつかってしまったら減速してしまうリスクがあるが、八茅留ちゃんはすれすれを駆け抜けていく、そしてドリフトをすることによって溜まるターボによって直線を加速した。

 得意コースというのは伊達じゃない。


 

「うっ……どんどん差が開いちゃう!」


 

 かぐやちゃんもアイテムを使いながら必死に喰らいつくけれど経験の差が出て、1レース目は八茅留ちゃんが勝った。


 

「負けないと言ってた割にざあこなのです」


「やっぱり八茅留ちゃんは上手だね」

 

「もっと悔しがれなのです。ちっ、張り合いがないなのです」



 煽る八茅留ちゃんに対してかぐやちゃんは涼しげな顔を浮かべ、次のコースを宣言する。

 

 

「じゃあ2レース目はマイタケアイランド!」


「……マイタケアイランド? またマイナーなコースをなのです。それでも八茅留が勝つなのです」

 


 こうして第2レースが始まった。

 お互いにスタートダッシュを決めて進んでいく。

 1レース目同様にインコースをドリフトしながら攻める八茅留ちゃんに、かぐやちゃんは差をつけられる。

 


「ふふん、なのです」


「まだまだ!」


 

 このまま差がつけられるかと思いきや、コースの中盤、ハーフパイプに差し掛かるところで状況は変わった。


 ハーフパイプの真ん中を走っている八茅留ちゃんに対して、かぐやちゃんは端をなめるように走行して距離を詰める。

 


 ハーフパイプでは道の真ん中はぬかるみによってカートが減速するようになっていて、逆に端には加速パネルがありスピードが上がるようになっている。

 だけど、スピードが付きすぎてしまいうまくいかなかないと変な所に飛んで行ってタイムロスをする諸刃の剣。

 ここが苦手というプレイヤーも数多い、八茅留ちゃんもその一人。


 

 (よし、練習どおり上手く行ってる!)



 僕は手に汗を握りながら、姫路さんとの練習を思い出す。


 

 このゲームの歴が浅い姫路さんが八茅留ちゃんに勝つには正攻法では到底無理だ。

 

 なので僕は勝負内容が決まってから八茅留ちゃんの苦手なコースの分析に取り掛かった。

 『マッシュカート』はシリーズが長く、過去作のコースも登場するのでそれを合わせると全100コースを超える。

 そうすると当然、得意なコースもあればあまりプレイしない苦手なコースも出てくる。

 

 これまで八茅留ちゃんが『マッシュカート』配信の動画を全て視聴して、得意コースと苦手コースを洗い出したのだった。

 モニターにスマホと同時視聴しながらの作業は骨が折れたけどやってよかった。


 

 次に、ゴーストといって上手い人のプレイを見れる機能があるので、それを何度も何度も繰り返し見た。

 そこから攻略動画と照らし合わせてどう操作をしているかを書き出した。

 その資料に基づいて、姫路さんには八茅留ちゃんの苦手コースだけをひたすらに練習してもらったんだ。


『こんなにも分かりやすい資料を用意してくれたなんて……、逆瀬川くんやっぱりすごいよ。八茅留ちゃんに勝つためにもわたし頑張るから!』

 

 このゲームをあまりしたことがないだけで、長年色んなゲームをプレイしてる姫路さんはゲームの基礎能力が高くキャラコントロールがとても上手かった。

 初心者とは思えないほどのタイムを叩き出していた。


 

 それだけではまだ不安だったので、まずは得意コースで余裕にさせてから苦手コースに持ち込む心理戦に持ち込んだ。

 初心者である相手が自分よりも上手くプレイしているとどうなるか。


 

「ぐう、このままじゃ……あ!」


 

 すぐ後ろに差し迫ったかぐやちゃんに焦った八茅留ちゃんが、かぐやちゃんと同じようにハーフパイプの端を走行するも、あらぬ方向に飛んでコースアウトする。

 

 その隙を逃さずかぐやちゃんが抜き去っていく。


 それから差は縮まらずに2レース目はかぐやちゃんが勝利を収めた。


 

「やった! 勝てた!」


「むぅ、こざかしい真似をなのです! 最終レースいくのです!」


 

 僕の方を見て嬉しそうに笑みをこぼす姫路さん、それとは対照的にぷんすかと怒る八茅留ちゃん。


 

「最終レースは、レインボードウロで行くよ!」


「んなぁ!? レインボードウロは今日DLCダウンロードコンテンツて配布されたばかりのコースなのです!?」


 

 八茅留ちゃんが言うように、そう、対決日である本日更新されたばかりのコースだ。



「初めてのコースなのですけど、それはかぐや、お前も同じなのです!」


 

 画面がコースに切り替わりレースが始まった。

 八茅留ちゃんは初めてプレイするコースながらも細かいテクニックを駆使して走り抜けていく。


 

「ふふふ、これで八茅留の勝利なのです!」


 

 自力の差が出て距離が開く。

 このまま八茅留ちゃんが先行すると思われたが、しばらく黙っていたかぐやちゃんがここにきて沈黙を破る。


 

「ここだ!」


 

 そういってアイテムを使って加速したかぐやちゃん。


 

「そんなのことをしても追いつかないのです……え?!」


 

 嘲笑う八茅留ちゃんだったが表情が一変する。

 かぐやちゃんのカートが八茅留ちゃんのカートの頭上を飛び超えて、先頭に躍り出る。


 

「な、な、ななな、こいつショートカットしやがったなのです!?」


「よしっ、成功した!」


 

 DLCは日付が変わると更新される。

 海外勢や日本勢のトッププレイヤーはそれに合わせて配信することが多いので僕は動画を視聴しそこで紹介されたこの攻略法だ。



 初めて走行する八茅留ちゃんは知らない情報だったみたいだね。



 八茅留ちゃんは条件は同じと思っていたみたいだけど、もちろん練習していたのだ。

 

 このショートカットはアイテムを使用するタイミング、角度、それを間違えるとコースアウトして大幅にタイムロスしてしまうのでかなりシビアだけどかぐやちゃんは成功させた。

 

 そのままの勢いでかぐやちゃんが逃げ切って最終レースは終了した。

 

「やったやった!」


 ありがとう、とこちらにウィンクする姫路さん。

 笑顔で僕は応えるが、姫路さんが必死に練習したからこそだよ、と思う。

 僕は情報収集して作戦を立てただけ、実際にそれを実現させたのは姫路さんだ。


 

 3レース中、2レースを勝ち取ったかぐやちゃんが1本目の勝負『ゲーム』の勝利を収めた。

 

  

「むむむっ……まだ勝負は終わってないなのです!」


 

 八茅留ちゃんは悔しさを眉間に集めながら、向かい合ったモニター越しに姫路さんを睨みつける。


 

 そうだ、勝負はこれで終わりじゃない。

 一息ついたのも束の間、続いての勝負へと移るのだった。

お読みいただきありがとうございます。

本日は一気に読んでいただきたかったので2話連続更新です。

続けてお楽しみくださいませ!


また、本日はコミカライズ第2話-1が更新されています!

メインヒロインの明日花が出てきます。

すっごい可愛いのでそちらもぜひお楽しみください!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 姫路さんのために八茅留の動画全部見る伍!愛が伝わってくる!
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