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考えても答えは出ない


「──そうだとしても今はどうしようもない。とにかく作戦を練るぞ」


セイヤ様はぱんっと手を叩き、聖女問題を切り捨てた。

「……いやいや!いいんですか?結構重要な問題じゃないですか!?サザールの伝説の聖女様ですよ!?」

「ここで論議しても、結局は本人に聞かなければ事実はわからない。実りのない話は好きじゃない」

「そうですけど……」

「まあ、本当に聖女様だとしたら、異世界帰還の手掛かりになるかもしれないな。頑張ってひぃ様も探さないとな、トーコ」

セイヤ様はニコリと笑みを浮かべ、不満そうな私の肩を叩いて励ました。セイヤ様の言うとおりなので、私はそれ以上の反論を諦めた。他の方々もそれで納得したようで、作戦会議に戻った。






何があるかわからない状況でバラバラに動くのは危険ということで、私はハクとロン、仔猫達に加え、リコさんとコンラートさんと一緒に行動することになった。私達はアーティ捜索で校内をくまなく回り、マオレク王子達おとり班は図書館へ向かっている。シオン皇子が足繁く通い、ナディがひぃ様と出会ったというその場所が、最もシオン皇子と接触しやすいだろうという判断だ。マオレク王子の方には学園生徒であるミリアさんとクリスさんが傍につき、セイヤ様、ヨシュアさん、覆面さん達が陰ながらついて襲撃に備えている。


「さて、吉と出るか凶と出るか……」

コンラートさんがぽつりと溢した。この行き当たりばったりな作戦が功を奏すのを願うばかりだ。

「トーコくんも私も既に色々捜し回っているが……隠し部屋であれば、一朝一夕には見つからないな」

リコさんが渋い表情で言うと、コンラートさんは顎に指を添えて視線を下げる。良い案がないか考えているようだ。私もアーティの行方を考える。

……校舎内の入れる所はほぼ回ったし、棚の中も裏も底もハクとロンの協力で可能な限り見た。「お嬢も鳥づかい荒くなってきたな!」と文句を言われたが、緊急事態なので、許してほしい。

「ここは一度、始まりの地点に戻るのはどうだろう?」

「というのは?」

コンラートさんは顔を上げて、リコさんを見た。

「リコ。アティール・レイノルド殿は昨夜、お前の部屋に訪れた。そうだな?」

「ああ。お互いの情報交換をしたんだよ。シオン皇子についても話したけど、アティールくんは特に変わった様子もなく、帰っていったよ」

「彼は表情を変えないのがデフォルトだからねぇ……」

今のところ、リコさんがアーティに会った最後の人物のようだ。そういえば普通に馴染んでいるが、リコさんは正体がバレても男性に擬装している間は男性らしい話し方、立ち振舞いでいくようだ。本当に何者なのやら、この皇太子妃……。

「どこかに行くとか言ってなかったんですよね?」

「そうだね。“それじゃ、仕事しに帰ります”って言ってたから、部屋に戻ってセイヤに業務報告するつもりだったんじゃないかな?」

“仕事に帰ります”か……。アーティはここに来てから、珍しく真面目に仕事をしている。ミリアさんも驚く程……普段、どれほどサボっているのやら。ヨシュアさんのくたびれた顔と、セイヤ様の雷が目に浮かぶ。

「部屋に戻ろうとしたと想定して、リコの部屋から男子寮の彼の部屋まで歩いてみよう」

なるほど、コンラートさんの言う始まりの地点とは、アーティ失踪直前の足取りを辿るということか。たしかに、人を探す上で、最初にすべきことかもしれない。稔くんじゃないんだから、普通の人は目的地を目指すのに斜め四十五度の方向へ行くわけない。どうやら私は混乱しすぎていたようで、ようやく冷静になってきた。

「でも、私って男子寮に入れるんですか?」

一応、生徒は異性の寮への立ち入りは禁止されている。そのため、捜索するにしても策を講じてからにしようと後回しにしていた所だ。

「そういうわけだから、勇者殿には男装してもらうよ」

私の疑問に、コンラートさんは笑顔で答える。……まあ、男装が一番手っ取り早く、無難かもしれない。

「でも私、男っぽい服持ってないですよ」

「用意してあるから、大丈夫。さっき、クリス・サティーユ殿のお古の制服をちゃちゃっと勇者殿サイズに直してもらったんだよ。彼が裁縫にハマってて良かったね」

コンラートさんがどこからかぴらっと制服を取り出して見せた。

「用意周到すぎません?」

あまりに都合が良すぎて、私が不信感を持って見ると、コンラートさんはしれっと答える。

「潜入捜査するなら、臨機応変に衣装も変えないと」

「……それを言うなら、あなたの女装用衣装も用意していると?」

「ふふっ」

肯定か否定かわからない笑みで、コンラートさんは私の質問を誤魔化したのだった。





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