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無断侵入ですよ

──少年は軽い足取りで暗闇が支配する空間を進む。灯りは少年が持つ小さなランタンだけで、その先にあるものだけでなく、帰り道すらわからない程、周囲は真っ暗だ。しかし、少年は迷うことなく、目的の場所へ辿り着く。

「ひぃ。僕だよ」

「……っ!」

「久しぶりだね。会いたかったよ。早く、この邪魔な結界ものを解いてくれない?」

「……」

「……僕がいない間、悪い奴らに誑かされたんだね。大丈夫だよ、すぐにこんな結界解いてあげるから、少しの間、待っててね?」

少年は一方的に話終えると、元来た道へ戻っていった。




「……助けて、兄様」




暗闇の向こうで発せられた少女の呟きは、誰にも届くことがなかった──














「そういえば、トーコ。友達は出来そうか?」

「聞かないでちょうだい」

クリスさんの部屋に行く間お留守番していて、嬉しそうに私を迎えてくれたハクから発せられたのは、残酷な言葉だった。

友達どころか、女子から敵認定されてるかもしれない。

「なんというか……頑張れ、お嬢!」

「あんまり慰めになっていないけど……ありがとー!」

私は、ハクとロンをギュウッと抱きしめた。……あれ?ちっこいふわふわ達がいない……。

「ミィ達は?」

「寝ちまったよ。珍しく、三匹揃って」

ロンの視線の先に目を向けると、仔猫達が私のベットで眠っていた。何かと眠るクゥはともかく、ミィとリィはいつも活発に動いているので、こんな時間に眠るのは珍しいことだった。慣れない国や学園に疲れたのだろうか?

「いつもうるせぇから、たまには静かになっていいな」

「とか言って、さっきまで心配してたくせに」

「うるせぇ!……まあ、どうしても気になるようだったら、悪魔法使いに聞いたらいいだろ」

悪魔法使い……アーティがこの場にいないから、ロンは言いたい放題だ。アーティが聞いたら、今度こそ焼き鳥にされそうだ。いくら服従の魔法を解除されたからと言って、彼には関係ないだろう。

私は、サザールでのやりとりを思い出していた──



「トーコを留学させるためにこの鳥を付けようと思うのだが、こう、でかでかと服従の魔法印があっては、動物マスターではなく、ただの魔法使いにしか思われないだろう。飾りを着けて隠すにも限界があるし」

セイヤ様がじっとロンの額を見つめながら言う。

「でも、服従させてなかったら、ロンは逃げますよ?」

「そりゃ、あんたからはな……」

アーティの言葉に、ロンはぼそりと言い返す。彼の耳に届かないように小声だったのだが、ばっちり聞こえていたみたいで、アーティはセイヤ様に向けた視線と表情を変えないまま、お仕置き──どこからか取り出した杖で、ハクの背に乗っていたロンを叩き落とす──をしていた。

「どうだ?一度、この魔法を解いてやり、留学でトーコに協力したら、そのまま解放してやる、というのは?」

「え~?便利なのに~」

「気持ちはわかるが、飴と鞭を使い分けなくてはな」

「……俺の気持ちはわかってくれねぇの?」

「それに、必要なら、解放した後でまた捕獲したらいいだろ」

「ああ。なるほど~」

「この主従、ほんとやだ」

私は、鬼畜主従のやり取りに嘆くロンを撫でて慰める。

「アーティ……」

「だって、便利なんだもん」

責めるようにアーティを見ても、どこ吹く風だ。

「……ロン。逃げる時は、私がアーティを抑えておくから!いざとなったら、サウラ頼みするからね!」

「お嬢~!」

胸に飛び込んできたロンを、私はひしっと抱きしめた。

「……ふむ。この様子だと、解放してもトーコの助けにはなってくれそうだな」

「そうですね」



こうして、ロンはアーティの服従の魔法から解放されて、私に従う魔獣として学園へやって来た。

セイヤ様とアーティの策略に踊らされている……。


扱いは雑だが、アーティはロンのことを気に入っているようだし、そう簡単に手放さないだろうが、ロンが逃げたいと言うのなら、私は全力で応援しよう。


「とにかく、明日から本格的に動くのなら、俺たちも早く寝よう!」

「そうだな。お嬢~」

「はーい」


こうして、なかなか濃い学園生活の一日を終えた──


















──と思ったのに……。



「こんばんは、勇者様。ご機嫌いかがですか?」

「……すっごく疲れてます」

「まあ、大変!ゆっくりお休みされませんと!」

「今、休んでるはずなんですけどね……」

確かに私は、ハク達と眠りについた。なのに、こうしてフローラ王女とお茶の席で向かい合っている。辺りは、明るくて、ピンクと白がマーブル状に混ざった異様な空間だ。どう考えても、これは夢だ。

「……この世界は、人の夢に入り込むのは普通なんですか?」

「アティールお兄様のことを言ってます?お兄様は特別ですよぅ。普通、得意な魔法を一つか二つしか使えないのに、アティールお兄様はいろいろできますもの。私は……ほら、夢を操る魔法が使えるでしょう?通常はすぐ傍にいる方の夢しか操れないんですけど、勇者様にお渡しした御守に私の魔力を込めておきましたから、離れていてもこうして勇者様の夢にお邪魔させていただけるんです」

サザールを出立する時に渡された、フローラ王女からの御守……小さなピンクの石が付いた、可愛らしいミサンガに、まさかそんな意図があったとは……。

「さて、時間が限られていますので、本題に入りますね。勇者様にお会いしたかったのはもちろんですが、お伝えしたいことがあるんです」

「伝えたいこと?」

それは、起きている時に、通信機か手紙で済ませられないのだろうか?聞いたところで、この自由なお姫様にはスルーされそうなので、私は疑問を飲み込んで、先を促す。

「この夢に、他の方もお招きしますね──どうぞ」

王女の声を受け、空間の一部がグニャリと歪む。そして、人一人分くらいの穴が出来たかと思うと、そこから、ある人物が現れた。


「……あなたは……!」



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