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4-13 CL(墜落暦)一一四日(2):第二の議題

 空気も緩み、話は終わりかと思ったところでヨーサが言った。


「じゃあ、本日の議題その二を。提案者、ドーラ・ショーから説明してもらいましょう。ドーラ、話して。」


 ドーラは真面目な顔付きに戻って話し始めた。


「これも正式に話を動かすのはバース様が戻ってからになりますが、我が娘、ネリ・ショーを、マコト・ナガキ・ヤムーグ殿の正妻に推薦します。」


「ちょっと待ってくれ。領主様不在で領主様の娘の結婚相手を決めていいのか?。」


 慌てて話を止めようとする。が、ゴールもオレの話を止めた。


「マコト殿。ここで話すということは、少なくとも儂とヨーサ様とドーラ様とネリは了解しているということだ。ドーラ様の話を聞いてくれ。」


 それは側近による謀反じゃないのか?。ドーラが続けた。


「これはネリが言い出したことなので、ネリに続きを説明させましょう。」


 ネリが話し始めた。


「マコト殿と会うようになって、ネゲイのことは何も知らないのにそれ以外のことは何でも知っていることに驚きました。私は領主の娘として、ネゲイのためになる誰かと縁続きになることを期待されてきましたが、マコト殿は一気にその筆頭候補になってしまいました。そこで昨晩、エンリがコビンになるかもって話を聞きまして、マコト殿はいつかはいなくなる、と聞いていた人でもあったので、ネゲイ以外で正妻を迎えられたら、コビンだと軽んじられる場合もあるとかも聞いたことがありますし、それなら正妻もネゲイから、と思ったところで、候補が自分しかいなかったんです。これをマコト殿に提案するかどうかを決めるのは、母とヨーサ様に任せました。提案されたということは、母もヨーサ様も、認めてくれるんですよね。」


 ドーラが受ける。


「自分の娘のことだから、将来困ってしまいそうな結婚相手なら私も反対します。でも、マコト殿の豊富な知識はネゲイにとって重要なものになると思いました。私は蠟板も使わせてもらってますし。でも、今日ここでの話が始まるまではまだ決め切れてなかったんです。それでマコト殿はインク壺の要らないペンを出し、『同じようなものを作れる』と。これはもうネゲイを拠点にしていただくしかないと、そこで決心しました。」


 次にヨーサが話した。


「マコト殿がネゲイで何かをすることには私も賛成してたけど、それ相応の何かがないと、マコト殿はどこかへ行ってしまうかも、とは思ってたの。相応の何かについて、昨日、ヤダからの帰り道でゴールからエンリを養女にしてコビンにって案を聞いて、ゴールも似たようなことを考えてたのねって、思った。その時はまだ私はエンリに会ったことがなかったから保留してましたけどね。で、帰ってからの夕方、ドーラにコビンの話をして、暗くなってからドーラが私のところへ来て『正妻も』って言ったのよ。それからは、コビンだけ、正妻だけ、両方いける、両方ダメとか、話の流れを相談してたわ。マコト殿。義理の母親、継母としての意地悪な眼でネリの粗探しをしても、中々ないのよ。さっきの『指輪がない』とか、そんな小さな失敗はあっても、あの程度なら逆に可愛らしいって思っちゃう。どう?。」


 エンリは、エンリの社会的地位ならば拒否しにくい強制もあってオレの側室になることを了承したが、ネリは、ノブリス・オブリージュ的な発想から人身御供になろうとしている。逃げる手は、一応確認しておこうか。


「さっきエンリの話で自分の結婚について、かなり基準があやふやになってしまった気もしてるんだが、ネリ殿の場合、領主の娘とかの場合、私の知る範囲では、さっきネリ殿も言ってたように領地のためになる相手を選ぶとか、私の知る範囲では、極端な例では生まれですぐに嫁ぎ先が決まっていたりするんだが、そういう相手がいたら、問題にならないのか?。」

「私はまだ……、エンリもそうでしたね、十七歳です。父から幾つかお相手候補の話を聞いたことはありますが、正式な手続きは、カースンでは十八歳まで、手続きできませんから、問題は起きません。」


 ドーラが続ける。


「正妻は、婚約の内諾があっても、十八になるまでは文書にできないんです。これは、エンティ王妃が考えた中でも珍しい、今でも残ってる多分唯一の決まりでしょうね。ネリの嫁ぎ先の候補は当然私も幾つか聞いたことはありますが、そんな決まりもありますから、まだ具体的に進んでいるものはありません。マコト殿がいなかったとすれば、次の秋から、来年の今頃までで色々動いてたと思います。」


 何度か名前の出てくるエンティ王妃なる人物がどんな逸話を残しているのか気になるが、それはまた別の機会にしよう。十七までの内諾は無効にできるか。それなら、今、十七歳二人との婚約話も無効では?。


「十八になるまで結婚の話ができないなら、今約束してもダメじゃないのか?。」

「正妻はそうですが、コビンはそんな決まりはありません。」

「じゃあ、エンリはそうだとして、ネリ殿は?。」

「文書化できないだけで、口頭での約束はできます。今までのネリには『考えておきましょう』程度の約束しかありませんでしたから、ここでマコト殿が了解して下されば、来年ネリが十八になってすぐ、よそから声がかかる前に、婚約なり結婚なりの手続きさせたいと思っています。」


 ゴールもネリの推薦に参加する。


「ネリは十五になった一年ちょっと前から儂の部下として働き始めてるが、小さい時から儂を含めて皆で色々教え込んできたから、普通の『入って一年ちょっと』より優秀だぞ。エンリが入ってきたら、最初の部分の指導は任せようかと思ってる。」


「十八になったら、ということだが、ネリ殿の誕生日は?。十八になるのはいつだ?。」


 一同はちょっと戸惑った表情になったが、ネリが答えた。


「マコト殿。私が生まれたのはヨール王七年の九月十二日です。今はヨール王二三年だから、来年、ヨール王の二四年で十八歳です。誕生日で歳を数える国もあるときいたことはありますが、カースンでは年齢は一月一日に変わるんです。」


「さっき私は自分を二五歳だと言った。これは誕生日で数えたもので、カースンの数え方なら二七だと思うから訂正しておこう。一応聞いておくが、あなた方の習慣で、年齢差で、問題が起きることはないか?。」


 地球では今も過去も珍しくはない年齢差だが、謎のエンティ王妃ほか、オレの知らない習慣があるかもしれないから聞いておく。


「十歳差なら、そういう結婚は珍しくないな。どっちが歳上の場合も。儂は三六だが、妻は二五だ。」

「そうね。家の釣り合いとかを考えたら、同じくらいの歳の相手がいるとは限らないですからね。」


 昨日の午後から夜までの間に謀議がまとまるような縁組みだから、オレの素性以外の条件は問題なしと見られていて、素性の不明点も、知識量などでカバーされてしまっているようだ。


 昨日の午後から夜までの間に謀議がまとまるような縁組みだから、どこかに穴もあるとは思うが、ネゲイの社会習慣に関する知識が不足しているオレとAI達にはそれが見つけられない。マーリン7の中に二人を受け入れることについて、対処困難な問題があるようならαが既に警告しているだろう。あまり好まれないだろうが、インプラントで禁止事項を強制することもできる。部屋割りは、イヤ、これは戻ってから考えよう。部屋数に余裕はある。セカンド・クォータの乗員居住区画をヤダ谷で採取した植物標本の保管庫代わりに使っていたが、片付ければいい。


「ネリ殿が十八になるまで、まだ八ヶ月か九ヶ月ほどある。その間に私が私の場所へ帰る方法を見つけてしまったら?。」


「マコト殿の帰る方法はわからないが、もしそのやりかたがわかっても、マコト殿がネゲイにいたいと思ってくれるように、蠟板でもさっきのペンでも、色々とマコト殿の儲けになることを考えるさ。マコト殿が儲かったら、儂らも儲かる。」


「私が受け入れることができる内容を、皆さんはよく考えて提案いただいているようだ。エンリ、ネリ殿、何度も言っているが私はここをいつか去る者だ。一緒に来れば、ここへ二度と戻らないこともあり得る。その時は、残ってもらってもいいが、共に来ることもできる。今は、そう思ってる。が、二度と戻らないことを承知で一緒に来て欲しいと思うようになるかもしれない。その場合でも来てくれるか?。特に、領主の娘であるネリ殿は、そんなことができるのか?。まず、エンリから聞こう。」


「先ほど、『魚の仕事』という話を伺っています。ヨーサ様達が用意して下さった仕事を、きれいに次の人に渡せるなら、マコト様について行ってもいいかもしれません。でも、次のところがどんなところかわからないので、自分が行きたいか、行きたくないか、よくわかりません。」


 続いてネリが答える。


「話したことがあるかもしれませんが、父が死ぬか引退すればネゲイは私の義理の弟であるタタンが引き継ぐでしょう。その時に私がネゲイの人と結婚してネゲイで暮らしていたら、変な家督争いが起きるかもしれません。私は、ネゲイの外か、ネゲイ以外の人と、結婚すべきなんです。そしてその相手は、ネゲイにとって利益になる人であって欲しい。マコト殿は条件に合ってますし、知識や性格も、私にとって好ましいと思っています。」


 最後は、赤面した。


 相変わらずαは沈黙している。ヤーラ359-1における拠点として、ネゲイは、今集まっている情報だけで考えれば、最良に近いと判断しているということだろう。


『判断理由を話し出したら長くなるから省略するけど、結論だけで言えば、エンリも、ネリも、YESよ。片方だけ、という案もあるけど、二人なら補完しあえる。マコト、あなたの倫理観とか、覚悟の問題よ。』


 やっと、オレの思考を読んでいるαが反応した。


「覚悟を聞きたかったので、ちょっと意地悪な質問をした。済まない。二人とも今わかっていることの中でよく考えていることがわかった。私も覚悟を決めよう。今日の二人に関する提案、コビンと正妻の提案を、受け入れよう。」


 オレは立ち上がり、ネリのところまで行って握手をした。次いでテーブルの反対側にいたエンリのところでも握手。その場で言う。


「領主様が帰って来られたら、私も会わねばならないから、いつでも、呼んで欲しい。」


 話題がネリに移ってからは出番がなくて固まったままだったソルも含め、全員が笑顔になっている。クララもだ。小ニムエにそんな表情を作るルーチンがあったとは知らなかった。


「では、マコト殿が了解してくれましたから、次は夫に話しますね。最初は、私とドーラで夫と話しましょう。話すだけよ。書くのはネリが十八になってからね。ネリはまだ時間があるけど、エンリは、もうちょっと早くコビンになれそうね。ゴール、エンリのこと、進めてね。」


 ヨーサは楽しそうにこれからやるべきことを列挙した。



 休日のネゲイを散歩、のつもりで出てきたのに、帰る前に婚約者が二人も決まってしまった。まだ一二三五M。店に着いてから一時間ほどしか経っていない。


 改めて、ソルとエンリにはルーナの今後に困ったことが出ないよう念を押す。オレが頼まなくとも二人の方がルーナのことをよく知っているので、「まあ、今日はちょっと大変だろうけど」などの返事が返ってくる。ネリのところにも行った。


「『ノブレスオブレジュー』?。マコト殿のところではそんな風に呼ぶんですか。でも、私は義務感だけで動いてるわけじゃないですから。あまり心配は要らないですよ。」


 次はヨーサ、ドーラ、ゴールに挨拶してから帰るか、と思っていたところにゴールが来る。


「今日は『ネゲイの休みの日の様子を見る』だけのつもりで出てきたのに、驚くことばかりだよ。」

「儂も、一日で縁談が二組も決まったのは初めてだ。多分ここの誰もがそうだろうな。」


 楽しそうに言う。


「祝いの酒はどうだ?。案内するぞ。真面目な話をしてたから、ちょっと頭を休めたいしな。そちらのお嬢さんも。儂が払おう。」

「さっきのペースでゴール殿に付き合ったら、夕方までにまたコビンが三~四人増えてしまいそうだ。」

「お望みならそういう場所も心当たりはあるが、そっちにするか?。」

「イヤ、さっきまでの話で私も色々考えることができた。必要な準備とか、あるだろう?。」

「それならなおさら、儂と来るべきだ。ネゲイでの、イヤ、カースンでの結婚について、手続きとか進め方とか、話してやるから蠟板に書いておけばいい。」


 ゴールはヨーサとドーラに「マコト殿を別の店に連れて行く」「ここでの結婚について色々教える」と宣言し、まだ立ち話をしている一同を残してオレとクララを連れ出した。



 夕方になってマーリン7へ戻った。「説明する」と言っていたゴールは、最初こそ真面目に説明をしていたものの、酒が進んだ途中からは昔の自慢話になってしまった。オレも、ゴールにでも理解できそうな話、翻訳しても意味が伝わりそうな自分の昔話で相手をした。アルコールのおかげで細かい部分の記憶は曖昧になっているが、クララは几帳面に蠟板へゴールの話の要約を記していたし、蠟板がなくてもαは全て記憶している。アルコールのおかげでまだ細かいことは考えにくい。「火」の実験もやりたかったが、アルコールの影響はないほうがいいだろうから延期だ。明日、起きたら、αと情報の総括をしよう。


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