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黒白の折り鶴  作者: 奥生由緒
第1章 帰郷
11/26

(10)学年末試験後のお祭り騒ぎ

少し長くなりました。

分けようかと思ったんですが、勢いもあるのでそのままで。

「何でこんなことになったんだろ……?」


 武道館のリングの中央に立ち、ユウトは呟いた。

 正面には同じ〝特待生〟の男子生徒が一人。左側、リングから少し離れたところに出番を待つ他の〝特待生〟がパイプイスに座って並び、リングの周りを十数人ほどの教員が囲んでいる。

 そして、二階部分の観客席には三年生の他に四年~六年の上級生全員が集まっていた。




 三月。〝塔の儀礼(サンスクリット)〟のチームも決まり、生徒たちは巡る〝塔〟の選別や滞在期間、行程などの下準備を終えて間近に迫った学年末試験に向けての試験勉強に追われた。

 試験は七日間。先の四日間が一般教養と術式に関する筆記試験で、土日を挟んで残りの三日間が実技試験となっている。

 実技試験は大きく二つに分かれ、まずは現在出来る限りの強力な〝練紙〟を提出することと、上級生との模擬戦だ。教員ではなく上級生が相手なのは、彼らの視る目を確認する試験と合わせて行われるためだった。

 試験は順調に日程を進め、実技試験最終日の午後。

 学年末試験は予定通りに終わり、本来なら放課後になっているはずだったが、未だに武道館は生徒で溢れかえっていた。

 そもそもの始まりは、ある噂だった。

 ユキシノ学園史上初の二桁の〝特待生〟。その中で誰が一番強いのか、そんなありきたりの興味本位の噂が流れた。年末の試験では生徒の希望によって〝特待生〟の総当たり戦が行われ、リクが全戦全勝して実質のトップとなっている。

 それから二ヶ月弱。新たにユウトも加わったことで、現在の実力がどのようになっているのか、興味は絶えない。

 そして、今日になって発表された〝特待生〟のトーナメント戦。

 試験を終えた三年生と上級生たちが集まった武道館では、その第一試合が始まろうとしていた。




(あー……見世物か。見世物だし、見世物だよなぁ)


 学年末試験も無事終了し、四年生になれば多忙となる《傀儡師(パペット)》専攻生の最後の息抜きとして開催したお祭り騒ぎ。参加者としては、ただの見世物だと思わざる終えない。


「コカミが相手かぁ……お前、アカミヤに一本とったって聞いたしなぁ」


 ため息をつく男子生徒は旧友だ。ぽりぽり、と頬をかき、じと目を向けてくる。


「とか言いながら、もう〝術具〟だしているけど?」


 ユウトは彼が担いでいる赤銅色の大剣に目を細めた。


「いやいやいや。ぶった斬るとか思っていないぞ?」

「あー……斬れないからね?」

「ほほう。俺には効かんと?」

「カっちゃん。ハルのマネは止めてほしいんだけど……」


 旧友――カツタロウ・フジワラはにっこりと笑った。

 ユウトは腰にさげたケースから〝鶴〟を取り出し、それを核として〝白刀〟を出現させた。三羽の〝鶴〟が待機状態で周囲を舞う。ユウトは手で触れることなく〝鶴〟を操作することができた。


「まぁた、その手か」

「基本スタイルだから」


 〝白刀〟の切っ先を下に向け、ユウトは苦笑した。

 ユウトの基本スタイル――〝白刀〟や〝鶴〟を漂わせることは知れ渡っていた。

 最近は実技授業でも〝術具〟を使っているが、カツタロウとはクラスが違うので初対戦だ。

 双方ともに〝術具〟を手にしたのを確認して、審判役の教員が改めて注意事項を述べる。


「危険と判断した場合、こちらで術式は止める。――それでは第一試合、始め」


 教員の合図でカツタロウは一気に間合いを詰めてきた。

 カツタロウの術式は〝第拾肆じゅうよん式・くわえる〟、特性は増幅だ。

 大剣が淡い輝きを放ち、カツタロウの身体を覆った。術式で加速し、たった二歩でユウトの懐に入り込むと大剣を振るった。

 ユウトはバックステップを踏んで寸前のところで剣先を避け、距離を取った。

 だが、大剣を振るったことで生まれた遠心力を操り、カツタロウは身を回してニ撃目の袈裟切りを放つ。

 次々と重ねてくるカツタロウの斬撃を避け、避けきれない攻撃は〝白刀〟で受け流しながらそのリズムに合わせていく。

 徐々にその一撃一撃が速く、腕にかかる衝撃が重くなっていく。

 気迫の声を上げて上段から振り下ろされた一撃。

 ユウトは避けられず、〝白刀〟で受け止めた。


「っ!」


 ぎしり、と腕が軋みを上げた。受け流そうとして、がぎぃっ、と耳障りな音を立てて刀が滑った。

 ユウトはバランスを崩した。カツタロウが振り下ろす勢いのまま、大剣を捨てたのだ。斜めになった視界に見えるのはカツタロウの背中。顔面に足底が迫った。

 ふっ、と〝鶴〟が一羽、その姿を消した。


「ぐっ!」


 互いの口から、うめき声が漏れた。

 ユウトは右の肘鉄で一撃を受け止めたが、その衝撃で右手から〝白刀〟が零れ落ちる。とっさに左手で〝白刀〟を拾い、刃で大剣を外に払いながら距離をとった。

 一方、カツタロウは足を押さえて床に膝をつく。

 ユウトは軽く踏み込み、逆手に持った〝白刀〟を振り上げ――、


「そこまで!」


ぴたり、とカツタロウの上腕部に触れる直前で手を止めた。


「勝者、コカミ!」


 それを合図に静まり返っていた館内に歓声が上がった。

 ユウトは息を吐いて〝白刀〟を消した。


「いてて……フツ―、肘鉄で受けるか?」

「顔面に蹴りを放った人に言われたくないよ」


 アキレス腱の辺りを強打したカツタロウは、さすがに痛みで顔をしかめていた。

 残っていた〝鶴〟がカツタロウの足首に当たり、消える。


「――ん? あれ、痛みがひいてきたぞ?」

「とりあえず、痛み止め。あとは先生に診てもらって」

「お前……便利だな」


 左手を差し出すと、カツタロウは目を丸くしながら捕まって立ち上がった。

 ユウトは左手で鈍い痛みを訴える右肘をさすり、直接〝始〟を当てて治癒力を高めた。

 二人揃ってリングを降りると、


「ちょっと! こっちに飛んで来たわよ!」

「危ないだろ!」


 他の〝特待生〟たちに怒られた。何故かイスが散乱し、全員が立ち上がっている。


「あ。ごめん」


 カツタロウの大剣を弾いたのを忘れていた。

 どうやら勢い余って――おそらくは〝加〟だろう――リング外まで飛んでいったようだ。


「お前なぁ……」

「お前が離すからだろ!」


 呆れたように言うと、横からカツタロウは頭をはたかれた。


「いってぇな!」

「バカヤロウ! 普通、離すかっ」

「仕方ないだろ! コイツに正攻法はきかないんだからさ!」

「え。僕のせい?」






 少しの休憩を挟んで第二試合。選手二人のうち、一人はキキコだ。相手は知らない生徒で、少し表情が固い。試合が始まり、じっとその攻防を視線で追っていると、


「なぁ、一つ疑問なんだけどさ」


 唐突にカツタロウが尋ねてきた。席順は第一戦の対戦順になっているので、席は隣だ。


「何が?」

「お前、速さが売りだろ? 何で突っ込んでこなかったんだ?」

「わざわざ〝第拾肆式〟使いに突っ込まないよ。〝序式〟は、あくまで初動が速いだけなんだからさ」

「まぁ、突っ込むというか、不意打ちが得意なんだろ?」

「人聞きが悪すぎるけど?!」

「ハルノが言ってたぜ?」

「ハルか……」


 ユウトは頬を引きつらせた。


「言っておくけど、ハルとの模擬戦は堂々と正面からいったよ?」

「ほら。やっぱり正面から突っ込んでいるんじゃないか」

「………」

「あー……からかうのはココまでにしてやるよ」


 むすっ、として顔をそむけると、カツタロウはカラカラと笑った。


「わざわざ、〝加〟の一撃を受ける必要はないってことさ。アレを受け止めたのはリクぐらいだぜ?」

「力任せだからね」


 〝加〟で増幅した身体能力から放たれた一撃は、振り下ろすだけでも強力だ。それは回し蹴りも同じことが言えた。


「速さで翻弄しても、やっぱり〝しつ〟には劣るからね。仕掛けたら対応できるようにさらに加速するだろ?」

「なーるほどなぁ………ん? それは俺の力を抑えていたってことか?」

「あー……けど、一撃一撃を流しきっていたというわけでもないから、結構、肉と骨を絶つ作戦だよ」

「……へぇー」

「せ、戦術だから」


 じとー、と睨まれ、ユウトは目を逸らした。


「うっ……それを言われるとな」






 第二試合はキキコが勝利し、第三試合はハルノ、第四試合はリンカ、第五試合はリクが勝ち上がった。

 結果として、ユウトを除いて年末のトップ4が第二戦に進出したことになる。

 人数の関係から第二戦の第一試合でリンカとハルノが対戦し、勝利した方がリクと試合することになった。勝ったのはリンカだ。

 そして、第ニ戦第二試合はユウトとキキコの一戦。


(そういえば、キキコと〝術具〟の手合わせはしていないな)


 〝塔の儀礼(サンスクリット)〟を終えるまでは、校外での〝術具〟の使用はある一部の例外を除いて校則で禁止されていた。

 キキコの〝術具〟は先の試合で見たが、それ以前となると見たことはない。

 二月はほとんど会わず、〝塔の儀礼(サンスクリット)〟を一緒に行うと決めてからは〝練紙〟の訓練に費やして、三月に入ると試験勉強に追われたからだ。


「ユウくん。よろしく」

「うん。お手柔らかに」


 互いに一礼。


「それでは始め」


 ユウトは〝白刀〟を握り締めた。

 キキコの〝短冊〟が淡い光と共に膨張し、一つの〝仮面〟に変わった。真っ白な面に赤色の不思議な紋様が浮かんでいる。目の辺りには二つの切れ目があり、虚ろな瞳が覗いている。

 ゆらり、とその身体が二重にブレた。

 ユウトは大きく横に跳んだ。

 眼前を赤い閃光が横切る。次々とキキコから繰り出される拳や蹴り。ユウトはその軌道を読み、避けて反撃しようとするがキキコの攻撃は腕や脇を掠り、ユウトの一撃は虚空を切った。

 次第にユウトの避ける動きが大きくなり、反撃を止めて避けることに徹した。キキコの勢いに負けて後ろへと追い詰められていく。

 キキコの一撃一撃が二重にブレ、それをよく視ようとするとさらに大きくズレていく。悪循環だ。


「っ?」


 目が霞んで、一瞬、ユウトは動きを止めた。

 その隙を見逃さず、キキコは一気に距離を詰めてきた。ユウトは大きく後ろに飛びずさり、リング端のギリギリで踏みとどまる。

 だが、キキコの動きが速い。懐に入られ、腹部に渾身の一撃が放たれた。


(……二、三……四っ?!)


 四つの拳を視界に捕らえ、ユウトは目が眩んだ。


(〝瞬辿しゅんてん〟っ)


 〝白刀〟から右手、右腕と熱い何かが――〝練気〟が全身を駆け巡った。

 キキコの動きが緩慢になる。

 キキコと立ち位置を変えるように身体を回し、一瞬でキキコと十数メートルの距離を取り、ユウトは〝白刀〟を掲げた。

 目の前、リングの端にキキコの背中が見える。

 〝瞬辿〟は精成回路の活性化によって身体能力を上げる技だが、その代償に〝白刀〟の〝練気〟の残量はわずかになった。

 キキコが振り返ったのと〝白刀〟を頭上に放ったのは同時。

 〝白刀〟は爆発し、白い塵(・・・)が舞った。


「………」


 白い塵が降る中でユウトは目を閉じる。

 瞼の裏に白い塵――自分の〝気〟が浮かび上がった。

 キキコが二重、三重に重なって視えるのは、彼女の術式――〝第拾玖じゅうきゅう式・かり〟を纏っているからだ。

 〝仮〟は〝天眼通(ルガルデ)〟で見抜けるが、それも万能ではない。

 周囲にかけられたものや術者自身にかけられた[幻影]なら問題はない。

 だが、キキコが使っているのは[幻惑]。キキコの姿は視えても、その周りを揺らめく彼女自身の〝気〟が距離感を狂わせ、上手く間合いが取れなかった。さらにキキコは自らにも暗示をかけて大勢に注目される恐怖――感情の起伏さえ抑えているため、目の動きで先読みも出来ない。


(視え過ぎることが仇になるなんて……)


 ユウトは周囲に意識を向けた。その感覚は白い塵が舞う範囲を超え、リング、館内へと広がっていく。

 白い塵を通して周囲一体の〝気〟の流れを感じた。

 〝塔〟によって環境が維持された世界は、〝塔〟が放つ〝気〟に満たされている。

 《傀儡師(パペット)》が生まれる理由――それは〝塔〟が放つ〝気〟の影響を受けているからだ。

 〝塔〟を使って世界の〝気〟を操るため、まずは自分自身の精成回路を強化させていく。

 それがいつのまにか〝練気〟だけを操ることが《傀儡師(パペット)》といわれるようになった。

 己の〝気〟を橋渡しとして周囲の〝気〟を操ることが本来の《傀儡師(パペット)》の在り方だ。

 〝式陣〟の固定やユウトが〝鶴〟を周囲に漂わせているのも、己の〝気〟を仲介として周囲の〝気〟を操っているからだ。


「―――」


 白い塵を裂くように赤い影が浮かぶ。

 キキコが間合いに入った。

 キキコが纏う[幻惑]を白い塵が覆い、その姿がひと際強く浮かび上がる。繰り出される拳を避け、その腕を掴むと、勢いを借りて投げ飛ばした。


(軽い……)


 自分から飛んだのだろう。ユウトが後ろに振り返ると猫のようにしなやかに身を回し、足から着地したキキコの姿が視えた。振り返り様に回し蹴りを放つ。キキコは余裕で後ろに飛び退いた。

 だが、想定内だ。

 ユウトはその後を追い、掌底を放った。



―――パキンッ、



と。〝仮面〟が粉砕した。


「――ぁ……」


 戸惑った声を上げるキキコ。後ろに倒れていく彼女の手をとっさに掴み、引き寄せる。


「――と。危なっ」

「え? あ……」


 腕の中でキキコは目を丸くして、頬に手を当てた。〝仮面〟が消えていることに目を丸くする。

 ユウトは彼女の身体を離し、


「僕の勝ち、だよね?」


にっこりと笑った。




         ***




「勝者、コカミ」


 一瞬の静寂の後、館内は歓声で沸いた。

 リンカは唐突な試合の終了にぽかんと口を開けた。


「な、何が?」

「え? どういうこと?」

「あれって、私の時と……」


 試合待ちの同級生たちも戸惑った声を上げる。


「何、さっきのアレ……」


 ユウトとキキコの試合は、最初はキキコが優勢だった。

 キキコの〝術具〟は相手への撹乱と注目されて動揺する心の抑制、その二つの効果がある。全く自分と同じ姿を纏うことで〝天眼通(ルガルデ)〟を無効化、逆に目を奪う戦法だ。

 当初はユウトもそれに引っかかり、リング際まで追い詰められていた。

 だが、問題はそこからだ。

 ユウトはキキコのトドメの一撃をあっさりとかわすと、いつのまにか中心部へと戻っていた。

 いつ移動したかもわからない、捕らえきれない速度は、本人曰く〝瞬辿〟と呼ぶ技だ。〝序式〟による初動の加速、それを重ね合わせることで瞬間的に移動できるのだと言っていた。

 そして、数秒で決着がついた。

 突然、ユウトは〝白刀〟を頭上に投げて爆発させたかと思えば、今までの後手が嘘だったかのようにキキコの一撃をあっさりとかわし、動きが取りにくい空中におびき寄せて掌底で〝仮面〟を破壊した。


「せ、先生……あれって?」


 リンカは近くにいるユウトたちの担任に目を向けた。

 気だるげな顔に、わずかに目を細めたキヨカワは、


「あれは〝(スイエル)〟だな」

「〝(スイエル)〟? でも、それは感知方法……」

「お前達はまだ詳しくは習っていないか。……平たく言えば、周囲の〝気〟の掌握だ」

「掌握?」

「コカミは〝白刀〟を解除しただろ? あの瞬間移動みたいな技を使ったから、それほど〝練気〟が残っていなかったんだろう。その〝練気〟を館内に散らすことで、反撃の一手としたわけだ」

「で、でも、コカミは目を閉じてましたよ?」


 今ひとつピンッ、と来ず、リンカは眉を寄せた。それは同級生達も同じようで、 


「そうそう。それにあいつなら視えすぎるんじゃ……」

「〝(スイエル)〟は視るんじゃなくて、感じる方法だ。イテナカの〝術具〟は結構、えげつないが、それを破る方法としては、感覚の方がやりやすかったんだろう」

「か、感覚って……」


 キヨカワの説明にハルノは引きつった笑みを浮かべた。

 ハルノの担任が小さく苦笑して、


「アカミヤさん。〝(スイエル)〟は自分の〝気〟を媒体として、周囲の〝気〟を把握するものです。〝術具〟に使った質の高い〝練気〟を使った上に室内ですからその感度は高いんですよ」

「あとな、コカミが〝練紙〟を飛ばしているのは〝(スイエル)〟を平然と使っているということだ」

「え?」

「プロが触れずに〝練紙〟を発動できる方法は二つある。〝式陣〟を使う場合と〝(スイエル)〟で周囲の〝気〟を使っている場合だ。……発動させずに待機状態で〝練紙〟が空中を舞うわけがないだろう?」

「………」

「言っておくが、〝(スイエル)〟は《傀儡師(パペット)》にとって重要技術の一つだぞ」


 すでにそれを易々と使っているユウトにリンカたちは絶句して、戻ってきた二人に目を向けた。


「え? 何?」

「ど、どうしたの?」


 リンカはますますユウトの実力の底が分からなくなった。


「イテナガ。身体の方は大丈夫か?」

「は、はい……」


 キキコは注目された恥ずかしさに俯き、小さな声を返した。


「コカミ。いくら〝仮面〟の〝練気〟の残量が少ないと予想していても破壊はやりすぎだ。――ちょっと来い」

「えっ?! ……はい」


 ユウトはキヨカワに手招きをされて、少し離れた場所で説教を受けた。


「負けちゃった……」


 気落ちした声だったが、どこかすっきりしたようにキキコは言った。


「途中までは有利だったのにね」

「……うん」

「〝仮面〟を壊されたとき、痛くなかったの?」

「ううん。……えっと、一瞬、強い風が叩きつけられたみたいな感じだったよ?」

「手の平は当てってなかったの?」

「うん。当たってないよ。飛んでたまま吹き飛ばされたような……?」

「……〝練気〟でかな?」

「だと、思う……」


 うーん、と悩んでいると、肩を落としたユウトとその後頭部を睨むキヨカワが帰ってきた。

 こってりと怒られたようだ。


「ユウ?」

「え? ……何?」

「ううん。何でもない」


 リンカは覇気のない顔に慌てて首を横に振った。

 その後ろではキヨカワが監視するように見下ろしている。


(き、聞きづらい……)


 ユウトは席に着くとカツタロウに小突かれてそっぽを向いた。言い合いを始めるが、キヨカワの圧力にすぐに口を閉ざす。


(あとでいいか……)


 リンカは深呼吸をして気持ちを切り替えた。

 次はリクとの対戦だ。

 ユウトとは反対側に視線を向ければ、焦点の合わない目を虚空に投げているリクがいた。


「―― ……」


 リンカの視線に気づいたのか、首を傾けてリンカを見ると、片眉を上げる。


「―――っ」


 リンカは睨み返した。






 リクとの付き合いは小等学校に上がる前、ユウヤキ道場からで十年近い。ユウトやキキコも同じだ。

 その後、ユウトが引っ越したものの、同門ということもあって半ばくされ縁でつるんでいた。その関係をからかわれたことも一時期あったが、二人で――リンカとリクで――力ずくの解決をした。

 あの兄に鍛えられた(遊ばれた)一番の被害者からか、同門の同年代ではユウトを除くと実力はトップ。

 普段は軽口や冗談を叩き、本気なのかフェイクなのか、腹のうちを見せない性格はあの人と同じだ。


(兄弟そろって……)


 向かい合い、離れた場所に立つリクを睨んでいると、


「さっきから何?」


 リクは訝しげに眉をひそめた。


「別に」

「そんな顔してないけど?」

「へぇ……」


 生返事を返すとリクは諦めて肩をすくめた。ケースから〝紙ヒコウキ〟を取り出すと、〝紙ヒコウキ〟は淡く輝いて細いブレスレットに変わった。


「……二つ、ね」


 リンカも〝小鳥〟を取り出し、〝練気〟を込めると〝小鳥〟は淡く輝いて足元に集まった。

 輝きがおさまると、リンカは群青色のブーツを履いていた。

 リンカの〝術具〟は〝ブーツ〟、リクは〝ブレスレット〟だ。 リンカが選定したのは〝第(しち)式・しつ〟で特性は速度。〝第染式〟使いの〝術具〟は特性を充分に活かすために靴の形状をとることが多い。それに対して、リクの〝ブレスレット〟は少し特殊だ。


「始め!」


 開始の合図。

 リンカはとんっ、とリングを蹴った。

 景色が歪んだ。数秒でリクとの間合いを詰める。初動が速い〝序式〟と違い、〝疾〟は速度が持続されている。その勢いを乗せて、無防備なリクの肩に蹴りを放った。


「気がはやいよ……」


 リクの身体が横にズレ、蹴りは空を切った。淡い緑色の光が視界の端を通りすぎる。

 振り抜いた足をつき、身を回して二撃目。


「――っと」


 リクは上半身を仰け反らせ、そのまま後ろへと移動した。


「ちょこまかと!」

「いや。それはこっちのセリフ」


 リクが乗るのは緑色の[道]。〝循環〟を特性とする〝第弐拾にじゅう式・〟の効果だ。

 とん、ととん、と歩幅を変え、フェイントをかけながらリクに詰め寄った。

 リクは眉を寄せて右手を振るうと、その軌道を沿うように[帯]が放たれた。

 リンカ自身の速度と発動する[帯]の速度が合わさり、一瞬で眼前に迫るがリンカは直感で身を低くして避けた。

 だが、新たに放たれた[帯]が眼前に迫る。


「っ!」


 リンカは上に跳んだ。その足先を[帯]が触れ、



―――バチンッ、



と。上空に吹き飛ばされる。[帯]は振るった方向に沿った〝流れ〟が存在する。リクを中心として放たれた[帯]は拒絶し、触れた相手を吹き飛ばす。

 その衝撃に両足首が軋みを上げた。


「――ったいわね」


 〝ブーツ〟で体勢を立て直し、リンカはその場で前転。落下の勢いを加えてリクに踵落としを放った。


「なっ」


 リクは目を丸くして眼前で両腕を重ねた。[帯]がリクを囲む。

 破裂音が響いた。

 〝ブーツ〟と[帯]は軋みを上げながらかみ合い、火花が散った。

 だが、それはたった数秒のことだった。


「っ!」


 押し負け、リンカは後ろへ弾き飛ばされた。体勢を立て直そうとして顔を上げれば、[帯]がすぐそこまでかかっていた。


「きゃっ――」


 追撃の一撃は〝ブーツ〟に当たった。

 リング外――壁へと吹き飛ばされ、激突する寸前でふわり、と身体が浮いた。

 ひらひら、と木の葉のように揺れて、リンカは床に尻餅をつく。


「そこまで! 勝者、ムラカワ」






(負けた……)


 歓声と拍手を聞きながら、リンカは大きく息を吐いた。〝ブーツ〟を解く。

 立ち上がろうとすると、少しだけふらついたが足首に痛みはない。


「大丈夫か?」

「うん。痛くはないわ」


 リンカは駆け寄ってきたリクに頷いた。


「まったく。空中で姿勢を正すなんて……無茶するよ」

「そう? 弾かれてばっかりじゃないわ」


 リンカは肩をすくめ、降りてきたリクと一緒に待機場所に向かう。


「空中での姿勢制御、上手くなったな」

「うーん……〝隠過(ペルメア)〟のおかげかな? 前よりも〝術具〟が扱いやすい気がするんだけど。それに使用時間も伸びたみたいだし。そっちもでしょ?」

「ああ……」

「もうちょっとだと思ったんだけど……」

「こっちも上がってるからな」

「そうよね……」


 リンカはちらりとユウトを見て、


「悔しいけど。――がんばって」

「ああ……」


 にっ、とリクは笑った。




         ***




「それでは決勝戦を始めます」


 休憩を経て、審判役の教員が言った。


「がんばれよ!」

「リク! ユウトなんてぶっとばして!」

「行けや! 年末一位!」

「二人ともがんばってぇ!」


 声援を背にしてユウトとリクはリングに上がった。


「さて。せめて他の術式を使わせるか」


 好戦的なリクにユウトは苦笑した。


「確かに使ってないけど、弾かれるのはちょっと……」

「リンカはああもしないと途中で帰ってくるんだよ」

「うーん……そうはそう思うけど」


 ユウトはケースから〝鶴〟を取り出し、〝白刀〟を握った。周囲にニ羽、〝鶴〟を待機させる。

 だが、リクは〝紙ヒコウキ〟を手にしたままで、〝術具〟にしていない。


「大丈夫です」


 リクは審判の問う視線に頷いた。


「それでは決勝戦、始め!」



―――ジャラッ、



と。リクの両手首に複数の〝ブレスレット〟が出現した。

 ユウトは反射的に〝瞬辿〟を使い、リングの端へと移動した。

 緑色の閃光が爆ぜた。

 叩きつけるリクの〝気〟に顔の前に右腕をかざした。


「っ――これって……?」


 眼前には無数の[帯]で構成されたドームが出来上がっていた。

 その中で[帯]は縦横無尽に巡り、唸り声を上げている。大きさはリングの半分を覆い、未だに少しずつ大きくなっていく。

 その中心には、両腕の〝ブレスレット〟を淡く輝かせるリクの姿が見える。


「〝環〟の……結界?」


 結界。〝(スイエル)〟とも言えるだろう。[ドーム]内に充満したリクの〝気〟。その中に入ればこちらの〝練紙〟にも干渉されかねないほどの密度を持っている。


「……おぉー。予想以上にすごいな」

「え? もしかして、暴走?」


 リクの少し驚いた声に眉をひそめる。


「いや。久々だからな」


 結界の中でリクがツッコミを入れた。


(……精錬度が高まったからか)


 ふぅん、とユウトは頷き、結界に正面から突っ込んだ。数メートル手前で飛び上がり、落下の勢いも合わせて〝白刀〟を振り下ろす。

 結界に触れる刃から火花が散り、手首が軋みを上げた。思わず顔をしかめる。


「っ!」


 弾かれ、ユウトは背後に吹き飛ばされた。

 〝紙ヒコウキ〟で[道]を作って体勢を整え、リングの端で着地。鈍い痛みを訴える手を振るう。


「……痛かった」

「何で突っ込んでくるんだよ」


 ぼやくように言うと呆れた声が返ってきた。


「突っ込むしかないって。結界内(そっち)に行かないと勝てないし」

「……あぁ、様子見な」


 試合中でも軽口を叩き合う。いつものことだった。

 模擬戦でも真剣勝負。そう思いながらもキキコやカツタロウ、ハルノとはまた少し違う。

 ユリナとライヤたちの〝弟〟として、訓練(遊び)に巻き込まれた回数が多いからだろうか。

 町に帰ってきてからは、〝術具〟なしの組み手や〝練紙〟の練習ばかりしていて、〝術具〟を使う授業ではじゃれ合う程度。本気で潰しにかかることはなかった。


「……何というか……【白澤はくたく】、意識してない?」


 リクは目を逸らした。


「え? 図星?」

「………」

「いや、ガン見されても分からないけど」


 ふと、思ったことを口にしただけで、まさか本当に意識していたのだとは思わなかった。


(嬉々として突っ込んで行きそうだけど……)


 攻守のどちらだといえば、守に近い。リクの様子から考えると、精錬度が上がったことで何か変化があったのだろう。

 それは今後、精錬度を高めていけばさらに厄介なことになるということだ。


「それでどうするんだ?」


 じわじわと結界はその領域を広げてくる。

 ユウトは結界に目を細めた。〝白刀〟を当てた感覚では、破るのは容易ではないだろう。

 その上、縦横無尽に巡る[帯]や〝域〟にからめとられる。


「……ココは【白澤】に倣おうかな」

「は?」


 目を丸くしたリクにユウトはにやりと笑った。

 ひょいっ、と軽く〝白刀〟を投げる。〝白刀〟はくるくると回りながら天井――結界の上に向かい、爆発した。込めていた〝練気〟が塵となって結界に降り注ぐ。


「また、突拍子もないことを」

「そうかな?」


 リクに苦笑を返し、ユウトはケースからいくつかの〝練紙〟を取り出した。赤銅と桃色の〝練紙〟は、カツタロウのとクラスメイトたちから交換したものだ。

 訝しげにリクは眉をひそめる。

 ユウトは両手を掲げ、何かを握ったように拳を合わせる。左右に手を広げながら、〝練紙〟をイメージ通りに並べた。

 〝始〟で根本を作り、次に〝第拾参(じゅうさん)式・そう〟をおく。〝(連続)〟ではなく、積み重ねる特性を持つ〝層〟で区切り、そこに〝加〟を三つ。最後に〝始〟でコーティングをすれば終了だ。


「――〝装填〟」


 手の中に〝白刀〟が出現した。無造作に〝白刀〟を下に振るえば、取り込んだ〝練紙〟の色に瞬き、再び白で収まった。

 ざわりっ、と館内がざわめく。


「なっ?!」


 リクは驚愕して目を見開いた。それに対してユウトは笑みを返し、


「〝瞬辿〟――」


 腕から身体へと熱が全身を駆け巡り、ユウトは一瞬で[ドーム]の中へと移動した。

 リクの〝気〟が満ちた中に入ると、肌にチリチリとした痛みを感じた。

 [ドーム」に異物と認識されているのだろう。

 周囲を駆け巡るのは幅が五センチほどの[帯]。[道]よりも速く、より圧縮された〝練気〟を感じた。

 大気が震え、突風が吹く中で、パチパチ、と何かが弾かれる音がする。ユウトの〝気〟だ。〝術具〟を形成していた〝練気〟とはいえ、分散されてはあまりにも弱い。[帯]に触れれば、消えていくしかない。


(――〝(スイエル)〟)


 目を閉じれば消えていく〝気〟が[帯]の軌道、速度を浮かび上がらせる。

 二歩目を踏み出し、ユウトは目を開けて跳んだ。眼前にはリクはいない。

 だが、その行き先は分かっている。

 右下に振り払うように〝白刀〟を凪ぐ。

 ガギィンッ、と耳障りな音と共に衝撃が右腕を襲う。


「――さすが」


 [帯]の上で、背後を取るリクは笑った。

 接触は一瞬。

 ユウトは[帯]に弾かれて体勢を崩したまま落下した。

 何故か眉をひそめ、リクは追撃せずに距離を取った。

 ユウトは左肩から地面に落下し、すぐ下を通りすぎる[帯]に手をついて(・・・・・)宙返りをした。態勢を立て直すと足で[帯]を蹴って(・・・)リクを追う。

 それにリクは目を丸くした。

 未だに〝瞬辿〟の影響下にある身体は、[帯]に弾かれる前に移動が出来る。初動の加速を特性とした〝序式〟を二重にかける〝瞬辿〟だからこそ可能だった。

 初撃は〝白刀〟を介してからか失敗したが、コツは掴んだ。


「くっ!」


 距離を取ろうと、リクは後退しながら牽制の[帯]を放つ。ユウトは[帯]を跳ねるように飛び回り、それを避け続けた。

 次第に距離が埋まっていくことに、


「ははっ」


リクは嗤う。


(やっぱり、兄弟だ――)


 一瞬、リクの瞳に宿った狂気の色に苦笑した。

 経験が告げる――何かが、来る。


「――行けっ」


 一つの〝ブレスレット〟から光が迸った。

 無数の[帯]が出現した。眼前を覆い、面となって絶対の拒絶を示す。

 接触まで数秒。避ける隙はない。

 ユウトは、かちり、と〝白刀〟を鳴らした。


「……〝発射〟」


〝白刀〟を逆袈裟切りに振るう。

 白銀の閃光の中に、一筋の赤銅色の線が刻まれた。



―――ビシリッ、



と。緑色の[壁]に亀裂が走った。

 そこに返す〝白刀〟でトドメをさす。

 ガラスが粉砕するような音が響いた。

 欠片となった[壁]が降り注ぐ先、目を見開いたまま固まっているリクの姿があった。光を放っていた〝ブレスレット〟は、その輝きを失っていき、やがて崩れ去った。

 ユウトは〝白刀〟を振るい、淡い赤銅色の光を消す。


「まだ、これからだ」


 リクに笑みを返した。




         ***




(……なんて、奴だ)

 

 リクは素直にそう思った。

 ユウトの行動は、いつも予想とは違って、斜め上を地で行く。

 今までの試合で[帯]で弾かれたのを見たにも関わらず、突っ込んできたこと。

 あっさりと[ドーム]内に入ってきたこと。

 〝白刀〟の〝気〟を使って、[ドーム]内での〝域〟を強化したこと。

 [帯]に弾かれないこと。

 そして、極めつけはあの一撃だ。

 〝術具〟の〝練気〟を一つ丸ごと使う大技にも関わらず、ユウトはあっさりと撃退させた。

 それも、己の〝術具〟に他者の〝練紙〟を含ませて――。

 それは〝序式〟の特性。他の〝術式〟の使用効果の向上はあるが、まさか〝術具〟に施すとは予想をはるかに超えていた。

 状況判断力、適応能力、そしてそれを実行する意志と実力。

 改めて向き合うと、その全てにおいて見習いレベルを超えていることに気づかされる。


(………これ、か?)


 これなのだろうか。これが、兄が固執したユリナが助けたユウトの才能。

 そして、それに驕ることなく鍛えたユウトの努力(覚悟)


(……まったく。なんて、奴だ)


 リクは嗤っていることに気づかない。それが兄と似ていることも――。

 その目にはユウトの姿は、ほとんど捉えられていなかった。

 リクがその攻撃を避け、反撃できているのは[ドーム]内だからだ。今の実力では、まだ[ドーム]を〝練紙〟なしで維持することは出来ない。今までも四つの〝練紙〟に込めた〝練気〟を使って、やっと発動させているのだ。それが〝練紙〟が三つに減り、[ドーム]の範囲拡大やその中の〝気〟の流れがより鮮明に感じるようになったのは、〝隠過ペルメア〟訓練の賜物だろう。

 《傀儡師パペット》でも最速を誇るリンカに対して、[帯]だけで勝てたことが今までの〝練紙〟との違いを語っていた。

 だが、やる気になったユウトが弾き飛ばされたのは、最初の一撃だけだった。

 その後は、いくら[帯]を放っても軽々と避けていく。周囲を埋め尽くす[帯]を蹴り、[ドーム]内を飛び跳ねる一筋の光を捉えることは出来ない。

 ユウトに聞いた〝瞬辿〟という技の原理は、精成回路に〝序式〟の二重がけを行うらしい。

 「バカか?」と思った。

 〝練紙〟の二重がけ。単純に「二回かけただけだよ」と言っていたが、精成回路にかかる負荷は通常の数倍以上にも及ぶ。肉体へ術式を使用する場合、それを受け入れる器が精製回路になければ、焼き切れてしまうだろう。

 災厄(・・)としか言い表せない兄でも、[ドーム]内では[帯]に触れることはできなかった。いつ、どこで遭うかわからない、遭えば疲労困憊と精神的苦痛トラウマになるまで容赦なく叩きのめしてくる存在の兄と同等、もしくはそれ以上の相手。


(面白いっ!)


 リクは[ドーム]内にある異物――ユウトの〝気〟を視て、感じるままに動く。

 それが〝(スイエル)〟だと知ったのは、この試合が終わってからだった。




          ***




 ユウトはリクの必殺の一撃を防ぎ、[ドーム]内を縦横無尽に飛び跳ねていた。

 〝瞬辿〟の効果も残り少ない。


(あの人、相手にしているみたいだ……)


 目を細め、その口元に深々と笑みを浮かべているリクを見て、内心でユウトは苦笑した。

 ふっ、と短く息を吐き、ユウトは〝白刀〟を構えた。

 ユウトの気配が変わったのを感じてか、リクの表情が変わる。

 ユウトは背後に飛び退いた。その後を追うように[帯]が迫る。周囲を探るが、足場となる[帯]がない。


(やられた……)


 いくつも重なった[帯]に、赤銅色の淡い光を宿した〝白刀〟を振り下ろした。

 〝加〟で加速した一撃は[帯]を粉砕した。

 足元に[道]を作り、後ろへ――[ドーム]の外へ移動する。それを止めようとリクが[帯]を放ってくるが、その全てを斬り捨ててユウトは[ドーム]の外へ出た。

 [道]を反らせば、眼下に[ドーム]が見えた。

 

「〝発射〟……」


 〝術具〟に装填した〝練紙〟を解放。

 白銀の刃を覆うように、赤い光が迸った。

 [道]から飛び降り、ユウトは身を回して落下の勢いのままに〝白刀〟を振り下ろす。



 天井から落ちた一筋の閃光が、一瞬で緑色の[ドーム]を打ち砕いた。



 その衝撃波に大気が震え、館内にいた全員が顔を伏せる。

 そして、恐る恐る顔を上げたその視線の先には、リングの上で向かい合う二人の姿があった。

 ひらひら、と花びらのように散る[ドーム]の下で、ユウトはリクの肩に〝白刀〟の切っ先を置いていた。

 リクは尻餅をつき、後ろに両手を回して身体を支えている。目を丸くして、ぽかん、と口を開けながら見上げてくるリクにユウトは笑い、


「僕の勝ちだ」

「………兄貴みたいなことをするなよ」


 その攻撃力にリクは呆れたように呟いた。


「……そ、そこまで! 勝者、コカミ!」


 呆気にとられていた審判役の教員が少し上ずった声で宣言した。

 三年の〝特待生〟によるトーナメント戦(お祭り騒ぎ)は、ユウトの勝利で終わった。

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