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⑭正妃アラーナの焦りと側妃イブリンの想い


 アラーナ様の目的が慰謝料の取り下げだけなのか、それとも他にあるのか......まぁそのどちらもだろうが、母もイブリン様もさほど驚いた様子はなく、それよりも諭すような口調でアラーナ様へとお声を掛ける。


「アラーナ様?今回の件はわたくしも聞き及んでおりますが、サハリン公爵家との確執を生まない為にも慰謝料は支払うべきです。それなのにシェリルを脅すなど言語道断です!今すぐ陛下にお伝えしますよ?そもそもアラーナ様は、陛下のご意向をお聞きになってはおられないのですか?」


 イブリン様が私を庇ってくださり、アラーナ様をお諫めになるが、これではやはりどちらが王妃にふさわしいかが一目良善である。落ち着き払ったイブリン様に格の違いを見せつけられたアラーナ様は悔しかったのか、顔を真っ赤にされている。


「いいわ!わたくしが直接陛下にお願いしてくるわ!わたくしの頼みならあの人はなんだって聞いてくださるんですからね?」


 アラーナ様はそう言って衛兵達と共に去って行ってしまった。


「一体何がしたかったのかしら?よりによってシェリルを牢にいれるだなんて気が確かとは思えないわ。陛下の気でも引きたかったのかしら?」


 私達しか居ないとはいえ、母が正直な気持ちを口にすると、それを聞いたイブリン様は溜め息をつきながら私達に謝罪をする形で内輪の話を始めた。


「あの方なりに焦っているのでしょうね。今回頼みの綱のレイナード様が取り返しのつかない事をやってしまったわけだし、後がないと感じているのだと思うわ」


「今更ね!陛下にも相手にされなくて喚き散らすのがオチよ。せめて大人しく隠居でもして自ら表から身を引けばまだ救いはあるのに、プライドだけは相変わらず高いようだから手に負えないわね?」


「そうね......でも彼女の一番の願いはレイナード様の王位継承でしょうから、それを見届けるまでは表舞台から身を引く事は無いと思うわ......」


 イブリン様が仰っている「王位継承」これは勿論レイナード様が立太子しているので何事もなければ彼が陛下の後継者なのだが、実は彼には6つ下に腹違いの弟がいる。そう、イブリン様のお子だ。

 両陛下の補佐の為だけのはずだったイブリン様は、レイナード様だけでは不安だと周囲と陛下直々に頼み込まれてお世継ぎをお産みになった。そうしてイブリン様は見事王子様をお産みになり、その第二王子は現在十二歳ではあるが、とても賢くて思慮深く勤勉であり、彼の才は講師陣を始め城の誰もが認めている。アラーナ様の焦りはきっとそこからも来ているのだろう。

 

 しかし今回の事でレイナード様始め、アラーナ様の立ち位置もかなり危うくなっている。もしかしたらイブリン様が仰った通り、お二人とも後がない状態なのかもしれない。そしてレイナード様を追い込んだのが私だという事を考えると、少しだけ心が曇ってしまう。

 そんな私の表情に気付いたのかイブリン様が私を気遣ってお声を掛けてくだすった。


「シェリル?貴女が気にする事ではありませんからね?むしろこちらが謝罪をしなければならないのですから、貴女は自由にこれからの人生を楽しむのよ?しかし貴女がわたくしの二の舞にならなくて本当に良かったわ」


「あら、その事なら心配しなくてもいいわよ?この子ったらね新たにというか......今まさに人生の楽しみを見つけたところみたいなの!ほら?さっきも話したでしょう?」


「やだ!もしかして、彼がさっき話していた?」


 母とイブリン様が何やらこちらをチラチラと見ている。いや、正しくは私の後ろに立つロドリックを、だ。どうやら私達がここへ来る前に母達は色々話をしていたのだろう......。気になる、一体どのような言われ方をしていたのか。

 私は二人に冷やかされるのを覚悟したが、イブリン様の反応は思っていたものとは違った。


「シェリルが王太子妃となってお城に来てくれるのを楽しみにはしていたけれど、貴女自身の幸せが一番大事なのよ?だから自分の人生に悔いの残らないよにね?」


 そう言って少し寂しそうなお顔をしているイブリン様は、もしかしたらご自分の過去を重ねていたのかもしれない。私はロドリックをイブリン様に紹介をした。経緯は母から聞いているであろうから、彼の事を少しお話したのち二人に挨拶をしてその場を後にした。


 屋敷に帰る道すがら庭園を歩き考え事をしていると、ロドリックがふと話しかけてくる。


「でもよかったですね大事にならなくて。あの瞬間少し焦りました、このまま何も出来ずにシェリル様があいつらに連れていかれたらと思って......」


「そうね、わたくしも驚いたわ。でも、あの場にはイブリン様もお母様もいらっしゃったから......。それにあなたもすぐそばに居てくれたからとても心強かったわ」


 私は立ち止まり、彼に正直な気持ちを伝えた。すると彼は少し驚いたようにして微笑んだ。そして照れたように指で鼻の頭を掻きながらぼそぼそと何か言っている。なんと言っているのか......その言葉が私の耳に届く事は無かったが、彼のその姿がとても可愛らしくて私は彼から目を離す事が出来なかった。

 

 母とイブリン様が話していた私の好きな事、人生の楽しみ、私はその事が何なのか分かった気がしたのだった......。





 

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