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骨肉の争い

「お嬢!!」

王子を下ろしたロンは、真っ先に私へ向かってきた。それが獲物を襲ってるんじゃないかというくらいのスピードで、私が恐怖を感じて身をすくめていると、アーティがロンの首根っこを掴んで止めてくれた。

「桃子に会えて嬉しいのはわかるけど、加減しなよ」

「す……すみま……せん」

……首根っこというか、諸に首だった。絶対に絞まってる。アーティこそ加減しなさいよと思いつつ、私はほっと息を吐いた。アーティが言っていた通り、ロンは元気そうだ。乗り物にされて疲れているけれど。首を絞められて苦しそうだけど……。

安心したところで、私はセイヤ王子に目をやる。自分の失脚を目論んだ叔父を前にして、涼しい顔をしている。一方の将軍は、眉根を寄せ、焦りの表情を浮かべている。

「セイヤ……何故……どうやって、ここへ?」

「叔父上が慌てて飛び出していかれたので後を追わせていただきました。途中で見失ってしまいましたが、幸い、ちょうどいい乗り物と遭遇したので、上空から捜索して発見した、というわけです」

「……この主従、嫌いだ」

アーティから開放されて私の肩に止まったロンがぼそりと呟く。アーティだけでなく、その主の王子にまでこきつかわれたのだから、そう言いたくなるのも無理はない。

「ところで……叔父上が雇っていらした何でも屋は、私の方で確保しています。アジトに踏み込まれた際は、その者に勇者を誘拐させることで言い逃れするつもりだったんですね。誘拐犯は何でも屋で、自分は関係ない、と」

「な……何を証拠に……!?」

「その何でも屋はしっかりしていますね。雇い主が裏切らないように契約書を交わすとは……叔父上との契約書もちゃんと持っていましたよ」

将軍はぐっと反論の言葉を呑み込んだ。

将軍がそわそわしていたのは、何でも屋を待っていたようだ。王子が捕らえていなければ、私は三度目の誘拐をされていたということになる。……我ながら、拐われすぎだ。

「状況から察するに、そこで倒れている者達や、結界の中にある屋敷も証拠になりそうですね。何より……この勇者が証人です」

ここで私に来るとは思わなかった。王子は私の隣に立つと、ぽんっと肩に手を置いた。

「言った通り、勇者が不穏な動きをする者達を一網打尽にしてくれましたね」

思惑通りに事が運び、王子はご機嫌だ。散々振り回された私は内心、溜め息を吐いた。

何はともあれ、将軍はもはや言い逃れできないだろう。これでやっと帰れる。


「お前より……」


王子に言及される中、どんどん俯いていた将軍が唐突にばっと顔を上げる。


「お前より、私の方が王に相応しい!!」


ついに言い逃れを諦め、将軍が最後の悪あがきの如く、思いの丈をぶちまける。

「お前のような生意気な小僧が、王になったところで不興を買うだけだ!私は将軍として実績もあり、国外にも交友関係を広げている。私が王になる方が、サザールにとっても有益なはずだ!!」

「叔父上は国王向きではありませんよ。将軍の今でさえ、そんなにストレスを抱えていらっしゃるのに……」

「頭を見て言うな!お前も後二十年もしたら衰退していくぞ!!」

「ご心配なく。私はお祖母様似です。それに、私が王座に付いた暁には、国の頭脳を集結させ、抜け毛撲滅の研究を完成させますから。幸い、優秀な魔法使いがいますしね」

「そんなくだらない研究に付き合わせないでください」

「くだらんとは何だ?お前も油断してたら、危ないかもしれないぞ?」

「うちの家系はふっさふさなんで~」

「私とお前の家は親戚だろう」

「もうちょっとマシな会話できないんですか、国のトップ級の人達が!?」

どんどん脱線していく話に、私は思わずツッコミを入れる。

何故、どちらが国王の座相応しいかを論じていたのが、禿げる禿げないの話になるのか……。

「まあ、頭の問題はともかく……若輩者の私に負けるようでは、王に向いていませんよ」

「……ずる賢いだけだろう!剣で勝負すれば、私が勝つ!」

「ならば、試してみましょうか」

王子はそう言って、腰に携えた剣を抜く。


「トーコ!」

「アティール!」

「セイヤ様!こちらでしたか!」


その時、茂みの向こうから、ハク達がやって来た。ハクはそのまま私に飛びつき、子猫達はミリアさんの腕から抜け出して駆け寄ってきた。アーティの従者でもない彼らが、私を探すのを手伝っていてくれたことが嬉しくて、私はのしかかるハク達をぎゅっと抱きしめた。

「タイラー、ティボルト。お前達も見届けろ。叔父上と私の勝負の行方を」

ヨシュアさんとミリアさんは、剣を構える王子を見て、緊張した面持ちで頷いた。

「さあ、叔父上。正々堂々、剣で決着をつけましょう」

突然の王子の申し出に戸惑っていた将軍は、王子の真剣な様子に促され、剣を構えた。


「……行くぞ」

「はい」


私達が固唾を飲んで見守る中、将軍が王子に向かって駆け出した。



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