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蛙の親も蛙らしい

はちみつ色したさらさらの髪。くっきり二重で大きな茶色の目は、瞳孔が開き気味で、吸い込まれるように錯覚して怖い。しゅっとした鼻筋に、形の良い唇、少年らしさを残しつつ面長な輪郭の美少年は、色白の頬を紅潮させてハクを見つめている。深緑色の詰襟の貴族の正装は、飾りは少ないが上等そうで、かなりの身分であることが伺える。その首には、黄色い鱗の大きな蛇が巻き付いていて……どうしたらいいですか?


「ハクくん、猫くんが見つかったから帰るよ。みんな待ってる」


蛇に怯え、戸惑う私の肩を抱いたアーティがハクに声をかける。少年はあえてスルーすることにしたらしい。

アーティの声でようやく私達の存在に気づいたらしい少年は、驚いた顔でこちらを見た。ハクが私達の方へ駆け寄ると、少年の視線は再びハクへ向く。ハクを見つめる視線が熱い。

「あ……あの!そ……その子は?」

少年が上擦り気味の声で尋ねる。少年の期待に満ちた眼差しに、私は戸惑いながらも答えた。

「……友達のハクです」

「触ってもいい?」

「ハクに聞いてください」

「俺は別に構わないけ……どっ!?」

ミィを足元に下ろしたハクが答えると、少年はすかさず抱きついた。

「ありがとう!ああ、なんて美しい生き物なんだ、君は!毛並みの手触りも最高じゃないか!!」

少年は大興奮でハクに頬擦りし、あちこち触っているようだ。さすがに嫌なのだろう、ハクが身を捩って離れようとしている。しかし、ハクが強引に逃げ出すより早くぱっと体を離した少年は、私とアーティに向き直って頭を下げた。


「息子さんを僕にください!」


「えーっと……お断りします?」

「わけがわからないまま、とりあえずで返事しないでください。それと、ハクはうちの子じゃなくてサウラの子ですよ」

ダメだ、この妙な流れを終息させないと……。

私は頭を抱えながら、一先ずみんなのいる小屋に戻ることを提案するのだった。









キラキラの美少年がキラッキラの眼差しを私の方へ──私の元に集まった動物達へ向けている。

ハクは私の正面に立って警戒の態勢で、ロンは私の肩に乗って胡散臭げに少年を観察している。腕の中のミィは先程の出来事が怖かったのか私にしがみつき、リィは毛を逆立てて少年を威嚇し、クゥはしっかり目を開けて無言で少年を見つめている。

「この方をお連れした経緯はわかりました……それで、あなたのお名前は?何故、こんな山中にいらしたんですか?」

いきなり謎の少年(蛇付き)を連れてきた私とアーティから事情を聞いたヨシュアさんは、痛む頭を押さえながら少年に問いかけた。その姿から身分のある人だとわかるので、口調は丁寧だ。ちなみに今、山小屋のリビングにいるのは私とアーティ、ヨシュアさんにミリアさん、ジークさんと動物達、そして件の少年だ。マリースさんとイーサさんは台所で朝ごはんの支度中で、覆面さん達はどこにいるかわからないが、多分その辺りにいるだろう。

「白銀の狼に仔猫三匹、それに狂暴なはずのイシェルガの鷹まで手懐けるなんて……君は何者?動物達の神様?」

少年の輝く瞳が今度は私に向けられる。ヨシュアさんの質問はまるで聞いていない。というより、動物及びそれに関すること以外、まるで眼中に無いようだ。

「……師匠と呼ばせてください!」

戸惑う私に、少年はいろいろ吹っ飛んだことを願い出た。……どうしろと?

何も言えず硬直している私の前にアーティがすっと出てくる。

「質問に答えてください。あなたは何者?」

アーティがいつもの気だるげに見える無表情ながら、真面目に問いかけた。すると、先程まで喜色満面だった少年から笑みが消え、心底つまらない、興味がないといった表情になる。

「僕はマオレク。セジュから来た」

「セジュ……サザールを訪問される予定のセジュ国の王子であらせられますか?」

「そうだよ。昨日の夜、国境を越えるところを襲撃されて、他の者達とははぐれてしまった」

ミリアさんの質問に何でもないことのように答える少年。その内容は、とんでもないものだった。

アイコンタクトをとるヨシュアさんとミリアさんの顔は、冷静を装っているが少し青い。アーティは無表情、無言のまま部屋を出ていった。

「失礼いたしました。私はサザール国セイヤ皇太子の部下、ヨシュア・タイラーと申します」

「同じくミリア・ティボルトです」

「魔法研究所研究員のジーク・コスナーです」

姿勢を正したヨシュアさん達がまさかの国賓、少年改めマオレク王子に正式な礼をとる。

「あ、そうなの?なら、ちょうどいいね。王宮まで連れてってよ」

対するマオレク王子の反応は薄い。……なんだ、この動物と人間への態度の差は?

「もちろんお送りしますよ。でも、まずはその襲撃の件を詳しく聞かせてくださいね」

声のした方を見ると、アーティが戻ってきていた。

「あ。僕はアティール・キース・レイノルドと申します」

「レイ、ノルド……ユーリ・レイノルドの息子か!?」

それまで人間に対して興味なさげな態度が一変、マオレクは顔面蒼白でアーティから距離をとる。

「寄るな!お前の父親には酷い目にあわされたんだ!」

「……何したんですか、あなたのお父さん?」

「そういえば、生意気なクソガキがなめた態度とるから、それなりの対応させてもらったって言ってた」

私がマオレク王子の反応に驚きながら尋ねると、アーティは表情を変えず、しれっと答えた。

「僕の可愛いジュリアやトラキチ、エミリー達を捕らえて箱詰めにして、近くに松明を置いて脅したんだ!ちゃんと会談しましょうねって……笑顔が悪魔に見えた!」

ちなみにトラキチとはサーベルタイガー、エミリーとはタランチュラだそうです。他にもいろいろ飼っているそうです。……こんな王子様、やだ。


「……悪魔の親も悪魔だな」


とりあえず、ロンが呟いたユーリさんへの言葉には同意せざるを得ない。

ちょっと子どもっぽいけど、優しそうな人だと思っていたが、アーティと同じく、人によっては情け容赦ないようだ。

まさに蛙の子は蛙。この親にしてこの子あり、だ……。

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