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いざ、決戦の時

「──では、我々はこれで……」


セイヤ様達が出立しようとしたその時──


「ここにいたのか、勇者よ!」


頭上から降ってくる声に、見上げると……巨大なコウモリに乗って魔王コンラートさんが現れた!



──魔王が現れた。戦いますか?逃げますか?



ダンさんのナレーションが聞こえてくるが、そっちにツッコミを入れている余裕はない。

だって、こんな登場、聞いていない。なんで、ここで魔王が出てくるの?王女まで抱えて来て、どうするつもり?

私を含め、地上にいる全員が、呆然と魔王を見上げていた。……いや、アーティだけは平然としている。いつもの顔で「あらまあ」と溢している程度だ。

そんな私達を見下ろして、魔王はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

「貴様らがあまりにも遅いので、こちらから出向いてやったぞ!」

「あ~れ~。助けて、勇者様ぁ~」

コンラートさん、ノリノリである。……フローラ王女、棒読みもいいとこです。

これは、この場でお芝居をしろということだろうか?勇者作戦の舞台は魔王の城だったはずでは?諸々の準備をして待っててくれたんですよね?

混乱する私の元へ、先程から森の中へ入っていたユーリさんがやってくる。

「勇者の目的が達成されれば、王宮に戻るんでしょ?勇者に随行している動物達も戻るだろうから、そうしたら、あの変人王子も王宮に行く気になる。だから、魔王部隊に連絡して巻いていこうって指示しといた」

ユーリさんがにっこり笑って、マオレク王子に聞こえないよう、私とアーティの耳許に寄って小声で教えてくれた。

……いやいやいや。たしかに、マオレク王子には早く安全な場所に行ってもらった方がいいけれども。国賓ですからね。国際問題ですからね。でも!この勇者作戦も、サザールにとって重要なんですよね?いたいけな少女にごり押しで頼み込むくらい、王子・王女・お偉方が(ノリノリで)尽力奔走するくらい!

私がバッとセイヤ様に振り向くと、彼は呆れなのか諦めなのか、遠い目をしていた。

「あー……まあ、仕方ない。ここで、魔王を討伐して妹を救ってくれ」

お痛わしい!セイヤ様、お痛わしいです!部下の扱いがぞんざいで、有無を言わせないくらい押しが強くて、なんて傍若無人だと思っていたけど……あなたも振り回されているんですね。アーティとか、セリーヌ女王とか、ユーリさんとか、フローラ王女とか、アーティとか……。それにこんな目まぐるしく状況が変わるようでは、無理にでも押し通して主導権を握らないとどうにもできませんよね。大変な苦労をされてるんですね。そりゃ、雷やら暴風やらで発散したくなりますよね。できれば、八つ当たりは勘弁していただきたいですけど……。

私の中で、セイヤ様の印象が、苦労の絶えない大変な人なんだと塗り替えられた。

「それは、セイヤ様の一面に過ぎないよ。本当はただの女王様だよ、あの人」

「……また私の心を読んだんですか?」

アーティは、私が思ったことの反対意見を的確に言ってきた。またプライバシーの侵害をされたのかと、私は怪訝な目でアーティを見る。

「なんとなく、桃子の考えてることがわかるんだって。セイヤ様を同情するみたいに見てたから」

アーティが嘘をつくとは思えないので、先程もそうだったし、私はよっぽどわかりやすいのだろうかと、今度は不安になってきた。

「誰が女王様だ。人を使うのが上手いと言え」

「否定しないんですか!」

セイヤ様の指摘に、私が先程抱いた彼へのイメージは脆くも崩れ去った。やっぱり、だだの女王様でいいのだ、この人。


「そろそろ準備はいいか、勇者よ」


親切な魔王が声をかけてくれたことで、私達はようやく勇者劇場へ意識を切り替えた。この中で真実を知らないマオレク王子とジュネ、ナディに悟られるわけにはいかないので、真面目にやらなくては……。


森の中から巨大な猫が現れる。いつの間にかスタンバイしていたソウマと幻術が得意な覆面さんによって、仔猫達が恐ろしい魔物に変身したのだ。

続いて、いつもとは違う覆面と衣装で現れる魔王コンラートさんの部下達。

私は勇者の剣(苦笑)を、魔法使いアーティは杖を、戦士のヨシュアさんはいつもの自前の剣、当初から断固拒否してそもそも衣装からして踊り子じゃない普段通り軍人のミリアさんは銃を構え、魔王軍に対峙した。途中合流で段取りがわからないはずの稔くんも、セイヤ様に放たれて(お芝居に)参戦した。


そして、観客達──マオレク王子は魔物や私に付いて戦うロンとハクの姿に目を輝かせ、横に立って笑顔で圧力をかけてくるセイヤ様にびくびくしながらジュネとナディは大人しく戦いを見守るのだった。



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