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⑮お邪魔虫


 私の好きな事、それはこの人の声を聴きこの人を観察する事なのかもしれない。そしてこの衝動が俗に言う「恋」というのであればきっとそうなのだと思う。

 ロドリックが私の護衛になってからまだ日は浅いし、その事以上に彼を認識してからさほど日が経っている訳ではないのだが、きっと日数などは関係ないのだろう。初めて彼の声を聞いた時から彼は私の中で特別であったのだから。


 

 私がお気に入りの庭園にある小さな噴水の前で物思いに耽っていると、何か引っかかるものを感じた。その正体が何か分からないが、ロドリックの事を考えていた時である。何か彼に関係している事なのだろうかと思案していると、まさに彼から声を掛けられた。


「シェリル様にはお伝えしておりませんでしたが、自分は以前ここで貴女様に助けられたことがあったのです。覚えていらっしゃらないとは思いますが......」


「シェリル!貴様慰謝料放棄の話を断ったようだな!どこまで強欲な女なのだ」


 次から次へ、毎度毎度こうも懲りないものかと呆れてしまいそうになる。大体にして本日だけでもこのように乱暴な声を掛けられるのは何度目かと冷静に数えながら相手をすべく振り返り、一応大仰に頭を下げた。


「母上から聞いたぞ!貴様本気で我々を敵に回すと言うのだな?」


 私がなんとお答えしていいか言葉に詰まっていると、ロドリックが前に出て庇ってくれようとしている。彼にとっては護衛として当たり前の行動なのだろうが、今の私にはそんな些細な事でも嬉しく感じるのであった。


「レイナード様?お言葉ではございますが、御身をご心配なさった方がよろしいのではありませんか?貴方様は慰謝料を払いたくないのではなくて払えないのでしょう?」


「な、なにを!貴様何を言っている!たかが護衛ごときが調子に乗るなよ。全く、俺の護衛を首にしたと思ったら公爵家に上手く潜りこんでいたと言う訳か!」


「ええ、とても良い素晴らしい職場です。それと付け加えるならば、私は自ら貴方様の近衛を辞めさせていただきサハリン公爵家の皆さんに拾っていただいたのです。今はとても幸せです」


「ロドリック?それは本当?あなたうちに来てわたくしの護衛で不満はない?後悔はしていない?」


「シェリル様?何を仰っているのですか!確かにサハリン公爵に打診はされましたが、私は自分の意思で貴女様の護衛にしてくれと公爵に頼み込んだのです。後悔などあり得ません!」


 私は思わずレイナード様とロドリックの会話に割り込んで気になっていた事を聞いてしまったが、ロドリックは当然の事のように平然と私の問いに答えてくれた。ホッとしつつもなぜ?という疑問も残った。なぜ私の護衛としてだったのか、そこを聞きたいハッキリさせたいと思ってしまった。

 どうしてだろう......私は何を、どんな答えを期待しているのか?私の護衛として公爵家に来てくれた。その事でそれだけで満足しておけばいいのに......。


「どうして、どうしてわたくしの護衛をと頼んだの?あなたはレイナード様からわたくしを守る為と言っていたけれど、どうしてわたくしを護ろうとしてくれくれるの?」


 ――ああ、聞いてしまった。口に出してしまった......こんなこと聞かずにそのままの方が良かったのかもしれないのに!なぜ追求してしまったのだろう。私はなんて馬鹿な事を、でも我慢できなかった。自分の感情がコントロール出来なかった。きっと彼にとっての理由なんて些細な事に決まっているのに......。


「シェリル様、それはですね......」


「おいっ!貴様らいい加減にするんだ!この俺が話をしているというのに、一体何の話をしているのだ。ロドリック、貴様がどこで仕事をしようが俺には関係ないしどうでもいい事だから俺とシェリルの大事な会話を邪魔するな」


「邪魔をしているのは貴方ですレイナード様!最初からわたくしはロドリックと大切な話をしていたのです。そこに割って入って訳の分からない事を言っているのは貴方様の方なのです」


 私は初めて強い口調でレイナード様に言い返した。その私の勢いにレイナード様も驚いているようだが、先程から何度も邪魔ばかりされて私も流石に頭に来ていた。そう頭に来ていたのだ!


「シェ、シェリル、お前どうしたんだ俺に向かってそんな強く言うだなんて一体どうしたというんだ。お前少し変だぞ分かっているのか?自分が何を言っているのか本当にいいのだな?後悔はしないか?そんなにその男が大事なのか?俺の事はどうでもいいというのか?俺の話よりもその男の方が大事だというのか?」


「いい加減にしてくださいレイナード様、貴方様こそどうしたというのです?これまでわたくしがどのように振舞おうと気にされた事はなかったでしょう?わたくし達の繋がりは切れたのですからそれこそ今更なのです。ですからもうほっといてくださいませ」


 これまでどんな事があっても私はこの人を見捨てなかった。自分を犠牲にしてでも寄り添い助けてきた、しかしそれは国の為としての使命感からだ。この人は失って初めてその事に気付き慌てているのだろう、もしかしたら不安も感じているのかもしれない。


 しかし私はこの人の言い分を聞く気はないし、これ以上心を寄せる事は無いのだからその事に早く気付いて受け入れて欲しい。そもそもご自分がそう願った事なのだから......。

 

 私は己の薄情さを理解しつつも、相反する様々な感情に翻弄されているのだった。





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