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突然で自由

「どうせなら、学園の魔方陣も何とかしてほしかったですね」

聖女を覆っていた結界をサウラが解除してくれたことで彼女に触れるかとができたアーティは、吸収された魔力を回復してもらい、ヘンテコ人形の前に立った。

聖女をこの地に留め、魔力を吸収し続ける魔法はまだ解除されていないのだ。


サウラの手助けは私達の背中を押すようなもので、最大の難関は自分達で何とかしろと言っているようだ。


「気持ちはわかるが、ぼやいている暇があったらさっさとやれ」

聖女が張った結界の内側でセイヤ様はアーティを急き立てる。

聖女は不測の事態に備え、魔方陣を破壊するアーティ以外を一ヶ所固めて防護壁として結界を張ってくれたのだ。ただし、魔力が吸収されるので、長くは保てない。だからセイヤ様は急がせるのだ。

ちなみに、リコさんの魔法石は使いきってしまい、今はリヒト先生の偽装を保つ分しかないそうだ。やむを得ない場合はそれを出してくれるそうだが、魔法が解けて前皇太子妃がこの場にいることが明らかになれば別問題が発生するので、避けたいそうだ。……本当に、何で皇太子妃自ら動いたのかな?


「──では、いきます」


アーティが人形に両手をかざし、魔力をこめる。


そして……──























「おっめでとう、サザールの諸君!君達の勝利だ!残念、ショウちゃん!負けちゃったね」











……突然、私の目の前にテンションの高い人が現れた。




人形は一瞬で燃え尽きた。拍子抜けするくらい、あまりにもあっさりと。

その直後、空間を破るかのように、何もないところから手を広げながら出現した人物は明らかに普通の人ではない。



警戒していたとはいえ、思いもよらぬ出来事で驚きとパニックを通り越して頭が真っ白になって硬直している私の元へ、人形を破壊したばかりのアーティがすかさず駆け付け、謎の人物との間に割って入る。セイヤ様やヨシュアさん達もさっと臨戦態勢になっている。


「そんな、不審人物を目の前にしたみたいに警戒しなくていいじゃないか」


その人は頬を膨らまして子どもっぽい仕草をして見せるが、見た目はスラッとした長身の成人男性だ。長い黒髪は女性のようにサイドアップにして光る石の飾りがつけられている。きりっと凛々しい眉に、丸っこい好奇心旺盛な赤い目。なんともちぐはぐな存在だ。

誰かの顔見知りというわけではなさそうだし、どう見てもただ者ではない不審者だ。

「ひぃこ、久しぶり!トーコははじめまして!あ、安心していいよ。もう仕掛けはないから。当時のショウちゃんはまさかここまで侵入されて、魔方陣の核を見つけられるとは想定してないから!」

聖女様と、何故か私に親しげに話しかけてくるこの人に全く心当たりのない私は、知り合いなのかと伺うようにこちらを見てくるセイヤ様達に全力で首を横に振って否定した。私とセイヤ様達はそのまま聖女様に目をやる。彼女は困り顔で頷いた。

「えっと……この方は、カシェリオン。私に力を与えてくれた、この世界の時を司る神様です」

ただ者ではないと思ったら、この世界に来てすごく身近な存在になった神様だった。

「サウラから聞いてるよ。か弱い存在なのに、いざって時は肝の座る面白いだって」

「神様なのに、こんなところに出てきていいのか?」

運命の神に育てられたハクが心配そうな声を上げる。

「神様だから、神出鬼没なんだよ。君のことも聞いてるよ。優しい狼くん」

「聖女様と面識があるので、様子を見にこられたということですか?」

セイヤ様は神様に対しても物怖じせずに尋ねた。

「そだよ。ショウちゃんの魔方陣が解けたから、ひぃこがどうするつもりか気になって……」




「何やってるんだ、カーシェ」



時の神様の背後に突然現れたサウラが彼の頭頂部に手刀を喰らわす。

「いったいな!暴力反対!」

涙目で振り向いた時の神様に対し、宙に浮いたヘルゼに足を組んで横座りしているサウラは冷ややかな目で見下ろした。

「お前の人間遊びが過ぎるからだ。お前だろ?ショウエンを転生させて記憶を呼び起こしたのは」

「だって、かわいそうでしょ。ショウちゃんも……ひぃこも」

神様が現れただけでも驚きなのに、さらにもう一人現れて話が進む展開についていけず、私は呆気に取られた。そんな私と並んで困惑している聖女様に目を向けた時の神様は、その顔に哀しみを浮かべている。

「この騒動がなくても、そう遠くない未来、ひぃこはここから出て元の世界に帰れたかもしれないよ。でも、気持ちの一部は……ショウちゃんへの気持ちはあの時から動けないまま。この世界に巻き込んだ共犯としては心苦しいわけ」


一瞬俯いた神様がぱっと上げた顔は、とても無邪気な笑みだった。


「だから!今、話し合ってすっきりしちゃおう!」



時の神カシェリオンがそう言って、手を広げると一瞬で景色が変わり、私達は地上の男子寮の前に立っていた。


「……外に出れた」


数百年ぶりに外に出られたのに、あっさりすぎて聖女はぽかんとしてしまっている。

神様というのは情緒や段取りというものを知らないのだろうか。これでは、今まで苦労してようやく手にしたものを投げ与えられたようなものではないか……。


「な?だから、神様に助けられるんじゃなくて、自分達で頑張った方がいいだろう?」

「失敬な!ちゃんと君達が魔方陣を解いたから、ひぃこは出られたんだよ。俺は時短で、転送させただけなの!」

「人の心を勝手に読まないでください!」

心の声に反応する神様達に抗議するも、この世界に来てプライバシーを侵されっぱなしの私は抗議すること事態うんざりしつつあるのだった。



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