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希望の光



「それは確かなのですか、母上?シオン皇子はまだ子どもですよ。その彼が首謀者だ、と……」

セイヤ様が疑念を抱くのはもっともだ。シオン皇子は、まだ十歳を過ぎたばかりの子ども。私の暮らす国で言えば、小学生だ。とても、一国を脅かすような陰謀ができるとは思えない。

「まだ確証となるものはないけど、怪しいのは確か。あれはただの子どもじゃない。今日も学園に来ているらしいね。セイヤも会ったのなら感じたでしょ?年の割に落ち着いて頭が切れる……何より、あの威圧感。大国の王と遜色ない」

「……ええ。確かに、そうですね。六つ上の姉より、よほどしっかりしていました」

そう言われれば、納得してしまう。あの皇子には、何か底知れないものがあった。だって、あの時……。

「……私、さっき皇子に会いました」

「何だと!?何かされなかったか!?」

私の発言に、セイヤ様が驚いて、私の肩を掴んで顔を覗き込んでくる。

「多分……でも、すごく変な気分になりました。頭がぼんやりして、吸い込まれそうな……何も考えられない、思考を奪われそうな感覚がしました」

「何か……魔法をかけられそうになったのかもしれないね。完全に意識を奪われる前に、回避できたの?」

「そのつもりですけど……」

アーティを助けなくちゃ!という一心で振り切ったが、どのタイミングでどんな魔法をかけられたかわからないので、回避できたと断言できない。

「……情報が漏れることも想定して、決行を早めた方がいいかもしれないわね」

「何をするつもりですか?」

「その前に、トーコは仔猫達を連れてきなさい」

「え?」

「念のため、仔猫達(魔法探知機)に、お前に敵の魔法がかかっていないかどうか判断してもらう。ついでにミリア達を召集し、三十分後、再びこの部屋に集合だ」

セイヤ様の指示で、とりあえずミリアさんと仔猫達を迎えに、私は慌てて女子寮へ駆け出した。











「──大丈夫ですか、キース……いえ、アティールさん?」


アーティが捕らえられた暗闇の中、ぽっと灯りが指したかと思うと、宙に浮く人の上半身が現れた。

……いや、目の前にある壁に窓が現れて、その向こうにある空間にある灯りと少女の姿が見えるようになったのだ。

少女は窓を開けてこちらに身を乗り出し、アーティの身を案じている。

彼女はアーティが捕まって最初に目を覚ました時、同様に目の前に現れ、福永姫子と名乗った。彼女が何者で、どういう状況にあるのかを聞く間もなく、先程の少年がやってきてしまったが、アーティは二人の会話から大体の状況を読みといていた。


「ごめんなさい。あなたまでこんな目に合わせて……」

「あなたのせいじゃないんでしょ。悪いのは、あのストーカー皇子で、あなたはただの被害者。僕を捕まえたのもストーカー。お互い、運がなかったね」


アーティは空中から伸びる蜘蛛の糸のようなもので体が複雑に絡まり、自由を奪われていた。

力では糸を切ることは出来ず、魔法で拘束を解こうとしても、魔法を発動しようとするとすぐに力が抜けて、どうにも出来ないでいた。それに、拘束されているせいか、どんどん体力も奪われている気がする。

おそらく、他者が魔法を発動しようとすると、その魔力を奪う魔法かかけられているのだろう。巧妙で難易度の高い魔法は、リスクも相当高い。この魔法を仕掛けた人物はただ者ではないし、きっとこのアーティを絡めとる糸だけではなく、もっと大規模な仕掛けがなされているだろう。

ふと、アーティはクリスが言っていたことを思い出す。

この学園では、魔法の使用に制限がかかっているようだ、と。ちょっとした魔法でも、授業以外で使ったら消耗が激しく、体に相当負担がかかる。

もしかして、それは今のアーティと同じ状況ではないだろうか。授業以外で魔法を使用すると、その力を奪われる。

誰の仕業か?奪われた魔力はどこに行くのか?──アーティには、その答えが見えていた。

「……ずいぶん、粘着質な上に無駄に頭の切れるストーカーだね」

「気づいたんですか?この学園のからくりに……」

「大体はね。でも、この状態じゃ、魔法の基準点がどこにあるかまではわからない」

「……私も、意識を飛ばせる範囲で探したけど、見つからなくて……」

「意識ねぇ……」

アーティはふとリヒトからのヒントを思い出す。


“女性の秘密の部屋へ行きたいなら、同じく女性の部屋からなら通してくれるかもしれないよ”


「……ねぇ。あなた、もしかして女性が入りやすいところしか見てないんじゃない?」

「どういうこと?」

「例えば、男子寮とか更衣室とか……そういうところ、避けてたんじゃないの?」

姫子は心当たりがあるようで、「あっ」と声を漏らす。

「で……でも!そういうところは、今まで協力してくれた男の子が探してくれて……」

「あなたが力を引き出していたとはいえ、普通の学生が巧妙に隠されているだろうそれを、そう簡単に見つけられるわけないでしょ」

「……はい」


やるべきことは決まったが、ここから脱する手段がない。さて、どうしたものかとアーティが頭を悩ませていると、背後から、また別の光が近づいてきた。

皇子が戻ってきたのかと振り返ったアーティが見たのは、希望の光だった──


「あんれ~?まぁた変な所出ちまった……トーコちゃんとリコちゃんに怒られる」


「……君は……本当に、とんでもない方向音痴だね」

アーティの表情はいつも通り変わらない。しかし、その声は嬉しそうに弾んでいた。



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