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急展開

王子は将軍からの一撃を正面から受け止めた。

「そんな白くて細い腕でよく受け止めたな」

「昔はよく、こうやって叔父上に稽古をつけていただきましたね」

将軍の剣を押し返しながら、王子は楽しそうに笑みを浮かべる。

「父上と叔父上の稽古を見るのも好きでした。二人とも、子どもの遊びのように楽しそうで……仲の良い兄弟だと思っていました」

「ああ、仲は良かった。兄上のことは嫌いではない。だが、兄上を皇太子として……次期国王として認めていなかった!」

将軍の勢いに負け、王子が後退を始める。

「お前のことも認めていない!私の方が王に相応しい!」

「そうでしょうか?」

将軍が王子を弾き飛ばし、剣を降り下ろそうとした瞬間、突如頭上に現れた黒い雲から将軍に向かって、青い雷が落ちた。

「ぐっ……!」

雷に包まれ、動きの止まった将軍は、呻き声をあげながら王子を睨む。

「ひ……卑怯だぞ、セイヤ!!」

「魔法も私の武器の一つですから」

にっこり笑みを浮かべていた王子は、一呼吸置いて、真面目な顔になる。

「――国を守るためには、手段を選んでいられない時もあるんですよ」

「……おのれぇ!!」

将軍は気合いで雷の攻撃に耐えながら、再び王子に向かって剣を降り下ろそうとする。王子はそれを微動だにせず待ち構えた。



「そこまで!」


その時、木陰から何かが飛び出し、王子と将軍の間に割り込んだ。私がはっと気づいた時には、コンラートさんが将軍の剣を受け止め、王子の剣を持つ右手を掴んでいた。

敵の乱入に、ヨシュアさんとミリアさんはすぐ武器を構えるが、アーティはじっとコンラートさんを見つめるだけだった。アーティが動かないということは、おそらく大丈夫なのだろう。

「コンラート君!?何故止めた!?」

「勝負はついております。このまま続けても怪我をされるだけです」

「私が加減しないと思ったか?」

コンラートさん登場の時点で眉をしかめていた王子は、不機嫌さを露にしたまま問いかける。

「いいえ。しかし、ハワード様が抵抗すれば、はずみでお二人共無事では済まないと思いましたので……」

「……放せ。剣を納める」

しばらく考え込んで王子が言うと、コンラートさんは彼を掴んでいた手を放した。王子は言葉通り、鞘に剣を納めた。

「セイヤ、何をしている!?勝負はついていないぞ!!コンラート君、そこを退け!!」

王子の方は納得したのか、落ち着いた様子だが、将軍は焦りと怒りで興奮している。

「いいえ。あのままセイヤ様が再び雷を放ち、剣を突き出して、ハワード様の負けでした」

コンラートさんの言葉に、将軍はぐっと押し黙る。納得せざるを得ないのだろう。陰謀も打ち破られ、真剣勝負にも負けてしまった将軍は、俯いて剣をその場に放り投げた。

「――結局、私は兄にも甥にも敵わない、ということか……」

将軍はそう呟いて、どかっと地面に座り込む。

「お前の勝ちだ、セイヤ。煮るなり焼くなり好きにしろ」

王子の目配せで動いたヨシュアさんとミリアさんが将軍を拘束する。そして、アーティは……――


「……レイノルド様。そんなことをせずとも、私は逃げませんよ」


アーティはチンピラの傍に落ちていた剣を拾い上げ、コンラートさんの首筋に当てていた。ロンもアーティの指示で臨戦態勢なのか、獲物を見るような目を向けている。

「だって、一応あなたは将軍の部下だから。近くにはあなたの部下も潜んでいるしね」

「……さすが。気づいていましたか」

その時、私の傍の木が揺れ、頭上から覆面の男が降ってきた。私が驚いて距離を取ると、ハクが間に入って覆面を威嚇する。

「落ち着いてください、勇者殿。何もしませんから」

その声で、ようやく、彼がジークさんだとわかった。それでも敵側の人であることには変わらないので、私は警戒したままだ。

「お取り込み中、失礼します。国境付近の者達から連絡がありました」

「動き出したか」

「はい」

ジークさんとのやり取りの後、コンラートさんはアーティの剣をそっと動かし、王子に向かってひざまずいた。

「セイヤ様。私は後で如何様にもご処分下さい。しかし、今はそれどころではありません……フーリヤが我が国に向け、軍を動かしています」

「何!?」

将軍が驚きの声を上げる。しかし、王子やアーティ達は冷静な表情のままだ。

「……確かな情報か?」

「はい。潜伏させている私の部下からの情報です」

「サザールが揺れている今を他国が狙ってくると思ったが……あのフーリヤが一番乗りか」

「冷静に言ってる場合か!行くぞ、セイヤ!!」

ヨシュアさん達の拘束を払い除け、将軍が勢いよく立ち上がる。

「私の処分も後にしろ!今はサザールを護ることが先決だ!!」

一応反逆者になるであろう将軍は、そう言って堂々と駆け出した。その様子を見て、王子はクスリと笑みを浮かべる。

「さすが、叔父上……“サザールの守護神”だ」

ぼそりと呟いた王子は、アーティの方へ歩み寄ると、その首根っこを掴んだ。

「行くぞ、アーティ」

「ええ~?セイヤ様と将軍が出るなら十分じゃないですか」

「わかっているのか?フーリヤはマリースを嫁に寄越せと言ってきた馬鹿王子の国だぞ」

「……ああ」

王子の言葉に、アーティはすっと目を細めた。……すっごく怖い。

「タイラー、ティボルトはトーコの護衛と、ここの後片付けを頼む」

「はい!」

ヨシュアさんとミリアさんに指示を出した王子は、続いてコンラートさんに目をやった。

「……コンラート……お前は……」

「もちろん、お供いたします。サザールを……ハワード様とセイヤ様をお護りいたします」

コンラートさんはひざまずいたまま、笑みを浮かべて言った。それは、本当に大切なものを見るような、穏やかで優しいものだった。

それを受けた王子は一瞬、眉を潜めるが、そのまま黙って踵を返し、将軍の後を追った。アーティも「すぐ帰るからね」と私の頭を撫でて、王子に付いていった。

「ジーク。我々も行くぞ」

「……コンラートさん」

私は出発しようとするコンラートさんを引き止めた。どうしても聞きたいことがあるのだ。

「あなたの目的は何だったんですか?何故、私の靴を……」

「すまない。帰ってから全てを話す」

コンラートさんは私の問いかけを遮り、振り向くことなく、行ってしまった。


私はもやもやし気持ちを抱えながら、アーティ達の帰りを待つしかなかった……。



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