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答えは単純明快



それから、アーティは聖女様は魔法研究所に籠り、異世界転送魔法の仕上げと準備を行った。


私は特にすることがないまま、レイノルド邸でお世話になり、時にフローラ王女達とお茶をしたり、時に迷子の稔くんを捜索をしたりして約二週間が経過した。


ついに魔法が完成したとアーティが帰ってきた。


予定のなかった昼下がり、私が庭でマリースさんと麻酔銃の練習をしてみていたところにアーティはやって来た。アーティはマリースさんに席を外してもらうよう頼み、私と二人きりを望んだ。

恋心を自覚してから二人きりになるのは初めてで、変に意識してしまう。マリースさんが意味ありげな笑顔で立ち去ったから、余計にだ。

「待たせてごめんね。できれば桃子も聖女様もこの世界に喚ばれた時間軸に帰してあげたいから、調整に時間がかかっちゃった」

私の心中など知るはずもないアーティが普通に話し出した内容は、やはり帰還のことだ。珍しく謝罪を口にしたアーティは相変わらずの無表情で、もうすぐお別れなのにあっさりしている。

「……決行は、いつですか?」

「明後日。急だけど、元の時間軸に近い方が負担も少ないから」

異世界を転移するのはそう簡単なことではない。それに、私は間違いでこの世界に来ただけで、目的があるわけではないので、またこの世界に来る必要はない。だから、きっと今回の魔法が上手くいって元の世界に帰れたら、アーティとは二度と会えないかもしれない。

とはいえ、アーティと一緒にいたいというだけでこの世界に留まることは、今の私にはできない。この世界と元の世界の人達に迷惑と心配をかけてしまう。


だから、笑ってお別れしよう……。

この二週間で出した結論だ。


「ありがとうございました、アーティ。今まで守ってくれて……帰る方法を探してくれて……」

「どうしたの、桃子?」

私が涙を堪えながら笑顔を作ってお礼を言うと、アーティは心配そうに私の顔を覗きこんだ。

「……そのデリカシーの無さ、直した方がいいですよ」

慣れてきた私だからいいものを……。

私はぷいっとそっぽを向いて、赤くなった顔と涙を隠した。アーティは首を傾げて、わかっていない様子だ。

「……あ、そうだ。桃子は元の世界で好きな場所とかお店とかある?」

「え?……ありますけど、急に何を?」

唐突な質問に私は色々引っ込んで怪訝な表情になって、アーティに向き直る。

「桃子の世界に行った時に案内してほしいから、桃子の好きな場所があればそこに行きたいなって……」

「……行くって誰が?」

「僕が」

「……私の世界に?」

「うん」

さらりと私にとってはとんでもない発言をするアーティに、私は開いた口が塞がらなかった。

「桃子、言ったじゃない。僕が自分から桃子の世界に行って会いに来いって」

そういえば……確かに言った。すんなり帰れると思っていた時に……。今思い出しても、少し混乱していたとはいえ、ふてぶてしい私、恥ずかしい。

「聖女様の三百年に及ぶ研究のおかげで、異世界転移魔法はおそらく今度こそ成功する。そうしたら、僕は当初の目的──君達の世界に遊びに行くことも出来るようになるはず。もちろん、膨大な魔力と資材が必要になるけど、僕とサウラの洞窟の魔石があれば、ほぼほぼ問題ないよ」


なんと言うか……さすが、アーティ。規格外だ。

私がウジウジ悩んでいたことをこうもあっさり解消してくれる。


一気に力の抜けた私は、その場にへたりこんだ。そんな私に合わせてしゃがみこんだアーティは話を続ける。

「欲を言えば全部見に行きたいけど難しいし、これだけは絶対に行くってところを絞っておいた方がいいでしょ?だから、桃子のオススメを考えといて」

「……やっぱり、異世界の研究のためですよね」

「それもちょっとはあるけど……」

ちょっと不貞腐れた私を、アーティはまっすぐ見つめて言う。


「──好きな子に会いに行くのに、理由はいらないんじゃないかな?」



「……はい?」


何を言われているのか、私の思考は追いつかなかった。


告白?でもアーティは表情が変わらないどころか、顔色も変わらない。

冗談?……いや、アーティはいつもふざけたことを言っても、本人的には大真面目なのだ。


「えっと……それは……妹みたいな?」

「……あの時は曖昧だったけど、今ならわかるよ。桃子は僕にとって特別な子だって……」


──だから、これはきっと本気で言っている。


私は一気に顔が熱くなるのを感じた。

「僕は桃子が好きだよ。だから、君が元の世界に帰っても会いに行きたい……いいよね?」

こてんと首を傾げて美少年にそんなことを言われたら、中身が変人でも拒絶できない。……それ以前に、好きな人が自分に好意を持ってくれている。


──私は今度は喜びで涙を滲ませながら、しっかりと頷くのだった。


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