見つかりました
耐えた……。
よく耐えた、私……。
昼休み直後の授業は座学で、周囲の視線とひそひそ話が痛かった。
「何でレイノルド様がいらっしゃらないのよ?」
「あの子に付きまとわれるのが嫌で、逃げていらっしゃるんじゃない?」
「そもそも、何であんな平凡な子がこの学園に来ているのかしら?」
……みんな、言いたい放題だ。というか、ちゃんと授業聞きましょうよ。
まあ、偽装に偽装を重ねて留学しているので、学園に釣り合っていないのは認めますが……。
そんな胃が痛む授業を終え、自主学習時間になった。
ここからは、とにかくアーティを捜す。リヒト先生が捜してくれているし、外に出ている可能性もあるのだが、とにかく学園内だけでも、自分でくまなく捜さないと気がすまない。
私はそう決意して、教室を飛び出した。
「トーコ……闇雲に捜しても、キリがないぜ?せめてミリア達と合流するとか……」
「ハクの言うとおりだぞ、お嬢。何があるかわからないんだから、一人でうろつかない方がいいぜ」
私に付き合って学園を巡り歩いてくれているハクとロンが、心配そうに声をかけてくれる。仔猫達は、ぐったりしているので、寮に置いてきた。結局、あの少女が仔猫達の体調不良は自分のせいだと言っていたが、詳しい原因はわからずじまいなので、様子を見るしかない。仔猫達には申し訳ないが、アーティを見つけることが私の最優先事項となってしまっている。
二匹の助言も聞く余裕のない私は、黙々と歩く。
とりあえず、授業中以外の鍵のかかっていない教室は全部見た。見れなかった教室は、鍵をどうにかする方法を考えて後から来るとして、次は別館や庭等を見るために外に出るか……。職員室等の特殊な部屋もどうにかして捜しに入れないだろうか……。
私は考えを巡らせていて、前方から来る人物に気づかなかった。
「貴女は確か、サザールからの留学生でしたね」
いつの間にか、私の目の前にシオン王子がいた。
「……え……と」
突然の高貴な人物の出現に、私は反応できずに固まってしまう。
「あ、覚えていませんか?ヒラン皇国皇子・シオンです。先程、生徒会室でお会いしましたよね」
「……いえ。覚えています。むしろ、私のことを覚えられているとは思いませんでした」
「ふふっ……覚えているに決まってますよ」
妙に色気のある笑みと仕草で、シオン皇子は私に詰め寄る。彼より私の方が背が高いので、シオン皇子が私を見上げる体勢になっているのに、大人の男性を相手にしているようで、ドギマギしてしまう。それに、なんだが……。
「何せ、貴女は……」
その吸い込まれそうな瞳に、ゾクリと恐怖を覚える。
──どうしよう。動けない。
この皇子は、何?何をするつもり?
怖いのに、動けない。
こんな時、いつも助けてくれるのに……。
助けて、アーティ……。
……いや、アーティはいない。
むしろ、アーティの方が助けを求めているかもしれない。
立ち止まっている場合じゃない!
「──すみません。用があるので、失礼します」
私はシオン皇子から顔を反らし、足早に横をすり抜けた。私の様子を伺っていたハクとロンも続き、その場を後にした。
残された皇子は、きょとんと目を丸くした後、フッと笑みを浮かべて呟いた。
「……さすが、ひぃと同じ世界から来た勇者様……ってとこかな?」
皇子との異様な対面を終えた私は、食堂や売店等がある厚生棟にやって来た。食堂は、生徒の食事の時間以外にも準備等で夜中以外は常に人がいるので、こっそり倉庫や休憩室等を捜させてもらう。
見れるところが少なく、早々に中の捜索を終えた私は、厚生棟の裏にも回ってみることにした。
「ひゃ……!?」
そこで、今度はリヒト先生に遭遇した。私は全く気づいていなくて驚いたが、先生は私が来ることに気づいていたようで、角を曲がったところで腕を組んで待ち構えていた。
「案外、君も強情なんですね。捜索は私に任せて授業に出なさいと言ったでしょう?目をつけられたら、どうするんです?」
「今は、特科の自主学習の時間なので……」
「学習しないで、彷徨いているじゃないですか」
リヒト先生に呆れられたようで、溜め息を吐かれた。
「こんな行動力があるとは、驚きました。大人しいお嬢さんだと聞いていましたが……」
お説教を受けるのかと思いきや、先生の顔は、だんだん笑みに変わっていく。
「私の若い頃に似ています。苦労しますよ、あなた」
優しい笑顔で嫌なことを言われる。いえ、もう苦労してるのは、自分でもわかってますが、あんまり知らない人から見てもはっきり苦労人認定されるのは、なんかショックなんです。
「とりあえず、この辺りはもう見たので、捜すなら他に行きなさい。あ、でも図書館は一人で行ったらダメですよ。後で備えをしてから、私が行きます」
「図書館?何故ですか?」
どうやら私の捜索活動を容認してくれたようで、リヒト先生が助言をくれる。でも、図書館に行くなとはどういうことだろう?昨日もアーティと稔くんと一緒に行った場所だが……。
「あそこは、私が注視している人物が頻繁に訪れる場所なんです。アティールくんには話しましたが……君に伝える前に、問題があったようですね」
どうやら、私の知らないところで先生とアーティは接触していたようだ。……いろいろとリヒト先生から話を聞いた方が良さそうだ。
「ここで話す内容ではないので、私の部屋に行きましょう」
「私も同行してよろしいですか?」
先生が私を案内しようとしてくれたところへ、後ろから声がかかる。
「セイヤ様!」
私にとっては、本日二度目の唐突の登場なので、今回はそんなに驚かずに済んだ。しかし、リヒト先生は、目を丸くして硬直している。
「なっ……セ……」
「こんなところではなんですから、場所を変えましょう。ねぇ……リコさん?」
セイヤ様が丁寧な言葉遣いでにっこり笑うから、不気味だ。リヒト先生もセイヤ様を避けているみたいだし……二人の関係が気になる。
セイヤ様はリヒト先生の肩を抱いて歩き出し、リヒト先生は頭を抱えて俯きながらそれに従い、私はそんな二人の後をハク達と共に慌てて追うのだった。




