⑰シェリルの弱み
コリーナ様の言葉に私は何も言い返せなかった、そのつもりは無かったが確かにそうなのかもしれない。と、そう感じたからだ......。たとえ周囲の羨望や淑女としてのプライドを持とうが、意味のないことなのかもしれない。
私は無意識に手を握り締めていたが、裏腹に力なく俯いてしまいそうになっていた。そんな私をまたしても救ってくれる声がしたのは私の願望からなのか......いいや確かに彼の声がした。
「お二人ともいい加減にしてください!誰がなんと言われようと悪いのはあなた方です。そこを悪意によって捻じ曲げないでいただきたい!これ以上シェリル様を苦しめようというのであれば私を始め、サハリン公爵家も黙ってはいませんよ!全て報告させていただきます」
「ロドリック、貴様!」
「何でございますかレイナード様、何か仰いたい事でも?よろしいのですよ、私が存じ上げている事を包み隠さずお話ししましょうか?なぜ貴方様が慰謝料を渋っているのか私は知っていますので」
「な、なんの事だ!貴様何を知っているというのだ」
「コリーナ様への贈り物は全てシェリル様に使われるべきお金だったはずですよね?そしてコリーナ様、貴女もです。レイナード様に散々強請ってプレゼントさせた品々は今どこにありますか?きちんと全てお手元にございますか?」
いきなりロドリックにそう質問された二人は、驚きつつも押し黙ってしまっているのでそれが答えなのだろう。レイナード様の事は私もそうではないかと薄々勘づいてはいたが、コリーナ様の事は全く考えが及んでいなかった。
そしてロドリックは何故その様な事まで把握しているのだろう、随分以前から知っていたかのような口ぶりであったので私はそこも気になっていた。
「なによ!そんな事あなたに関係ない事でしょう?そもそも私が貰ったものをどうするかは私の勝手だわ、誰かに責められる謂れはないはずよ」
「え?コリーナ何を言っているのだ?まさか手元に無いというのか?一体どういう事だ」
「お二人とも落ち着いてください、本当はお判りなのでしょう?レイナード様はご自分の自由に出来るお金ではなくシェリル様の......そして王太子として手を付けてはいけない個人資産に手を付けてそこからお金を引き出し、コリーナ様はレイナード様から贈られたものを売り払い換金して私腹を肥やしていたという事ですよ」
そう平然と言ってのけるロドリックの事がとてもかっこよく見えた。意識して相手を威圧する為に出していると思われる低い声も挑発的な眼差しも、何よりも私が折れそうになる時に毎回助けてくれるところも。
私がここでお二人に慰謝料はいりませんと一言伝えたら解放してもらえるのだろうか?ロドリックの先程の言葉の続きを早く聴きたい。冷静な判断などではない事は分かっていた、しかし私は一刻も早くこのロドリックと言葉を交わしたかったのだ。
「貴様......何故その事を?いや、俺は認めんぞ。根拠もない事を申して俺達を脅しているつもりか?俺が一声上げたら不利になるのはどちらか分かっているのか?おい、シェリル!貴様はそれでいいのか?」
「おやめください、ロドリックは何も関係ございませんでしょう?彼の発言に根拠がないというのであれば、その内容についてしっかり精査いたしましょう。レイナード様についてはわたくしにも思い当たる節がございますので」
ロドリックに矛先が向いてしまったので私は彼を庇う。主として当然の言動と思っていたが、彼女にはそのように伝わらなかったようだ。
「シェリル様ってもしかしてこの護衛の事が大事なのでしょう?だってこの前も私から庇ってましたし、そうに違いないわ。そうだとしたらいくらレイナード様から捨てられたからといって、いくら何でも近場で手を打ち過ぎなのでは?落ちぶれるってこういう事を言うのね!」
「コリーナ様!貴女ご自分の今の立場を理解しているのですか?シェリル様に許しを乞うどころか更に暴言を吐かれるとは。この事も併せてホッブス男爵に報告させていただきます!それとシェリル様は情に厚くお優しいだけで私にだけ特別な訳ではありません」
きっと一番バレてはいけない人に私の弱い部分を見抜かれてしまったと心臓が嫌な跳ね方をしたが、ロドリックがすぐさまコリーナ様をけん制してくれたおかげで彼女はそれ以上私を追求することなく口をつぐんだ。
しかし何故だろう、私の心は確かにホッとしてはいたが何か物足りなさを感じていた。ロドリックが絡むと、いつもこの様な何とも言えない気持ちになってしまう。
嬉しいはずなのに......もやもやとして、物足りなさ?を感じるのだ。他人には期待しないのが一番だというのに、彼に関しては多くを求め期待してしまう。
そしてそんな自分を止められない自分に歯がゆささえも感じているのであった。




